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第22話 三姉妹の事情 その3

「あ、あの人! もしかしてドラゴンハンターのセイゲルさん?!」


ロエルが指をさした先にはギルドのカウンターで依頼精算の手続きを

済ませている銀髪の男の人が立っていた。

巨大なナイフという表現以外思いつかない、珍しい武器を背負っている。


「オレを呼ぶかわいこちゃんは……そこにいるな?!」


大袈裟にポーズをとってこちらを指さすセイゲル。

かわいこちゃん、よくわからないけど多分この言葉はこの人しか

使ってないと思う。


「おぉ、しかも5人もいるじゃないか!

 なんだ、もしかして全員がオレのファンか?! まいったな……

 サインをしてあげたいが手頃な紙がないときたもんだ。

 それじゃ、その武器に書いてあげようかな」


「いえ、結構です」


まくしたてるセイゲルを一言で完封したアイ。

ダメなものをダメとはっきり言える頼れるお姉さん。

妹二人は心強いだろうなと思う。


「ドラゴンハンターのセイゲルさんですよね?

 まさかクイーミルに来てるとは思いませんでした」


「ロエル、この人は有名なの?」


「もちろん有名さ。

 なんたって冒険者通信で抱かれたい冒険者三年連続でトップ!

 ダンジョン潜り野郎という雑誌ではオレのインタビュー記事が

 載ってるんだぜ。有名じゃないはずがない」


「デンジャーレベル60を超えるギギンガ火山のフロアモンスター

 "暁の爆炎竜"を一人で倒したのは世界でもこの人だけなんだよ」


ロエルはこの人のファンなんだろうか。

それにしても有名なのはわかったけど、ずいぶんと自信過剰な人だ。


「それでかわいこちゃんパーティはお揃いでどんな依頼を引き受けるのかな?

 あぁ、オレがレクチャーしてあげたいのは山々なんだけどあいにく

 予定があるんだ。すまないな、ガッカリしないでくれ」


「いらないです。リュアさん、ロエルさん。

 この依頼なんかどうでしょうか」


残酷なまでにセイゲルを無視して通常進行を決め込むアイに頭が下がった。

そしてその依頼とは


"ビーズフォレストに生息するテラービーの蜜を採取してきてほしい。

 道具屋 シンシア 報酬 1100G +あり"


「ビーズフォレスト、ベアーズフォレストに隣接する森だね。

 でも確かデンジャーレベルは5……」


「高望みはわかっています。でも、私達も早く自立したいのです」


「わかった、ボクに任せて」


決して安請け合いじゃない。ボクは本気でこの人達の力になりたいと

思ったから引き受けた。


「テラービーかぁ……私の弓矢、当たるかな」


マイは不安そうに自分の弓を持つ。

そんなマイをミィは彼女の腰を小さな手で叩いて応援した。


「そうだよね、お父さんとお母さんがいなくても三人で

 力をあわせてがんばろうって約束したもんね」


ミィはこくりと力強く頷いた。

栗色の短い髪がふさふさと揺れる。

マイの腰まで伸びているロングヘアーとは対照的だ。

三人で力を合わせてがんばる、健気でボクはますます心を打たれた。


「ビーズフォレスト! テラービー自体は大した事はないが数が多い。

 それにあそこのフロアモンスター"蜜なる激母"には要注意だ。

 テラービーの女王蜂ともいえる存在で、めったに姿は見せないが

 もし遭遇したらすぐに逃げるんだ。君達じゃ敵わない」


「ありがとうございます」


「いや、礼は生きて帰ってから受け取ろう。

 例えばそこのゼンベイで」


「リュアさん、ロエルさん。準備が整ったら行きましょう」


メリハリのあるアイはきびきびとボク達を引率してくれた。

さすがにセイゲルが少しだけかわいそうになってきた。


///


ベアーズフォレストよりも浅く、森というよりは林といったほうが

しっくりくるビーズフォレスト。

ここに生息する魔物はテラービーだけではなかった。


【疾風のムササビ×2 が現れた! HP 34】


木から突然、振ってきたムササビ。

滑空しながらそいつは風の魔法を放ってきた。


【疾風のムササビ は ウインドカッター を唱えた!】


一枚の風の刃がマイ目がけて襲う。

そんなものを届かせるはずもなく、ボクは片手の風圧でかき消した。


「あ、あ、ありがとう……」


「ボクが絶対に守ってあげるから、落ち着いてマイはよくあいつを狙って」


「うん!」


マイは深呼吸をしてから、木から木へと滑空するムササビに狙いを定める。

そしてムササビが木に止まったのを見計らって矢を放った。


【マイ の攻撃! 疾風のムササビ に 25 のダメージを与えた!】


矢が刺さったまま、木から落ちてきたムササビに容赦なく斧を叩きつけるアイ。


【アイ の攻撃! 疾風のムササビ に 52 のダメージを与えた!

 疾風のムササビ を倒した! HP 0/34】


「や、やりました!」


「まだいるよ! 油断しないで!」


もう一匹のムササビが敵討ちといわんばかりにアイに突進してきた。


【疾風のムササビの攻撃! アイ は 11 のダメージを受けた! HP 20/31】


「うぁっ!」


倒れこんだアイに追撃する為、ムササビは風魔法の詠唱を開始した。

そんな無防備な状態で長生きできるはずもなく、ボクはさっくりと

ムササビを斬り倒した。


「ミィちゃん、お姉さんを回復してあげて」


おろおろするミィに優しく促すロエル。

小さな手をとって一緒にアイにヒールをかけた。


「うん、よくできました」


ロエルの褒め言葉にミィは頬を赤らめる。


「すみません、ミィは元々人見知りをする子なんで……」


「誰だって子供の頃は知らない人相手だと緊張するからね。

 でもミィちゃん、お姉ちゃんはちゃんとミィちゃんの

 言葉を聞いてあげるからね。

 だから恥ずかしがらずに何かあったら大きな声でっ。ね?」


「……はぃ」


蚊のなくような声だった。

でもそれが精一杯の意思表示だというのは伝わってくる。

なんとなくだけど、ロエルならこの子とうまくやれると思う。


「ありがとうございます。すみません、ご迷惑を……」


アイが斧を地面に突きたてて、よろよろとよりかかる。

溜息がその申し訳なさを表していた。


「でも、落ち着いて戦えばなんとかなるってこれでわかったね。

 後は油断しない事」


「はい」


励ましはしたけどそれでも、ここで三人で戦う場合はそれなりに

回復薬が必要になるだろう。それに今みたいに素早い魔物相手だと

斧じゃカバーしきれない部分が多い。

さすがにアクスファイターをやめろとはいえないし

どうしたらいいものか。


草木を掻き分けて進むと人間の頭部程度のハチが群れをなしていた。

その奥の木にぶら下がっているのは間違いなくテラービーの巣だ。

目的地についたはいいけど、さすがにあの数を相手にさせるのは

無理がある。


「あ、あれがテラービー? なんて数……」


マイが固唾を呑んだ。

報酬額が高いと思ったらこういう事か。

何かコツがあるのかもしれないけど、そんなものを考えている暇はない。

ボクは蜂の巣に向かって特攻した。


【テラービー×20が現れた! HP 36】


ハチが一斉にボクに向かってくる。無数の針がボクを突き刺そうと

襲いかかるが洞窟にいたサソリ同様、当たってやる気はない。

ボクは回転しながら周囲のハチを斬り捨てる。

恐れを抱く事もなく、ハチは回転する刃となったボクに

突っ込んできては切断されて落ち、あるいは消し飛ぶ。


【テラービー×17を倒した!】


戦いが始まったものの数秒でハチは3匹程度になった。

このくらいでいいだろう。毒は持っているだろうけど

農園のリス同様、一匹ずつなら大した事はない。


「さ、後は皆の番だよ!」


「ふぇい?! あ、はい!」


突然の指名で驚いていたがマイは斧を構えて果敢に走ってきた。


「闇雲に振らないで! 必ず突き刺そうと向かってくるから

 距離をとってそこを狙って!」


無言で頷いたアイは真剣そのものといった眼差しで迫るくるハチを

見据えていた。

自由気ままな動きで旋回して向かってきたキラービーを

ギリギリまでひきつけて、斧を振り下ろす。

かすりはしたもののキラービーには当たらず、アイはテラービーに

反撃のチャンスを与えてしまった。


アイを狙うテラービーに矢が突き刺さった。


【マイ の攻撃! テラービー に 36 のダメージを与えた!

 テラービー を倒した! HP 0/36】


アイが引きつけて、マイが弓矢で仕留める。

シンプルだけど、このパーティにはこれが合っている。

残り二匹のうち一匹がマイのところへ飛んできた。


「うひゃぁ! こ、こっちきた!」


「アイさん! 今です!」


マイを一直線に狙っているテラービーは後ろから迫るアイの

存在など気づかない。見事、ハチを一刀両断する。

しかし直後、アイは残り一匹に背中を刺されてしまった。


【テラービー の攻撃! アイ は 6 のダメージを受けた!

 アイ は 毒状態 になった! HP 25/31】


「あっ……」


毒の影響で足元がおぼつかなくなるアイ。

ここでミィの出番だ。

と思ったけど、まだ解毒魔法を使えなかったか。


「こぉのぉぉぉおおおおッ!」


やけになったマイが弓でハチを叩いた。

よく命中したなという感想よりも先にその手があったかと思った。

一撃では倒せなかったものの、弱ったところをアイの斧が

直撃した。


【テラービーを倒した! HP 0/36】


「か、勝った……勝てた……」


へなへなと座り込むマイ。

アイは息を切らして、ハチの死骸を見ている。


「思っていたより二人とも、強いね……

 これならアバンガルド洞窟2階ならいけるんじゃ?」


「リュアさんのおかげです。あの的確な指示がなかったら

 何もできずに殺されていました」


「ホント、ビックリしちゃった。

 リュアさん、それだけすごいのになんでCランクなの?」


「つい最近、冒険者になったばかりで勝手がわからないというか……」


説明するには長すぎる経緯なのもあって曖昧な返答になってしまった。


「私が足をひっぱちゃってね……多分、リュアちゃん一人なら

 とっくにAランクだと思う」


「そんな事ないよ。ボクにはロエルが必要だし何度も助けられたよ。

 それに最近はすごい勢いでレベルアップしてるし」


すべて事実をいったつもりだけど、レベルアップに関しては

本当に驚いている。この前まではレベル2だったのに今では10だ。

元々素質はあったに違いない。


「リュアちゃん……」


うれしいのか恥ずかしいのか、ロエルは微笑みながら少しうつむいた。


「ロエルさんもレベル10……私達もがんばらないと」


アイは奮起し、マイは弓を握り締める。

ミィは……


あれ?


ミィは?


「ねぇ、ミィの姿が見当たらないんだけど」


ボクがぽつりと言った瞬間、場の空気が凍りついた。


///


「おう、ボウヤ。どうしたんだい?」


セイゲルが道端で泣いている子供に声をかける。

子供は泣きじゃくってなかなか答えない。


「誰かに泣かされたのか?」


座り込んで子供と同じ目線で話しかけるセイゲル。

子供は安心できる相手だと思ったのか、話し始めた。


「パパとママの家にね、怖い人達がきてね……

 お家…こわれ…ふえ、ひぐっ……」


「怖い人達……」


セイゲルはほんの少し考えた後、子供の頭を撫でた。


「ボウヤ、お兄さんが助けてあげるよ。

 お兄さんはこう見えてもAランクの冒険者なんだ。

 Aっていうのは一番すごいんだよ」


本当はSランクの化け物集団がいるがな、と

付け加えたいところを抑える。


「ホント? おじさんが?」


「あぁ、お兄さんが絶対に助けてやる!」


あくまでお兄さんを強調した。

案内された子供の家は破壊というよりも切断されていた。

壁がこま切れになり、床や壁も関係なくいくつにも

バラバラにされている。

しかし不思議と家具などの家財道具はない。

二階と一階が同時に見えてしまうほど無惨な状態だった。

入り口があっただろう、ドアの付近で子供の両親が泣いていた。


「一体これは何があったんですか?」


「もうお終いだよ。何もかも持っていかれてしまった。

 家だけはと泣きついたが、今度は家がこんな事に……」


要領を得ないがなんとなくの察しはついた。

ただの強盗ではない事はすぐにわかる。


「もしかして借金を?」


「あ、あんたには関係ないだろっ!」


さすがにこんな事があった後で見ず知らずの人間に話せる

状態ではないか。そう諦めたセイゲルは目星をつけていた。


「ガメッツ商会」


その一言に両親はびくりと体を震わせた。

ガメッツ商会、最近この町でガメッツという男が興した悪徳商会だ。

都会では腕利きの冒険者が集まるし、セキュリティも厳しいから

この田舎に目をつけたのだろう。


「ご安心下さい。オレが全部なんとかします。

 すこーしだけ待ってて下さいね」


「は……?」


泣きはらした母親の顔があまりに美しかったからじゃない。

そんな下心は関係なく、セイゲルはガメッツ商会まで走った。

魔物図鑑

【疾風のムササビ HP 34】

木の上から冒険者を見張り、射程内に入ったところを

見計らい、滑空して襲い掛かる。

風魔法を使うので初心者パーティでは

思わぬ苦戦を強いられる事もある。

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