表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/352

第42話 団結 その1

「陛下をお守りしつつ後退しろ! 空からの強襲の警戒も怠るな!」


国王を取り囲むように兵隊が壁を作っている。

アマネ達、Aランクの応戦がなければとっくに壊滅していたほどの

相手の戦力。飛来した魔物の強さはすべてデンジャーレベルに

換算すれば優に30は超えている。


「どこのどいつ様だか知らないけど、相手が悪いよ!」


【アマネ の双華乱舞!

 レッドシザー に 644 のダメージを与えた!

 レッドシザー を倒した! HP 0/1755】


一人一殺は難しいが、パーティを組めばなんとかなる相手。

予選で敗退した者達も総出で取り掛かるが、彼らを圧倒するのは

やはり数だった。


「ベンケーにバステ! あまり前に出すぎるなよ!

 特にドラゴンの相手は彼に任せるんだ!」


「わかっている。適材適所、ドラゴンハンターがいて助かった。

 このバステはあくまでサポートに務めている」


その彼はドラゴン軍団をたった一人で相手取っている。


【セイゲル の ドラゴンバスターブレイド!

 ウィンドドラゴン達 に 2688 のダメージを与えた!

 HP 1651/4339】


刃が強靭な竜の鱗を軽々と引き裂いた。

断末魔の叫びを上げて次々と倒れこむドラゴン達。


「まったく、何なんだよこいつら。

 どいつもここら辺じゃ見ない種類ばっかりだぜ。

 なぁ、そこで偉そうにしているモヒカンさんよ」


ウィンドドラゴンにまたがっているモヒカンはセイゲルの挑発を

喜ぶかのように笑った。頭はモヒカン、体はピチピチのタイツに

その手に持つ刺々しい鞭と、変態の条件は揃っている。


「あらぁん、やぁっとセイゲルちゃんからご指名頂いたぁん。

 もうね、ずっとずーっと前から会いたかったの」


「悪いが男のエスコートはご遠慮したい」


「男だってよくわかったねぇん」


「鼻は利くほうだからな」


その明らかな男を前にしてセイゲルは微妙な調子で合わせている。

激昂させて情報を引き出せないのでは元も子もない。

そもそも彼らが何者なのか、まずはそれを把握しなくては

いけなかった。


「こいつらはペットか? いずれにしてもこんなもんじゃ

 足止めにすらならないぜ」


「んー、それはどうかしらぁ」


鞭をしなやかに空中で振るったと同時にドラゴンブレイズと

ウィンドドラゴン、合計10体がセイゲルに襲い掛かる。


【セイゲル は チャージ して攻撃力を高めた!

 バーストブレイバー を放った!】


爆音がドラゴン達の最期を告げるかのようにすべて骸と

なって地に落ちた。

通常は一定時間の隙が出来る為、パーティのサポートなしでは

うまく機能しないチャージを一瞬のうちに終わらせて

攻撃へと転じる。

並みではない芸当を見せつけたその目的はもちろんモヒカンを

引きずり出す為だ。


「いい加減、相手をしてもらえないものかね。

 雑兵は飽きた。そこの……えーと、名前は?」


「チルチル、ドラゴンマスターのチルチルって呼んでっ」


くねりと腰をひねる動作はシンブを思い出させるなとセイゲルは

内心呆れつつも顔には出さなかった。

おまえみたいなキャラは一人で十分なんだよ、そう挑発するには

まだ早い。煽てて情報を引き出す、まずはこれに徹した。


「ドラゴンマスターねぇ、魔物の中でも上位にくる種族である

 ドラゴンをここまで飼いならす技術なんざ、どこで習えば

 習得できるんだか」


「それはね、なんと私もドラゴンだからなの」


「へぇ、そいつは面白い」


///


「ロエルッ!」


【リュア の攻撃!

 レッドシザー に 3915 のダメージを与えた!

 レッドシザー を倒した! HP 0/1755】


拳のみとなるとさすがに威力は落ちる。

しかし、それでさえ十分すぎる結果がそこには残された。

観客席目がけて突っ込んでくるレッドシザーを木っ端微塵に

したリュア。この事態に陥った直後にリュアはロエルの安否

を心配していた。

邪魔な魔物など拳のみで次々と片付け、真っ先に大切な

彼女を発見した時は、胸をなでおろした。


「リュアちゃん、無事でよかった……」


「ごめんね、駆けつけるのが遅くなって……」


「そんなの謝らないで。

 それよりこれどうなってるんだろう……」


観客席に近づいた魔物は出来る限り、リュアがコロシアムを

一周して片付けた。

しかし未だに逃げ惑う人々でコロシアムは混乱している。

リッタの姿も見当たらない上に医務室で寝ているニッカの

事も気がかりだった。


「ロエル、リッタや他の皆は?」


「シンシアさんはうまく自分で逃げるからっていって

 いなくなった……リッタちゃんもいつの間にか

 いなくなったし……リュアちゃん、どうしよう」


「一体何なんだこの魔物……」


【レッドシザーの群れ が現れた! HP 1755】


【ブラッドフライの群れ が現れた! HP 2384】


赤に統一された巨大昆虫の群れがまた観客を襲う。

リュアのおかげで奇跡的に死者はまだ出ていないものの

すでに負傷者はいた。


「邪魔だよ!」


【リュア の ラッシュ!

 レッドシザーとブラッドフライの群れ に 17231 の

 ダメージを与えた!】


昆虫が跡形もなく消え去った後ろにはまた見たこともない

巨大昆虫が現れた。そしてそこに搭乗する影。

ウェーブがかった不潔な髪、軽装どころか町に出かける程度の

服装のその人物は戦場にはあまりに不釣合いだった。


「羽音が心地いい……もっと近づいてくれ、そうそう……

 あぁッ……はぁ……いい……いいよぉ……」


体をびくりと震わせて悶える男にリュアとロエルは

何歩も後ずさりした。両サイドに飛ぶレッドシザーの羽音に

耳を傾けて堪能しているその男の姿は二人に不快感を

与えるには十分だった。


「な、なにあれ……気持ち悪い……」


「リュアちゃん、私怖い……」


ロエルがリュアの後ろに引っ込んだ。

リュアの後ろからひょっこりと半身だけ体を出して羽音男の

様子を伺っている。

正直ボクもあんな奴の相手はしたくない、しかしそんな本心

は決して口には出さなかった。

羽音男は閉じていた目をゆっくりと開けて二人の少女を見る。


「君かい、さっきから私の昆虫を虐殺しているのは。

 まったく虫ケラの分際で本当に不快だよ」


「虫ケラって……おまえの手下じゃないか」


「ハッ! これだから虫ケラは!

 この世界で最も優れた生命体である昆虫の素晴らしさも

 理解できないとは……あぁっ……いい羽音だ……」


話している途中で羽音に身悶える男。

うげぇ、と口に出してリュアは不快感をあらわにした。

それを羽音男は鼻で笑う。


「さて、こんな虫けら未満の女など視界にとどめておく

 理由がない。さぁ……!」


両手での合図と共に、レッドシザーを含む様々な巨大昆虫が

リュア達に狙いをつける。そしてまもなく数十といる昆虫が

ターゲットを襲った。


リュアのはらわたは煮えくり返っていた。自分が優勝したからという

理由ではなく、闘技大会というイベントを最後の最後で

訳のわからない連中によって台無しにされた事。

そして何より、何の罪もない人々を巻き込んだ事。

村を襲った奴らといい、なんで……


――虫ケラはおまえだ。


羽音男の誤算はリュアを甘く見ていた事。

たとえ剣がなくても、自分の命を脅かすのは容易い事。

決してザコではない、むしろ幹部の座に君臨する

羽音男だからこそわかる少女の力量。

少女の殺気は昆虫にさえ感じ取れるほどだった。

羽音男の指示があるにも関わらず、それを実行せずに

空中ですべてが停滞していた。


「……おい、やれよ。どうしたんだ」


それは叩こうとすれば逃げる蝿の行動と変わらなかった。

命が惜しい、そう思わせているだけ。

リュアは羽音男だけを睨みつけながら拳を握り締める。


「おまえ達は何なのさ」


「私はインセクトマスター、ヴィト。

 そう、私達は……」


それに呼応するかのように遠くの空で怪鳥にまたがる男が

コロシアム全体に響き渡るほどの声でその名を明かした。


「そろそろここらで名乗りをあげておこうか!

 オレは新生魔王軍、十二将魔が一人!

 バードマスターのバルツ!

 本日をもってこの国を終了させてもらう!」


「ま、魔王……軍……?!」


ガンテツの表情が一変した。

戦場の真っ只中だというのに斧を持つ手がわなわなと震えて

隙が生じた。近くで戦っていたアマネによって窮地は

逃れたが、それでもガンテツの様子は変わらなかった。


「魔王軍……そんな馬鹿な話があるか……!」


「気持ちはわかるけどさ! あんた死にたいのかい?!」


アマネの叱責すら届かず、ガンテツの脂汗は増した。

彼以外の狼狽している者達もまた、信じられないといった

驚愕の表情を浮かべている。

そんな反応を楽しむかのようにバルツは面白そうに

眺めている。


「さぞかし驚きだろう!

 だが、細かく説明してやる義理もないんでね!

 ただ一つ言える事はオレ達は蘇った! それだけだ!」


全身茶色のタイツ、背中から生える羽。

こちらもまた常軌を逸したファッションだがこの戦場で

それを突っ込むものは誰一人いなかった。

特にリュアにとっても、今となってはヴィトの生理的に

受け付けない行動など、どうでもいい。

最後の良心として攻撃前に宣言する、それだけだった。


「……いくよ」


「ほ、ほう。大した気迫だがこのヴィトには勝てんよ。

 なぜなら」


【リュア の攻撃!

 ヴィト に 4821 のダメージを与えた! HP 4512/9333】


ヴィトの乗る昆虫に飛び乗った時には腹に一撃が入った。

顎が外れんばかりに大口をあけて、叫びにならない叫びをあげて

ヴィトは昆虫から落下した。


「あ……あがぁッ……し、死ぬ……しぬぅ……」


あお向けでもがくヴィト。

主のピンチに反応した、その昆虫は背中に乗るリュアを

振り落とそうと飛び回る。


「うるさい」


背に一撃を浴びせた時には貫通して地上の風景が見えた。

そしてまもなくリュアと共に落下し、絶命した。


【フェザーマンティス を倒した! HP 0/5967】


羽の生えた巨大カマキリの亡骸はもがくヴィトの隣に落ちた。

屈辱と恐怖に支配されたヴィトは自分を見下ろす少女に

本気を出す決意を固めた。


「こ、これで勝ったつもりか。

 見るがいい、十二将魔ヴィトの本当の姿を……!」


ヴィトの背中からはフェザーマンティスと同程度のサイズの

羽が昆虫の羽化を彷彿とさせるように生えてきた。

手足から甲殻が浮き出てきたと思えば、それが装着される

ようになじんでいく。

頭部、体、手、足。すべてが昆虫の特徴を表した立派な

化け物と呼べる存在になった時には人の姿だった時の

ヴィトの面影は完全にない。


――人が化け物になった。


リュアはどこかひっかかっていたが、すぐにどうでもよくなった。


【羽音を響かせし狩人ヴィト が現れた! HP 15300】


「醜いと思ったか? 化け物と思ったか?

 だが私は愛されている、そう思うようになった」


「何いってるのさ。ただの魔物だよ、おまえなんか」


「ただの魔物ねぇ……まぁ確かにそうだなッ!」


【羽音を響かせし狩人ヴィト の大切斬!

 リュア はダメージを受けない!】


鎧を身につけた人間の胴体など、ハムのようにスライスする

大切斬をリュアは手の平で受け止めていた。

ゴムに食い込む玩具のナイフのように、リュアの手に刃が

押し付けられている。


「な……なんだって……」


「次はボクの番だよ」


手で刃ごとねじ切り、片腕をもいだ。

そして拳によるラッシュで胴体は跡形もなく消し飛ぶ。


【リュア の攻撃!

 羽音を響かせし狩人ヴィト に 14266 のダメージを

 与えた! HP 1034/15300】


「ゲァァッ!」


ほぼ首だけとなってもヴィトは死ぬ事はなかった。

生命力の高さは十二将魔の中でも上位に食い込むと自負して

いたヴィトだが、それを始めて後悔した瞬間だった。


「こ、この私がこんなガキにッ!

 ありえん! 何なんだ、おまえは!」


「ま、まだ生きてるんだ……」


首だけになっても喋り続けるヴィトから一歩引くリュア。

ためらったつもりはない、人間の姿のままだからこそ

さっきは本気を出せなかった。

リュアの性格をヴィトが知っていれば、恐らくこの姿に

ならずにいただろう。

リュアにとって彼が魔物の姿になってくれた事は幸運だった。


「ギギ……糞がッ……このままで終わると思うなよ……!」


首が飛び上がり、観客席で逃げ惑う小さな女の子にひっついた。

短い人生の中でも最も嫌な感触だっただろう、少女は力の限り

悲鳴をあげた。


「クハッ! 残念だったな……このガキの命が惜しければァ」


今度こそ首が消えてなくなった。

ヴィトが認識できない速さで接近したリュアは平手で

叩き落すかのようにその頭に止めを刺した。


【羽音を響かせし狩人ヴィト を倒した! HP 0/15300】


「大丈夫? お母さんは?」


「ふぇぇ……ままぁ……」


泣きじゃくる少女に語りかけるリュア。

この手のコミュニケーションに慣れていないリュアは

途方に暮れた。

しかしそれも追いかけてきたロエルによって避難に成功する。


「あの子、大丈夫かな?」


「兵士の人が誘導していたから多分……」


王国の対応が迅速だったのか、コロシアム内にはほとんど人が

残っていなかった。しかし、魔物によって殺された人の死体も

所々に見受けられる。

胴体だけが残った者、焼き尽くされて身元すらわからなくなった

者など、状態がまともな者を探すほうが難しい状況だった。


「クソッ、クソクソクソォ!

 何なんだよ、あいつらぁぁぁぁぁ!」


「リュ、リュアちゃん……」


未だ空を占める魔物の大軍、そして怪鳥の主へと叫ぶ。

バルツはそれに気づいたのか、得意げな笑みを浮かべた。


「オレの事はバードマンと呼べ!

 いいか、バードマンだぞ? ハァッハッハッハッ!」


「うるさぁぁぁい!」


リュアは空に向かって跳躍した。


///


魔物の大群が攻めてきた直後にリッタは真っ先に兄の下へと

駆け出した。本来ならば非番といえど、逃げ惑う人々を

誘導するのが務めだが、それを放棄している。

息も絶え絶えながら、廊下を疾走した。


「お、お兄ちゃん……」


「おおっと、こんなところにかわいい女の子が」


ニッカがいる医務室へ到達する直前、キャップを被る

無精ひげが目立つ中年男性が立ちふさがった。

男はにひるに笑うと、その手から猪の3倍はあろう

魔物を放った。


【グレートボア が現れた! HP 933】


「これも任務なんでね。何を焦っていたのかは

 知らないが、ここで死んでもらおうか」


「じゃ、邪魔をしないで下さい……」


リッタは槍を握り締めて、鼻息の荒い化け猪を

迎撃する態勢に入る。


「新生魔王軍十二将魔が一人。

 ビーストマスター・パンサード。

 どうせ死ぬとはいえ、せめてそちらも名乗ろうか」


「お、王国兵士リッタ……」


その声はあまりにもか細く、弱々しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ