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第17話 ビギナー潰しのグルンドム その1

「手持ちの荷物、全部置いていきな。そうすりゃ命だけは助けてやらぁ」


3メートルを超える巨漢は拳のみでCランク冒険者パーティをねじ伏せていた。

若いソードファイターの得物はまったく通じず、仲間はすでに虫の息だ。

マジシャンの魔法も大男には通じなかった。

ソードファイターの男は仲間の命と天秤にかけたのか、荷物を男に差し出す。


「素直に渡せば痛い目に遭わずに済んだのによぉ……

 どれどれ、しけてんなぁ」


大男は袋からアイテムや非常食を乱暴に取り出して地面に投げ捨てた。

回復薬の中身が地面に青く染みる。


「パーティに女でもいりゃ、少しは楽しめたのに全員男かよ。

 おめぇはホモなのか? 女連れとけよ」


理不尽な言い掛かりにも若い男は黙っていた。

それなりに場数を踏んで地力をつけたはずなのに、この男には一切通じなかった。

生まれて初めて圧倒的存在に出会ってしまった若い男に、もはや抵抗する

気力も残っていない。


「ま、一応もらっといてやるよ。ほれ」


大男は空になった袋を男の顔に投げつけた。

男はそれを取ろうともせず、ただ黙ってうつむいていた。


「おめぇ、冒険者やめとけ。オレが優しかったからよかったものの

 もし情けの欠片もない奴だったら死んでたぞ?

 Cランクになるまでどのくらいかかったんだ?」


「……半年」


「は、半年!」


大袈裟に驚いて大男はゲラゲラとわざとらしく腹を抱えて笑い出した。


「お、おめぇ才能ねえわ! Dランクなんてな、普通は半月もありゃ

 卒業できんだよ。あれをなくしただの、しょぼい魔物の素材を

 もってこいだの糞みてぇな依頼ばっかだろ?

 馬鹿でも出来る雑用を適当にやってりゃ、Cに上がれんの。

 それをおめぇ、半年って。馬鹿ですらねえのかよ。

 ヒャッハッハッハッハッ! ククッ! ハハハハハッ!」


より一層、大声で笑う大男。

若い男は悔し涙がこぼれないよう、必死に堪えていた。


「才能ないわ、おめぇは。ところで、そいつら死んでないか?」


そう言われて若い男は仲間二人の手当てに勤しむ。

その様子を見て、大男はひたすらケタケタ笑っていた。


///


「リュアちゃん、まだ?」


「も、もう少し!」


武器屋の品の前で、かれこれ20分は悩んでいた。

手持ちのお金は200ゴールド。

一方はアイアンソード180ゴールド。

もう一方はウイングソード150ゴールド。

アイアンソードのほうが切れ味は上だ。

しかしウイングソードは切れ味こそアイアンソードに劣るけど

その分身軽に動ける。

180ゴールドならば、残り20ゴールドでゼンベイでランチが

食べられる。

おこづかいと言われて渡された200ゴールド。

依頼で得たお金は生活費としてロエルが全部管理していた。

そこから捻出された200ゴールド。

アイアンソードのほうが切れ味は上だ。もしかしたらこれが勝敗を

分けるかもしれない。

一方でウイングソードで身軽に動ける分、助けられる局面も

出てくるかもしれない。

どちらを買うべきか。

さっきからどちらかに手を伸ばすも、引っ込めての繰り返しだ。

武器屋のおじさんもカウンターに肘をついて、買うなら早くしろと

言わんばかりにこちらを見ている。


「ねぇ、リュアちゃん確か剣持っていたよね?

 こんなの買わなくてもいいんじゃないの?」


「あ、あれはちょっと追加効果がまずいんだ。

 ロエルを巻き込んじゃうと危ないから、よほどの事がない限りは

 普通の剣で戦おうかなって」


あの閃光と爆発。破壊の王ですら飲み込んだ威力は

ボクにとっても脅威だ。

自分の武器で発動した爆発に巻き込まれるなんて

マヌケもいいところなので思い切って今回のような決断を下した。


「リュアちゃん、元々強いからどっちでもいいんじゃないかな」


「そういう問題じゃないんだよ……」


ロエルにはわからない。どっちが損をしないか、ただ一点にある。

アイアンソードを買っても実は大して威力がウイングソードと

変わらなかったりウイングソードを買ってもそこまで身軽に

ならなかったり、悩みは尽きない。

試しに持ってみたけど、実戦で試さない事には何ともいえない。


「ねぇ、両方買うってのは」


「ダメ」


即答だった。ロエルはことお金に関して、すごく厳しい。

几帳面な性格なのか、きちんと家計簿につけて管理している。


「ひどい……」


がっくりうな垂れてみせたけど、ロエルには通じなかった。

ボクの演技じゃ彼女を騙せない。


「私の依頼をこなしてくれたら、もっといい武器をあげるよ」


見かねた武器屋のおじさんが何かを提案してくれた。

依頼を引き受ければ両方もらえる。なんでもやる、ボクは決心した。


「実は――」


おじさんが言いかけた時、武器屋の扉が静かに開いた。

説明を中断しておじさんはいらっしゃいと声をかけたけど

その人は何も言わず、真っ直ぐこちらに歩いてきた。


「これらの武器をすべて買ってくれ、いくらでもいい。

 何ならタダでもらってくれてもいい」


「全部売ってしまって困らないかい?

 あんた、見たところソードファイターだろ?」


「いいんだ、オレにはもう必要ない」


「はぁ、じゃあ……」


釈然としない様子で、おじさんが下取りを始めた。


「はい、これだけね」


「ありがとう」


お金を受け取って、男の人はまた静かに出ていく。

その後姿は猫背で頼りなく、押せば今にも倒れそうだった。


「あいつ、恐らくやらかしたね。

 依頼失敗……冒険者なら誰でも一度は通る道なんだが。

 オレも昔、現役だった頃はヘコんだもんさ」


「ゲンエキ? おじさん、冒険者だったの?」


「あぁ、なつかしいぜ……

 あの当時はこのコウゾウの名を知らないものはいなかったなぁ」


思い出にしみじみと浸り始めた武器屋のコウゾウ。

頭の毛は薄くなり、下っ腹はぽっこりと出ていて今ではその影もない。


「冒険者ってのは夢のある職業だ。

 Aランクともなると、依頼次第だが一件こなせば数十万の大金が手に入る。

 けどそれだけにああやって挫折する奴も山ほどいるのさ」


「す、数十万……」


200ゴールドを片手に悩んでいる自分がいかにちっぽけな事か。

Aランク、断じてお金を目的にするわけではないけどますます目指したくなった。


「おっと、忘れていた。

 さっきの件だが詳しくはギルドに依頼書が出ていると思う。

 コウゾウの名で探してみてくれ」


結局、ロエルの我慢の限界がきてアイアンソードを買わされて店を出た。

大人しいと思っていたけど案外、変なところで気が強い。

また一つロエルについて新たな発見をしてしまった。


///


ギルドに行くと、さっき武器屋にいた男の人がいた。

それに対してカウンターに座っているリンテイが

何やら気難しそうな顔をしている。


「本当によろしいんですね?」


「ああ、心残りはない」


「それでは冒険者登録抹消の手続きをします。

 消してしまっても再び登録は可能ですがランクはDからです。

 それでは始めましょう」


登録抹消、あの人は冒険者をやめるのか。

よほど辛い事があったのか、未練があるのかはわからないけど

閉じた口の中で歯を食いしばっている。そんな風に見えた。


「私がこんな事を言うのも何ですが、無事だったのですから

 そこまで気負う必要はないですよ。

 新人潰しのグルンドム……彼の退治依頼は出しているのですが

 いずれもまだ達成されておりません。

 Cランクの方々が引き受けて下さったのですが結果は

 ご覧の有様です。

 元々、この町にはBランクの冒険者もあまりいませんし今は

 全員別の依頼にかかりっきりです。

 ガンテツさんもアバンガルド王国城下町に帰られましたし……

 しかし、Bランクの彼らがひと段落つけばすぐに討伐に向かうでしょう。

 そうなればグルンドムなど一溜まりもありません。

 あなたはまだ若い、どうかそれまでは」


「あんたに何がわかる、余計な口出しをする暇があったら

 手続きを始めてくれ」


男の人は今にも泣き出しそうな声を出した。

よほど悔しい思いをしたのか、握り拳が震えている。

新人潰しのグルンドム、そいつが男の人に何かしたのか。


「新人潰しのグルンドムってなに?」


「初心者冒険者がいきそうなダンジョンで待ち伏せして

 襲う人がいるんだって」


そんな奴がいるなんて知らなかった。

ロエルも他人事のような口ぶりからするとそこまで深くは知らないのか。


「はい、これで手続きは終わりました」


冒険者じゃなくなった男の人は何も言わずに出ていった。


「あの人、かわいそう。

 私もリュアちゃんに出会わなかったら……」


今の人に自己投影すると、ますます気が沈みそうだ。

そしてあの人をあんな風にしたグルンドム。

そいつをこらしめる依頼にボクは興味が沸いたけど

先にコウゾウさんの依頼が先だ。

ロエルと一緒に依頼書を探す。

彼女に教えてもらったおかげで少しは字が読めるようになったけど

まだまだ時間がかかる。だからこういう時はロエルに任せていた。


「あった、これだね」


"アバンガルド洞窟4階でとれる鉄を採掘してきてほしい。

 武器屋アイアンマン店主 コウゾウ"


「アバンガルド洞窟ってこの前、パブロさんの依頼でいったところだよね」


「うん、私達がいったのは2階までだけど4階かぁ」


前は2階以降は危険な魔物が徘徊しているから行かないようにと

釘を刺されたけど実際のところ、どうなんだろう。

Cランク以上と条件に書いてあるらしいので、なんとかなるのかな。


「コウゾウさんの依頼ですね。今回はリュアさんとロエルさんが

 引き受けて下さるんですね。かしこまりました」


今のリンテイの口ぶりからして、定期的に誰かが引き受けているらしい。

採掘と書いてあったけど実際はどうやればいいんだろう。

一度、依頼内容の詳細を聞く為に武器屋に戻ろう。


///


「うん、それじゃこれ」


コウゾウから採掘セットなるものを渡された。

アバンガルド洞窟は地下2階までならデンジャーレベル3だけど

それ以降、最下層の5階までは大体8から10程度らしい。

あのコブラの魔物も地下3階から上がってきたんだろうか。


2階までなら大した魔物も出ないし、ロエルのレベルも上がっているので

まず心配はない。


「3階から毒をもつ魔物がいたはずだ。注意しな」


コウゾウのアドバイス通り、解毒薬をいくつか用意した。

ボクにはそんなもの効かないし、後ろにいるロエルには絶対手を

出させないからまず必要ないと思うけど、持っておくに越した事はない。


「それじゃ、いってきます」


「おう、気をつけてな」


///


町の入り口を遠くから監視するものがいた。

今、二人の冒険者がクイーミルから出てきた。

二人を少女と認識した巨漢は、口元を歪ませる。


「おっ、おっ、久しぶりの女じゃねえか。

 ちょっと小便臭い気もするがまぁいい、遊んでやるかぁ」


林に潜んでいた巨体が立ち上がった。

比較的、平原が目立つこの辺りでは身を隠すのに適した場所はあまりない。

それでもグルンドムはわずかな林に身を潜めて静かに町の入り口を監視していた。

初心者冒険者が多いクイーミルは彼にとって絶好の狩場だ。

無論、熟練の冒険者には手を出さない。

彼らの手腕は嫌というほど知っているからだ。

だからこそ、グルンドムは新米に目をつける。

そう、だからこそ。


「あの身なりからして、多分アバンガルド洞窟の4階辺りで

 採掘する気だな。

 先回りして待ち伏せしてやるか。あるんだよ、とっておきの近道がな。

 クックックッ!」


グルンドムは狩りの為に体格に似つかわしくない機敏さで行動を開始した。

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