表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/352

第320話 ボクのせいなの?

◆ アバンガルド王都より南東の地方の町 門の外 ◆


 ドンボスの地中からの奇襲は跳んでかわして終わり。下からくるってわかってる上に、地中を掘り進む音がかすかに聴こえるから対処しやすい。飛び出してきたところで首根っこを抱えて動きを封じる。


「な、何するんだどん! この、このっ!」

「こうするんだよ」


 ドンボスを盾にする事でレスターはあの炎魔法を撃てない。直線状の攻撃だからこうすると簡単に対処できてしまう。もちろんヴァンダルシアみたいな味方なんてお構いなしな奴らには効果ないけど。そして本当に盾にするわけもなく、戸惑っているところに思いっきりぶん投げる。


「ぬぉぉぉぉ!」

「バ、バカっ! こっち来るんじゃ――――」


 ドンボスにこっちに来るんじゃないと言ったところで、飛ばされて何も出来ないんだから仕方がない。味方同士で激突して転んだところで2人の動きは一瞬封じる。その隙にすかさず間合いを詰めるべき相手はバステさんだ。


「こいつッ!」

「レベル1000超えなら、これくらいは耐えられるよね! ていッ!」

「ぐぉふっ!」


 お腹に一撃拳を入れて、まだ立てるとすかさず判断したらもう一撃。バステさんが崩れ落ちた途端、後ろからフェンフーが追いついてくる。ここでようやく立ち上がろうとしたドンボスとレスターだけど、もう遅い。


「百の”裂き”に拘った俺様の斬り芸を味わいなぁ! ヒィヒ! 狂い裂きッ!」

「はい! はいはいはい!」

「お、ヒヒッ?! ヒィエェ!」


 一回、二回、三回刃を弾いて懐ががら空きになったところに拳。バステさんの時と同じ要領だ。ちなみにこの時点でフェンフーとボクが重なっているから、レスターはまたしてもあの炎魔法が撃てない。ボクが思うに、バステ隊はまだ結成されて間もないと思うから戦い方に幅がない。それに加えてレベルの差だけで圧勝してきたツケだ。


「というわけでドンボスさんが来るよねぇ」

「調子に乗るなどん! ドリル・インファイト!」


 手甲の爪を収縮させて、それが回転しながらひたすら突きを連打してくる。フェンフーよりも遅いけど威力はありそう。だけどフェンフーにも言える事だけど見切れない速さじゃない。夢中になって突きを繰り出しているところにかがんでかわすと同時に足払い。バランスを崩したところでまた捕まえて抱えつつ突進。もちろん行先はレスターのところだ。


「またか! ええい、ドンボス! 悪く思うなよ!」

「そ、そんな!」


「ダメだよ、味方を巻き込んじゃ」


盾にしているボクが言えた立場じゃないけど、実際やっちゃダメだからしょうがない。レスター到達前にドンボスを手放し、背中に思いっきり両手を組んで振り下ろす。


「げぇぶん!」


「ド、ドンボスー! さっきから卑怯じゃないのか?!」

「彗狼旅団はもっとひどい事をしてくるよ。こういう戦い方に対処できないとダメなの」


 変な音と声を出しながらうずくまって動かなくなったけど死んでないはず。なるほど、レベル1000くらいならかなり力を入れて殴っても死にはしない。手加減の調整が楽になった。


「ヒートトルネェェェぉッ……」


「よし、これで勝負あったね」


 ワンパンチで沈んだレスターを最後に、ニッカ以外のバステ隊全員が倒れ転がる。咳込んで立ち上がれないし、これはもうボクの勝ちでいいと思う。プラティウがバステさん辺りを何故かしゃがんでつついてるけど、やめてほしい。


「クソッタレェ……これでも勝てないのか……! クソォ!」

「いくらレベルが上がっても戦い方次第だよ、バステさん。今はちょっとひどい戦い方をしたけどさ……この前戦ったブランバム……メタリカンなんか平気で何もかも巻き添えにしようとしたからね」

「圧勝の次は説教か! せっかく……せっかく惨めな思いに耐えてきたのにこれでは意味がない! 攻撃魔法も使えない、こんな私でもようやく晴れ舞台に立てると思ったのに!」

「……ボク、今の戦いでスキルを使ってないよ」


 立ち上がれないで地面に拳を打ち付けていたバステさんが止まる。別にバステさんにお説教をしたくて、そういう戦い方をしたわけじゃないけど。スキルを使うと殺しかねないというのが一番の理由だったのは内緒にしておこう。

 止まったバステさんのところに、ラーシュが遠慮しがちにひょこひょこと歩いてくる。リッタ達、ニッカも続いて心配そうに見守っていた。


「オレ、魔法はほとんど何でも出来たしその気持ちはわからないけどさ……」

「お前は確かラーシュと言ったな……あの幻術は見事だった。攻撃魔法のコントロールも威力も申し分ない。末恐ろしい才能だ。羨ましいよ、お前のような奴が……」

「でも結局勝てなかったよ」

「勝てなかった……?」

「まずハストのじーちゃんにあっさり負けた。それどころか、見上げたらずっとずっとすごい奴がいるんだもん。魔術学園を早々と卒業していい気になってた。一つの属性しか使えないのにオレよりも遥かに強くて実績があったり、それこそ攻撃魔法が使えないのにAランクに食い込んで同業者からも一目置かれていたりさ」


 自分の事を言われてバステさんはまたも居心地が悪そうにしている。伏せているバステさんと目線を合わせようとしているのか、ラーシュはその場にあぐらをかいて座った。


「自分の国を襲っている魔物にすら歯が立たなくて、リュアねーちゃんにも彗狼旅団にも負けて。だからさ、最近やっと気づいたんだ。ハストのじいちゃん風に言えば……配られたカードが多い奴よりも、手持ちのカードを把握してうまく使える奴のほうが強いって。オレなんか使えるカードが多いだけでいい気になってた……」

「フ、いいじゃないか。その歳で大事な事に気づけたんだ。賢者ハストか、私も若ければ弟子入りしたかった……」

「大事な事にって……じゃあ、バステさん」

「こんな子供にここまで諭されてはまさに立つ瀬もないな」


 自分がまだ立てない状況に合わせて言ってると気づいて、ちょっと笑いそうになった。


「お前は強くなるよ、ラーシュ。配られたカードが少ない私がこう言うんだ」

「あ、いや別に皮肉を言ったわけじゃ……」

「事実だからな」


「バステさん。ボクなんか攻撃魔法はほんの少ししか使えないし、回復魔法なんかまったく使えないんだ」


 バステさんに向けて言ったはずなのにラーシュがぎょっとして見てくる。攻撃魔法なんて奈落の洞窟を出てからほとんど使ってない。使ってないから知らないのも無理はないんだけど、そんなワナワナと震えるほど驚かなくても。


「リュアねーちゃんが……魔法だって……」

「ぶつよ?」

「バカな……こんな事があり得るのか?」

「バステさんまで」

「リュアさん……ウソですよね?」

「リッタまで?」


 皆に追撃のごとく驚かれたどころか、道具袋の中で信じられないだとかひたすら呟いている奴がいる。引っ張り出そうか。


「リュアちゃんはすっごく強いけど、実はスキル的に出来る事って少ないんだよ。だからいつもいろんな人のスキルを眺めて羨ましがってるし……プラティウちゃんの機械武装(マシンメイデン)もね」

「そ、それ言っちゃダメ」

「ふぅん」


 ほら、尻尾を掴んだと言わんばかりに回り込んでセラフィムを見せつけてきた。挙句の果てにはリュアがこれを使いこなすには一生を3回送らないと無理とか言われる始末だ。


「確かに……今の戦いも完全にしてやられた。結局、我々は有頂天になっていたのだ。レベルを過信しすぎて、いつしか戦略への思考を放棄していた。だが頭を冷やすには少し時間がかかるな……」


「冷やす必要などありませんよ、バステ隊長」


 ようやく立ち上がったレスターだけど、まだお腹を抑えている。膝をつきそうになりながらも、ボク達に屈さないとばかりに顔だけは前を向いていた。


「偉そうな講釈を垂れてくれてますが、思い出して下さいよ。そもそもこうなったのは誰の影響かって事を」

「ヒッ! そうだ! ヒヒッ! 大部分の奴はこう思ってるぜ! ヒィヒッ! 瞬撃少女さえいなければってな!」

「そ、そんな! どういう事さ!」


 フェンフーもよろよろと危うい態勢なのに、自分の存在をアピールしてくる。ボクさえいなければって、またか。いい加減うんざりだ。


「そりゃそうだぜ! ヒッヒ! 苦労して上り詰めたと思ったらインチキの塊みたいなのがあっという間に俺達のお株を奪っていくんだからよ! ヒィヒヒ!」

「だからさ、そんなのボクのせいじゃないでしょ」

「あぁそうだ! ヒッ! お前は何もしちゃいない! ヒィヒ! お前に責任はない! お前はただ存在してるだけだもんな! ヒィヒヒ!」

「考えてでもみろどん。お前が現れる前まではこんなの起こりえなかったどん。お前が現れてから狂い始めたものもあると覚えておくどん」


 ドンボスだけは頑丈なのか、もう普通に立っている。丸まった背中を更に丸くして、低い姿勢からボクを見上げてきた。


「……皆さんの気持ち、わかります」

「リッタ……」

「本当はお兄ちゃんを責められない。強くなりたい、そんな欲求がどれだけ人を狂わせるかは十分わかっている。だからこそ止めたかった……町長さんからの依頼だなんて言ったけど本当はそんなの二の次だった。イリンとシュリも巻き込んじゃったけど……」

「ごめん、情けない兄ちゃんでさ」

「本当にね」


 ニッカさんが潰れそうな顔で、リッタの返答を受け止めている。まさか慰められないなんて思わなかったんだろうな。

 リッタにはニッカさんがいるし、エルメラにはメリアさんがいる。姉妹とか兄妹っていいな。言い表せないけど、ボクとクリンカとは違う何かを感じた。


「ニッカ、お前が一番自らの無力さを嘆いた身だろう。しかも憎きヘカトンは結局のところ、瞬撃少女に倒してもらった体たらく……情けないとは思わないのか」

「……思うよ。だけどうまく言えないけど、今の僕に何かをする気力もない」

「バステ隊長、ニッカはもうダメです」


「アーギル総隊長に伝えておく。ただしニッカ、お前も当然同伴しろ。私も最善のフォローは尽くす」


 うつむきがちだったニッカさんが顔を上げて、バステさんの意外な言葉に戸惑う。バステさんもどこか疲れ切っている。負けたからというより、主にラーシュのおかげかもしれない。ボクみたいな瞬撃少女が何か言うよりも、ラーシュみたいなもっと年下の子が言ったほうが納得するのかな。自分でも思うけど、こういうところが不器用だ。

 ボクがいるせいで狂った、か。確かにそうかも。


「バステ隊長、甘すぎます。ニッカのような奴がいれば隊の規律が乱れますよ。それに命令違反も事実でしょう」

「レスターの言う通りどん! この場で処刑するべきどん!」

「ではまた瞬撃少女に挑むか?」

「ぬぅ……」


 今度挑んできたらスキルを使わせてもらう。ディスバレッドを抜いて全力でニッカを守る姿勢を見せると、レスターがちらりと見て大人しくなった。


「……そっちがボクのせいで狂ったっていうならさ。今度何か襲ってきても全部自分で倒してね。ボク、何もしないから」

「そ、そうさせてもらう。今回は油断したが、バステ隊以外の総力を結集すればヴァンダルシアだって倒せる。もうお前がでしゃばる必要はないんだぞ」

「はいはい、がんばって。ボクが倒した相手を見て勝てるとか言っちゃってさ。ちなみにヴァンダルシアのカタストロフはどんなスキルでも消されるからね」


「ちょ、リュアちゃん……」


 小走りでついてくるクリンカとセラフィムで余裕を見せて浮遊するプラティウを連れて町へ戻ろうとする。特にそうするつもりはなかったんだけど、なんとなくここにはいたくない気がしたから。


「あの、リュアさん! 王震党の戦力はまだ残っているんです! 各地に潜伏しているものを含めるとその数は……」

「全部倒したよ。だからここに来るのに時間かかっちゃってさ」

「そ、そうですか」

「あんなの放っておいたら大変な事になっていたよ。何でも倒せる人達がいるのに疲れちゃった」


「おのれッ! 言わせておけば!」


 レスターが怒り狂ったけど、バステさんに止められた。そもそも先にボクをバカにしておいて怒るなんておかしい。あの変な歌をエルメラあたりに聞かせてやりたくなる。


「やめろ、レスター」

「しかしですね!」

「いきり立ったところで勝ち目のない相手だ。アーギル総隊長は策を練って倒せと仰っていたが、戦ってみて初めてわかる。実力差がありすぎてその実態が掴めない、それほどの相手だ」

「それでは結局、我々が力を受け……う……」


「レスター?」


 うるさかったレスターの声が途絶えた。振り返ると胸を抑えて呼吸を荒げている。そして体が痙攣して、ローブに血が滲み始めた。


「があっ! うあぁぁぁ! あぁぁあああ!」

「レスター! どうした!」

「たいちょおおおお! 体がぁぁあ、裂け、裂けああっ!」


「どいて下さい!」


 クリンカが迷わず駆け寄ってレスターを回復し始める。いつもなら数秒もかからずに治るのに、レスターは苦しむのをやめなかった。身をよじって地面に転がり、ひたすらもがいている。ローブがドス黒く染まり、バステさんがそれを脱がせると体中の肉が裂け始めているのが見えた。


「なんで、なんで回復してるのに治らないのぉ!」

「クリンカの再生でもダメなの?!」

「治らない! 治らないの!」


「あぁ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 上着を脱がした先から、ついに腕や胸板がばっくりと裂けて血が噴出する。口から泡みたいな血をごぼっと吐き出した時にはすべてが終わった気がした。


「……死んでる」

「ウソ、クリンカの再生が……」

「わかんない……私、がんばったのに……」


「レスター……レスター! 何故、何が起こった! レスタァァァァ!」


 クリンカが泣きそうになりながら、死んでいるとわかっているレスターにまだ回復魔法をかけつづける。ひどい奴だし、腹も立ったけど死んでほしいとまでは思わなかった。しかもこんな形で死ぬなんて。叫び狂うバステさんの後ろで、ニッカを含めたバステ隊のメンバーも呆然と立ち尽くすしかなかった。


◆ シンレポート ◆


りゅあが まほっ まほう ま、まほっ

ひひ まほうう まほまほっ


わらわせてくれるです これだから ちんじゅうれぽは やめられない

おっと しつげん みられたら しぬ


とっしゅつした ちからを もつということは だれからも ちゅうもくされて

いいも わるいも ぜんぶ うけとめなければ いけないのです

しかし げせないのは さんざん さたなきあとか とめた りゅあに

ちょっと れべるが おいついたくらいで いどもうとするしせい

ぼうけんしゃとは きょうそうのなかで いきる いきものなのだと かくしんしたのです


くりんか さいせいのちからが きかなくて ないているですが

さいきん つよくなって こういう むりょくかんを あじわうきかいが

なかったせいでも あるです つまり りゅあが わるい

はんぶんじょうだんは さておき

さいせいのちからが きかないということは つまり なるほど ふんふん


そういえば にどね するんだった ねる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ