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第10話 謎が沈んだ夜

「おぉー! これだけあれば当分困らないよー」


大量の水が入った容器をパブロに見せると、上機嫌で他のスタッフと一緒に

奥に運んでいった。


「んんー、それにしてもパワフルな女の子だよー。とてもDランクとは思えないよー」

「あ、ありがとう」


パブロはボクの周りをぐるぐると回り、頭から足先まで視線を這わせた。

恥ずかしくなってボクはその輪から外れた。


「報酬にはかなり色をつけておくよー。ところで君達、飯はまだ?

 よかったら食べていくといいよー。もちろん無料だよー」


お腹の音がなりそうだったボクは飛びついた。ロエルは少し遠慮していたけど、やっぱり空腹には勝てなかったようだ。ボクは唐揚げランチ、ロエルはギュウドンというものを頼んだ。

見かけによらず、ロエルは大食いだった。

遠慮していたのにも関わらず、ギュウドンの他にサンドイッチとパスタまで平らげた。さすがにパブロもこれには驚いていた。

ギュウドンというのは遠い島国の料理らしい。

この店は他国の料理から何まで幅広くカバーしているとパブロが自慢していた。


「おいしかった、ご馳走様」

「すみません……つい我慢できなくて」


顔を上げないまま、ロエルは食べ過ぎた事を謝罪した。

その前には米粒ひとつない綺麗な丼とソースがほとんどついていないお皿があった。


「いいよいいよー、有望な冒険者にはたくさん食べてパワーをつけてもらわないと」

「そういえば、パブロさん。あの洞窟でコブラの魔物と戦ったんだけど、あれはフロアモンスターというやつ? 確かにあんなのがいたんじゃ、危ないよね」

「コブラ?」


きょとんしてパブロは腕を組んだ。


「長年、いろんな冒険者にあの依頼を請け負ってもらったけどそんな話は聞いた事がないよ」

「えっ、じゃあ違うんだ……あの魔物はどこから来たんだろう?」

「君達、そいつを倒したのよー?」

「うん」


「あー、うっかりしてたよー。そんなのがいるなら今度からはCランク以上……いや、Bランク以上の冒険者に依頼しないと。でもそうなるとその分出費が」


パブロはブツブツ言いながら、腕を組んだままうろうろした。


「でもそんなのも倒しちゃうなんてすごいよ君達。うん、気に入ったよ。だからこそ」


そう区切ってパブロは真剣な顔つきでボク達を見た。


「死ぬなよ。おじさんはこれまでいろんな冒険者を見てきたよ。昨日までここで楽しそうに飲んでいた冒険者が次の日には帰らぬ人になったなんてもう見たくもない」


パブロは苦い顔つきでそう話したけど、帰りには笑顔でボク達を見送ってくれた。外ではすっかり日が沈みかけていた。

報酬は600Gだった。本当は300Gのはずなのに本当に色をつけてくれたみたいだ。ギルドの鉄の箱でロエルがレベルを計ると、小さくガッツポーズをして出てきた。


「レベルが一気に5になってた」

「すごい! でもなんで2も上がったんだろう?

 魔物はボク一人で倒してたのに」


あのコブラを叩いたおかげかな、そんなわけないか。


「おまえら、パーティ組んでるんだろ? それなら一緒に経験を積んでるってことだからどっちかが魔物を倒してもいいんだよ」


隣の鉄の箱からオードが出てきていた。ボクはあまりこの人の事が好きになれない。この前の救出の時も、この人は何もしてない上に迷惑までかけた。

ガンテツとボクがいなかったら死んでいたのに反省しているんだろうか。


「そのかわり、一人で経験を積んだ時よりも効率は落ちるけどな。

 だからオレは一人なのさ」


単に誰も組みたがらないだけなんじゃとボクは勘ぐった。


「そういえばレベルが5になったって?

 オレもあれから地道にがんばってよ、今はやっと6だ」

「あはは、私より高いなぁ」


ロエルがおどけてみせる。こんな奴を調子に乗らせなくていいのに。


「さて、あと少しでCランクに上がれるぞ。おまえらもがんばれよ」


あばよ、とオードは部屋を出ていった。気に入らない奴だけど、いい情報を得られたのでよしとしよう。


///


部屋に帰ると早速お勉強を始めた。


「えっと、これは ろ?」

「そう、ロエルの"ろ"」


ボクは少しずつ文字の読み書きを始めた。ロエルが優しく教えてくれるのですごく助かる。でも間違えると


「めっ! "え"はこれ」


怒られる。ボクはどうも勉強というものが苦手らしい。5分もしないうちに眠くなるなんてしょっちゅうだ。そのたびにロエルに「めっ」されるんだけど。


「ロエル、ボクには無理かも……」

「大丈夫だよ、ポイズンサラマンダーを倒すよりずっと簡単だから」


励ましのつもりで言ってくれたのだろうけど、励ましになってなかった。

睡眠耐性があるボクに眠気を誘ってくるんだから、こっちのほうがよっぽど手強い。


気がつけばもう深夜だ。

そろそろお風呂、の前にお風呂上りに飲むジュースがほしい。

確か近くにお金を入れたらジュースが出てくる鉄の箱があったはず。

ギルドにあるレベルを計る機械もそうだけど、確かこれらはメタリカという

国で作られてるとロエルに教えてもらった。

その国では機械の乗り物が空を飛んでたりするらしい。

いつか行ってみたいけどここからすごく遠い上に、お金もない。


外に出ると気持ちのいい夜風がふいてきた。道沿いの建物には明りがまばらについている。

皆、何をして過ごしてるんだろうか。


「確かあの辺に……あった」


早速お金を取り出して飲み物を選ぶ。まずはロエルに頼まれたりんご……

販売機の横でうずくまっている人がいた。


「あの」


声をかけてみるけど反応がない。

寝ているのかな。ボクはゆすってみようとして手を伸ばした。

その刹那、その人は顔を上げるなりボクの腕に食いつこうとして飛び掛ってきた。

間一髪でバックしてかわすと、その人は逃がすまいとして更に飛び掛る。

いや、人じゃなかった。

全身が体毛に覆われて、うずくまっている時は気づかなかったけどボクの身長より頭4つくらい大きい。


【謎の怪物 が現れた! HP 445】


口からは伸びきった牙が生えていて、丸い目は血走っている。


「オ……オォォォ……!」


唸り声をあげて怪物は長い腕を振りかぶりながら、ボクをしつこく追撃する。なかなか捕まらないボクを翻弄しようと怪物は飛び上がり、建物の壁を蹴って左斜め空中から強襲した。

後ろに下がってかわすと、怪物はすかさず左足で回し蹴りを放った。

素早い動きで、ボクへの攻撃を外してもすぐに迷うことなく次の動作に移る。

こんな魔物がなんで町の中にいるんだろう。

そんな事を考えても答えが出るはずもないのでボクは退治する事にした。

騒ぎになったら大変だ。

武器は持っていないけど、やるしかない。

怪物が腕を突き出して攻撃してきた瞬間、その腕を捕まえたまま右手で

お腹を殴った。

怪物の胴体が上下に千切れる。


【リュア の攻撃! 謎の怪物 に 3529 のダメージを与えた!

 謎の怪物 を倒した! HP 0/445】


絶命して地面に落ちた怪物を眺めていると、遠くから複数人の影がこちらに走ってきた。

3人の男の人だった。全員が鎧を着て武装している。

そのうちの一人が怪物の死体とボクを見比べた。


「まさか君がこいつをやったのか?」


短く刈り上げた金髪、吊り目で面長な顔立ちをした男の人だった。

吊り目を細めてボクを見つめている。

ボクが静かに頷くと、他の二人が怪物の死体を手早く布か何かでくるみ始めた。


「丸腰で……か? 信じられん……」


何か聞こうと思った時、それを封じるかのように男の人はボクに何か握らせた。


「今日の夜見た事は忘れるんだ」


そういって3人は夜の闇に消えていった。

もちろん、あの怪物の死体もここにはもうない。

何がなんだかわからず、ボクは手を見るとそこには1000ゴールドが握られていた。

魔物図鑑

【貪欲なる大コブラ】

毒はないが、大人でも丸呑みにする凶暴なコブラ。

その素早い柔軟な動きは戦いに慣れ始めた程度の未熟な冒険者では

捉えられない。

締め付けの力も強力で、丸太をも砕くほど。

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