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第314話 四面楚歌

◆ イカナ村 中央広場 集会小屋 ◆


「今月までの村の資金であるが……皆の者も知っての通り、このままでは1年先の見通しすら厳しい」


 イカナ村で月に一回開かれる集会。昔は村長と大人達だけの寄り合いだと教えられたけど、村の資金の稼ぎ頭と言われているボク達も参加させられる事になった。村人達が稼いだお金の一部を村長に預けて村全体の資金として管理していて、それは様々な維持費に使われる。農具だって使えば壊れるし、家だって住み続けていればどこかしら壊れる部分だってある。

 昔は完全に自給自足でやってきたけど、決して楽な生活じゃなかった。子供の頃はそんなのわからなかったけど、今になってそう教えられるなんて。


「資源だっていつかは尽きる。この場所は恵まれているが、永遠に自給自足とまではいかん。ワシらはいい、しかし生まれてくる子供や孫はどうなる? 末代まで苦しい思いをさせる事になる」


 元々は皆、魔王の考え方についていけなくて独立してここに辿り着いたんだ。どこにも頼れず、全部自分達で何とかするのは確かに難しい。だから今からでもコツコツとお金を貯めて、少しずつ村を開拓していかなきゃいけないんだ。


「リュアとクリンカちゃんのおかげで今は潤っているのでは?」

「言い方が悪かった、ジーク。お前の娘は本当によくやってくれている。現時点の資金ではなく収入じゃ。皆も痛感しておるだろう?」


「村で採れた野菜を持っていっても、だーれも買ってくれねぇんだよ……」


 隣の家に住むボンゴさんはお酒を買う金すらなくて途方に暮れている。他の皆も明るい顔はしていない。何かにお尻をつねられているような痛々しい顔だ。


「……冒険者ギルドへ行っても、低収入の依頼しかないんです。他は全部、国が引き受けちゃって」

「アバンガルド特務隊のせいだよ、クリンカ。あいつらが独占しているんだ」

「それも関係しておるじゃろうな。イカナ村の人間とは取引すらしてくれん。そんな状況だろう、皆?」

「えぇ、私達も張り切って冒険者やりましょうって意気込んだのにひどいんですよ」


「メリアさん……いつの間に」


 気が付いたら、隣にエルメラと一緒に座っている。呼ばれてなかったはずだけど。


「この村ってさー、新しい王様の恨みでも買ってるんじゃないの?」

「エルメラッ」

「だってお姉ちゃん、そうとしか思えないでしょ」

「そうよね」


 すぐ同意するなら、叱らないでほしい。この姉妹がいると緊張感が解れすぎていろいろと台無しになる。


「新しい王か……。ワシは確認しておらんが、その……えらく個性的のようじゃな。しかしこの村を狙い撃ちにしているとは、あまり考えたくないものだな」

「でも他の冒険者も依頼がほとんどなくて、困っているみたいですよ。まるで特務隊の方々以外を排除するかのようですよね」

「リュアちんも全然稼げなくて、村に貢献できてないもんね。今ある資金がなくなったらどうする?」

「エルメラの想像魔法でお金出してもらうよ」

「うっわ、引くわー」


 それをやると経済を破綻させかねないからダメとメリアさんに窘められる。真面目な話し合いの場のはずなのに気が付いたらボクも乗せられていた。大人達は笑えない状況なのに。


「コホン! えー、とにかく。各自、もう一度粘り強く交渉をしてみる他あるまい。リュア達はそうじゃな……そのアバンガルド特務隊というのに加入できんのか?」

「あの裸の王様の言いなりになるのは嫌だなぁ……」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。でもあの特務隊のメンバーって紹介された時にはすでに決まっていたんだよね。私達には何の声もかけられなかったし、すでにそこが怪しいよ」

「いろんなところから誘われても断ってるからね……」

「あぁ……」


 クリンカが良い事言いそうだったけど、ボクが切り返したせいで落ち込んでしまった。結局この日は何も方針が決まらず開散。家の前で寝ているネメアだけが呑気だ。この子のエサ代の事もあるし、明日、もう一度アバンガルド王都に行ってみないと。


◆ アバンガルド王都 中央通り ◆


「特務隊の凱旋だー!」

「今度の討伐も涼しい顔をして成功させたようだ!」


 冒険者ギルドに向かおうと思った時、城門に人だかりが出来ていた。華やかな歓声を浴びているのは、アーギルを先頭にしたアバンガルド特務隊だ。その後ろに副隊長のエンカルや補佐のシム、後は普通の隊員がいる。ゾロゾロと行列を作って黄色い軍服を着こなしているその姿は、すでに冒険者とかけ離れていた。

 特務隊が出来てからというもの、今までAランクのパーティでも討伐が難しかった魔物が次々と倒されている。そのせいで高価な素材があっという間に出回って価値が下がり、それ以下の素材で出来たものがほとんど売れなくなっていた。あの歓迎っぷりの通り、アバンガルド特務隊は今や王都の顔だ。


「あの人達、全員がレベル1000を超えているんだってさ……。どこで修業したんだろ」

「いくらなんでもおかしいよ……。リュアちゃんでさえ、奈落の洞窟に10年も籠ってようやく2000超えたんでしょ」

「もしかしたら、奈落の洞窟以上に短期間で強くなれる場所があるのかもね。あーあ、もうボクは用済みだー」

「リュアちゃんの強さは本物だよ! 腐らないで!」


「ほう、では我々が偽物とでも?」


 アーギルが特務隊の行列を作ってにじり寄ってくる。気のせいか、周りの人達の視線が痛い。後ろにいる元冒険者達の笑み。もうお前に大きな顔はさせない、そんな自信がひしひしと伝わってきた。


「今や、この王都が必要としているのは我々特務隊だ。旧態系の冒険者制度は終わった、これを機に休むといい」

「ボク達だって働くよ。そっちのせいで迷惑してるんだからさ」

「それにそんな事言って、冒険者ギルドだって黙ってないんじゃないですか?」

「請け負った仕事は完遂する。どこに問題がある」

「ど、どこにって……」


 さすがのクリンカも国が認めた部隊がやってる事には言葉を詰まらせる。何せここにいる全員が認めている事なんだから。ノイブランツだってそうだった、ボク達から見たら無茶苦茶な国だったけど住んでいる人達はそれが当然だと思っている。この場合、おかしいのはボク達だ。


「特務隊を結成した事により、複数の部隊に分かれて迅速に地方の問題解決に取り組める。まずここだ、お前達が必要とされなくなった理由がな」

「いくら個の力が強くても、すべてを助ける事はできない。一つを助けている間に別の場所では誰かが助けを求めている。要するに瞬撃少女という個の必要性が薄れたのさ。そうだろ、シム副隊長補佐?」

「エンカル副隊長の言う通りだ。もうでかい顔をして王都を歩く事は出来ないぞ」


「つまり……私達が出なくても解決できる事が増えた」


 クリンカにそう言い切られると、こっちも力が抜ける。胸元に拳を作りながら、現実を受け止めているようだった。


「そういう事だ。わかったら大人しく道を空けるんだな。お前達と違ってこっちは多忙なのだ」

「そっちから話しかけてきたくせに」

「口の利き方には細心の注意を払えよ?」


 エンカルが鎖り鎌をじゃらつかせる。レベルが上がっただけで、こんなにも大きな態度に出られるなんて。ディテクトリングが使えたら計ってみたいんだけど。


「どけ」


 アーギルが堂々と体当たりをするようにボクをどかす。思ったよりも当たりが強くて、ちょっとだけ跳ね飛ばされてしまった。それを合図にゾロゾロと行列が歩き出す。


「ん、以前ならどかす事すら出来ぬという算段だったが……」

「俺達が強くなったんですよ、アーギル隊長。あの瞬撃少女もレベルによるアドバンテージがなければ、こんなものかと」

「フン、同じ靴を履けば届かぬわけではないという事か。明日も忙しい……彗狼旅団の残党掃除にハートレスの駆逐、メタリカが残した機動兵器始末。大変だが、これも善良な国民の為と思えばいい」


「じゃあな、リュアちゃん。よく見れば思ったより小さくて可愛らしいじゃん。大人しくしていれば、面倒見てやるよ。生活、大変だろ?」


 アーギルとエンカルが好き勝手言いながら去っていく。他の隊員も釣られて冷やかな笑いを漏らしながら、中央通りの奥へと消えていった。


「しかしこうなるとさすがにあの2人がかわいそうだよなぁ」

「かわいそうだけど、いつの時代もどんな物も世代交代があるからな……」

「それに特務隊は将来、災厄クラスの討伐も想定されて結成したんだろ? この前、上空に現れた竜神を見てゾッとしたからな……」

「瞬撃少女がいながら、あんなのが放置されているんじゃな」


 この人達から見たら竜神は災厄。事情を説明したところで信じてもらえるわけがない。確かにそんなのも考えてなかった。竜神は瞬撃少女ですら手が出せない災厄として噂が広まってもおかしくない。


「クリンカ、行こ」

「あ、ちょっと待って……」


 フラフラと自分でもおぼつかない足取りなのは自覚しながらも、まだやれる事はやる。行先はお城だ。正直、視界にも入れたくないんだけどこうなったら直接会うしかない。


◆ アバンガルド城 王の間 ◆


「やーやー、よく来たねー」


 玉座がベッドみたいなふかふかのソファーになっていて、その真ん中に裸の王様が大の字になってくつろいでいる。両脇には裸の女の人、手前のテーブルにはご馳走が並べられていた。左右にはこれも綺麗な女の人が大きな葉で王様を仰いでいる。よく見たらソファーの隣にプールみたいなのが作られていて、ボク達が知っている王の間はすっかりと変わり果てていた。


「本日は謁見に……」

「いいの、いいの。堅苦しいのはいーの。どうせそういう柄じゃないでしょー?」

「では率直に言います。私達のアバンガルド特務隊編入を認めて下さい」

「んー」


 あんな奴らの下につくなんて冗談じゃないけど、ここで突っぱねて王様とケンカをしても勝ち目がない。それならいっそ、あっちの仕組みの中で戦ってやろうかというのがクリンカの狙いだ。


「あの……」

「あっ、あぁっ……そこ、右、そうそう……」

「あの?」


「肩、凝ってるでしょー?」

「はい、とっても硬いですっ」


 話なんか聞いちゃいない。女の人に肩を揉まれて悶えている。さすがのクリンカも怒りを抑えるのに必死で、今にもドラゴンに変身してブレスを吐きそう。唇とつぐんで、睨みつけている。


「お話、いいでしょうか?」

「あ、あぁん。いい、いいよ。で、何?」

「私達のアバンガルド特務隊への編入です」

「それねー、こっちで事前に決めた事だからー」

「私達に至らない点があれば出来る限り改善します」

「じゃあ、君は今から俺の側室ねー」

「え……」


「ほーら、その口がでまかせ言うー」


 裸の王様と一緒になって女の人もケラケラと笑う。クリンカでさえ我慢の限界なんだ。ボクなんかもう剣まで手が伸びそう。こいつ、何なんだ。ノイブランツで十壊をやっていたと思ったら今度はアバンガルドの王様。どうやってここにいるのかも謎だし、そもそも何者なんだ。こういう時、ALEXがあったら便利なんだろうな。情報は武器だっていうコリンの言葉が今になって痛感した。


「あっはははぁ! 赤くなってるー! ますます気に入ったなー! ね、側室になったら君達の村の待遇も考えてあげるけどー?」

「え……村の待遇って……やっぱり……」


「ああ、うんー。これねー、言ってみれば俺の挑戦なんだー」


 いきなり本性を現した。こっちが問い詰める前にバラしてくれたおかげでスッキリしたけど、今度はますます堪えようのない怒りが沸いてくる。


「前に君達がノイブランツの援軍に駆けつけた時にさー、目と目が合ったよねー? その時にさー、俺もあいつらが瞬撃少女と焔姫かーって思ったわけ。そうなるとこりゃ試したくなるじゃん? どっちが強いかをさ」

「……それなら、直接勝負を挑めばいいのでは?」

「違う、違う。そうじゃない、そーじゃないの。なんていうかなー、俺にとって強い弱いってのはさー。そんな単純な次元の話じゃないのよー。そんなのは飽きてるっていうかさー」


 話し方が間延びしていて、まどろっこしくてイライラする。我慢する必要なんかないんじゃないか、この場でこいつを倒せばいいんじゃないか。そんな考えが頭の中を支配しつつあった。


「お言葉ですが、あの場にいた災厄である永久の霊帝ルルドを突破できなかったお方では少々お力が足りないかと認識しています」

「うっははー、不敬罪だよそれー。ていうかあれってそんな名前だったんだー。あんなのどーでもよくてやる気起きなかったんだー。だってあれより君達のほうが遥かに強いしさー」

「では結局どういう事なんですか」


「今、俺は王様で君達は収入がなくて困っている状況じゃん? これってさー、俺のほうが上回ってる証拠だよねー?」


 目の上あたりがピクピクする。想像してた以上にこいつは下らない。今まで出会ったどんな奴よりもひどい。考え方も見た目も喋り方も、すべてが下らない。そう思わせる相手に出会った事でボクはどうしたらいいのか。今まで信じられない相手に出会う度に考えさせられて、そして乗り越えてきた。こいつはどう乗り越えるべきなのか。ボクの中で重要な答えを出さなきゃいけないかもしれない。


「十壊の時もつまらなくてさー、なんでこいつらと俺が同列なのって思ってたわけー。もうつまらなすぎてこっち来ちゃったわけでさー。何をやっても勝ってきた俺だし、少々の事じゃ興味を持てないわけよー。そんな中、君達は一際輝いていてさー……」


 挑んでくる敵の目じゃない。こいつはボク達すらも遊び相手としか思ってない。こいつの天性がなんとなく読めてきた。何が来ても適当にやっていて何とかなってしまう、そんな天性なんだ。


「こりゃ勝ってみるかーって思ったわけよ? 君達の地位も住む場所も全部剥奪してみちゃったりしてさー、どん底に落ちてもらってさー。そしたら王様の俺の勝ちじゃん? 王様と乞食に落ちた君達、どっちが上かなんてさー。わかるじゃん?」


「下らない」


 ん、とゆるい表情のまま裸の王様は止まる。一言で返したものだから、意外だったのかもしれない。


「勝手にやっていて下さい。むしろ、今までそんな事に拘って生きてきたんですね。ちょっとホッとしましたよ。私達を窮地に追いやっている相手がどんな人なのかと思ってたもので」

「世界最強の男さんだっけ? 悪いけどお前からは何も感じないよ」


「……はー?」


 何を言われているのかすらわかってないのかもしれない。クリンカもボクも正直に言っただけだ。だけどただ一つ、絶対に許せない点がある。


「ボク達以外の大切な人達を困らせるなら容赦しないよ?」


「ひ、ひあぁぁぁぁ!」

「お、おお、王様助けてぇ!」 


 あの女の人達もいるから、抑えた殺気だ。だけど裸のバカはさすがだった、ソファーに埋もれたまま笑みを崩さない。ボクの実力を恐れていない証拠だ。裸のバカに抱き着いた女の人達の頭を寄せて、撫でる余裕まで見せている。


「ねー、怖いでしょー? こういう災厄から皆を守る為に特務隊を作ったんだよー。いくら強くても行き場がなくなればこれさー。戦争が終わった後の英雄はただの人殺しだもんねー」


「じゃあね、バカ」


 不敬だ何だと言いながら、最後まで護衛の兵士は手を出してこなかった。それはそうだ、この人達はボク達の怖さを知っている。さて、これからどうしようか。どうしてくれようか。


◆ シンレポート ◆


ねめあの えさだいを かっとすれば よいのです

やしなっている ぷらてぃうの しょくじだいも あるです

じーにあにでも あずければ よいのです

えるめらと めりあを こきつかって どうにかできる きょくめんも あるのです

しゅうにゅうは うん

たすけてやるから おかねちょうだい

ぼうけんしゃなんぞ やらなくても これでかいけつ

しんの おかしだいは ひつようけいひ むしろ あたまをつかったぶん

あまいものがひつようなので せいきゅうできるです


とくむたいの あのでかいたいどは どこから くる

れべるがあがったくらいで でかいつらできるとは すうちでしか

はんだんできないとは なげかわしい

よく そんなんで きょうまで いきのこってこれたものです

こんなんじゃ あいての つよさを みあやまって あれっくすを しなせた

めたりかと かわらないのです

けっきょく じょうほうがあるかどうかより はんだんりょくがあるかどうかが

じゅうよう


あぁ あたま つかった おかし おかし

んん うまい とにかく しゅうにゅうがないのなら むだを はぶくです

うまうま

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