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第11話 幽霊屋敷の怪 その1

"私の屋敷に幽霊が出るようになった。

 冒険者の方に退治してほしい。依頼人 フランソワス"


「ゆ、幽霊?」


ロエルが手に取った依頼書には幽霊退治と書かれていたらしい。ゴースト系モンスターは奈落の洞窟でも戦ったけど、剣での攻撃がまったく効かない奴までいてすごく面倒な相手だった。でも、幽霊はモンスターなのか。


「うーん、これは無理かなぁ。ゴースト系モンスターに効く魔法、まだ使えないし」

「ボク、攻撃魔法使えるよ」

「ホント?」


意外も意外、というような顔をしてロエルは依頼書とボクを見比べた。そういえばいってなかった。といってもあまり多くは使えない。すべての属性を扱えるわけではないし、せいぜい中級魔法が限界だ。そして補助や回復魔法も一切使えない。


「それじゃ、受けてみようかなぁ。私達、もう少しでCランクに上がれるみたいだし」

「そうなの?」

「なんか依頼ごとにポイントがあってね、それが溜まるとランクアップするんだって。どの依頼が何ポイントでどのくらい溜めればいいかは秘密みたい。それでさっきギルドの人が、あと少しでCランクですっていってくれたんだよ」

「そうなんだ、じゃあこれもがんばらないと」


ボク達は依頼を引き受ける事にした。でもボク達の他にも一人引き受けてる人がいた。


「先にこの方が引き受けてたのですけどね、自分一人じゃ不安だからファイターか誰かと一緒がいいっていうんですよ」

「感謝……感謝……感謝……」


【トルッポ Lv:13 クラス:マジシャン ランク:C】


そういってメガネの人が紹介したのは、ストレンジ平原の救護の時に一緒だったあのなんか怖い人だった。とんがり帽子、マフラーですっぽりと顔が覆われている。体もマントとローブで覆われていて、年齢もよくわからない。

一応、感謝してくれてるみたいだし悪い人ではなさそうだけど怖い。


ボク達は早速、フランソワスさんが待つ屋敷に向かった。初めて見る大きな建物は、すごいというよりあんなに広くして一体何をするつもりなんだろうという疑問を抱かせた。

ボクとロエルが暮らす部屋が何十個も入っている、そのくらい大きかった。

門を越えて扉をたたくと、中からおばさんが出てきた。

金色のネックレス、金色の腕輪に指輪、宝石がまばらに装飾されている目が痛いドレスを着て、極めつけに赤色の派手なセンスでぱたぱたと扇いでいる。

ボクはファッションとかよくわからないけど、あまりセンスはよくないと思った。


「あなた方が依頼を引き受けた冒険者ね。入りなさい」


プライドが高そうなおばさんは雑にボク達を屋敷に通してくれた。

二階まで付きぬけた高い天井にそこから垂れ下がるシャンデリア。

よくわからない石像にツボ、お花が広間の隅に並べられていた。

ふかふかのソファーに腰を沈めてボク達は詳しい話を聞く。


「とっとと退治してくださるんでしょ? 早速お願い」

「その幽霊はどこに?」

「知らないわよ」

「はい?」


ロエルがなんとか取り付けようとするけど、おばさんの話じゃさっぱりわからない。その時、左右に大きく揺さぶられるようにシャンデリアが突然揺れた。


「わ、わっ!」


ロエルがボクにしがみつく。トルッポは黙ってシャンデリアを眺めている。


「ほ、ほら、だからいるのよ。あなた方なら退治できるんでしょ?」


おばさんも動揺している。けれど、肝心のゴーストモンスターの姿が見えない。


「これは……モンスター……違う……怨霊……」


トルッポがぽつりと呟いた。モンスターじゃない怨霊というのは、どういうことなんだろう。そして今度は戸棚のガラスがカタカタと揺れ始めた。


「リュ、リュアちゃん」


ボクに密着したロエルはすでに泣きそうになっていた。


「もう、本当何なのよッ!」


おばさんが誰もいない空間に向かってヒステリックに叫んだ。


「と、と、とにかく、こうなったのはいつ頃ですか?」


ボクにしがみついたロエルが何とか冷静に質問した。

おばさんは興奮した様子で睨むようにボク達と向き直った。


「そんなのどうだっていいでしょ。言われた事をやればいいのよ」


「でも何も手がかりもありませんし」


「うるさいわね、つい最近よ。

 出来ないなら他の方に依頼するわ」


雑な説明をされて困り果てたやら怖いやら、ロエルはボクから離れない。

隣にいたトルッポは微動だにせずにいる。


「今夜泊まる……怨霊活発……夜……かもしれない……しれない……」


「と、とまりゅ?!」


かんだロエルは隣にいるトルッポを見た。

確かに姿が見えないんじゃ退治しようがない。

夜になればそれが解決するかはわからないけど、今のままじゃどうにもならないのでボクはその案に乗った。

ロエルは頑なにボクと一緒の部屋がいいといったけど、トルッポは黙って隣の部屋に入っていった。

部屋にはちょうどベッドが二つあって、壁にはどこかの風景が描かれた絵がかかっている。ここだけでもボク達が住んでいる部屋より広かった。

夕食はおばさんが用意してくれるようだ。

一息ついてベッドに腰をかけるとロエルがまたしがみついてきた。


「リュアちゃん、おトイレいきたくなったら一緒にいこうね、ね」

「いいけど、ぐっすり寝ているかも」

「そんなこといわないの!」


ニッコリして少しからかったら怒られた。

そんなやり取りをしていると、ドアがノックされた。


「ちょっと……」


ドアをあけるなり、スーッとトルッポが入ってきた。

存在感がなさすぎて、幽霊よりよっぽどこっちのほうが怖い。


「話……まとまった考え……話す……」


部屋のイスに腰掛けてトルッポは続けた。


「婦人……これだけ広い屋敷……使用人……いない……一人暮らし……?」


「そ、そういえば変だよね、結婚してないのかな」


ロエルが部屋の中を見渡す。他にもたくさん部屋があったけど何に使うんだろう。それに入ってきた時は気づかなかったけどなんだか埃っぽい。

掃除はしてないのかな。


コンコンコンコン


また誰か来たようだ。

おばさんかな? でも夕食にはまだ早い。


「はーい」


ロエルがドアに向かって返事をするけど反応はなかった。

ドアを開けても誰もいない。


「や、や、やっぱり変だよこの屋敷!」


そういって何かとボクに飛びつくロエル。

悪い気はしないけど、今のところボクにもどうしようもない。


「複数……いる……」


また何か言い出した。断片的に話すので今一聞き取りにくい。ロエルには悪いけど、このままこうしていても何も解決しない気がするので屋敷を探検しよう。


「ロエルはどうする?」


この世の終わりみたいな顔をしてしばらく黙ったけど一人でいるよりはマシだと思ったのか、付いてくる事にしたようだ。

部屋の外の廊下は左右に伸びていて、それぞれボク達がいたような部屋がある。

二階にあるのはせいぜいそのくらいでお風呂やキッチンなんかはすべて一階にあった。

一つずつ部屋のドアを開けてみようとしたけど、どれも鍵がかかっている。

階段を降りて初めにおばさんと話したリビングにいくと子供サイズの人影が、風呂場へ通じる曲がり角にパタパタと音を立てて消えた。


「今のっておばさんの子供かな? 一人暮らしじゃなかったんだ」

「リュアちゃん、怖い事言わないで……」


だからボクに密着されても、どうにもならない。ぐいぐいと引っ張るロエルを引きずるように曲がり角へいくと通路の先に脱衣所のドアがあるだけで誰の気配もしなかった。

脱衣所を見るとボク達が住んでる部屋と同じくらいの広さがあった。

これだけの広さを何に使うんだろうか、やっぱりボクにはそれしか感想が出てこない。


「何もないね。そっちのお風呂場にも」

「も、もういいよね、ね」


ここまで怖がらせてしまうならこの依頼はやめておくべきだったか。

と思ったけど、選んだのはロエルだった。しかし、今のところどうしていいのかまったくわからない。

てっきりゴースト系モンスターが現れたのかと漠然と思ってたけど事情が違いすぎる。

こんな不透明な事件をDランクのボク達で解決できるんだろうか。

依頼書には特にランクの指定がなかったところをみると適正なのかもしれないけどさすがに相手が出てこないんじゃ、やりようがない。


「なんだか思ったより難しそうな依頼だね」

「あのね、あの時はそんなに気にしなかったけどね。依頼書の日付が1年前になってたの」

「それってどういうこと?」

「つまり1年前から誰も引き受けてない、もしくは解決できてないって事になるかな……」

「そうなの? そんなに難しいならAランクの人にやってもらえばいいのに」


ランクの指定は特になかったと答えるロエル。

ランクは依頼人が指定する場合もあれば、ギルドの裁量で決められる事もあるらしい。おばさんが指定したのか、ギルドなのか。

ふと、目をやると更にドアがあった。

トイレはあっちみたいだし、それじゃこのドアはなんだろう。開けてみようとしたけどノブが回らなかった。

錆ついているのかな、ボクはえいっと力を込めた。

ガコンという音がしてドアノブが外れて、ついにはドアそのものまで外れてしまった。


「あ……」

「リュアちゃん……」


もしかして、いやもしかしなくても壊してしまった。さっきまで怯えていたロエルが呆れた表情になっていた。


「鍵、かかってたんじゃ」


ロエルの呟きを聞かなかった事にしてボクはドアの先に続く下り階段を見る。さっきまでの洋風な作りとは打って変わって、コンクリートの階段が闇の先へ続いていた。


「も、物置かな」


ボクから離れない事を忘れないロエルはいくないくなとボクを引き戻そうとする。好奇心を抑えられなかったボクは階段を降りてみる事にした。

明りもない暗闇の階段を一歩ずつ、降りていく。

コンクリート作りの通路を抜けた先にはまたドアがあった。

さっきみたいに鍵はかかってなかったけど、たてつけが悪いのかなかなか開かなかった。


「リュアちゃん、やめようよ……勝手に入ったら怒られるよ」

「でも、もしかしたら幽霊がここにいるかも」

「そこで何してるのかしら」


見上げると階段の上におばさんが立っている。婦人というより鬼人といった表情でボク達を見下ろしていた。

魔物図鑑

【謎の怪物 HP 445】

リュア達が住む町に突如現れた正体不明の怪物。

成人男性よりも大きく、恐ろしく俊敏で熟練の冒険者パーティで

なければ一瞬で壊滅させてしまうほどの実力。

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