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第21話 三姉妹の事情 その2

ポイズンサラマンダーの件以来のストレンジ平原だった。

道具屋の依頼を引き受けて素材を集めにきたはいいけど

この平原は思ったよりかなり広い。

奥地までいくと迷って出てこられないんじゃないかというほどに。

デンジャーレベル6といえど、この広さにやられてしまいそうだ。

ここでしか咲かないフルフル花。

回復薬の材料にもなって重宝するそうなのだけど、ここにしか

咲いていなくて道具屋の人は毎回、冒険者に依頼しているらしい。

いくつか摘んだけど、思ったより数が集まらない。


【食人花 が現れた! HP 44】


おまけにいらない花まで出てくる。人を食べたいのになんで

こんな場所に咲いてしまったんだろうか。

いらないお節介を焼いたところでロエルが、お化けみたいな

花を焼いていた。


【ロエルはファイアロッドをふるった!

 食人花に233のダメージを与えた! 食人花を倒した! HP 0/44】


「ロエル、すごいね……」


昨日武器屋に立ち寄った時にコウゾウから聞いたけどファイアロッドは

ほんの下級魔法程度の効果しかないらしい。

なので、火が弱点の魔物でもそこまで安心はできないらしいのだけど

ロエルは容赦なく花を焼いている。


「火が弱点だからだよ」


それにしても灰も残ってないほどに焼き尽くせるんだろうか。

魔力に左右されるといっていたから、ロエルの魔力が高いのだろう。

ようやく活躍できる場面が出てきたからか、ロエルは上機嫌で

鼻歌を歌っていた。

女の子が魔物を焼き殺して鼻歌を歌う光景。

しかし、ボクも人の事はいえない。


「花、あっちにたくさん咲いてるね。あの辺を採取しよう」


「うん、魔物に気をつけながらね!」


言葉とは裏腹にロエルはファイアロッドを握り締めて魔物の訪問を

待ち望んでいた。意外とアグレッシブな一面を見たボクはあまり

彼女をからかうのはよそうと思った。


「よし、これくらいでいいかな? ボクとロエルが持っている分を

 足しても結構な数だよね」


「もう持ちきれないし、これだけあれば道具屋のシンシアちゃんも

 きっと満足してくれるよ」


「あ、あれって」


遠くを見ると虎のような魔物と三人の冒険者が戦っていた。

冒険者はあの三姉妹だ。

虎のほうはここにくるまで見た事がなかったから恐らく

フロアモンスターだろうか。だとしたらあの三人に太刀打ちできる

相手じゃない。


【草原を疾駆する者 が現れた! HP 565】


「つぁぁっ!」


【アイ の攻撃! 草原を疾駆する者 はひらりと身をかわした!】


アイの斧の大振りを避けた大虎は、斧の重さに手間取っているアイの

隙を見逃さなかった。大虎の牙がアイを噛み砕こうと襲い掛かる。


【マイ は ダブルショット を放った!

 草原を疾駆する者 はひらりと身をかわした!】


アイに迫り来る草原を疾駆する者に目がけて、マイは矢を放つが

虎の顔をかすめて奥の地面に乾いた音を立てて矢が落ちる。

目の前をかすめた矢を放った者に草原を疾駆する者は目標を切り替えた。


「ど、どうしよう! こんなのどうやって勝てっていうのよ!」


そんなマイの半狂乱の叫びにも構わずに大虎は彼女が

到底反応できない速度で迫った。

マイが頭から食いちぎられようとしたその時、虎の胴体が分かれた。

切断された断面からは血が噴出し、虎は二つになって地面に落ちた。


【リュア は ソニックリッパー を放った!

 草原を疾駆する者 に 224028 のダメージを与えた!

 草原を疾駆する者 を倒した! HP 0/565】


「間に合ってよかった」


遠くにいるあの虎の魔物にうまく命中してよかった。

マイは力が抜けて地面に腰を落とす。


「リュアさん! まさかいらしていたなんて……」


かけよってきたアイは心底助かったといった様子だったが

息を切らしていた。

末っ子のミィはよっぽど恐ろしかったのか、失禁して座り込んでいる。


「今の魔物はフロアモンスターだよね」


「はい、リュアさんがいなかったらどうなっていたか……」


「強すぎるわ……リュアさんって一体……」


マイは真っ二つになった虎の死骸を見て驚愕している。


「三人も依頼でここに?」


「はい、道具屋の方がお花がほしいということで」


「なんだ、ボク達と同じ依頼を引き受けたんだね。

 どう? 採れた?」


「そこそこ……て、リュアさん達、そんなに採ったんですか。

 やっぱりすごい……」


見たところ、あまり採れている様子はなかった。

さっきの魔物のせいなのかはわからないけど、この人達は

思った以上に苦労していそうだ。


///


納品してギルドでの清算を済ませた後、助けてくれたお礼という事で

ボク達は三姉妹の家に招待された。

クイーミルの町並みにとけ込んでいる、レンガ作りの平屋だった。

三人で暮らしているにしては妙に広い。


「大した事は出来ませんが……」


そういって差し出されたのはポポルの実の汁をパンケーキに余すところなく

かけたデザートだった。

甘さと刺激のある汁がしみこんでいて予想以上においしい。

おかわりを要求したそうなロエルだったが、さすがに自制していた。


「リュアさんってなんでそんなに強いの?

 とてもCランクとは思えないわ」


「なんでだろう?」


奈落の洞窟で鍛えたから、と説明するのが適切なのだろうか。

トルッポはすんなり信じてくれたけどこの人達はどうなんだろう。


「私にもお母さんゆずりの弓のセンスがあるかなーなんて期待してたけど

 全然よ」


「私もお父さんゆずりの斧が……と思ったんですけど。

 さすがに女が振るうには重すぎました」


テヘッとでも聴こえてきそうなほど二人は、はにかんだ。

末っ子は失禁の処理を終えたのか、ひょこひょことボク達のところへ来る。


「……ありがとう」


おじぎしたあと、姉達が座っているイスの後ろに隠れてしまった。

こんな子供が冒険者をやるなんて無茶もいいところだと思う。

このお姉さん達はこの子にあんな怖い思いをさせていいんだろうか。

と、思ったけどボクが奈落の洞窟に潜り始めたのはこの子より

ずっと下だったっけ。

あの時は……

あれ、どうだったかな。

なんで細かい部分が思い出せないんだろう。


「おいしかったです! ごちそうさま!」


「どういたしまして、命の恩人にこの程度の恩返ししかできなくて

 ごめんね」


「ボクはそんなつもりで助けたんじゃないし、気にしなくていいよ。

 ねぇ、それよりなんで三人は冒険者に……」


「おぉぉぉぉい!」


突然の怒号が外から聴こえた。

その瞬間、三人の表情が凍りつくのがわかった。


「今月のノルマ、まだ受け取ってないんですけどねぇぇぇ?」


「お姉ちゃん……」


マイは救いを求めてアイを見るが、彼女は冷静だった。

いや、そう見えるだけかもしれない。

アイは少し何かを考えた後、そっとドアを開けにいった。

外には白い筆のような髭を生やした初老の男と武装した男達数人がいた。

筆髭の男の横には、腰に細い剣か何かを差した男が無表情で立っている。

刀身が曲がっていて、折れてしまうんじゃないかと思うくらい細かった。

見たことがない形の剣で少し興味が沸いたけどそんなのに意識を

奪われている場合じゃない。


「おやおや、いらしたのなら早く出てきていただかないと。

 今月のノルマをいただきにきましたよ」


「……はい」


「おぉおぉ、感心感心……ん、おやおや。足りませんな」


「残りは必ず払います」


「ノルマといったのですよ? あなた方の生活が苦しいのはこちらも

 よくわかっています。しかしですよ? 約束というものがありましょう」


「すみません」


「あなた達のご両親が生前、残したものですよ。

 もっと真剣に向き合っていただかないと……

 まぁないものは仕方ありません」


初老の小男は筆髭を何度も撫でながら、三姉妹を舐めまわすように

視線を這わせている。


「それならば、やはり体で払ってもらうしかありませんねぇ」


「そ、それだけは……!」


「あなたが嫌なら妹さんでもいいのですよ?」


「なんとか! なんとか払いますから! 今回だけはお願いです!」


「フン、何度目の今回だけは、だか」


必死に頭を下げるアイ。二人の妹達はただ黙って事の成り行きを

見守っている。


「こう見えても私はビジネスに対してはきちんと向き合っているのですよ。

 期限は期限、守らなければ信用を失う。当然ではありませんか?

 これは日常でも言える事でしょう」


「はい、仰る通りです……」

 

「ま、私も鬼ではありません、今回は5日待ちましょう。

 それではごきげんよう」


髭筆の男は人相の悪い男達を連れてぞろぞろと帰っていった。


「い、5日後って大丈夫なの?」


「なんとかします」


「今の人達って、ガメッツ商会の人達ですよね?

 もしかしてアイさん達……」


ロエルが顔色を伺うようにたずねる。

ガメッツショウカイとはなんだろう。


「はい、両親がいた頃からあの方に借金をしてまして。

 それだけじゃないんですけど……

 月ごとに無理のないノルマを設定してくれて、そこは助かってます」


心配をかけまいと慌ててフォローするアイ。

無理のないとはいったけど、たった今そのノルマが払えなかったばかりだ。


「もしかしてアイさん達が冒険者を始めたのはこのせいですか?」


「はい、両親もいないので3人で協力して生きていこうって決めたんです。

 ですが思いの他うまくいかなくて。

 普通に働き口を探そうと思ったんですけどなかなか雇ってくれる

 ところもないですから、それなら思い切って冒険者にって思ったのです」

 

この人達も両親がいない。

子供だけで生きていく辛さはボクにもわかる。

頼れるもの、信じるものがないというのは想像以上に厳しい。


「でも、あの虎の魔物は無茶だったよ。

 多分フロアモンスターだろうし……

 見た時はさすがにボクも焦ったよ」


「はい、一刻も早く強くなって報酬のいい依頼をこなせればなと

 思いましたが、ご迷惑をおかけしました」


「今日、レベル計ったら3になってていけるかなと思ったんだけどねー」


デンジャーレベル6なのに3じゃさすがに無理だと思う。

このままじゃ、この人達はいつか本当に命を落としかねない。

そうまでさせてしまうあの髭男がなんだか許せなかった。


「お金はいくら借りてるんですか?」


「200万ゴールドほど……」


「にひゃくまん!」


くらっと倒れそうになるロエルを支えるボク。

200万、ボク達でも払えない。

でもいくら借りたお金とはいえ、さっきのはあんまりだ。


「お金返せばあいつらは文句を言わないんだよね」


「はい、月ごとにノルマがあってそれに準じて支払っていけば……」


「ロエル、さすがにかわいそうだよ」


「そうだね……私達に何か出来る事があればいいんだけど。

 あ、そうだ! 私達とパーティを組みませんか?

 ね、リュアちゃん。いいよね?」


「は、はい?」


「私が出来る限りサポートします。手伝わせてくれませんか?」


「で、でも」


そういう事か、単純だけど気づかなかった。

不慣れなこの子達をボク達がサポートしてあげれば実力と自信がつく。

そして報酬で借金も返せて一石二鳥だ。


「いいよ、ボク達ができる事ならやるよ」


「お姉ちゃん、甘えちゃってもいいんじゃない?

 正直、私達だけじゃこの先、やっていけないし」


「……はい、それではお願いできますか?」


「できます!」


なぜか緊張して妙な返事をしてしまった。

5人という大所帯、さてどんな依頼をこなそうか。

魔物図鑑

【草原を疾駆する者 HP 565】

白い体毛に黒い模様が入った、大型の虎の魔物。

最大時速300キロのスピードで獲物を捕える。

その顎の力は人間の体なら一瞬で食いちぎるほど。

出会ってしまったら手持ちの食料を囮にするか仲間を転ばせる以外

助かる方法はない。

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