第240話 暴虐なる不可侵の王 その4
◆ アバンガルド王国 ファウレスト山脈の遥か北 ライトゥマ平原 国境付近 ◆
「我が魔獣、地獣タイタニスと旋風の威力! 受けてみよッ!」
「ぺぇんぺぇん! こんのニンゲンのジジイがオレ達ヴァンダルシア軍に敵うとでも思ってんのかっぺぇん!」
【第3大隊長ソウゼンの旋風・弐!】
【地獣タイタニスの地響き!】
【猛る怒髪天皇イワトビは雄叫びを上げた!】
このウダッツ=アガランは今、冥界にいる。いたかった。うん、十壊議で死んで冥界にでも落ちたほうがよかったと思う。地響きで転ばされて転がされた挙句に岩に激突して今は気絶した振りをしてる。ノイブランツ第3大隊とあちらにおわすのは異形の方々。アバンガルドってこんな仮装大国だったかなと。
ところがあれは本物の化け物達だ。なんかよくわからないがあの国は化け物に乗っ取られたようで、あいつらはヴァンダルシア国とそう名乗っている。その時点で進軍を諦めるべきだと思うのだが、そうは陛下が許さない。立派に侵略、じゃなくて覇道を歩んでいる。真っ赤なたてがみを揺らしながら奇声を上げるペンギンと、それを迎え撃つのは我らが第3大隊長ソウゼン様だ。齢94にして未だ現役で大隊長の座に居続ける、先代の王からの信頼も厚い老将である。そんな人が戦っている相手はなんとペンギン。あんなちっこいペンギンなんざと思ったが、アレにかれこれ何十人も殺されているんだからメンツも立ちやしない。他の化け物も立派に化け物をやっていて、魔獣を失った兵士も数多い。敗戦濃厚、一度引くべきだと思うのだが。
【猛る怒髪天皇イワトビは1527のダメージを受けた! HP 3201/7093】
【第3第隊長ソウゼンには効かなかった!】
【地獣タイタニスには効かなかった!】
「ぺんぎゃっ!」
ソウゼン様、たった一人であのペンギンを圧倒している。無様に転がっていったペンギンを見た他の兵士の士気も高まった様子でこちらの攻勢が強まった。隊長の一騎当千一つでこうまで変わるのだから、ある意味安上がりなものだ。
「にゃん達もいくにゃん」
「辛ぇよなぁ……あんな化け物に襲われちゃかわいそうだよなぁ……」
「光速で終わらせてやるよ。このエレガント極まりないシャイニングプリンスである私がね」
【マターニャのビーストモード発動! モード"ハウンド"!】
【イーティカのギャンブルダイス!】
【シュベルンのシャイニングエッジ!】
十壊の方々も張り切ってらっしゃる。あのペンギンと同じくらい強そうな魔物をいとも簡単に倒し、兵隊の道を確保。突破口から敵陣を更に乱す。もうあの人達だけでいいんじゃないかなと言いたくなるが、どうにか堪えたい。
「あれはなかなかホットな魔物ネ。でもでかければいい、違うヨ」
【シャイニーの死々天填! 灼熱の豪火獣バーザイダーは倒れた! HP 0/6418】
凡人には何が起こっているのかさっぱりわからない。吐き出した炎で兵隊の鎧どころか骨まで灰にして、触れた魔獣や得物はあの体表を前にして蒸発でもしたかのように溶け消した魔物を一撃で倒したという事実。ただそれしかわからない。格闘系のスキルか、それにしては拳も蹴りもそれらしい動作がまったくなかった。
「す、すごいですね。どうやって、あの魔物に触れられたんですか?」
「何点か、熱くない箇所あったヨ。急所か何か、知る事出来ないケド」
「み、見ただけで……」
一撃必殺、恐らく彼女の前にはいかなる防御も通用しないだろう。硬い鱗に覆われたドラゴンだろうと一撃で即死させる。それが整体師シャイニーだ。戦闘時の優雅さと普段の人懐っこい笑顔とのギャップが、王都では密かな人気を呼んでいる。
「思ったよりも遅いな。手を抜いているのか」
「どーでもいいんじゃなーい?」
後方でどっしり構えるのは、十壊議の時に乱入してきたアボロとかいう魔物とあの世界最強の男だ。あのアボロは本当にすごかった。あの場にいた、ただ1人を除いた十壊全員を戦わずして屈服させてしまったのだから。
全裸でお馴染み、世界最強の男は戦場においても変わらない。気絶した振りをしている自分はともかくとして、もし戦場で一般の兵士があんな事をすれば陛下への不敬罪に加えて軍法会議という名ばかりの処刑にかけられた挙句に冥界まで直行だ。
「フェファフェファ、愚かで無知蒙昧たる劣等種よ。我が霊帝の名において、貴様らを自然界から未来永劫追放しよう。この世に生きる万物から、その名すら忘却されよ!」
【永久の霊帝ルルドが現れた! HP 444444】
なんかやばいのきた。
「む、さすがに兵隊どころか十壊ですらやや荷が重い。世界最強とやらよ、あれとやってみるか?」
「いーのいーの、どーでもいーの。どーせオレが勝つんだから」
変な仮面をつけた怪しい司祭風の人物が杖っぽいのを掲げて何かをやらかそうとしている。もうなんでもいいから家に帰してほしい。
◆ アバンガルド王都? ◆
「やぁ、ここはアバンガルドの町だよん」
どこもここも平和だ。ちゃんと門番もいるし、元気に挨拶してくれた。でもこの城壁、こんなに低かったっけ。それに門番といってもたくさんの人達がいて、王都に入る人達を毎日厳しくチェックしていたはず。それなのにここには1人しかいない。しかも鼻水まで垂らしてる。どこかバカっぽい。
「ねぇ、クリンカ。なんか変じゃない?」
「道は間違えてないはずなんだけどねぇ。すみません、ここが本当にアバンガルド王都ですか?」
「そーだよん?」
「だよんってのがすでにおかしいよ……」
鼻水をすすりながら、片手に持った槍をゆらゆらと揺らしている。絶対におかしい、こういう感覚は前にもあった。確かラーシュの幻術に引っかけられた時だ。ミストビレッジの時とも似てる、現実だけど現実じゃない。どこか違う場所に飛ばされてしまったような感じ。
「ちょっと一回飛ぼう」
クリンカドラゴンにまたがって飛び立つと、空には黒々とした雲がかかっていた。雷雲かもしれないけど構わずに突っ込む。
◆ ??? ◆
「な、何も見えないよ!」
「とにかく進んでみて!」
進んでも進んでも、そこにあるのは黒。まるでボク達しか存在していないかのように、この辺りから音も生物の気配もしない。ゲトーの空間魔法と同じタイプかもしれない。だとしたらこのまま進んでも無意味だ。
暗闇から下降すると、驚くほどあっさり抜けられる。下に広がるのは黒い雲に囲まれたアバンガルド王都だ。いや、やっぱり全体的におかしい。ボク達が知っている王都よりだいぶ小さいし、建物の形もぐにゃりと曲がって建っていたり赤とピンクの怪しい色合いの家ばかりだ。
「なにあれぇ! ここどこぉ!?」
「降りてみよう。多分、ここ以外にこの世界は存在しない気がする」
「この世界……? リュアちゃん、それどういう事?」
「知らない間にボク達は誰かにはめられてここに閉じ込められちゃったんだと思う。奈落の洞窟でも似たような奴はいたけど、ここまでの規模じゃなかったなぁ」
「じゃあ、そこに見えるのもアバンガルド王都じゃない?」
「うん、降りるまで全然気づかなかったって事は多分はめられたとしたらその瞬間かな?」
「すごいね、リュアちゃん……私一人だったら絶対頭が混乱してどうにかなってたと思う。リュアちゃんと一緒でよかった」
ボクと一緒でよかっただなんてそんな、うれしすぎる。これからもずっと一緒だよ。多分だけど閉じ込めた奴はボク達が慌てふためく姿を想像していたんだろうけど、これで笑えなくなったはず。ボクを舐めるなよ。
ここで想定する相手の強さ。力の規模からいって間違いなく災厄クラス、もしかしたらダイガミ様みたいな神に近い存在かもしれない。
「うむ、ここでは我の千里眼も通じぬな」
いつもはシンが入っている道具袋からひょっこりと出てきた白い狐の神様。最後にあの隠れ家を出る時、ハスト様に頼んで連れていってもらった先がダイガミ山だ。ハスト様が仲間を集めてじっくりとなんて言うなら、ボク達が強力な助っ人を連れてきた。アズマの守り神がまさか、とは思ったけど事情を話すとあっさり。ヴァンダルシアだけでも一大事なのに、本来なら世界が数回終わってもおかしくない事態とのこと。
「アズマは本当に大丈夫なの?」
「心配せんでも今のアズマならば我が分身でも事足りる」
「さすがは神様……伸縮自在で道具袋の中に入ったり、分身まで生み出したり何でも出来るんだね」
「その神を一刀両断したのはどこの誰だったか」
「それはここのボク……」
確かにそうなんだけど、ボクよりもずっと出来る事が多いのがダイガミ様だ。どっちが強いという話とどっちがすごいという話は違うと最近、思い始めてきた。ボクのほうが強くてもすごいのはダイガミ様だ。間違いない。
「で、あっちの協力者とやらは?」
「あ、うん。私の頼みなら喜んで協力してくれるって。だけどやり方は自由にさせてもらうって……」
「……災厄の中でも封印を含めて、何者も手がつけられなかった狂獣相手によくやる。この大陸を終わらせるのはヴァンダルシアでもなくて、奴かもしれんな」
「そんな事ないよ! ちゃんとお願いしたし」
ダイガミ様が心配するのも無理ない。ボクだってクリンカがあれにもお願いしようと言い出した時はさすがに反対した。強ければいいという問題じゃない。
◆ アバンガルド王都? ◆
「やぁ、ここはおうちの外だぜぃ」
「今、ものを見ているんだ。ぼく以外見ないくれないか」
「きみたち、ここがどこだがわかるかい? アバンガルド王国の城下町の土の上の石の上だよ」
全員何を言っているのかさっぱりわからない。動きが全体的にヘロヘロだし、外見はよく知っている人間と変わりないというだけ。真っ黒い空にこの異様な光景、なんだか頭が変になりそう。
「我の力を持ってしても、この世界への誘いは気づかなんだ。この世界の支配者は恐らく至闇の王レッサターンだろう」
「レッサターンって、ハスト様やラーシュが言っていた……」
「ウィザードキングダムを壊滅寸前に追い込んだ、歴史上でも例を見ない大悪魔だ。恐らくそう簡単には尻尾を見せてはくれぬだろう」
「ちみたち、なにをコソコソと話している? 話ならおじさんの前でしなさい」
「そうだそうだ、コソコソと話すということは私らに対して不快感を与えているんだ」
「内緒話をされたら気になる、だけど教えてはくれない。それはそれは不快だぜぃ」
なんか変な人達がにじり寄ってきた。あっちからもこっちからも、どんどん集まってくる。どうしよう、倒しちゃっていいのかな。そもそもこの人達って何なんだろう、レッサターンの手下なの。鼻水をたらすわ、両手をヘロヘロさせてクネクネしてるわで怖い。
「どうしよう、倒しちゃう?」
「異世界とはいえ、人殺しは気が引けるのではないか?」
「殺さないよ。気絶させるだけ」
「果たしてうまくいくか、アレを見てみろ」
おじさんの首がにょろっと伸びている。肩から胸にかけて何かがえぐり込んだかのように裂けて、また元に戻る。うん、完全に人間じゃない。
【異次元人達が現れた! HP ????】
「もう人間じゃないでしょ、アレ……」
「世界が違えば、人の形も異なる。種族ならば尚更だ。お前が殺すというのならば構わんが我は反対だ」
「そっか、ダイガミ様は人間好きだもんね」
だったらこんなの相手にしない。動きがのろいし、戦っても何て事ない相手なのはわかる。だけどダイガミ様の言う通り、見かけで化け物と判断するのはよくない。襲ってきているというには苦しいほど遅いから、すぐに適当にこの場から離れた。
◆ アバンガルド王都? どこかの建物内部 ◆
「ここにはあの人達はいないみたいだね……ちょっと埃っぽいけど」
「他の連中は襲ってこなかったところを見ると、彼らの中で何らかの怒りの導火線のようなものがあったのだろうな。それを知らずに我々が踏んだと考えるのが自然だ」
民家のような、よくわからない建物の内部。さっそくダイガミ様が物の上に飛び乗って散策している。暗闇なのに白い毛並みがかなり目立って見えるのが不思議だ。
「ふむ、特に目新しいものは」
「誰? そこにいるのは」
さすがにボクだってビックリする。どう考えても誰もいないこの建物の中でいきなり女の子が声をかけてきたんだから。ダイガミ様が乗っている木箱のすぐ横で膝を抱えて座っている女の子がいた。なんで気づかなかったんだろう。
「だ、誰かいたんだ……」
「あんた達、誰? この世界の人間じゃないよね?」
「君はこの世界の人なの?」
「質問してるのはこっちなんだけど?」
「ごめん……」
やや垂れ下がった大人しそうな瞳とは裏腹に結構生意気だ。ピンク色の髪を頭巾で覆っていて、長いスカートの先までが全体的に汚れている。ずっとここにいたのかな。
説明はいつものようにクリンカにやってもらう。栗色の真っ直ぐな瞳を向けて、つまらなそうに聞いている女の子がどことなく腹が立つ。でも相手は子供、多分プラティウと同じくらいの歳だろうしそんな事でボクは怒鳴ったりしない。大人だから。
「なんだ、助けが来たのかと期待して損した」
「そういう言い方ってないよね!」
「リュアちゃん、相手は子供だから……」
そう、ボクは大人だから堪える。年下の女の子といったらイカナ村以外だと周りにはミィやプラティウくらいしかいない。二人とも大人しいから何とも思わなかったけど、どうもボクはこの手の子供が苦手みたい。
「ふーん。それでルトナちゃんは皆とはぐれて、ここに閉じ込められちゃったんだ……」
「でも全然怖くないわ。なんたってラーシュが助けに来るんだからね」
「ラ、ラーシュが?」
ヴァンダルシアの手下達から町を追われて逃げている途中で、ルトナ達はハスト様達に出会った。そこから更に途中までは一緒に逃げていたんだけど、ルトナだけがここに閉じ込められた。逃避中にルトナはラーシュから魔法を教えてもらっていて、近いうちに幻術を教えてくれるとか。こういうと下品だけど、ラーシュも隅におけないなぁ。と、セイゲルさんが移っちゃった。
「あんた達、ラーシュの知り合いなの? へぇ、ふぅん? ほぉ?」
「な、なに。ジロジロと……」
「ダメね、もう少しオシャレに気を利かせたらどう? 髪はボサボサ、太もも丸出しのショートパンツなんか男の子みたいで色気がないわ」
「そんなヒラヒラしたので戦えるわけないでしょ!」
「そうだよ! リュアちゃんは戦いの事しか考えてないんだから!」
クリンカ、それ言わないでほしかった。
「じゃなくて! これ、私のお下がりなの!」
「茶番はその辺りにして、ルトナよ。持ちうる情報全てを提供してもらおうか」
「キ、キツネが喋った! かわいすぎるんだけど!」
「撫でてよいぞ」
頭を高く上げてルトナに撫でさせているダイガミ様、まんざらでもない。
「……でね、魔法って使えたら使えたで便利じゃない? それにね、女子の間では魔法系女子なんてのが流行ってるのよ。杖をサッと振ったら火の玉がドドドーン!って、私あれで確信したの。魔法系女子を目指せば恋もうまくいくってね。実際、隣の家のしーちゃんなんか」
「そんなにラーシュ君の事が好きなんだねぇ」
「は? 何言ってるの?!」
「え、え?」
「好きとかないから! ないない! ま、まぁ気にしてやってる系には分類されてる感じ?」
うん、うん。結果的にこの子もほとんど何も知らなかった。レッサターンがどこにいるのかも当然わからない。気がついたらここにいたみたいで、それにしては元気すぎる。さすがのダイガミ様も、ぐったりと頭を下げている。太い尻尾をしゅるしゅると左右に振って、どうしたものかとでも言いたい感じ。
「さ、あたしをここから連れ出してくれるんでしょ?」
スカートの埃を手で払って立ち上がったその姿を見て、この中で一番頼もしいんじゃないかとさえ思えた。だって手がかりが全然ないんだもん。
◆ シンレポート ◆
おーい おーい おーい
いま りゅあたちが いた ような ような?
げんかくをみるなんて とうとう しんも げんかいのようです
まおうさま さきだつふこうを おゆるしください
魔物図鑑
【猛る怒髪天皇イワトビ HP 7093】
とある沿岸地方の水棲生物の頂点に立った事から名づけられた。本来、この種族は捕食者から狙われる側なのだが突然変異か何かの拍子に凶暴化したようだ。
真っ赤なたてがみと愛くるしいボディに騙されがちだが性格は極めて好戦的でプライドが高い。
水中ではあらゆる水棲生物の速度を凌駕し、陸上でも氷を自在に精製して得意なフィールドを作る。船体をぶち抜かれて一瞬で沈められる船が続出した為、討伐以来が殺到したほど。
【地獣タイタニス HP ????】
ノイブランツ第三大隊長ソウゼンの魔獣。小隊長を含めた隊長格の魔獣は生息域を持たない。
何故なら特殊な事情で呼び出したものや品種配合を繰り返して作り上げた合成生物ばかりだからだ。地獣タイタニスはソウゼンが自らの旋風槍斧を更に活かすためだけに作り上げられた。
地響きで相手の足場を崩し、旋風による命中精度を高めるという基本戦術を可能とする。ネズミのような頭部にトカゲのような体を持つ、奇怪な見た目をしている。
【異次元人 HP ????】
何者なのか、どういう生態系なのか、思想なのか。すべてが掴めない謎の異次元の住人。突然、姿を消した者達が帰還した際に時折語られる彼らの存在。証言によってまちまちだが、意味不明という認識は共通のようだ。




