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第14話 幽霊屋敷の怪 その4

入り組んだ構造だったらどうしようと思っていたけど、入り口からずっと一本道だった。何度かさっきと同じ魔物に襲われたけどボクがすべて倒した。

範囲魔法のせいでロエルとトルッポを守りきれないので厄介だ。

ずっと一人で戦っていたから、範囲魔法なんて気にもしてなかった。


「リュア……強すぎる……」


トルッポはずっとボクの事ばかり気にしている。

奈落の洞窟の事を言うべきだろうか、でも今はそんな説明をしている暇はない。

そうこうしているうちにボク達の前に古びたドアが現れた。


「ここで行き止まりかな」


「開ける? 開けるの? 開けちゃう?」


ボクの腰に手を回して抱きつかれると身動きすらままならない。

やんわりとロエルの手をとって外して下におろす。

あの少女の幽霊を抱きしめた時のロエルはどこへいったのか、今では見る影もない。


「ここ……いる……」


意味深なトルッポの呟きが、更にロエルの恐怖を加速させたところでボクは

一気にドアを開けた。


そこにあったのはだらしなく天井からぶら下がるフランソワスさんだった。

ロープにかけられた首がのびきって口からは吐しゃ物が。

スカートから伸びた足からは排泄物が床に滴っていた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ついに恐怖が爆発したロエルはもうボクから離れてくれそうになかった。

とはいえ、さすがにこれにはボクも驚きをかくせなかった。

思わず後ずさりしてしまったボクにトルッポがぶつかる。

彼、いや彼女は何を思ってこの死体を見ているのだろうか。


奥にはミイラ化した少女の遺体と白骨化した男の人の死体があった。

いずれもボクにしがみついてきた少女と、ここまで案内してくれた男の人だった。

一体ここで何が起こったのか。

フランソワスさんはなぜここで自殺したのか。

謎だらけのままこの依頼は終えてしまうのか。


「ぼ、ボク達どうしたら……」


「……まだ」


トルッポが変わり果てたフランソワスを指さす。

フランソワスの伸びきった首がかすかに動いた。

キリキリと頭が動き出す。


「わ、わぁっ!」


情けない声を出してしまった。


死体の頭がこちらを向く。

舌がだらしなく口から垂れ下がり、土気色の顔と開ききった瞳がこちらを見た。

ずるりとロープから軟体動物のように首が抜ける。

頭が90度に曲がり、内股で着地したフランソワスだった物はボク達を見据えた。

次の瞬間、フランソワスの腕が伸縮自在と言わんばかりにボク目がけて伸びてきた。


【フランソワス が現れた! フランソワス はいきなり襲いかかってきた!】


「うわっ!」


後ろにいるトルッポをかばい、ボクはその手を右手で叩き落した。

ブロック張りの床に叩きつけられた腕は何事もなかったかのように

フランソワスの元へ縮んでいく。


「な、な、なに……」


かろうじて杖を握り締めるロエルは涙目だった。

何としてでもロエル達には手を出させない。

しかし、不安だったのがさっき叩き落した時の感触が少女の幽霊を殴った時のそれと

同じだった事だ。

まるでゴムでも殴ったかのような手応えのない感覚。

このフランソワスもあの少女と同じなのか。

あの骨の魔物は倒せたのに。


「チャァント゛オヘ゛ンキョウシナイト゛」


フランソワスの口からゴボゴボと血があふれ出した。


「ワルイコ゛ハ゛ショクシ゛ヌキ゛」


喋る度に口から血がこぼれ出すフランソワスにトルッポは魔法を放った。


【トルッポ は ブレイズショット を唱えた!】


巨大な炎の弾丸はフランソワスに命中するが、吹き飛ぶ事もなく彼女は

燃える体のまま、その場にたたずんでいる。

やがて火は消え、血色がない肌を見せたフランソワスに戻った。


【フランソワス はダメージを受けない! HP 0/0】


「これ……怨霊系……やっぱり……無駄……」


「怨霊系?」


初めて効く言葉だった。ゴースト系のモンスターではないのか。


「怨霊系……魔物……違う……ゴースト系……なる前……」


怨霊とはゴースト系モンスターになる前の状態。

つまりモンスターじゃなくて、怨霊だからボク達の攻撃が通じないという事か。


「ボクこんなの初めて……」


ボクが弱気になるとロエルは力なく杖を床に落とした。

震えている彼女を見てボクは思いとどまった。

ロエルはボクが守るって約束したばかりなのに怯えさせてしまっている。

ボクがいるから安心して彼女が戦えるはず、それなのにボクときたら。


伸びきった腕を駄々っ子のように床に叩きつけてるフランソワスにボクは一歩近づく。


「おばさんはボクを殺したいの? でも、無理だよ」


ボクなりに挑発して、できるだけ注意を向ける事にした。

うまく出来たかわからないけど、フランソワスはギョロリと眼球をボクに向ける。

実際、目の前の怪物は攻撃そのものは大した事ない。

問題はこの不死身をどうするか。

死んでいるのに不死身というのはおかしいけど、無敵といっちゃうのはなぜか

悔しかった。

フランソワスはボク目がけて長い腕をふるい、ビンタするように横から

手の平をぶつけてきた。


「効かないよ、こんなの!」


左手でその手をとり、ねじ切って床に叩き落とした。

怪物は痛がる様子もない。


床に落ちている腕がぴくりと動いて高速で足から這い上がってきた。

その腕を掴んだと同時に、死人の手はボクの首を鷲づかみにしてくい込んだ。


「あぐっ……こ、こいつ……!」


「リュアちゃん!」


少女の幽霊の時と同じだ。

引き剥がそうとしても、信じられない力で押さえつけられる。

奈落の洞窟で鍛えたはずなのに、なぜかこの怨霊には一切通用しない。

ロエルが半狂乱になってフランソワスの手を引き剥がそうとしている。


「この! このー!」


ボクでも無理なのに華奢なロエルの力でどうにかなるはずもない。

トルッポも参戦したが結果は変わらなかった。


「なにするの! リュアちゃんから離れて!」


フランソワスの長い爪が首に刺さり、ボクの呼吸を遮断していく。

フランソワス本体は首を左右にゴキゴキと180度に回しながら

遠くから眺めている。

それを挑発返しと受け取ったボクはムキになって腕を潰そうとするけど

固いゴムのような感触でビクともしなかった。


こんなところで死んでたまるか。

ボクにはやらなきゃいけない事がある。


おまえなんかにッ……!


///


モータルゴーストを軽々と粉砕していた時から感じてはいた。

しかし、今度あの少女から放たれた殺気はそれまでと比べて尋常ではなかった。

昼間はロエルという少女と仲よさそうに無邪気に話していた。

今は別人どころか、人とは思えないように錯覚させる。

この少女に近づきたくない。

一瞬のその思いがあったのか、気がつけば私は怨霊の腕をバラバラにして

引き剥がしたその少女から一歩も二歩も下がっていた。


///


「リュア? ……誰?」


トルッポが後ずさりをした気がした。


今度はボクの指が死者の手に食い込む。

指をちぎりとり、渾身の力で壁に投げつけた。

腕は壁から床に落ちるなり指を失っても尚、這ってこちらに向かってきた。


「ヒール!」


ロエルが必死にボクにヒールをかけてくれた。

ありがたいけど、今はあの手をなんとかしなければいけない。

這ってきた手にまた捕まらないよう、ボクは足で踏みつける。

ロエルがまだボクにヒールをかけている。


ボクの足の下でもがいている手の様子がおかしい。

恐ろしい力でボクの足から逃れようとしていた手がかすかに弱まった。


「ロエル……ヒールもっと……」


トルッポが何かを閃いたのか、ロエルにヒールを促した。

言われなくても彼女は一心不乱にヒールを続けている。

フランソワスの腕はその度に痙攣し、次第に逃れようとする力が

弱くなっていく。

やがて腕はヒールの光に包まれて消えた。

遠くにいる怪物は金切り声をあげて、本来腕があった場所を押さえている。


「手、消えちゃった……」


一番驚いているのはロエルだった。

ボクにも何がなんだかわからない。


「ヒール……あいつに……」


わからないけど、今の様子だとあいつはヒールが苦手という事になる。


「そうか、死者のあいつにとって傷を癒すヒールは逆に苦痛なんだ!」


「ロエル……あいつに……」


「でも、ここからじゃ届かないよ……」


それならボクの出番だ。

ボクは向こうにいる怨霊に向かってダッシュした。

フランソワスは苦痛に悶えながらも、また腕で捉えようとしてきたけど

二度も同じ手を食うボクじゃない。なめるな。

床を蹴ってフランソワスの側面から、そこでまた床を蹴って背後に回りこんだ。

まったく反応できなかったフランソワスの背後を蹴りつけてふっ飛ばす。

そしてそのスピードより速くボクがフランソワスを追いかけてジャンプし

頭を踏みつけて地面に這いつくばらせた。


「え……あ……えっと」


ボクに踏みつけられているフランソワスに戸惑うロエル。


「早くッ!」


こいつが起き上がろうとすればボクには止められない。

なのでつい、怒鳴りつけてしまった。


「う、うん……ヒール!」


耳を塞ぎたくなるような怨霊の呻きが地下室内に響く。

それに驚いてロエルが手を止めようとするけど

ボクはやめないよう目で訴えた。


追撃するかのようにヒールを浴びせられたフランソワスの体は

さっきの手と同じように消滅……


するはずだった。

まだ続きますこの話

次とその次で終わりです

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