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第4話 ビギナーパーティ結成

ロエルは一人暮らしだった。

一つの建物にいくつか部屋があり、それぞれ別の人が住んでいるという、ボクにとっては始めて見る住居だった。

部屋はそこそこ広く、ベッドとキッチンに風呂と一通り揃っていた。

ベッドの上にはかわいらしいぬいぐるみが置かれている。


「狭くてごめんね」


「一人で暮らしてるんだ」


「うん」


そういったロエルの表情が一瞬だけ暗くなったような気がした。

わからないけど、これ以上は追求しないようにしよう。


「ボクなんかがここにいていいの? 今日初めて会ったばかりなのに」


「一人じゃ寂しかったから」


ロエルはわずかに顔をそらした。

その仕草は嘘をついた時のクリンカとどこか似ていた。

やっぱり話題を変えよう。


「ロエルも冒険者なんだよね。カードは持ってる?」


「もちろん持ってるよ」


【ロエル Lv:2 クラス:ヒーラー Dランク】


と、わざわざ口で説明してくれた。


「簡単な依頼しか請け負えないし解決できないの。

 今日も届け物の依頼を一件やっただけ」


それでなんとか生計を立てているらしい。

ヒーラーというのは回復魔法が得意なクラスで本来ならいろんな冒険者が、パーティを組みたがる人気のクラス。

でも、ドジばっかりで誰も組んでくれなくなったとか。


「ねぇ、リュアちゃん……」


ロエルは潤んだ目で懇願してきた。なるほど、大体わかった。


「あ、厚かましいし恩を売るわけじゃないけど。

 あの、その、よかったら私とパーティを組んでくれるかな。

 いえ、くれませんか?」


よっぽど切羽詰ってるのか、だからロエルは見ず知らずのボクに優しくしてくれたのか。

いや、ロエルはそんな子じゃない。よくわからないけど断言する。


「いいよ、ボクも結局何も知らない事だらけだし」


「ありがとう!」


パッと笑顔になり、ボクの両手を握って上下に振った。

ここまで感謝されるとこっちまでうれしくなる。

むしろ感謝したいのはこっちのほうなのに。

今日、ロエルが来てくれなかったら今頃どうなってたことか。


【リュア Lv:不明 クラス:ソードファイター Dランク】

【ロエル Lv:2 クラス:ヒーラー Dランク】


こうして新米パーティが結成された。

途端、ボクのお腹がなった。


「あはは、私もお腹すいちゃったなぁ。何か作るねー」


パタパタとキッチンに向かうロエル。

聞きたい、知りたい事は山ほどあった。

10年間、ボクは外の世界の事をまったく知らないで生きてきたのだから。

村がどうなっているか、そしてあの片翼の悪魔の事。

食事中にでもロエルと相談してみよう。


「はい、あんまり凝ったの作れなくてごめんね」


すごくいい匂いがした。ずっと魔物の肉しか食べてなかったのでテーブルに置かれた料理がご馳走にしか見えない。

卵の中にご飯が見える。これはなんという料理だろうか。


「オムライス、嫌いじゃなかった?」


「おいしい」


そう質問された時にはすでに口にしていた。体全体が優しさに包まれたようだ。

卵の半熟具合がほどよくライスと絡み合い、ケチャップのかすかな酸っぱさがそれらをうまく中和してやわらかい味わいに仕上がっていた。

思わずまた泣きそうになる。もう二度と食べられないお母さんの手料理も、これくらいおいしかったはず。それすら忘れかけていた。


「これからどうしよう」


「リュアちゃんは村が気になるんだよね」


「うん、でも入れないんだよね」


「Aランク以上の冒険者か、一部の人達以外は入れないよ」


「どうやったらAランクになれるの?」


「冒険者として依頼をこなしていけば自然と評価も上がると思う。

 でもAランクとなると、何かおーーーきな事をやらないと

 難しいんじゃないかなぁ」


おーーーきな、というところでロエルは両手を掲げて広げた。


「Aランクは世界でも100人程度しかいないんだ。

 例えば一師団を壊滅させたドラゴンを退治するとか

 未発見のダンジョンを発見するとか。

 それに確か試験もあったはずだよ。」


「じゃあ、強いモンスターを倒せばいいんだね」


「今の話でその理解はちょっと……」


ロエルは人差し指を額に当てて溜息をついた。

呆れさせてしまった。でも要するに等級というのは活躍すれば上がっていくというのは理解できた。

そうと決まれば明日から早速、強いドラゴンを倒しにいこう。

ドラゴンなら地下60階で戦った事がある。

おたけびだけでこっちの動きが止まりそうなほど凄まじい奴だった。


「ごちそうさま、おいしかった」


「ありがとう。食器は片付けておくから先にお風呂入っていいよ」


「お風呂……」


これも新鮮な響きだった。これまではダンジョンの途中にある泉で体を洗った程度だ。

もちろん完全に綺麗にはならないし、水浴びの途中で魔物が襲ってくる事もあった。


「安心して体洗えるんだね」


「えっ?」


きょとんとした面持ちでロエルはボクを見た。

この日は一つしかないベッドに二人で入って、明日に備えて眠りについた。

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