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プロローグ 最下層で待ち受けるもの

 ついに地下100階。

どのくらいかかっただろう。子供の頃は小動物みたいな魔物にさえ勝てなくて、それどころか何度も殺されかけた。その辺に落ちていた木の棒でなんとか叩いていたのがなつかしい。

 まだ村があった頃、何かにつけて女の子なんだからと言われ、魔物と戦うどころか村からも出してもらえなかった。その頃は子供だったし確かに外は危険だから当たり前ではあったけど。今はそんな日々からは考えられない毎日が続いてる。


村が焼かれたあの日から、フラフラに歩き続けて気がつけばこの洞窟の前にいた。普通に考えれば死んでいたと思う。ここまでこれたのはなんでだろう、よくわからない。やっぱり生きるのに必死だったからかもしれない。


 この階段を降りれば最下層に待ち受けている奴がいる。どんな相手だろう? 90階で戦った巨大な蛇は恐ろしく素早かった。螺旋を描くようにグルグルと高速で回り、周囲の壁を綺麗に削り取るように何もかも飲み込んでいく。思い出しただけでも、身震いする。

 今度の相手は逆に麻痺や毒など、状態異常を得意とする奴かな。状態異常は完全に怖くない、そんなものボクには効かない。文字さえ読めないボクが最初に得た知識が状態異常というものだ。どうやって知ったのかは覚えてない。


「まさかヒトがくるとは」


 階段を降りた先には白いヒゲを生やしたお年寄りがいた。一瞬驚いていたけど、おじいさんはすぐに目を細めて優しそうに微笑んでいる。人だ、人がいた。長い間、人と話した事なんてなかったのでなんて喋っていいのかわからなくなる。


「君は当然、ワシを知らんだろう?もうあれからどれだけ経ったかわからんからなぁ。100年程度しか生きられない人間だものな」


 何を言ってるんだろう。それより階層ボスはどこにいるんだろう。いつもある程度降りると、そこには普通の魔物よりも強力な魔物がいた。今度もいるはずなんだけどまさか。


「さてさて、ワシをこんな地の底に追いやった忌々しい人間はもういまい。そろそろ頃合じゃと思っておった。適当に数百年過ごせばもうあの勇者一味は寿命で死んでいなくなってるはずじゃ」


 おじいさんの体がみるみる巨大になっていく。肩から角が、頭からも角が、肌の色はドス黒く変化した。細い腕が血管が浮き出るほど何倍にも膨れ上がり、目は赤黒く変色する。ボクの体の2倍近くはありそうな魔物になった。

 雄叫びと共に魔物から放たれた風圧が周囲の壁や柱を消し飛ばす。一瞬ボクも吹っ飛びそうになったけど、なんとか耐えた。


「私は破壊の王。かつて世界を滅ぼし、支配し、生きるものすべてに絶望を見せた時代があったのは知っているだろう。先程の老いぼれの姿は奴らの王として君臨していた時の姿だ。人として支配し、絶望を築き上げた時のな」


 破壊の王とかいうのが一歩こちらへ踏み出した。さっきから何を言ってるのか全然わからない。


「宝があるとでも思ったか、残念だったな」

「いや別に」

「ここにあるのは絶望と死のみだ。だが安心しろ、なるべく苦痛を与えぬよう努力する……かぁッッ!」


【破壊の王ヴァンダルシアは カタストロフ を唱えた!】


 次々と光の球体が空中に現れたと思ったら順に肥大して破裂した。それは爆発というより消去といったほうが近い。球体が飲み込んだ床や柱などの障害物はえぐられるように球型に消滅していた。逃げるボクを追うように後ろでは球体が列を作って順次出現する。そのまま破壊の王を目指すが目の前にも球体が現れ、進路を断たれた。

 ボクは破裂する前の球体の下を転がって抜けようと試みたけど、破壊の王が不敵な笑みを浮かべていたのを見て嫌な予感がした。


「愚策だな」


破壊の王が指をくいっと手前にひく動作をしたと同時に球体が破裂。自動ではなくて好きなタイミングで破裂させられるのかと気づいた時には遅かった。破裂した球体は転がりぬけたボクの肩の肉を、奪い去る。一気に血が噴出して激痛が走った。


【リュアは 9321のダメージを受けた!】

【リュア HP 31129 / 40450 】


 かなり鍛えたのに、あの球体はそんなものお構いなしにすべてを奪えるのか。ゾッとしてる場合じゃない、これ以上あの球体が増えたら本格的に逃げ場がなくなる。


「ソニックリッパー!」


【リュア は ソニックリッパー を放った!】


 一振りの斬撃が床を破壊しながら破壊の王に向かう。遠距離攻撃だから多少威力は落ちるけど、防戦一方よりマシだ。


「ほう……」


 何か感心した様子だったけど、破壊の王はゆっくりと手をかざして自分を目指す斬撃の前に球体を出現させる。斬撃は球体の破裂と共に消滅した。


【しかし 破壊の王ヴァンダルシア はダメージを受けない!】

【破壊の王ヴァンダルシア HP 320000/320000 】


 ダメだ、接近戦しかない。手持ちの魔法をいくつか試そうと思ったけど、多分同じようなパターンでキリがない。あの球体の威力は絶大だけど、破壊の王だって巻き込まれたら無事じゃ済まないはず。だから、接近戦なら容易にあの球体を作れない。状況は思ったより深刻だ。

 さっきのダメージが利き腕の肩だったら終わってたところだから。さすがは最下層のボス、95階のボスを瞬殺できたからいけると思ったけどこいつは段違いで強い。

 ボクはちらりと左方向に目線を移した。思ったとおり、破壊の王はそちらに球体を出現させる。目線はそのままでボクはこの瞬間、足が千切れても構わないくらい力いっぱい逆方向を駆けた。今までのスピードを想定していた破壊の王は反応が遅れる。

 剣を前に突き出し、少しでもあいつに届くように地を蹴る。避けようとした破壊の王のわき腹をえぐる。間一髪でかわした、とまではいかないようだった。


「ぐあぁぁぁッ!」


【リュア の突進攻撃! 破壊の王ヴァンダルシア に 128455 のダメージを与えた!】

【破壊の王ヴァンダルシア HP 191545/320000 】


「グ、グファッ…!」


 破壊の王は膝をつきそうになりつつも、向かうボクを迎撃しようと巨大な腕から何かが放たれた。


【破壊の王ヴァンダルシア の手から 無数の刃 が放たれた!】


 ここで逃げたらまたさっきと同じ状況になる、迷ってる暇なんかない。出来るだけ叩き斬りつつ、ボクはダメージ覚悟で突進。漏らした刃がボクの体を斬りつけた。


【リュア は 3292 のダメージを受けた!】

【リュア は 2010 のダメージを受けた!】

【リュア は 850 のダメージを受けた!】

【リュア は 1241 のダメージを受けた!】


【リュア HP 23736 / 40450 】


「とおおりゃぁぁぁぁぁッ!」


 95階で手に入れたこの剣で、破壊の王の突き出した腕を真っ二つに斬り裂いた。そして間髪いれず胴体を一閃する。


【リュア の 攻撃! 破壊の王ヴァンダルシアに191546のダメージ!】

【破壊の王ヴァンダルシア HP 0/320000 】


「油断した……こ、この私がこんな……勇者でも……ない小娘に……うぼぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


破壊の王の腕や胴体の斬り口から光と爆音が放たれた。どうやらこの武器の追加効果らしい。


【破壊の王ヴァンダルシア を倒した!】


 爆発の後には何も残らなかった。後ろに下がってなかったら、自分も巻き込まれて危なかったかもしれない。


「か、勝った…」


【リュアは 999999 の経験値を獲得!

 リュア のレベルが 2216 に上がった!】


「あー、ということは」


 地下100階制覇。自分でも信じられなかった。このダンジョンのデンジャーレベルがいくつなのかはわからないけどボクは生まれて初めてダンジョンを攻略した。子供の頃、絵本でしか知らなかったダンジョンというものをついに……


「や、やった……やったぁ!」


 飛び跳ねたくなるくらいうれしかった。いや、飛び跳ねた。泣きそうなほど体中が痛いけど。奥に鎮座していた宝箱の存在に気づかないほど、ボクは舞い上がる。お父さんやお母さん、クリンカに見せてやりたかった。


でもそれが叶わないのは十分にわかっていた。

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