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第1話 いざ外の世界へ!

「リュアちゃんは大きくなったら何になりたいの?」

「ぼうけんしゃ!」

「えー、危ないよ。魔物に殺されちゃった人がたくさんいるってパパがいってたもん」

「でもずっと村にいるのは退屈だよ」


ボクは立ち上がって足元に落ちている石を川に水平に投げ込んだ。飛び石にしようと思ったけど失敗した。

でも隣にいるクリンカちゃんは、それに気づいたのか気づかないのかはわからないけど気にも留めずに話しかけてきた。サラサラした金髪が風でなびいている。


「そう? それなら私もリュアちゃんについていこうかなぁ」

「今、自分で危ないっていったのに?」

「リュアちゃんと一緒なら平気かなー」


夕焼けが水面に照りつける中、夕食前のおだやかな語らいは日課だった。

この後はそれぞれ家に帰ってご飯を食べてあったかい布団で眠る。

そのはずだった。


家々が赤く染まる。

木造の壁がパキパキと音を立てて崩れた。

空まで焦がしそうな炎の勢い。

鍬や鎌で戦ったけど、無惨に貫かれる村の皆。

見たこともない怪物達。

ボクは泣き叫んだ。

お父さんは、お母さんは、クリンカは。

ただひたすら逃げ惑う。

子供どころか大人から見ても巨大で醜悪な怪物が立ちふさがった。

怪物が腕を振りかぶろうとしたその時、腕が切断されて飛んでいく。


「早く逃げるんだ!」


村にしばらく立ち寄っていた旅の剣士の人が助けてくれた。

オドオドするボクに強い口調で何度も逃げろと促す。


「心配はいらない! オレが全員助ける!」


今思えばそれはボクに逃げる決心をつけさせる為の方便だったと思う。

逃げた時に振り返って一瞬だけ見たあの光景。


翼が片方しかない悪魔が剣士の人を……


////


目が覚めるとせせらぎが聴こえた。

涙を流していた頬をぬぐうと、ようやく現実に戻ってきたんだと認識する。

洞窟の外に出た瞬間、疲れが出て眠ってしまったらしい。

最下層から帰ってくるのはアイテムのおかげで一瞬だったからその疲れじゃない。

破壊の王を倒して、その奥にあった宝箱には何の変哲もないリボンが入っていた。

あんなにおっかない奴が、こんなものを守っていたのかと思うとなんだか笑えてくる。

何か効果があるのかもしれないけど、今のところさっぱりわからない。


「今日はいよいよここから旅立つんだっけ」


この地下100階にも及ぶダンジョンの周りは高い山々に囲まれていてとても人が寄り付きそうにない、神秘的な雰囲気さえ感じられる場所だった。

そんな場所に子供のボクがどうやって辿り着いたのか、ますますわからなくなる。


「まずはここから出よう、そうしよう」


軽く準備運動をしてからボクは木々の間を駆け抜けた。

途中の崖を飛び越え、傾斜なんてものともせずにひたすら走る。

100階への道中に比べてなんて緩いんだ、外の世界はこんなものかと拍子抜けした。

その時、草むらの奥から黒い何かが飛び出してきた。


【ヘルベアー が現れた!】


外の世界にもやっぱり魔物はいた。

でも全然怖くない、こんなのは多分10階くらいですでに戦ってるレベルだ。


【ヘルベアー は大きな腕を振りかぶった!】


ボクはそれを片手で止める。このくらいなら武器なんか必要ない。

そのまま左手で拳を作って、化け物熊にお見舞いした。


【リュア の攻撃! ヘルベアーに 3022 のダメージ!】

【ヘルベアー HP 0/1430】


熊は音を立ててその場に倒れた。

やっぱり弱い魔物だったのかな。


【ヘルベアー を倒した!】

【リュアは 2096 の経験値を獲得!】


「快調……かな?」


ポリポリと人差し指で顎をかく仕草をしてみた。

これからどこへ行こうか、とにかく人が住んでいそうなところを探してみよう。

まずはこの山を越えないと。

道中、何度か魔物が襲ってきたけどめんどくさいので無視して逃げた。

中には追いかけてくるのもいたけど、ボクの足には追いつけなかった。


「ボクが強くなったのかこの辺の魔物が大した事ないのか、どっちなんだろう」


走り続ける事2時間。

山を越え、森を抜けた先の崖下に広がる大草原、そして町。

吹きつける心地よい風は、まるでボクを祝福しているかのようだった。

ボクは一気に崖を駆け下りて、見えていた町を目指す。

町についたらまずどうしよう。

まずはボクの村に戻ろう。

思い出したくもない光景だけど、お父さんとお母さんのお墓を作ってやりたい。

そしてあわよくば、あの片翼の悪魔について何か手がかりがあればいいな。


町はレンガ作りの家が立ち並び、ボクが住んでいた村よりも発展してる様子だった。

頭に果物を乗っけて運ぶおばさん、楽しそうにお喋りしながら歩く男の人と女の人。

すごく重そうな斧を背負ってるおじさんや杖をついてるおじいさん。

人、人、人で溢れていた。

こんな光景はずいぶん見ていない。

ボクはいざとなると、どうしたらいいかわからなくて戸惑った。

ずっと人と話した事なんてなかったから、どうやって声をかけていいのかわからない。

おろおろしていると、後ろからぶつかられた。


「そんなところに突っ立てると邪魔だよ。端によりな」

「え、あ、ご、ごめんなさい」


久しぶりの会話がなんとも情けない。

でもいつまでもジッとしているわけにもいかない。

ボクは思い切って、村の場所を道行く人に聞いてみた。


「あの、イカナ村はどっちにいったらいいかわかる?」

「はぁ?」


木材を担いだ男の人は白い目でボクを見た。

そして答えずにまた忙しそうに歩いていった。

それどころか、なんだか周りからジロジロ見られてる気がする。


「なんか変な事いったかな」


次の人はきっちりと知らないと答えてくれた。

また次の人も答えは同じだった。


「ど、どうしよう」


途方に暮れたボクの耳にある言葉が入ってきた。


「とりあえず冒険者ギルドいくべ」

「なんかいい依頼ないかねぇ、この辺のダンジョンはとっくに攻略したし」


冒険者、ダンジョン。

興味のある単語を聞き逃さなかったボクは二人の後を追った。

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