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第290話 バベル破壊作戦 その2

◆ アバンガルド王都 ホテル・メイゾン ◆


「では依頼として正式に引き受けますね」


 頼み事した後の第一声がこれとは思わなかった。メリアさんは冒険者登録をしている、つまり依頼としてこなしたほうが昇級に繋がる。まさかAランクにもなって冒険者ギルドに依頼を登録するはめになるとは思わなかった。というか初めてだよ。おかげで手続きなんかさっぱりで、クリンカと一緒にAランクにもなってギルドの人に説明を受けながら登録した。

 その横でメリアさんが笑顔を絶やさない。エルメラは手を叩いて急かしてくるし、この姉妹は根本的に同じなんだとわかった瞬間だった。

 登録料はDランク向けに設定しているから大した事はないけど、額がひどい。1000ゴールドなんてDランクがもらう報酬じゃない。そんな報酬なんてBランクになってやっともらえる金額だ。こんなのベテランの冒険者が見たらまた怒り出しちゃいそう。Dランクが1000ゴールド稼ぐのにどのくらいかかると思ってるの。


「依頼内容は探し物って……1000ゴールドの探し物って何さ」

「国を救うほどのお宝、でしょうか」

「高いよ」

「じゃー、やんなーい! 自分でやればー?」

「エルメラに聞いてないから。見たこともない人間を探せとか、想像魔法でも不可能だって喚いてたじゃない」

「まー、ここはお姉ちゃんの力に平服してもらうって事で」

「平服ってどういう事」


 そういえば、メリアさんはどんな魔法を使うんだろう。エルメラに自分なんか足元にも及ばないと言わせるほどだから、とんでもない魔法なのかも。ヴァンダルシアにも解けないほどの封印魔法を使うくらいだし、ボク達は初めてエルフの力を目の当たりにするかもしれない。


「メリアさん、どうやってテラスという人物の居場所を探すんだ? そんな魔法でも使えるのか?」

「使えませんよ?」

「は?」

「使えません」


 場が凍り付いた。にっこりと冗談でも言うように、イークスさんの真剣な質問に答えるメリアさん。何人かがイラッとしたのがわかる。「はぁ?」だなんてあからさまに飽きれているのはラーシュだ。

 ハスト様だって同じなはず、と思ったらなんかメリアさんの胸に釘づけだ。エルメラじゃないけどヒゲ引っ張ってやろうかな。


「何せ里からほとんど出た事がありませんし、探し物なんてしません。必要なものはほとんど手の届く範囲に置いてますから」

「お姉ちゃんのベッドから、なんでも取れるんだよね!」

「そんな生活習慣はどうでもいい! どうやって探すんだと聞いているんだ!」

「まぁ自分が依頼したわけでもないのにうるさ……いえ、すみません! 引き受けた以上はやりますよ、イークスさん? フフフ」

「それより生活習慣のほうを詳しく知りたいのう」


 本音を出しかけたメリアさんのペースに乗せられるイークスさんと、エルメラにとっつかれてヒゲを引っ張られてるハスト様。こんな事をしている場合じゃないのはわかってるはず。賑やかなのはいいんだけど、カシラム国が消滅するところまで迫っている。

 何か言おうとした時、メリアさんが枕を抱いてベッドの上に寝っ転がった。本当に何してるの。


「はぁぁ……枕、気持ちいい……」

「リュア、エルフってこんな種族なのか?」

「ボクに聞かれても……。メリアさん、イークスさんもそろそろ怒るよ。真面目にやってるんだよね?」


「やってますよ」


 淡い魔力の光が一筋の蛇みたいに、メリアさんから中心に放たれて部屋の中を一瞬だけ泳いだ。たったそれだけ、もっと何かが起こるかと期待していたらメリアさんが起き上がる。枕を抱いたまま、目は閉じたままだ。


「お姉ちゃんって、やわらかいもの大好きだよねー。ぬいぐるみでもフカフカのクッションでも何でも抱いて寝るんだから。で、完成した?」


「創造……終了」


 この時点でほとんど解決したようなもの、薄い笑みでそう答えた気がした。一瞬だけど、何かの魔法を使っていたのはボクでもわかる。エルメラの想像魔法でさえ、呆れるほど強力なのにその上を行くメリアさんの魔法は今のところ恐ろしく地味だ。


「創造魔法、魔力応答(エコー)


 ほんの少し、メリアさんの髪が放射状になびいた。何かがメリアさんから放たれて、それがこの部屋中に浸透する。いや、部屋中どころじゃない。クリンカ達の驚きようからして、もっと遠くに広がったんだ。


「はい。まずテラスという人物は70代前半。白髪頭で頭髪は薄い、痩せた体型ですね。絞り込んだところ、やはりテラスさんはグランドヘイト監獄に幽閉されているようです。それもこの施設はいくつかの区画に分かれているらしく、テラスさんは最も等級の高いフロアですね」

「え、え? えっ? メリアさん、何言ってるの?」

「何って、リュアさん達が知りたがっていた事ですよ?」

「お姉ちゃーん、そうじゃなくてこの凡骨達に創造魔法について説明してあげて」

「あら、そういう事。はぁめんどくさ……いえ、喜んで説明させていただきますね!」


 時々、本音が出るのはどうにかならないのかな。さすがエルメラのお姉ちゃんをやってるだけある。根本的なところで2人は同じなんだ。


「今の魔力応答(エコー)は、まず基礎となる知識だけでも数種類の分野における」

「そうじゃなくて、ババンっと一言でいいんだよ。お姉ちゃん」

「要するに魔力と知識を総動員して魔法を作ったんです。私が培ってきた知識、そして魔力が辿る解への道。魔力……マナとは実はどんな生物にも宿っているもの。言ってしまえば、誰にでも微力ながら持ってます」

「つまりはー?」

「つまりはっ! 魔力を王都中に放って、あらゆる人間に接触したんです。魔力の流れや動きは感情にも表れます、魔法を扱う方々にもメンタルによって左右された事はあるんじゃないですか? 今回はメタリカ国のテラスという人物を知っているか、という問いかけを魔力に乗せて放ったのですよ」


 何を言ってるんだろう。


「結果はほぼ無反応、知らない人がほとんどでした。でも知っている人はいましたね、2名ほどです。私の魔力が触れた時、微弱ながら振動しましたよ。彼らは無意識のうちに答えてしまったんですね。あとは矢次のごとく、魔力での質問を繰り返して終了です」

「ほう」


 唯一、反応したのがハスト様だ。もう胸を見ていない、真剣にメリアさんに興味を持っているように見える。と思ったら、今度は視線を太ももに落としていた。ヒゲ、引っ張りたい。


「魔力に意思を乗せる、放つ、これだけでもいろんな分野の知識が必要だからね。ましてや王都中にまで波紋させて、その中の反応を感じて確かめるなんて世界でもお姉ちゃんにしか出来ないよ? ね、リュアちゃん?」

「なんでボクなのさ。エルメラがすごいわけでもないくせに。エルメラの想像魔法はエルメラが想像できないとその時点で不可能だけど、メリアさんは知識と魔力で不可能を可能にするんだよね」

「そう、まさに創造魔法。結構魔力と集中力が必要だから、戦いの最中じゃなかなか難しいけどねー」

「弱点を言うんじゃありませんっ」

「ごめんなさーい!」


 ボクとクリンカだって呆然とする、誰だってする。さっきから誰も喋ってないし、メリアさんに質問すらしない。かろうじてボクが理解できたのは、メリアさんが言っていた無意識のうちに答えた2人というのはジーニアとコリンだ。という事はテラスさんが監獄にいるというのは、限られた人しか知らない。ますます怪しくなってきた。


「はぁぁ……久しぶりに創造して疲れました。ではこれで依頼は終了ですね。それでは皆さん、がんばって下さい」

「えぁ?! ちょ、メリアねーちゃん! 手伝ってくれないのかよ?」

「はい? 私が?」

「国が滅ぶかもしれないんだぞ?!」

「待って下さい。今、私の意思に問いかけます……はい。わかりました、手伝いましょう」


 目を閉じて人差し指を二つ、額に当てて考えるメリアさん。ぱっちりと目を開けた後は笑顔で答える。今、ラーシュが聞かなかったら何もしないで帰っていたところだった。冷たい人だ、大勢の人達を見殺しにする事もあるなんて考えられない。


「闇雲に感情に従うのではありません。自らの意思を明確にして、何故そうするのか。一言でもいいので、自らに説明できないようでは本質を見失うでしょう。リュアさん」

「なっ、なんでボク?」

「いえ、何か不信感を持っている顔をしていたのでちょっと魔力応答(エコー)で聞いてみただけです」

「アハハハッ! もうお姉ちゃんにウソはつけないねー」


 という事はこの場にいる全員にも同じ事が出来たはずだ。こんなにも恐ろしい魔法をたった数秒で作れるなんて、ひょっとしてボク達はとんでもない人を味方につけたんじゃないか。


「メリアさん、エルメラちゃん。ご協力、感謝する。ワシとしても、メタリカ国の暴挙は見過ごせん。それに脅威はメタリカだけでは――――」


 ハスト様が改まって礼をしようとした時、爆音が耳に叩きつけられた。ドアの木片が床に散らばり、爆風で何人かが体勢を崩して壁に背中なんかを打ちつけている。オードはかろうじてコウとブンをかばい、マターニャがセイゲルさんを抱きかかえて跳び。ティフェリアさんとイークスさんだけが動じずに手元に武器を持っている。


「な、なんじゃ! そこにいる傍若無人はどこの誰様じゃ!」


「いや、失礼。何やらカーラの反応が密集していたのでね」


 片手でノックをした後の姿勢のまま、全身金属鎧の人が立っている。うっすらとした茶ヒゲを生やした頭の他は機械。独特の金属音をきしませて、こっちを威圧するように部屋に入ってきた。ここにいる誰よりも大きなそのおじさんは機械将軍(マシンジェネラル)ブランバム。

 こいつの登場を一番待ち望んでなかったのはプラティウだ。毛布を被り、目立たないように隠れている。機械武装(マシンメイデン)、クリムゾンの訓練の時によっぽどひどい目に遭わされたのがわかる。小刻みに毛布が震えているから。


「ふむ、Sランクの冒険者殿が1人、そちらは英雄イークス殿ですな。かの高名な賢者ハストといい、豪勢なメンバーだ。おっと、もう1人Sランクがいたな」


 毛布の震えが大きくなる。それをわかっていてブランバムは怖がらせているんだ。プラティウの件で、ボクもこいつを許しておけない。メタリックな体を突き出すブランバムの前に立つ。それ以上、進んでみろ。


「どうしてプラティウを見捨てたのさ」

「その件についてはコリン所長が判断した。やはり人間を戦闘兵器に仕立て上げるのは無理があった、そう呟いていたよ」

「お前もコリンも人間じゃないよ」

「この体ではな?」


 言った後でブランバムの皮肉を含んだ笑いを見て後悔した。体が機械だし、確かに人間じゃない。そうじゃなくて重要なのはそこじゃなくて。


「心も魔物みたいだね」

「どけ、瞬撃少女。貴様と問答をしに来たのではない」


「あ、あわわわ! これは一体どうしたんだ?!」


 メイゾンの支配人がブランバムの後ろで腰を抜かしている。駆けつけた数人のホテルの人と一緒に、その人の形をした大きな機械に圧倒されていた。


「案ずるな。たとえ全壊しても、更に豪勢なホテルを建ててやる」

「そ、そういう問題では……」

「引っ込んでいろと控えめに言ったつもりなのだが」

「ひっ! ひぃっ!」


 つまらないものから目を離すように、ブランバムはまたボク達を見渡した。この中でまともにブランバムと向き合えるのはハスト様、ティフェリアさん、イークスさんだけだ。マターニャやイーティカもそうだけど、この2人はまともに相手をする気がない。メリアさん達は不思議なものを観察するように、まじまじと見つめている。


「不穏な相談をしてくれたようだな。そのカーラは盗聴の役割も担っていてな」

「ワシらをどうするつもりじゃ? 偉大なる敵対心とやらを称えてもらいたいのじゃがな」

「称えてやるが、グランドヘイト監獄への収監も許さん。そこの死にぞこないと一緒にこの場で処分する」

「オイオイ! ここは町中だぞ!」


「オード、大丈夫だよ。ここはボクだけで十分だから」


 と意気込んだところで、窓の外から重音がした。そこにいたのは機械だ、いや機械人間。機械武装(マシンメイデン)と同じようでいて違う。頭の部分から首が伸びていて白くて細身の機械鎧。まるで白鳥みたいな見た目の奴ともう1人。顔を覗かせているのは、手を窓に張り付けている緑色の機械鎧。カメレオンみたいな気持ち悪い奴。


「こいつらもしかして、殺戮駆動隊(ゾディアック)か?!」

「なにそれ、メタリカ国最高戦力の一つ?」

「説明するまでもなかった」


 オードが説明するまでもなく、エルメラの当てずっぽうが当たった。ここにはボクだけじゃなく、強い人達がたくさんいるのにあの慌てぶり。心配性だ。


「メタリカ国との交渉がねじれにねじれ、更には挑発を繰り返した国がどうなったかって、この人達が滅ぼしたのよ。100にも満たない少数精鋭で……しかも、女子供老人問わず。怖いわねぇ、はぁ……」

「しかも、礼のない戦いや行いも目立つと聞く。あの機械の鎧はそれぞれ固有の性能を有していると聞くが……ま、関係ないな」


「ほう、やるか」


 ティフェリアさんとイークスさんがやる気たっぷりだ。窓にいる2人の殺戮駆動隊(ゾディアック)に剣先を向けて指でかかってこいとイークスさんが挑発する。セイゲルさんも弱腰ではあるけど戦う気があるらしく、剣を抜こうとするけどマターニャが邪魔をしていた。まだ抱きついてうっとりしてるし。という事はあの子にとっては取るに足らない相手なんだ。わかってたけど。


「パワードスーツ”白き美鳥(キグヌス)”、わかる?」

「同じくパワードスーツ”変幻自在の隠遁者(カメレオン)”なんじゃもぉん。久しぶりの処刑じゃもぉん、男はぶっ殺して女の子達は楽しむじゃもぉん。ブランバム隊長、いいじゃもん?」

「最終的に遂行しろ、予め伝えているはずだ」


「水路と大差ない、この品格よ」


 エルメラが完全にバカにしている。そういえばこういう奴ら、嫌いなんだっけ。いや、好きな人はいないだろうけど。

 パワードスーツって、機械武装(マシンメイデン)とは違うのかな。それより早くグランドヘイト監獄に行かないと。瞬殺して向かってもいいけど、せっかくやる気になってる人達がいる。だから譲ったほうがいいのかな。


「リュア、お前じゃ今更こんなの張り合いないだろ? そこの毛布にくるまってる子を連れて、監獄に行っちまいなよ」

「いいの? イークスさん達なら心配はしてないけど、町への被害が……」


「えぇ、心配ないですよ。全然。魔力応答(エコー)で感知できないと思ったら、そういう事」


 部屋全体の空気が圧殺された感覚。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。空気が消えた。そんな死に近いイメージを、ブランバム含めて全員感じたと思う。それだけの怒りを放ったのはメリアさんだ。


「な、何者だ。あの女……」


 ブランバムすら膝をつきかけるほどだ。ラーシュとルトナなんか無意識のうちに抱き合ってるし、セイゲルさんとマターニャだって、いやあっちは元々だった。


「さっきから、あの。楽しむとか何とか。相手の同意なくして、交際は成立しません。まずは互いを知り、時間をかけて分かり合う。そして相手は生涯の伴侶となりえるか、そう判断した段階でようやく手をつなぐのです。それまでに何年かかるか……理解しているんですか?」

「……? この女、何を言ってるんじゃもぉん?」

「お姉ちゃんはねー、恋愛とか性への認識は超がいくらついても足りないほどピュアだからねー。もしアンタの下劣な欲望がバレたら死ぬんじゃない?」


 死ぬんじゃない、そのエルメラの一言でメリアさんの沸点を理解した。よし、ここはすぐに監獄へ向かおう。


◆ シンレポート ◆


そうぞうまほう そうぞうまほう

うん? どっちもおなじです

いったい なにを いってるのです

しかし えるめらが びびるほどの あね

えるめらを からかう

これを じつげんさせるひが くるとは

かんごくなんて しんきくさいところへ いってるばあいじゃない

じょうだんじゃないのです

めたりかこくのくせに まともな せんりょくかんざんすら できない

ぞでぃあっくとかいう せいえいぶたいなんか どうでもいい

ここはいっぱつ めりあさんに あまえて あまえて あまえまくるのです

うまく ぎょしきれば すべてを しはいできる

くっくっく このしんが ついに ついに ちょうてん

くりんかの おやつを たべようが なにしようが やりたいほうだい

ふっふっふ


うん?


あ あれ きがつけば そらのうえ はっ?!

しまった! また つれてかれたです! いまからでも!

ひー! もう おうとが あんなとおくに!

いやですいやいやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁ!

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