第19話 ビギナー潰しのグルンドム 終了
「レベルキャップ……?」
ロエルも知らない様子だった。
「依頼を終えてギルドのみょうちくりんな機械でレベルを計る。
あの瞬間がたまんねえよな……オレもそうだった。
けど、ある日突然レベルが変動しなくなったとしたら?
来る日も来る日も戦い続けどレベルは変わらねぇ……
後でレベルキャップってのを知ったよ。
人にはそれぞれ限界レベルってのがあるってな」
「限界……レベル」
思わずボクは呟いた。人によってレベルの上限が決まってる。
考えた事がなかった。
自分のレベルはわからないけど、ここまで強くなれたボクは
誰でもがんばれば強くなれると今の今まで信じてきた。
「オレのレベルは24から止まったままさ……」
「で、でもまだ諦めないで戦い続けて! 計ってみたら……」
「メタリカ国」
以前、ロエルから聞いた事がある国の名前を突然グルンドムが口にした。
「そこでレベルキャップを知る機械があるんだよ。
オレはたまらなくなってメタリカ国に向かった。
すげぇよなあの国は……鉄の腕輪みてぇなのでその場でレベルがわかるんだぜ。
他にも相手のレベルを計るのもあったな……」
「そんなもので……」
反論しようとしたけど、これ以上は無意味だった。
この人が嘘を言ってるようにも思えないし、何よりボクにはまだ知らない事が多すぎる。
「てめぇ、レベルはいくつだよ?」
「わからない、ギルドの鉄の箱で何度計ってもおーばーふろーって出るから……」
「オ、オーバーフローだと……」
グルンドムは苦虫を噛み潰したような顔をした。
あれから何度か計ったけど、結果は同じなので最近は計ってない。
故障でもないみたいだし、そうなるとボクのレベルは……
「レベル100超えか。信じられねぇ……」
「100超え? ボクのレベルが?」
「クイーミルの田舎ギルドじゃしょうがねえな……
しかし、レベル100超えだと……そんなもん"Sランク"の
連中くらいだと思っていたが……」
やっぱり少なくともボクのレベルは100以上あるのか。
ロエルや他の皆はきちんと計れているのににボクだけそんなのが
出るなんておかしいと思っていた。
100以上なら本当のレベルはどのくらいなんだろう。
知りたい……
「傷はだいぶ癒えてきた……お嬢ちゃん、ありがとな」
「もう動けるんですか?」
ロエルはこれでもかって勢いでノックバックした。
その様子からグルンドムに対する嫌悪がわかる。
「心配しなくてもいい、もう何もしねえよ。
オレは……」
ボクはグルンドムの首に迫る刃を剣ではじく。
その刃は空中を回転して洞窟の土壁に突き刺さった。
「なっ……」
狙われたグルンドム自身は状況を把握できていない。
今、自分の命が狙われた事に。
そしてその刃の主はグルンドムの後ろに立っていた。
「うひょ~……マジ?」
ピンク色の吊りあがったメガネ、オールバックで後ろ髪を逆立てて
更にまたピンク色の装束を着た長身の男。
目が痛くなるようなファッションの男は逆手にしてボクを指をさす。
「君、Dっしょ? マジ?」
戸惑いをみせながらも男は長身の腰をくねらせている。
「て、てめぇは……!」
「グルンドムちゃん、やりすぎたっしょ。せっかくだから討伐依頼を
オレが引き受けてやったっしょ」
「Aランクのおまえがこんな辺境で、か?!」
Aランク、この人も冒険者なのか。
この人がグルンドムを討伐する依頼を引き受けてここに来た。
でも、討伐というのは殺すことなんだろうか。
魔物ならわかる、しかし人間は殺せない。
ボクの村の人達が魔物に殺され、焼き払われたあの光景が目に浮かぶ。
貫かれ、斬られ、焼かれ、命を奪われる。
その光景を忘れられない限り、ボクに人は殺せないだろう。
「別件で立ち寄ったついでっしょ。この前だってガンテツが同じ用件で
来てたはずだけど」
ガンテツが同じ用件で?
ポイズンサラマンダー討伐がそれではない事はさすがにわかる。
「んー、さっくり済ませる予定だったけどまさかこんなぶっとびガールが
いたなんて想定外っしょ」
腰を左右にくねらせながら、男はボクをまた逆手で指をさした。
「なんで、この人を殺そうとしたんですか?」
ようやく状況を把握できたロエルが口を開く。
「討伐依頼っしょ? 殺して首でも持っていくのが当たり前っしょ?
君ら、Dランク C? その辺はわかってるはずっしょ」
「でも人を殺すなんて……」
「あー、その辺に抵抗があるなら人間の討伐依頼はやめとけっしょ。
生け捕りもOK、けどそんな事もいってられないのが討伐依頼。
ま、出来てもオレは生け捕りなんてしないけど」
ククッと笑った男は頭をかいてから再び男に斬りかかった。
さっき弾き飛ばしたのと同じような、ナイフとも違う短い刃が握られていた。
ボクはまたそれをはじく。
「おー、お、お? こんな下位ランクのガールに? オレが?」
「やめとけ、てめぇでもそいつには勝てねぇよ」
そういってグルンドムがボクを親指でさす。
男は眉間にしわを寄せて、さも面白くなさそうな顔でボクを見た。
「どーしても邪魔する?」
「する」
「なんで?」
「もう抵抗しないのに殺す意味なんかない」
「殺せないだけのくせに?」
鼻で笑って小馬鹿にする男。
「そんなんじゃいつか死ぬっしょ」
そういって男は目の前から消えた。
勝てないと思い込んだのか、別の算段があったのかはわからないけど
とりあえずあの男と戦わずに済んだ。
「は、はぁ~~~、なんなのあの人?!」
緊張の糸が切れたのか、ロエルが大きく息を吐いた。
「あいつはシンブ、Aランク上位の冒険者だ。クラスはアサシン。
見た通り、ふざけた奴だ。オレを追い抜いてあっという間にAランクに
上がっちまった奴の一人さ」
「Aランク上位……」
そこまでの人があっさり人を殺そうとした。
そうまでしなければAランクにはなれないのか。
「それはそうと、オレはさっきも言った通り自首する。
こんなガキに手も足も出ずに負けちまったんじゃ情けなくて
続ける気もなくしたぜ……」
依頼の品を採掘した後、グルンドムはボク達と一緒に洞窟を出た。
念のため、おかしな事をしないか見張る為に彼に前を歩かせる。
しかしグルンドムは終始無言で大人しかった。
その背中は夢を見るには歳をとりすぎた、どこか寂しげな大人そのものだった。
///
兵士詰め所の前でグルンドムは自分の名前と罪を洗いざらい喋った。
兵士の人達はボク達とグルンドムを見比べて、終始信じられないといった様子だった。
「グルンドムが捕まったらしいな」
「王国城下町に護送されていったのを見たぜ。捕まえたのはCランクの
冒険者……女の子だった、あ、あそこにいるぞ」
ギルド内でも噂になっていた、冒険者達の視線が突き刺さる。
「本当に君らが捕まえたのか? すごいじゃないか」
「いや、何かの間違いだろ……」
きさくに話しかけてくる人もいれば、悪態や嫉妬が混じった呟きも聴こえた。
ポイズンサラマンダーの時は誰も信じてくれなかったけど
こうして少しずつ自分が認められていくのは気持ちよかった。
もう少し早くこうなっていれば、あの男の人が冒険者をやめる事も
なかったかもしれない。
そんな風に考えてもキリがないのはわかっていた。
あの人の焦燥しきった姿を思い出すと自首したグルンドムを素直に許せない。
鉱石をコウゾウに渡すと、彼はボク達の無事を喜んでくれた。
報酬はきっちり1000G。そしてグルンドム討伐分の報酬も加算してくれた。
家計が潤ったと小躍りするロエル。
それならボクのおこづかいも増やしてほしいと思う。
「そうだ、約束だったね。うちの店で一番高い武器をあげよう。
はい、ミスリルソードだ」
アイアンソードより軽く、切れ味が鋭い。
なるほど、アイアンソードとウイングソードを足したような武器だ。
「ありがとう、コウゾウさん。これすごく使いやすそう」
「ハッハッハッ! そうだろう、なんといってもミスリル製だからな。
貴重だけど君達の門出を祝うと思えば安いもんさ」
「よかったね、リュアちゃん」
「君にもプレゼントがある」
コウゾウは奥から杖を持ってきた。
先端に赤い炎のマークが描かれている。
「ファイアロッド、炎魔法が放てる杖だよ。
攻撃魔法がない君みたいなプリーストには人気が高い。
ただし威力は使い手の魔力に影響するけどね」
「こ、こんないいものいただいてよろしいんですか?」
「まさかフロアモンスターやグルンドムに襲われるなんてちょっと
考えてなかったからね。君達には少し危険な依頼だった。
グルンドムはともかく、あのフロアモンスターは滅多に姿を
現さないからね」
見た目通り、太っ腹なコウゾウは上機嫌だ。
グルンドムを捕まえたボク達に最初は驚いていたけど、すぐにこの人は
信じて褒めてくれた。
「でも無茶はしないでくれな。危ないと思ったらすぐに逃げてくるんだぞ。
何をするにしても命あってのもんだからね」
「うん、ありがとう」
気前のいいコウゾウの店を後にして、ボク達は夕飯の買出しに出かけた。
もうすぐ日が沈む。一日のあっという間の終わりにボクは時の流れの
無情さを思い出す。
10年経ったとも知らずに奈落の洞窟で過ごしていたボク。
ただ戦い続けていただけの日々。
あの時はなんとも思わなかったけど、今から考えればもう二度とあんな
生活には戻りたくない。
何より、今はロエルがいる。
少しずつ、彼女がボクにとってかけがえのない存在になっていくのがわかった。
「なに? どうしたの?」
「なんでもない」
知らないうちにボクはロエルを見つめていた。
ボクは急に恥ずかしくなって顔をそらす。
「ねぇ、ボクいつかウィザードキングダムやメタリカ国にもいってみたい。
その前にアバンガルド王国城下町にも」
「うん、二人でいってみたいね」
二人で、と付け加えた意味をボクは少し考えてしまった。
グルンドムにもこうした仲間がいたら少しは違っていたんだろうか。
共に歩めず、劣等感がつのり、最後には道を踏み外した冒険者の成れの果て。
ボクのレベルキャップはいくつだろう。
もしボクのレベルが上がらなくなって、ロエルに追い抜かれてそして
置いていかれたら。
彼女はボクを待っていてくれるだろうか。
一緒に歩いてくれるだろうか。
ボクはあの大男のように壊れずにいられるだろうか。
「なぁに、さっきから」
気がついたら、またボクはロエルを見つめていた。
「ねぇ、ロエル……ずっと、一緒にいてくれるよね」
「急にどうしたの? もちろんだよ」
「そう、よかった……」
ボクは心から安堵した。未来永劫、いつまでもこうしていたい。
この世界が誕生してから変わる事なく燃え続けているあの夕日のように。
ここでようやくボクは夕食のメニューが気になり始めた。
魔物図鑑
【災いの巨獣 HP 815】
アバンガルド洞窟4階のフロアモンスター。
鋼のような皮膚はそこらの刃など通さず
その巨体から繰り出される突進は慣れた冒険者さえも死に追いやる。




