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第13話 幽霊屋敷の怪 その3

振りほどこうとしたけど、万力のような力でびくともしない。

とても少女とは思えない力だった。

ロエルに無事を知らせたかったけど、なぜか声もかすれてまったく出ない。

いや、呼べたとしてもこの状態で呼んでいいものだろうか。


幽霊といえど、子供だからって手加減なんかしていられない。

ボクはしがみついている変わり果てた少女ごと壁に体当たりした。

破壊音を立てて壁は崩れたけど、少女は離れなかった。

それどころかまったく意に介していない様子だった。


「き、君は何なの? なんでこんな事するの?」


「アソ゛ホ゛ォ」


声帯がつぶれたような、くぐもった声が顔の空洞から響いた。

意思疎通がとれない事にはどうしようもない。

いや、そもそもこの子を退治するのが依頼だったはず。

かわいそうだけど仕方ない。

剣は部屋に置いてきたけど、しがみつかれてない左手は自由だ。

ゴースト系なら魔法が有効なはず。


【リュア は ライトニングボルト を唱えた!】


閃光と雷が少女を直撃した。密着しているボクも多少のダメージを

受けたけどしょうがない。さすがの少女も思わず離れた。


【リュア は 3100 のダメージを受けた! HP 37363/ 40463 】

【少女の幽霊 は ダメージ を受けない! HP ???/???】


「アソ゛ホ゛オネエ゛チャン」


コキコキと首を左右にゆらし、小さな体はそれに反するように揺れた。

首が左に傾けば体は右に腰ごとくねらせる。まるで関節や骨などないか

のような不気味な動きだった。

少女はその動作を繰り返しながらゆっくりとボクのほうへ近づいてくる。

今の音でロエルがこちらに気づいたのか、駆けつけてきた。


「な、な、なに…」


恐怖のあまり、状況の整理が追いつかないロエル。

ロエルに手を出させない。ボクは距離を詰め、拳を少女の顔に直撃させた。

吹っ飛んだかに見えた少女は空中で静止し、ゆらりと直立の姿勢へと戻る。


【少女の幽霊 は ダメージ を受けない! HP ???/???】


平然として少女はさっきと同じように揺れ出す。

こんな相手初めてだ、どうすればいいのかまったくわからない。

剣があればまともに戦えるんだろうか。

あの追加効果が発動すれば……


「ア ソ゛ ホ゛ォォ」


ボクとの戦いは遊びだとでもいうのだろうか。

外の世界にこんな相手がいるなんて、思いもよらなかった。

地下100階を踏破したところで、それはスタート地点にすらなってなかったのか。

久しぶりの無力感を味わっていたところで、気がついたらロエルがボクの横にいた。


「リュアちゃん。さっきからあの子、何もしてこないんじゃ」


少女の枯れ枝のような腕がボク達のほうへ伸びる。

ボクはロエルをかばったけど、彼女はさっきとは打って変わって物怖じせずにいた。


「少女……敵……違う……」


気がついたら、後ろにトルッポが立っていた。


ロエルは少女を抱きしめた。


「ごめんね」


そう一言だけいったロエルに少女は何もしなかった。

少女の空洞の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

それと同時に抱きしめるロエルの腕の中から少女が消えた。

ボクには何がなんだかわからず、事の成り行きを見守るしかなかった。


「ロエル、今のは?」


「わからない、でもあの子は悪くない。そんな気がしただけ」


「……こっち」


トルッポが指を指した先には頭から血を流した男の人が立っていた。

少女と同じように血の気がなく、眼球のくぼみからも血が流れている。

心なしかボクにはそれが少女が流した涙と同じように見えた。

男の人の幽霊は足を動かさず、宙に浮いたまま階段を降りていった。

トルッポがそれを追いかけたので、ボク達もついていく。


幽霊はリビングを通り抜けて脱衣所の扉の前で止まった。

昼間、ボクが壊したドアはそのままだった。

幽霊がドアを指さすと足から頭にかけて透明になり、消えた。


「ここって……」


ボクが手にかけると、壁にはめ込むようにしてなんとか

その役目を果たしていたドアがあっさりと外れた。


「降りる……」


トルッポが暗闇が続く階段を降りていく。

あの幽霊がここを指したのには何か意味があるんだろうか。

あの幽霊は悪くなくて、他に悪さをしている幽霊がいるんだろうか。

訳がわからないままボクも階段を降りる。


「この扉には鍵がかかってないみたいだね」


トルッポが扉に手をかけると、鈍い金属音を立てて扉が開いた。

真っ暗闇で何も見えない。


【トルッポ は ライト を唱えた!】


トルッポの手の平にポォっと明りが灯る。


「ダンジョン探索……これ……必須」


ダンジョンなんてそんな大袈裟な、と思っていたのも束の間。

照らされた地下室と思っていた場所は石造りの長い通路になっていた。

屋敷の地下になんでこんなものがあるんだろう。

あのおばさんはすごく怒っていたけど、もしかして何か見られたくないものが

ここにあるんじゃないか。


通路を歩き始めると奥から何かが漂ってきた。


【モータルゴースト が現れた! HP 332】


頭部から胸にかけて骨のゴースト系モンスターで下半身はなかった。

結構な大きさでボク達の前に立ちはだかったそれは有無を言わさず

攻撃してきた。


【モータルゴースト は ダークネス を唱えた!】


霧状の闇が漂い、ボク達を覆った。

ロエルとトルッポは先制攻撃の前に面食らった様子で成す術もなく受けてしまっていた。


【ロエル は 32 のダメージを受けた! HP 31/63】

【トルッポ は 22 のダメージを受けた! HP 74/96】

【リュアはダメージを受けない! HP 37363/ 40463 】


ロエルを守りきれなかった。

それと同時にさっきボク自身の魔法で受けた傷が癒えてなかったのを

思い出す。

トルッポは魔法の詠唱を手早く終えていたみたいですぐに反撃に出た。


【トルッポ は ブレイズショット を唱えた!】


炎の塊が弾丸となり、骨の魔物に激突した。

燃え上がった骨の魔物は雄叫びのようなものをあげて耐えている。


【モータルゴーストに 86 のダメージを与えた! HP 250/332】


まだ平気と言わんばかりに魔物は骨の手をカチカチと鳴らしてこちらを挑発する。


「強い……弱点……炎……なのに……」


トルッポは自身の魔法が大して効いていないと思ったのか

後ずさりして再び構えた。

ロエルはヒールを唱えてトルッポの傷を癒す。

魔物が骨の腕を大きく振りかぶってトルッポに振り下ろした。

しかしそれが命中する事はなかった。

ボクがその腕を叩き折ったから。


嫌だったけど、すかさずボクは骸骨の顔面にストレートを直撃させる。

骸骨の頭部は粉々に砕け散り、続いて肋骨の辺りに蹴りを放った。

頭部と体の欠片が辺りに散ったと思ったら、それらが少しずつ消えてやがて完全に消失した。


【リュア の攻撃! モータルゴースト に 3879 のダメージを与えた!

 モータルゴーストを倒した! HP 0/332】


「ようやく普通の魔物に出会えたね」


ホッとしているのはボクだけだったようで、特にトルッポは表情こそ

見えないけど一連の出来事に驚嘆している様子だった。

詠唱中の動作のまま、こちらを見て完全に止まっていたから。

でも剣を置き忘れてきたから、まだまだ本調子じゃない。

取りにいこうかと思ったけど、その間にあの幽霊を見失う気がしたし

さっきの少女の幽霊の件もあって一人になるのはなんとなく不安だった。


「リュア……何者……」


どう答えていいのかわからなかったのでボクには無視するしかなかった。

何者、か。

天涯孤独になってしまったボクはこれから何者になったらいいんだろうか。

でも、そこで目をパチクリさせているロエルと歩んでいければ今はそれでいい。


「今みたいな魔物が次々出てきたら面倒だよ。先に進もう」


そうごまかすと、ボク達はライトが照らす通路を進み始めた。

トルッポにボクが過ごした10年間の出来事を話しても

信じてもらえるかわからなかったから。

それにしてもさっきの少女にはボクの攻撃がまったく通じなかったのに

今の魔物に効いたのはどういうことだろう。


どうやらまだまだボクの知らない事が外の世界にはたくさんあるらしい。

この依頼を通して、少しでもわかる事があればいいな。

悩むよりは前向きに考える事にした。

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