第342話 天地を制した者
◆ アバンガルド王都 跡地 ◆
透過魔法”スケープゴート”を使うしかなかった。あの状況で全員助けるなんてあり得ないし、咄嗟の行動だったのに。なんで。
「エルメラ……無事で……よかった……」
「お姉ちゃん? どうして庇ってくれたの? お姉ちゃんならいくらでも回避できたはずじゃ……」
「エルメラの力を信じてないわけではないの……でもね、万が一……何かあったらと思うとね……」
お姉ちゃんはすでに全魔力を使い果たしていた。生き絶え絶えで全身のダメージも激しく、私に覆いかぶさったまま動けないでいる。周囲がどうなっているかなんて見渡すまでもない。どこからどこまでが王都なのか、それすらもわからないから。
アタシ達は何の瓦礫なのかもわからないものに囲まれている。この状況で生存者なんているわけがない。そこに見えている誰かの腕、瓦礫に挟まったまま血が流れていた。
「チッキショウ……アタシのみならず、お姉ちゃんまでこんな目に……。今のがマディアスの力だっていうの?」
「調停神マディアスが起こす奇跡は天界だけでなく、人間界にまで影響を及ぼすほどなのですね……」
「お姉ちゃんはここでじっとしていて。アタタ……」
立ち上がるのも辛い、柄にもなく足腰にきていた。どうする、残りわずかな魔力でお姉ちゃんを回復しようか。以前のアタシなら迷わずそうしていたけど、今は冷静に考えられる。この状況でまた何か起こった場合、魔力なしで凌ぎきれる気がしないもの。
あのディアエルとかいう奴はすでにアタシからのダメージが蓄積していたのか、あそこで息絶えている。この分だとリッタちんを始めとした人間達は絶望的としか言えない。お姉ちゃんの言う通りなら、天界はとっくに消滅しているはず。という事はリュアちん達も。
「ウソだよね……。アンタら無敵じゃん。破壊と再生でしょ……このエルメラちゃんに勝ったくせにさ……」
寒々とした風が吹きつける。一生懸命、指揮をとっていたカークトン隊長は額から血を流して倒れていた。リッタちんの上にあった瓦礫はどかしてあげて、息を確認。
「ウソ……かすかに生きている……でもこのままだと時間の問題かな……」
最強の想像魔法も魔力がなければどうしようもない。安否を確認したところで、助けられる人数はわずかだ。どうする、想像しろ。助けられる想像をしろ、エルメラ。
「気がつけば人命救助しか考えてないなんて、このエルメラも丸く収まったもんよ」
――――広域回復魔法”ヒールレイン”
微量の魔力を雨粒みたいに拡散させて降らせる。こんなもん本来は使い物にならないし、大人数の命をわずかながらに延命させられるだけ。それでも怪我の損傷が浅い奴なら、助かるかもしれない。気力次第では大怪我してる奴も起き上がるかも。その程度だ。
「こういうのはさ、クリンちんの分野でしょ。どーしてこんな時に限っていないかなぁ……」
絶望と寂しさで嗚咽を漏らす。あの二人がマディアスにやられたなんて信じたくない。仮にあの二人にどうにかできないなら、もうこの世界は終わりだ。自分で降らせているヒールレインを受けて、余計に悲しくなった。
「お姉ちゃん……またひとりぼっちは嫌だよ……」
「少し休めば魔力も段々と回復するから……それまで持たせるのよ……。エルメラなら出来るわ……」
ここでお姉ちゃんが生きていてよかった。もしお姉ちゃんまで無事じゃなかったら、この場で何もできずにただ泣きじゃくっていたかもしれない。元来、エルメラちゃんは寂しいと死んじゃうのだ。地下で何百年も待っていた時は獣人達がいてくれたからよかった。一人だったら狂っていたと思う。
「う……」
「リッタちん?!」
「あ……あ、の……」
「喋らなくていい。寝ていて」
「ぃ……」
はい、だけがかすかに聞き取れた。もしかしてお姉ちゃん、アタシがパニックになっている間にも何か処置をしてくれたのかな。それでも血を吐いて咳込んでいるし、無事だなんて言える状態じゃない。
「そろそろアタシの魔力も限界かな……ヒールレインもそろそろ――――」
この大地の状態を示すかのような曇り空の中、不自然なほどの淡い光が周囲を照らす。何かの希望を抱きたいところだけど、アタシの勘ではそう告げていない。こんな状況で助けが来てくれるなんて都合のいい事なんか。
「……人族?」
覚悟を決めて振り返ると、そこには小さめの女の子がいた。ただし体の周りには魔力に似た光が纏わりついていて、背中からは天界人の翼を模した形のものがある。左右にそれぞれ3枚、まるで偉い天使様だ。申し訳程度にそれは羽ばいていて、明らかに浮遊の役割を担っているとも思えない。あの光は力の副産物なのか、とにかく頭を整理できなかった。
「そうですよー。どちら様?」
「調停神マディアス……」
あぁ、最悪。わかるわかる、冗談でも何でもない。マジでこのガキがマディアスだ。かつてアタシに語りかけてきた声とは似ても似つかない。だけど、こんな状況で光を纏いながらアタシをからかう子供なんていない。
そのマディアス様はアタシのことを覚えてないのかな。まぁきっと大昔からいろんな奴に声をかけてきただろうし、いちいち把握してないか。つまり、こんなガキにアタシはその他大勢と認識されているわけだ。普段なら地面に叩き落してやるところだけど、魔力全快だったところで多分無理。だってあいつから魔力をほとんど感じないもん。総量だけでいったら人族の中ですら下位の下位じゃないかな。それにも関わらず、あれは何が力の源さ。まさかこれが奇跡の力だっていうの。
さて、ここで問題。エルメラちゃんはどうするべきでしょうか。この悪神め、人間界を害した報いを受けろと猛々しく挑む。命乞いをする。無言で逃げる。答えは。
「調停神マディアス様、その威光は人間界をも照らしております。お初にお目にかかります」
「うむ……」
何が”うむ”だよ。首根っこ掴んで振り回してやりたくて内心ビキビキだけど、ここは我慢。ホログラフのブランバムが言っていた情報はアタシも把握している。アタシなりにマディアスについて考え、結論を出した。その上で一つだけ見逃してもらう方法があるのだ。
「ご覧の通り、すでに人族は絶滅に瀕しています。アタ……私達の蛮行は顧みる余地もございませんが、こんなみすぼらしい身とて最期の時は安らかでありたいのです」
「……うむ」
「所詮は朽ちかけの愚かな生命、今更文明を築く動力もありません。どうかここは静かに眠らせてはいただけないでしょうか」
「…………」
おぉ、長考してる。口をへの字にして、ちょっとかわいい。なんでこんなのが神様やってるの。どう見てもアンタ人族じゃん。謎は深まるばかりでこのアタシにもわからないけど、そんなのはどうでもいい。今はとにかく生き残る事が先決だ。
「……滅びゆく命、施しを受けよ」
「は?」
思わず、『は?』とか言っちゃったけど機嫌損ねてないかな。なんか空からパラパラとパンやら果物が落ちてきた。マディアスは滅びかけの生命なら世界にとって害なしと判断して、こうして施しすら与える。プライドをかなぐり捨てた甲斐があったぞ。
「ありがとうございます! マディアス様の慈愛、しかと噛みしめます!」
「世界は守られた……」
狙い通り、マディアス子ちゃんはふわふわと飛び立とうとしている。これで生き延びた、とにかく生きてチャンスを掴むんだ。リュアちんとクリンちんだって死んだと決まったわけじゃない。ホントあいつらが生きてさえいれば。
「貴様が噂の調停神か……ほんの幼子ではないか」
「……?」
おい、お前コラ。死神アーギル。大人しく倒れていればいいものを、タフな奴が本当に復活しやがった。せっかくどこかへ行こうとしてたのに、振り向いてなんだこいつみたいなツラしてるし。
「アーギル先輩よう! お願いだから手を出さないでね! アンタの行動一つでマディアス様の怒りを買うハメになるんだから!」
「……なんと言われようと、いっそ奴にとって死神になれる事を願う」
アンタがアタシ達にとっての死神になってるんだけど、理解しないかな。いっそ死んでいてくれないかな。もしかしてまだリュアちんに負けた事を気にして意固地になってるのか。このエルメラちゃんですら、忘れてやってるのに。先輩冒険者ならしっかりと現状を見据えろっての。
「意地か何か知らないけど、アンタのせいで少しの希望すらなくなるんだけど?!」
「ここで奴を逃したところで他に被害が及ぶだけだ。策を講じている間に我々の同胞は殺されて、ますます窮地に立たされるだろう」
「こ、こいつぅ……このエルメラちゃんに対して言いよるわぁ」
「俺達が助かる代わりに誰かが死ぬだけだ。そこを理解した上でまだ何か言いたい事はあるか?」
「じゃあ……アンタは死ぬってわかってて挑むの? それこそ無駄死にじゃん」
「人間界に生きる者として、意地を通して死ぬ。無駄ではない」
やだ、かっこいい。間違っても惚れないけど。こいつもこいつなりに、リュアちんに負けていろいろ考えていたんだろうな。腐っても先輩冒険者、アタシのようなDランクとは違う。バカに出来たもんじゃない、これまでだってアーギル先輩は修羅場をくぐってきたはず。冒険者として、大人としてそれなりの筋や考えがあっても不思議じゃない。
「人としての尊厳を捨ててまで生きたいというのなら、協力してやらんでもない」
「あー、はいはい。わかりました、確かにその通り」
「……こんな神にすがり、力を求めた過去を消したいくらいだ。せめて過ちに対しては俺なりにケジメをつける」
うん、アタシがバカだった。想像魔法だ何だといっても、結局何も出来てないじゃん。さっきまで泣きべそかこうとしていた奴は誰だ。アーギル先輩はアタシよりもずっと弱いけど、実力差とか関係なしに意地だけであの神様に挑もうとしている。普通、怖いよ。それこそびびって命乞いしてもおかしくない。対応として適切かどうかとなるとまだ納得しかねるけど。
「じゃ、及ばずながらアタシも」
「引っ込んでいろ。俺一人でいい」
「強がらなくてもいいよ?」
「そこで見てろ」
「なにそれ、それも意地?」
「もう一度言うぞ、そこで大人しく見ていろ。何が起きてもだ」
そういう事か。アーギル先輩、捨て身であのマディアス子ちゃんの手の内をアタシに見せる気だ。勝ち目がないなら、ないなりに最善手を考えている。なんだかんだ言いながらほんの少しでも希望を抱いているじゃん。
でもこのまま見殺しにするのか、アタシ。前までなら平気でそうしただろうけど、つくづくあの二人に毒されちゃっている。
【アーギルはウィンドシックルを放った!】
アタシ達の相談なんてまるで気にせず、飛び立ったマディアスの背後に容赦のない攻撃。4つの鎌が風に乗り、マディアスに向かわなかった。そう、向かわなかった。
「なっ……!」
【アーギルは263のダメージを受けた! HP 203/466】
スキルを放つ直前、何故か足をとられて態勢を崩す。そこでスキルを踏み止まらないで放ったものの。鎌の軌道は弧を描いてアーギルへ向かった。寸前で近接戦に備えて持っていた鎌で防御しようとしたものの、鎌と鎌が弾かれてアーギルの胸元へ突き刺さる。
「ぐっ、ぐはっ……なぜ、ごふっ……」
「ちょ、ちょっと……。スキル、失敗してんじゃん!」
「こんな事は一度だって……」
「甘言で神を惑わし、争いを始めた人族……」
単なる失敗なんかじゃない。単なる偶然なんかじゃない。背筋に氷を敷き詰められるように、全身が怖がっている。あのガキ、何をしたの。
「やっぱり滅ぶべき種」
【調停神マディアスが現れた! HP 21】
何が怖いかって、魔力の総量が低いのもそうだけど他のすべてが同じ。外見的に13歳前後だと思うけど、年相応の身体能力しかない。レベルは3ですでに限界がきている。これ自体は戦いを生業としている連中でもなければ珍しくもない。
問題はアタシの知らないスキルがあるという可能性を除けば、あの子は”奇跡”という天性だけで神様を気取れているところ。つまりアーギルの自傷も、奇跡によって引き起こされたわけで。手の内を見るなんて次元じゃない。見たところで攻略法なんてないんだから。
「おいおい……リュアちん。こりゃもしかして本当に負けちまったの?」
信じたくはない。破壊や再生も、奇跡で完封される可能性だってある。天界の連中はどこからあんな化け物を連れてきたのさ。ここで確信した事といえば、私達が何気なく定義している神様なんてどこにもいないこと。
どこからともなく生まれて人を超えた存在、それが神様。そうじゃない、神だから超越者なんじゃなくて、超越者だから神になれる。奇跡さえ起こせば、人間だって神様になれるんだ。皆が敬って、崇め称えたものが神と呼ばれているだけ。蓋を開けてみればマディアスの正体も拍子抜けといえばそうだけど、事実はやっぱり残酷だった。人間だろうが超越した人外だろうが、神がやばいことに変わりはないんだから。
「フォファファ……ついにご降臨されたか。マディアス様、お声で判別願いたい。私がゼダです」
どこからともなく、空間に浮かび上がるように現れた奇術師風のやつ。ウーゼイ教のゼダだ、永久の霊帝ルルド。リュアの居ぬ間にひょっこりと姿を現しやがって。いくら魔力が尽きているとはいえ、このエルメラちゃんもとことん舐められたな。
「ゼダ……!」
「マディアス様、こうして直にお会い出来る日を心待ちにしておりましたぞ」
「ゼダよ、このマディアスも喜びに打ち震えている。頭を上げよ」
「ははーっ、では僭越ながら……」
マディアス子ちゃんが、あのルルドになついている。このやり取りからして、ルルドは天界に引きこもっていたあの神様と交流していたわけで。一体どうやって。いや、そんな事よりこれはもう本当にどうしようもなくなってきた。
そしてワラワラと、ルルドと同じ方法で空間に姿を現したのはウーゼイ教のハゲども。マディアスの姿を見るなり、わなわなと震えて涙を流し始める。何度も拝み、ずっと頭を上げない奴もいる。
「夢にまで見た主神が今ここにおられる!」
「リョウホウ殿! 我らは今日の為に滅私奉公の心づもりで教えに従事していたのですね!」
「その通りです。今、ここにいない者はその精神が足りなかったのでしょう。彼らの分まで、あの神々しいお姿を拝むのです」
リーダー格のリョウホウを筆頭に、マディアスを扇状に囲んで綺麗に膝をつく。ルルドはそれを満足そうに眺め、アタシなんか歯牙にもかけていない。
「マディアス様、本日より世界は回帰されます。この世界は誰にも汚されることなく、未来永劫の美を保つのです」
「世界は守られる。理を破壊する者達はすでに死んだ。これより世界は正しき道を歩む……」
「それはめでたい! 忌み子どもが現世を去ったとなれば、もはや何者も邪魔立て出来ぬ! フォファフォファ!」
「世界はマディアス様と共に!」
「自然と共に!」
「ウーゼイ教、ここにあり!」
あーあ、ダメだこりゃ。魔力も尽きて、あんなハゲどもに調子づかせるなんてアタシも落ちたもんだ。何がエルフが優れているさ。前のアタシの理屈なら、この世界の支配者はこいつらだ。アタシ達は負けて、これから虐げられる。いや、そもそも生かしてくれないか。
「ゼダ……おじいちゃん」
「マディアス様、我らの絆は永久のものです。何も心配される必要もなし……」
リュアちん達にすら救えなかった時点で、ここでお終い。なんだか眠くなってきちゃった。そういえばお姉ちゃんはどうしてるかな。せめて最後くらいは一緒に寝たい。お姉ちゃん、どこにいるの。
「あ、いた……あったかい……」
お姉ちゃんの手はまだ暖かい。しっかりと握り返してくれたし、アタシもここで寝よう。永遠に。死んだら生物の魂は冥界に落ちるというし、そっちでよろしくやればいいや。世界はここだけじゃない。マディアスの手の届かないところで暮らせばいいんだ。そう、死ねば皆が行き着くところは同じ。何の心配もない。
「お姉ちゃん……好き……」
「エルメラ……」
あぁ、リュアちん。冥界ではそれなりに仲良くしてやるよ。もうからかったりしない。たとえクリンちんがいようと、アタシはアタシだ。この気持ちを堂々と伝えたい。リュアちんならきっと怒らないよ。その上で、ボクにはクリンカがいるからって言ってくれる。
「好き……リュアちん……」
「こんなまともじゃないこと言ってるし、かなり弱ってる……。回復してあげて」
誰がまともじゃない、だ。もう冥界に着いたの?
「せぇぇいやっ!」
【クリンカはエンジェルリカバーを唱えた!】
「……!!」
眠気と気だるさが一気に吹き飛び、爽快な目覚めだった。さっきまでの欝々とした気持ちがウソみたいだ。飛び起きて、ここが冥界じゃないことを確認する。
「エルメラ、助かったみたい」
「他の皆も生きている人達は全員助けたけど……死んでいる人は……」
「……クソッ!」
旅行帰りかってくらい、普段のテンションだった。見飽きたあの顔と短パン、サイズ合ってないんじゃないのと突っ込みたくなるフワフワのローブ。日の光に照らされてシルエットみたいに見えたそいつらに息を呑む。
「……なんだ、生きてたの」
「うん、エルメラも無事でよかったね」
「生きてたんならもっと早く来いよぉぉ! チキショ! うぇッ……ふぃ……チキショオ……」
鼻水まで垂らして、柄にもなく泣き崩れた。やだ、これじゃバカにされちゃう。普段散々からかっているから、ここぞとばかりに。
「ごめん、さすがに衝撃で飛ばされるのはどうにもならなくてさ……。人間界まで吹っ飛ばされたのはいいけど、ここに辿り着くまでに結構かかっちゃって……」
「しゅ……瞬撃少女だとッ!」
「あ、あり得ない! 世界を消滅させるほどのマディアス様の力を受けたのだぞ!?」
アタシ以上に状況が飲み込めていなかった連中がどうやらいたみたい。呆気にとられて今の今までバカみたいに黙っていたなんて、よっぽどショックだったんだね。とかいってアタシはまだ涙を抑えられない。なによ、これ。こんなはずじゃなかったのに、このエルメラちゃんが。
「さすがにボク一人だったら無傷とまではいかなかったよ」
「破壊と再生……この二つが背中を合わせて戦うことで……」
「奇跡だって起きるんだよ」
なにさ、今まで散々ミラクルやってきたくせに。それを信じられなかったアタシも甘いけどさ。もう、なんていうか。こいつらがいるだけで、心が軽くなる。この形容できない抱擁感が生きる活力を与えてくれるんだ。それと同時に何の恐怖もない。この世界、いや。天界、人間界、魔界、冥界ひっくるめてこの場より安全な場所なんてないんだから。
「アーギルさんも一緒に戦ってくれたんだね。ありがとう」
「礼を言われる筋合いはない」
「雑魚が粋がり、死に急いだ事。称賛の価値もな―――」
【アボロはビッグバンナックルを放った! 永久の霊帝ルルドに135412のダメージを与えた! HP 309032/444444】
彼方からやってきたアボロがルルドを仮面ごと殴りつけてぶっ飛ばす。アーギルを雑魚扱いしていた自分が雑魚扱いされるという、あいつなりの自虐ギャグかな。そんなセンスないか。
「ゼ、ゼダ様ぁ!」
「あの天界の奴よりは利口だな。奇襲に備えて、何らかの術で身を守っていたか。おかげで浅い」
拳を見せつけるようにして、悠々と立つ。魔族の中で唯一、アタシが御すのに苦労したのがこのアボロだ。というか今なら言えるけど、御し切れてなかったと思う。子供の遊びを眺める感覚なのか、アボロは一度も襲いかかってこなかった。
「アボロも戦ってくれていたんだね。でもなんか弱ってるような……」
「奴は俺がやる。そこの子供はお前達がやれ」
それだけ言い残してアボロは飛ばされていったルルドを追った。ダメージが浅かったのはルルドのせいだけじゃなく、何かの原因で弱体化しているってのもある。それでもあいつが負けるとは思えないけど。
「理を破壊する者……!」
「マディアス、ボクが本当の君を暴いてあげるよ」
「……何?」
「クロノエル様が君をこう呼べってさ……マーティ」
「……ッ! 私はマディアスッ!」
【調停神マディアスは手の平をリュアに向けた! 衝撃波がリュアを襲う! リュアはソニックリッパーを放った!】
得意の瞬足でマディアスの死角である、真上に移動。その場で放たれたソニックリッパーがマディアスの前でかき消えると同時にリュアちんも更に上にぶっ飛ぶ。
【リュアはダメージを受けない!】
「ひゃぁっ! 結構飛んだなぁ。もういっちょ!」
【リュアはソニックリッパーを放った! マディアスの前でかき消えた!】
「上……?」
マディアスが上を見上げた時にはすでにリュアちんはいない。更に速くなったのはクリンちんのスピードフォースのおかげで、そこからは。
【リュアはクイックリッパーを放った!】
「きゃんっ!」
元々追えていないけどきっと秒間何百発だと思う。数秒経過の間に何があったのかなんてわからない。だけど今、ここにある結果としてマディアスがリュアちんの攻撃の風圧で地面に落ちた。
「やっと届いたね」
「な、なんで……ひゃっ!」
今度は瓦礫に躓いて転ぶ。白い生地の服が土まみれになって、一気にみすぼらしくなった。転んで痛かったのか、起き上がれないで蹲っている。
「あぅああぁ……痛い! 痛い!」
「マディアス様ッ!」
「動かないで」
群れてマディアスに近づこうとするハゲどもを一蹴。全員、ふわりと空中を舞ってから押し戻された。速度が上がりすぎていて、どんな攻撃なのかもわからない。アタシに見えるのは本当に結果だけだ。
「なんで……!」
「ボクの攻撃が何度も当たらない奇跡、そして世界を壊すほどの奇跡を起こしたんだ。次の奇跡なんて早々起こらないよ。マーティ、君の力はあくまで”奇跡”なんだ。ほんのちょっとの可能性を最大まで引き上げる」
「少しの魔力じゃリュアちゃんをぶっ飛ばすなんて無理だけど、それも奇跡で可能にした。もしくは確実に起こらない事を起こすのも奇跡。一見、何でもありだけどムラが多いのが弱点……でいいよね、リュアちゃん?」
無意識のうちにアタシは頷いていた。そこに辿り着けなかったアタシがバカなのか、この二人が賢いのか。認めたくない。
「人間界を襲った災害が不定期なのも、奇跡を起こせなかった時があったからだよね?」
「そして滅ぼす手段が災害ばかりなのもマーティ、君がそれしか思いつかなかったからでしょ。クロノエル様から詳しい事情はまだ聞いてないけど、君は神様なんかじゃない」
「黙れ……私は調停神マディアス……」
「ただの世間知らずな女の子だよ」
本当に認めたくない。大昔から世界を監視していて、度々滅亡にまで追い込んだ神の正体が本当にただの小娘だなんて。聞きたい事は山ほどあるけど今は静観するしかない。
「奇跡は何度も起きないんだよ、マーティ」
白い服の汚れを払おうともせず、マーティはただ座り込んだままだった。
◆ シンレポート ◆
ゆうれいの しょうたい みたり かれおばな
とは あずまの ことば
ふたを あけてみれば なんとも あっけない
あのくろのえるが じつは せんはんなのでは
なんにせよ ながかった たたかいが ようやくおわる
いってみれば きせきのてんせいひとつに せかいは ききにおちいった
てんせい かいめいされてないぶぶんが おおいようですが
これは とりいそぎ なんとか かいめいしないと
また だいに だいさんの までぃあすが でるのです
いやー つかれた つかれた
しんれぽも おおづめ
はて そういえば なんのために れぽを していたのか
もはや しんにも わからない




