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第345話 抗う者

◆ アバンガルド王都 跡地 ◆


 咄嗟に間合いをとったボクとアボロに微笑するマーティ。いや、これはマーティじゃない。見開いた瞳は赤く光り、灰色だった髪が白く染まり。後ろで結んでいた髪の束がバラけて、扇状に広がる。生き物みたいに蠢いて、それが小さいマーティの体を浮かせているようにも見えた。

 ジーニアさんが説明するまでもなく、ルルドがマーティの体を使って教えている。体に巻き付くかのような文字がグルグルと肌の上を滑り、体から解き放たれて実体化。二つのリングがルルドを守るように交差していた。


「一歩、遅かったようですね……」

「ジーニアさん、一応聞くけどあれはルルドがマーティの体を乗っ取っているんだよね?」

「はい。霊帝の名を冠するルルドが他人に憑依する術を持っているのを、すでに勇者一族の皆さんは知っていたようです。だからこそ、殺さずに封印した……」


「憑依転生。万能とは言い難いが、ほぼ生涯をかけて完成させた甲斐があったというもの」


 ルルドの機嫌に合わせているかのように、文字のリングの回転が速くなる。あれも術の影響なのか、スキルなのか。何にしても一つだけ確実なのは、マーティの”奇跡”もしっかりモノにしているという事。だけど問題はそこじゃない。マーティはどうなったんだろう。


「ゼダの名を騙り、マーティと交信をして自らになびかせたのか……。私の目を盗むとは、人族の進歩は計り知れんな……」

「天界の下郎どもが神を気取っている間の事よ。心を開かせなければ、憑依転生の完成には至らぬ。大幅に予定は狂ったが調和のうちよ。世界が自然に回帰する時が来たのだ」

「そんな事のために……マーティを長い間、ずっと騙してたの?」


「偉業であるッ!」


 ボクの疑問に対してルルドは声を張り上げる。文字のリングがルルドの感情に合わせて加速して、同時に瓦礫の隙間から何かが突き出してきた。

 これは瓦礫の下にあった草だ。普段は何気なく踏みしめて歩いている雑草がボクよりも大きくなる。そこら中から草が伸びて、瓦礫のほうを埋め尽くす勢いだ。


「植物が急速に成長していますね……これも彼の術でしょうか。となると、これはいよいよ危ないかもしれません」

「ジーニアさん、何が起こるかわかるの?」

「ルルドが提唱していた自然主義ですよ。恐らく彼はこの世界を自然で覆ってしまうつもりなんです。草木を含めた自然界のものが人間を凌駕する……端的に言えば人類の滅亡ですよ」

「ちょ……! そんな事、させるか!」


【リュアはソニックリッパーを放った!】


 奇跡で消されるならマーティの時と同じだ。何度でもぶち込んでやる。あんなクルクル回っている文字のリングなんか関係ない。マーティの体についてはクリンカが何とかしてくれるはずだ。


「うわぁっ!」


 地面から出てきた草がいつの間にかボクの足に絡んでいた。ひきちぎったものの、ソニックリッパーを撃ち損ねて大きく軌道を逸らしてしまう。変な方向に飛んでいったソニックリッパーが通り過ぎた後、ルルドは女の子の顔で笑った。


「リュアちゃん、焦らないで! いくら私でも、あんな状態のマーティをどうにか出来る自信ない!」

「だ、だよね……」


 当然のようにボクとクリンカのやりたい事は一致している。あんな過去を見せられてまで、殺したいとまで思わない。殺せるわけない。


「マーティはさ……あのおじいちゃん、ゼダが大好きだったんだよね。ねぇルルド、お前はそんなおじいちゃんの振りをしてマーティをずっと騙していたんだよ? 意味わかる?」

「明快に述べよ」

「めいかい……は?」

「あなたがクズ野郎だとわからないのって言ってるのッ!」


「阿呆が見る」


 遠くを見ながら阿呆が呟く。話なんか通じない。おまけにこいつはマーティと違って反省もしない。死ぬとしたらマーティじゃなくてこいつのほうだ。こういう時、本当にどうしようもなく怒っている時は逆に頭がスッキリするんだ。かえって冷静になれるから、いろんな方法が思いつく。

 クリンカもすっかり目が据わっているし、あれは本気で怒っている証拠だ。目配せでボクとクリンカの意思が一致したことを確認すると同時に頷く。前からずっと試したかった事があったんだ。どんなにひどい相手でも敵であっても、この方法はあまりに残酷すぎて封印していた。言ってしまえば、それを遠慮なく試せる相手が今までいなかったということ。今、ここにいるじゃない。ゴミが。


「阿呆の観点ならば、かつて我が傀儡となってウーゼイ教を立ち上げた小娘すらも屑となろう」

「もしかして、悪人だったラコンを助けた少女のこと……? リョウホウさん! その子はラコンさんと手を取り合って生きたんですよね?」

「その通りです。さすがはクリンカさんですね、よく覚えてらっしゃる。しかしゼダ様、仰る意味が私にも理解しかねます……リシャ様が屑というのは何かの暗喩でしょうか?」


「貴様ら愚物が信仰してきたウーゼイ教は、最初からワシがヒトを堕落させる為に用意したもの」


 さすがのリョウホウさんもついていけてないのか、いつもの落ち着いた物腰が消えている。自分達が信じていたものが実はとんでもない化け物だったことに気づいているんじゃないのかな。


「思い起せ、リョウホウ……いや、ヒトよ。そもそもの始まりが何であったか。どこの何者がラコンを瀕死に追い込み、諭したか」

「それは勇者ウゼ……ウーゼイ教の名の起源ともなった……ハッ?! いや、そんなはずは」

「そう、このワシよ。救いようのない悪たれではあったが、目をつけていた。奴のようなものほど純真にかどかわされる」

「お、仰る意味が……。ラコン様の伴侶となったリシャ様は聡明で……」

「リシャはワシの娘よ。すべては仕組んだのだ」


 リョウホウさん一派が愕然として、もう立っていられないほどショックを受けている。膝と唇が震えて、顔も真っ青だ。今まで自分達がついていった相手がこんなクズだとわかったんだもの。気の毒だとは思うけど、何を言っても聞かなかったのはリョウホウさんだ。


「アレはワシの娘、ラコンとかいう外道への愛情も愛着などあろうはずがない。定期報告の際には、その都度参っておった……『あんな不潔な男とまぐわうなんて死んでも嫌』と……フォファファ、純潔を捧げるのも並みならぬ覚悟であっただろうて」

「リシャ様は……ラコン様を想って……献身的に……」

「私はあなたに罰を与えません。ただしその罪は憎みます、これからは一緒に罪を洗い流しましょう」

「そ、その言葉は……」

「リシャがこう言い放った事によって、ラコンの一生を上塗りした。この思想を生涯かけて信じて、宗派を立ち上げたのだから屑でも使い道があったというもの。ヒトが妄信する愛や信頼の構築など容易いものよ」


「そんな、嘘だ、こんな、嘘、あぁぁぁぁぁぁッ!」


 リョウホウさんがついに耐え切れなくなった。耳を塞いで空を見上げながら奇声を上げる。他の人達も生きる気力を失くしたと言わんばかりに、誰一人立っていなかった。


「ウーゼイ教はあなたが倒された時を見越しての舞台装置だったわけですね。あなたがいなくなっても、ウーゼイ教の思想が蔓延すれば、人間は文明を捨てて自然の中で生きるようになる。そうなれば労せずして人間が滅びるのですから」

「聡明である。武力による支配の永続など泡沫の幻想よ。故に破壊の王や魔王などの実例が反証しておる」

「そして文明こそが世界を汚す、と。自然豊かな大地こそが世界のあるべき姿であると?」

「かの勇者一族はヒトありきで世界を捉えていたが綺麗事の域よ! 世界を考えるならば単一のみを考慮せねばならん!」


「……世界の為じゃなくて自分の為でしょ」


 痺れを切らしたクリンカが、ルルドに射抜くような視線を向ける。ボクがうまくまとめられない事を、クリンカが言ってくれるはずだ。杖を2、3回くらい素振りをして怒りを露わにしている。


「あなたは世界を緑で溢れさせて眺めたいだけ。それは世界の為でも何でもない、自己満足でしょ」

「これを利己としか捉えられぬ次元がすでにヒトよ。半端な知能を持った有機物に過ぎぬ」


「クリンカ、もういいよ。ちょっとそいつの相手をしてあげるから」


 憑依転生だけじゃない。ボクの見立てでは、こいつは他にも強力な術をいくつも使えるはずだ。マーティの体を使う前ならほとんど無効化できたはずだけど、今はそうもいかない。”奇跡”ですべての術をボクに直撃させることだって出来る。

 この手の相手にはまず認識させない事が大事だ。相手を捉えてないと対象がわからなくなり、スキルの発動どころじゃない。冴え切った頭でボクはルルドを淡々と分析していた。奈落の洞窟の時を思い出せ。頭をフル回転させろ。


「フォファッ! 早速、消えたか!」


【超越せし霊帝神ルルドが現れた! HP ?????】


 ソニックブーストで動き回り、ルルドの視界にボクを入れない。そして次に大切なのが手数だ。”奇跡”でボクの攻撃を避けるなら、まずはそれを切らす。


「及ばずながら、私もディテクトリングで敵を分析しますよ」


【超越せし霊帝神ルルド HP 999,999,999】


「ワーォ! 限界表示までいってますね! カンストしてますよ、これは!」


 ジーニアさんのディテクトリングがホログラフみたいな光を放つ。空中に表示されたのは前にメタリカ国で見た数値だ。この場にいる誰にでも見られるようにしているけど、ルルドに見せていいのかな。


「きゅうおく! きゅうせん! きゅうひゃくくうじゅうきゅうまん!」

「おや、エルメラさん。こういうのわかります? ちなみに計算ですと期待値として、リュアさんの最高威力の技を10発以上当てなければいけませんね」

「それはスキルとか考慮しない場合でしょ?」

「えぇ、ですから期待値です」


【リュアはソニックスピア×455を放った!】


 全方位からのソニックスピアだ。自分でいうのも何だけど、一発さえ当てれば世界を滅ぼす災厄だって倒せる。そんなのを数百発もかわしてみろ。そう何度も”奇跡”は起きない。


【超越せし霊帝神ルルドには当たらなかった!】


「フォファファ……愉快、愉快よ。おおよその見当をつけるだけの脳はあったようだ。しかし、届かぬ。ワシが編み出した最高秘術の一つ”万里”の前ではな……」


【超越せし霊帝神ルルドは万里の術によって守られている!】


 そこにいるようで、いない。近くにいるようだけど、実は相当遠い。ボクのソニックスピアがそもそも届いていないからだ。いくらボクでも世界の果てまでソニックスピアを届かせろと言われたらちょっと難しい。


「自分と相手の距離を引き離す術だよね」

「流石の審美眼。褒めてつかわす」


【アボロのメテオブーストドライブ!】


「オォォォォォォ!」


 アボロもルルドにまったく近づけていない。ルルドに向かってはいるけど、目の前にしてアボロが延々と突撃している状態だ。あのままルルドまで辿りつけるんだろうか。


【超越せし霊帝神ルルドの増悪の術!】


「ぐっ……!」


「虚勢を張ろうとも、ワシの目はごまかせぬ。命天使にでも運命を決められたか? 衰弱への一途を辿る身なのだろう。小さな傷口であろうとも大出血の後、絶命させる術……増悪を味わうがいい」

「はぁぁぁぁぁぁッ!」


【アボロのメテオドライブブースト!】


 アボロも負けてない。ルルドが何かしても、それに対抗して力を維持する。ボクが見る限り、アボロも全力だ。口の端から一筋の血が流れるほど、体に負荷をかけている。


【リュアはディザルトスピア×520を放った! 超越せし霊帝神ルルドには当たらなかった!】


 ソニックスピアよりも飛距離が段違いの技だ。今度はかろうじてルルドまでは届いているものの、やっぱり”奇跡”でかき消される。ただでさえ厄介な”奇跡”なのに万里の術のせいで、温存させてちゃっているのが歯がゆい。マーティの体を乗っ取る前ならボクの”破壊”であんな術ごと壊せたのに。


「忌み子よ、痛感せよ。いかなる巨力を極めようとも、万に届く術を極めし者はあらゆる手段を持ってそれを制圧する。所詮はその程度、積み重ねに誇りを持てたのも今日までよ」

「言ってくれるね……マーティの体がなかったら負けてたくせに」

「それも術の内よ。あらゆる事態を想定して、適切な術を用いる。至極当然である」


 ボクとしたことが、確かにルルドの言う通りだ。何を言ったところで、この状況はルルドが作り出したものだ。いろんな術を研究して極めて結果的にマーティの力ごと乗っ取れたのも、ルルドの知恵と力だ。


「マーティは……お前を信じていたんでしょ。よく騙せるよね」

「ワシを実の祖父と思い込んだのは小娘よ。”異界交信”の術をもってすれば、小娘の神など容易く陥落できよう。我が一族が代々記した手記に書かれていた”奇跡”のマーティ……解読には難儀したが実利はあった」

「ゼダさんの事もそれで知ったんだね。教祖ゼダとまで名乗って、ウーゼイ教の人達を信じさせて……最後には裏切る」

「理解したか、それがヒトの心模様よ。すがれるものには何でもすがる。そして最後には騙されたなどと被害を妄想する。己の心の移ろいと弱さから目を背ける。環境に揉まれ、大した自我すら確立できぬ奇跡の小娘のようにな」

「……そう。ところでお前は勇者一族ということはさ。人間なの?」


「愚問! ワシはすべてを超越せし神! 汚物にまみれた世界をあるべき姿へと導く求道者! 文明を消し、美しい世界を取り戻すのだ! もはや何物もワシは止められん! 繰り返す、ワシは神である! フォッファファファファァァァァァァッ!」


 なんでこんなことを聞いたのか、自分でもわからない。だってわかり切っていることを聞いたんだもの。勇者の剣を扱う勇者一族なんだから。だけど最後に一応、ね。


「人間じゃないならいいかな」

「ヒトなどという概念はこの世から消し去る!」


【超越せし霊帝神ルルドの森羅万象!】


 いよいよ大地を植物が覆い始める。何本も木が突き出し、枝を伸ばして葉を増やし。アバンガルド王都の瓦礫を押しのける。それはまるでルルドの考えそのものだった。自分が優先したものの為なら、他を犠牲にする。自分勝手で、それでいて誰にも理解できない理屈。ウーゼイ教の教祖をやっているくらいだから、初めは理解してもらおうと努力していたのかなと思っていた。

 だけどそうじゃない。こいつは理解させようともしていなかった。むしろ理解してもらうつもりはない。誰とも共存しない。自分と好きなもの以外は失くそう。要するにやっている事はこの程度だ。


「自然よ! この不浄に満ちた大地を食らい尽くすのだッ! 森羅万象こそが、世界たる姿! 美の観念など、これをもって結論とする! 世界こそが美よッ! フォファフォファ!」


≪あれが諸悪の根源だってのか? 子供じゃないか!≫

≪いや、あの子供に永久の霊帝ルルドがとり憑いてるんだよ!≫


「……ファ?」


 さすがのルルドも固まる。聞き覚えのある声、というか音が聴こえてきたから。忘れもしない、コリンがボクに散々やってきた嫌がらせだ。一度体験しているボクだからこそすぐにわかったけど、うるさかったルルドは警戒して耳を澄ませていた。ジーニアさん、何かやったな。


◆ シンレポート ◆


ほんにんいがいには りかいできない やぼうですが

るるどは そのために なんびゃくねんも じゅんびをしてきた

それは しゅうねんの なせるわざ

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そうか おなかが すいたのだ

はやく おわらせて めしに するのです


長くなったので分けます。次で決着の予定です。


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