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第2話 理想と現実

二人についていって建物に入ると、そこにはいろんな格好をした人達がいた。さっきの大きい斧を担いだおじさん、帽子を深く被って何かブツブツいっている魔法使いみたいな人、3人で談笑してる人達。

そして奥では何やら喧嘩してる様子だった。


「だからぁ! ちゃんと無事に送り届けただろ?!」

「依頼人は負傷しました。無事とはいえないので報酬は半額との事です」

「大した怪我でもないんだろ? 生きてたどり着けただけマシじゃねーか!」

「ですからそれは無事とはいえません」


槍を背負った男の人とカウンターの奥に座ってるメガネをかけた人を

すっかり周りの人達が取り囲んで様子を見ていた。

その中から大きなおじさんが出てきて槍の人に近づく。


「オイオイ、見苦しいぞ。依頼内容をもう一度よく読んでみろ。

無事に荷物と私をアガンバルト王国まで送り届けてほしい、と書いてある。つうことはだ、万が一でもその依頼人に何かあっちゃいけねえってわけだ」


斧のおじさんが割って入って、たしなめるように槍の人に言う。


「無事ってのは命あってのもんだろ?」


槍の人が斧のおじさんを睨みつけた。

おじさんは物怖じもせずに槍の人に言葉を続ける。


「てめぇさんよ、冒険者になって日が浅いだろ。

 その鎧からブーツまで、すべて安物な上に新品同然だ。

 ベテランならもうちょっとマシな装備をしてるからな」

「だったらなんだって?」

「授業料だと思って聞き分けるんだ。ごねても依頼金は変わらねぇ」

「ベテラン気取りのジジイがよ……」


槍の人は背中の槍を持って構えた。

周囲がどよめき、おじさんはやれやれといった様子でお手上げのポーズをとっている。


「ここでの揉め事はご法度だ。オレに話があるなら外でいくらでも聞いてやる」

「上等だぜ」


こうして斧のおじさんと槍の人は外に出ていった。ケンカするのかな?

なんだか想像していたのと違った。

同じ冒険者なのに、なんであんなに険悪なんだろう。

首をかしげつつ、ボクはさっきのカウンターにいってイカナ村について聞くことにした。


「すみません、イカナ村ってどこにあるの?」

「冒険者カードを見せて下さい。ギルドカードでもいいですよ」

「え、それ何?」

「あ、もしかして初心者の方ですか?」


まったくわからない流れだったけど、とりあえず頷いて答えた。


「冒険者ギルドを利用するには、まず冒険者登録をしていただきます。

 簡単な手続きなので今すぐに作りますか?」


渡された紙に必要な情報を書かなきゃいけないようだ。

まず名前と……あれ?

重大な事に気づいた。

そう、ボクは……


「どうかされましたか?」


固まるボクにギルドの人は不思議そうに言葉を投げかけた。


「あの、ボク」

「はい?」

「えっと、字が書けない」

「え、えぇ?」


村から逃げてから、誰とも接する事なくあのダンジョンに潜っていた。

普通の子供が教わるような事をボクは何一つ知らない。

それを聞いた周りにいた冒険者の人達は目を丸くしてこちらを見ていた。

そして噴出すように笑った。


「マジかよ、今までどうやって生きてきたんだ」

「ありえなくなーい?」

「うーん、確かに見るからに頭悪そう」


侮蔑と嘲笑が聴こえてきた。

どうしていいかわからなくなったボクは目でギルドの人に訴えた。


「でしたら、誰か他の方に書いてもらうというのは?」


それしかない。周りを見渡して誰か書いてくれそうな人を探す。


「おい、おまえ書いてやれよ」

「やーだー、サル脳が移りそう」


誰もがヒソヒソと囁きながら、こちらを見ている。

とても書いてくれそうにない人達ばかりだった。


「ど、どうすれば」

「私が書くのは原則として禁止されているんですよ」

「だ、誰か書いてくれない?」


返事はない。

悔しさと悲しさ、冒険者達の驚くほどの冷たさに涙が出そうになった。

ふるふると震えてなんとかペンを持つけど、何も書けない。

涙が落ちて紙の上にシミを作った。

その時、入り口の扉が開いた。


「ふぅ、疲れたなぁ……ん?」


入ってきたのは金髪の女の子だった。

同じ歳くらいだろうか。髪は肩より少し長く、二つに分けて先のほうを結んでいる。ボクのショートカットとは対照的だった。

女の子は異様な雰囲気を察して、すぐにこちらに気づいた。


「何かあったんですか?」

「ふるふる」

「ふるふるされても……」

「かくかくしかじかなんですよ」


ギルドの人がうまくフォローしてくれた。

この子もやっぱり、字が書けない自分を笑うんだろうか。


「そうなんだ、じゃあよければ私が書くよ」

「い、いいの?」

「困った時はお互い様だよ」


涙が溜まった目を腕でごしごし拭う。鼻水もすすった。


「まずは名前と現在住んでいる場所、それから……」


一つずつ女の子に教えてそれを書いてもらった。


「現在住所、イカナ村?」


ギルドの人が紙を睨みつけていた。

書き終わったのでいよいよカードを作ってもらえる。

説明によるとこのカードは重要なものらしく、冒険者ギルドで何をするにしても必ず提示しなければいけないらしい。

そして活躍した分だけ等級が上がっていろいろ便利になるとか。

低いランクだと立ち入れないダンジョンや施設もあるし、請け負えない依頼もある。

冒険者カードはそれらの情報が詰まった大切なものになる。


ギルドの人が、かけていたメガネの位置を直しながら紙を手に取った。


「申し訳ありませんが現在住んでいる場所をお書き下さい」

「もしかしてなくなった村はダメなの?」

「今はどちらかにお住まいなんですよね?

 放浪されてる方ならば現在滞在している宿の名前でもいいのですが」

「ううん、今までは奈落の洞窟っていうダンジョンに潜ってた」

「は、はぁ……」


今一、進展しないやり取りを見て金髪の子が切り出した。


「えーと、リュアちゃん。村がなくなってから住んでいた場所の事だよ」

「ずっとダンジョンで暮らしてた」


周りから遠慮のない笑いが漏れた。

頭がおかしいだの、ひどい言われようだった。


「おまえ、奈落の洞窟なんて聞いた事あるか?」

「知らないなぁ、この辺にあるのはベアーフォレストにストレンジ平原くらいだろ? 特にベアーフォレストはデンジャーレベルは優に30を超えてる難所だぜ」

「奈落の洞窟ってなんだよ、そんなダンジョンねーよ」


なんでこんな事で馬鹿にされなきゃいけないんだろう。

ボクはまた泣きそうになった。


「困ってるようなので私の家じゃダメでしょうか」

「えっ」

「これから住めばそこが現在住んでいる場所になりますよね」

「えぇ、そういう事ならそれで」


面倒になったのか、ギルドの人はあっさり承諾してくれた。

この子がこなかったらボクはどうなっていたんだろう。

今はただひたすら、まだ名前も知らない女の子に感謝するばかりだった。


「はい、これですべて完了です。後ほどカードを発行しますのでしばらくお待ち下さい」


ようやく一息つけるようになったところでボクは女の子に名前を聞いてみた。


「私はロエル。この町に住んでいるんだ」

「ありがとう、ロエル。君がいなかったらどうなってたか」

「いいんだよ。それよりリュアちゃん、イカナ村出身だったんだ……」

「そうだ、ボク村がどうなったか見にいこうと思ったんだけど

 ロエル場所わかるかな」

「え、ど、どうなったかって?」


ロエルは口を噤んだ。なんだろう、さっきのギルドの人といい何か歯切れが悪い。滅んだ村の事だからやっぱり言いにくいのかな。


「イカナ村が滅んだのって10年以上も前だろ?

 そりゃギルドの奴も困っちゃうよな」


誰かが言った。


10年前?


えっ?

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