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第311話 高度文明の行方 終了

◆ ???? ◆


 息子が発見された時にはすでに息絶えていた。無残に体を引き裂かれていただけでなく、腹を食い散らかされている。しかも完食せずに飽きて放り出した装いだ。


「なんて……事だ……」

「ブランバム将軍、どうかお気を確かに……」


「う、うおぉぉぉぉぉォォッ!」


 生きていた時の面影はない。首がねじり斬られて、それが発見された場所は胴体からかなり離れていた。アレックスは魔獣カーマインによって殺され、メタリカ全土を失意の底に落とす。

 息子は優秀な冒険者だった。父である私は当然、冒険者になる事を反対したがアレックスは瞬く間に国内でも知らぬ者はいないほどの才覚を見せつける。かつて任務で瀕死の重傷を負い、機械の体となった私とは似ても似つかぬ有様だった。まだ生きていた国王はアレックスを賞賛し、当時最新鋭の武器であるガンブレードを託したほどだ。


「魔獣カーマインを……侮ったからだッ! だから反対したのだ! だから殺戮駆動隊(ゾディアック)を討伐に当たらせろと言ったのだ! 何故、聞かなかった!」

「こ、国王がそのようにとご命令で……」

「お気に入りに箔をつける為のお飾り討伐とでも考えていたのだろう! あの愚王めぇッ!」

「お言葉が過ぎます! お怒りは最もですが」

「うるせぇッ!」


 がなり立てる一兵卒を殴り飛ばしても、気が晴れるわけではない。死体回収に当たっていた兵士どもが一斉に注目する。

 こいつらも愚王と同罪だ。英雄、英雄と持ち上げるだけで誰一人としてまともにデータを検証しなかった。きちんと調べればわかっていたはずだ。いくら強くても、一人の人間が立ち向かえる相手ではないと。人間ごときが抗える相手など、そう多くはないと。

 殺戮駆動隊(ゾディアック)やマシンどもを討伐に当たらせなかったのは国王の気まぐれだけではない。当時の私以外の鋼鉄の5人が修繕費がどうたらと能書きを垂れて出し渋ったからだ。


「腐ってやがんだよ……この国が、いや。人間そのものがな」

「ブ、ブランバム将軍?」


 こいつらの脳みそではダメだ。人間の脳みそでは確実な結果は出せない。足を引っ張り合って、ああだこうだとウダウダやっているうちに何もかも終わる。ならば、どうする。


「脳みそだけじゃダメだな……」

「あの、ブランバム将軍?」


 カーマインは確かに危険極まりない魔物だ。世界最強と言われる魔物カイザードラゴンにさえ食ってかかるほどの凶暴性があり、こんなものに人間をぶつけるほうが間違っている。ならば、どうする。


「完全にならなければいけない」


 国王を消し、機械化計画を推し進め、我が息子をたぶらかした小娘のコリンをいつかは。何もかもが不完全なこの国を――――


◆ アバンガルド王国 西の海 サタナキア ◆


 アバンガルドからだいぶ離れた場所、ちょうどウィザードキングダムへ行く途中の海にサタナキアが落ちた。ボク達が初めて海に出て幽霊船に遭遇して魔王軍十二将魔の一人のドリドンと戦い。そしてメタリカの軍艦と会った場所だ。初めてメタリカ国と会ったこの海に行き着くなんて、まるで全部が元通りになったみたいだ。

 高い技術で作り上げた国が今はこの海で廃墟になりつつある。島中をあらかた探し回ったけど、生きていた人はほとんどいなかった。機械化されていない町もあったけどサタナキア化の影響で機械に飲み込まれたのか、死体すらない。後は機械化された人達の成れの果てだけだった。


「ひどい有様だ……これが世界一の技術を誇った大国なのか……」

「カーチス少将、この地区の生存者も確認できませんでした」

「そうか……ちなみに、機械となった人間を含めてだな?」

「……はい」


 ここら辺りはトルカリア連邦のカーチスという人が指揮している。ツバ付きの帽子を深く被り、白い軍服を着込んだおじさん。腰にある細い鞘に収まっているのは剣かな。ノイブランツみたいな悪い奴らだったらどうしようかと思ったけど見た目通り優しかった。すぐに飛翔船をサタナキアに取り付けて捜索してくれた。

 だけどその苦労も空しく、機械化された人達は動かない。まず、ブランバムに会う前に見た人達は機械になって全員がまともじゃなくなっていた。体を思うように動かせなくなり、そして動かなくなる。動いている人達がいない事もなかった。だけど言葉を話せなくて、何故か同じ場所を行ったり来たりしているだけ。カーチスさんに報告した兵士は、この人を生きていると判断しなかったんだ。


「首謀者と思われるブランバム将軍の生存も確認出来ておりません」

「ブランバム将軍……数年前にお会いした時は聡明な男だと思ったのだが、何故こんな早まったマネを……」

「人の力でここまで成しえるのかと思うと……もはや災厄の所業ですよ。このサタナキアが全世界に牙を向かなかったのは一重にあの少女らの働きのおかげでしょう」

「噂の瞬撃少女……リュアにクリンカといったか」


 落ち着いた物腰でカーチスさんは瓦礫を踏みしめて来た。ボクよりも高い身長がぺこりとおじぎをする。結構偉い人なのに嫌味な感じがしない。なんか新鮮。


「トルカリア連邦軍第16船隊隊長カーチスだ。ご尽力、隊を代表して感謝の意を表明する」

「はい、初めまして……」

「聞きしに勝る天賦の活躍、しかと目に焼き付けた。君達のような若い世代の活躍となれば、今後の隊の士気も向上するだろう」

「あの、このサタナキアはこれからどうなるんでしょうか」

「世界の秩序の要とも言われたメタリカが事実上の陥落となれば、今後は我がトルカルアの中央政府の判断を待つ形になるだろう。君達は何も心配する必要はない。それとも親しい人間がメタリカに?」

「いえ……」

「ささやかではあるが飛翔船にて寝床と食事を用意した。よければ」

「はい! ありがとうございます!」


 食事と聞いてクリンカが元気になっているけど、さっきまでは機械になった人達を戻そうとして必死だった。すでに終わった命までは再生できないから、ほとんど助かった人はいない。それでも泣かずにいたのはすごいと思う。


「しかし……あの大国の滅亡となれば、世界への影響は計り知れんな。何より秩序がどうなるか……」

「そんなに大変な事になるの? クリンカ、わかる?」

「今まで大人しくしていた国が突然、戦争を仕掛けたりするかも。それに水道や電気だってメタリカが供給していたわけだし、それらもどうなるかな……」

「経済への影響もある。世界中を震撼させるぞ、これは……」


 その辺りは難しくてよくわからないけど、戦争をする国があるっていうなら止める。ノイブランツみたいなのが何ヶ国もあるなんて信じたくないけど、それだけメタリカ国の力が強すぎたんだ。


「事後処理に関してはワシらに任せろ」

「テラスさん……それに確かテイチャさん? クラム王女の教育係りだった……」

「私らもいるぞ」

「監獄から助けた……えーと」


 テラスさんの指示で監獄から助けた人達、今じゃメタリカ国民の数少ない生き残りになっちゃった。報道関係とかいう仕事をしている人と鋼鉄の5人の下で働いていた政治の仕事の人。


「この件はしっかりと世界へ伝える。ただし正しい情報をな」

「しかしお言葉だが、世界への影響を考えればある程度は伏せたほうがいいだろう」

「カーチス少将、汚いものを隠して成り立っていたのがメタリカです。一見して卓越した技術を持つ大国ですが、私から言わせれば遅かれ早かれこうなっていたでしょう」


 報道の人がカーチスさんに恐れる事なく、堂々と反論している。遅かれ早かれってのはどういう事かな。


「今回はたまたまブランバムが最終的な首謀者となったが、コリンによるALEXの私的運用や腐敗した上層部によるクラム王女の傀儡化など、挙げればキリがない。ねぇテイチャさん?」

「な、なんで私に振るのだ?!」

「いえ。この騒動にも拘わらず、平然と無事に出てきた辺りで事前に何か察知していたんじゃないかと思いましてね」

「失礼だぞ! 何を根拠に!」


「まぁまぁ、テイチャさんによる国家資金の私的運用の件についてはひとまず置いておきましょう」

「「「「ジーニア?!」」」」


 平然と出てきたのはジーニアだった。相変わらず白衣を着て綺麗な恰好をしている。この人こそ、どこにいたのさ。今ここで殴ってやりたい。


「あの絵やツボはクラム王女の教育の為であってだな! あ……いや」

「今更、そんな事を追及して裁きを下す人はいないでしょう。ALEXの開発者も今はこの通りですし」


「アレックスはねぇ、とっても物知りなのよ? ALEXで何でもわかるのよ? 今日はね、アレックスとお買い物に行くの」


 コリン、いつの間にか飛空艇からここに。なんか足取りもフラフラしていて、ずっと意味不明な事を喋ってる。目もなんだか合ってない。


「テイチャさんの特殊浴場通いも、メタリカがこうなっては些末な事でしょう。トルカリア連邦の方々、この後始末は私達が責任を持ってやりますので」

「ジーニア、言いたい事がたくさんあるんだよね」

「あ、リュアさん。すみません、調子に乗ってました。降参です」


 いきなり土下座をされても、許せないものは許せない。プラティウの件だってムカつきが収まらない。このまま踏みつけてやりたいくらい。


「ボクじゃなくてプラティウに謝ってよ。なんでひどい事をされてるって知ってたのに黙ってたのさ」

「それに関してはプラティウが望んだ事なので……」

「そ、そうなの?」

「たとえそうだとしても、途中で明らかに間違っている状況になったら引き留めるのが大人の務めなんじゃないですか?」

「はい、もう本当クリンカさんの言う通りで……」


「その男に何を言っても無駄だ」


 テラスさんがジーニアを突き放すように言い切った。マディアスを倒すとアバンガルド王都中に宣言して変な首輪をつけさせていたと思えば、今はペコペコしている。本当にこの人は何なんだろう。


「罪滅ぼしというわけではありませんが、こちらのコリンさんは私のほうで面倒を見させていただきますよ」

「サタナキアもな?」

「あ、はい。わかってますって……」


 ジーニアはどこか人をバカにしたような、余裕のある態度だ。テラスさんの睨みなんか気にもしていない。


「もうコリンさんはこの通りですからね。正常な状態に戻すのは極めて困難でしょう。ALEXは彼女にとって死んだ恋人も同然、リュアさんで言うクリンカさんみたいなものですからね」

「……嫌な言い方しますね。いい加減怒りますよ?」

「あぁ! すみません! そんなつもりじゃないんです!」

「もう一回、土下座してよ。踏むから」

「それは本当に勘弁して下さい、命に関わりますから」


 プラティウはまだジーニアの事が好きなはずだ。だから思い切って出られないのが歯がゆい。このとぼけた仕草が演技なのか、そうじゃないのか。その辺に腰かけて、誰もいないところに向かって話しかけてるコリンを立たせたジーニアがそそくさと去ろうとする。


「待ってよ。今度何かしたら、本当に許さないからね? 何を企んでるのか知らないけどさ」

「本当にもう何も企んでませんって……。私もリュアさんと同じですよ、皆に褒められたいんです。ちょっとマディアスを倒して英雄になりたかっただけなんです……」

「ボクは別に英雄になりたくてやってるわけじゃないよ」

「でも潜在的な部分では私と同じですよ」

「はぁ?」


「……聴こえるか」


 足場から染み出すように聴こえたそれは、ボクが倒したブランバムの声だった。まだ生きているのか、とうんざりするところだけど心配はなさそう。弱々しい大きさの声というだけじゃなくて、戦っていた時みたいな野心と張りが感じられない。


「ブランバム……」

「リュア……貴様が羨ましい……貴様こそが私の求めていた完全かもしれん……それほどの力があれば我が息子は死なずに済んだものを……」

「息子……?」


「なぁ、完全とは何なのだ……? 私はどこへ向かっていた……?」


 そんな事を聞かれても答えられるわけがない。ただ、もしここに生身のブランバムがいたら間違いなく泣いている。あの茶ヒゲを生やしたいかつい顔で。


「息子を死に至らしめた国への復讐か……はたまた完全への追及か……もはや自分の怒りがどこへ向かっているのかもわからなかった……」

「ねぇ、息子って?」

「アレックスですよ」


 まだいたジーニアがしれっと答える。そこで簡単に説明されて理解した。ブランバムがいつ壊れて、こうなってしまったのか。


「なぁリュア……人間ってやつは本当に脆い……その上、マディアスなどに上から管理されてみろ……奴はいずれ、増えすぎた人口を調整する為に大量の人間を虐殺するだろう……お前がこれまで救ってきた人間は本来、死ぬはずだった……マディアスもさぞかしお怒りだろうよ……」

「で、でも! それはわかったけど、そのアレックスを殺した魔物とマディアスは関係ないんじゃ」

「魔獣カーマインはマディアスが創造した魔物だ……」

「え……」


「考えてでもみろ……何故、世界の至るところに人知を超えた怪物が闊歩しているのか……進化や生態系を辿ってもまるで説明がつかない魔物がたくさんいる……すべてとは言わないが、中にはマディアスの息のかかった魔物もいるという事だ……」


 信じられない。マディアスが魔物を生み出しているなんて。ますますマディアスが何なのかわからなくなってきた。皆も信じられないといった顔をしているけどジーニアだけは笑みさえ浮かべている。


「いえ、まぁ確実な根拠はないんですけどね。大体、カーマインみたいな魔獣が国内にいれば嫌でも発見できますよ。それが突然、沸いたように現れましたからね。昔からマディアスはメタリカを目の敵にしていましたし、あの手この手で間接的に攻撃してきましたから」

「だからってマディアスのせいというには……」

「もちろん、憶測の域ですよ。ですが少なくともブランバム将軍はそう信じています」


「リュア……こんな私が今更、アレックスの仇を討ってほしいなどとお願いをするつもりはない……」


 あれだけ怒り狂っていたブランバムとは思えない。自分で言っていた通り、何に怒っているのかさえもわからなくて、何をしたいのかさえもわからなくなっていた。それともバックアップとかいうのがうまくいってなかったのかな。


「守りたいものがあるならマディアスを倒せ……大切なものを失えば、何もかも見失う……私のようにな……」


 それに素直に答えられない。マディアスがどうとかじゃなくて、ブランバムの境遇があまりに痛烈に響いたから。戦っていた時はブランバムに守りたいものがあったなんて考えもしなかった。それが、失った事をきっかけにあそこまでおかしくなる。国を、世界を、果てには神様を憎むまでに。


「人が行き着いた文明を……こんな風には使っていけなかった……」


 それっきりブランバムは喋らなくなった。冷たいサタナキアの金属が、ブランバムの死を伝えているように思える。

 メタリカ国はすごい国だった。だけど結局行き着いた先は破滅、なんでだろう。すごい力を持っていても、人が使うとこうなる。ブランバムのあの体はメタリカ国が出来る最高の技術だって言ってたけど、最後にはどうしようもない使い方をした。他にやり方はあったはずだ。足を引っ張り合ったりせず、誰も悲しまない使い道が。


「そんな風に冷静になれるならさ……なんでもっと早く……」

「リュアちゃんの破壊の力が、無意識のうちにブランバムを縛っていた憎しみの鎖を断ち切ったのかもね……」

「そんなの無理だよ……クリンカの再生だって、人の心までは直せないでしょ」

「でも、リュアちゃんに負けてなかったらこうはならなかったと思う。それこそ根拠はないけど……」

「リュアさん以外では誰も勝てませんでしたからね」

「ジーニアさん黙っててぶつよ?」

「はい」


 しばらくの間、カーチスさん達も一緒に黙っていた。それぞれが考えているようだったけど、何かまではわからない。


「ブランバム将軍の話を鵜呑みにするわけではないが……彼の死は深く受け止めよう。その言葉や生き様と共に」


 カーチスさんがどこへともつかない敬礼をして、他の兵士もそれに続く。ふと見上げると、天井がなくなって空が丸見えになったサタナキアはブランバムの心みたいだった。日が当たり、廃墟みたいになったサタナキアの金属が光る。人が行き着いた結果がこれだなんて、ボクは認めたくなかった。


◆ シンレポート ◆


めたりかは じょうそうぶからして くさっていた

それも なんねんもまえから

こくおうは きっと ぶらんばむに ころされた

ひとりの おやじの にくしみが くにぜんたいにまで かくだいするなんて

これは うんがなかったと しんは おもうです

いってみれば ぶらんばむの しゅうねんがち

くにを うらんでいるにんげんなんて たくさんいるなか ぶらんばむのこうどうりょくが

こうを なした

だから たかすぎる ぶんめいのせいとは いちがいには いえない

そして いちばんの もんだいは じーにあが めたりかんに

いちまい かんでいたこと

だれも つっこまないですが こいつが いちばんの せんはん

こいつ しんよう できない


ふん うしろに しんがいるのに こいつら きづいていない

しんが いないことに きづいて あわてて さがすがいいです

しんの ありがたみを あじあわせる

たいせつな しんを うしなって かなしみのあまり めたりかんに

なるがいいです

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