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メイドは剣士と準備し、勇者は目覚める。

 キールは苦虫を噛み潰したような表情で、目の前に横たわるエースを見ていた。

 その光景をシルビアとサーニャが、お茶を飲みながら横目に見る。

 シルビアは苦笑といった感じで、サーニャはいたって普通だ。


 結果的に言えば、勇者の調教は失敗に終わった。


「ハァハァ///」

「……やりすぎたか」


 僧侶の呟きにはシルビアが初めて見る、焦りが見え隠れしていた。


「キール様。いつもの調子で調教されては、こうなるのも当然かと。あれは魔物用であって人用ではありませんので」

「勇者なんて人じゃないようなもんだろ。だから大丈夫だと思ったんだがな」

「もっと罵倒してください!」

「一応は人だったと言うことでしょう」


 魔物用の調教とは何なのか、シルビアには非常に気になるところだが、今はそれ以上に確認しとかなければならないことがある。


「キールさん。エース使いものになるんですか?」

「当たり前だ! 俺は勇者だぞ!」

「ああ、それは問題ねぇだろ。多少性癖が変わったからむしろ強くなったんじゃねぇか」

「それは傷を付けられても喜ぶから、ということでいいのでしょうか……」


 先ほどから会話に挟まってうるさかったエースを、キールは蹴って気絶させた。


 多少で済むかは分からないが、勇者はMに目覚めた。

 Mそうマゾヒズム。

 肉体的苦痛や精神的苦痛を性的快感に置き換え、性的興奮を覚えることのできる人間だ。

 苦難を乗り越えて栄光をつかむような英雄タイプの人間には、最適な性的嗜好と言えるだろう。

 勇者ももちろん英雄の括りに含まれるのだから、ある意味強くなったと言うのは正しい。


「まあ、こうなっちまったもんはしかたねぇ。幸い俺の命令には従順になったからな。当初の予定通り、明日には出発できるだろ」


 勇者の調教が始められて今日で一週間。その間、シルビア達は教会で寝泊まりしていた。

 食料は教会の備蓄や、村人たちの寄付でずいぶんと余裕があったが、そろそろ旅立たねばいけない。そのため、寄付をくれた村人にはその事を説明し、これ以上寄付を持ってこないように言ってある。


「そういや、明日からどこに行くか聞いて無かったな」


 シルビアはサーニャにはすでに伝えていたが、教会の地下室にこもってエースの調教をしていたキールにはまだどこへ向かうか行っていなかった。

 シルビアは確認の意味も込めてサーニャ同席で、もう一度説明することにする。


「今後私たちは南へ向かうことを目標としています。先読みの魔女様の預言でキールさんに会えたように、今後も魔女様の預言をあてに行動していくつもりです」

「そうか、なら一回王都まで戻るのか?」

「いえ、この村に来る前に立ち寄った村から南へ続く通商路があります。そこから南下していこうと考えています」

「そういうことなら異議は無い。なら荷物はその村に着く分の食料を持っていけばいいな」

「そのことですが、出来るだけ多くお願いします。以前寄った時、その村は魔物に襲われた後でした。私とエースで襲った魔物は駆除しましたが、蓄えを使って冬を越すのはギリギリと言ったところです。なのでこの村で補給をするのは難しいと考えています」

「出来るだけ多くつっても、教会にある備蓄はあらかた無くなっちまってる。サーニャ保存食後何日分ある?四人で食ってだ」

「三日が限界と言ったところだと思います」

「だそうだ。ここから持ってけるのは三日分。後はどうする?」

「通商路は森沿いに続いてるとのことなので、そこで動物を狩るしかないかと……」


 魔物や動物対策になるべく開けた所に作られることが多い通商路だが、この周辺はどこもかしこも森ばかりで、草原が無い。

 そのため通商路も森の木を切り倒して作った道になっている。ならば森の動物も近くにいるだろう。

 シルビアとエースは、ここに来るまでも何度か野宿はしたし、動物を狩って食べ物を手に入れたりもしていた。

 これも騎士団で訓練したことだが、実際に使う機会があると、本当に覚えておいてよかったと実感していた。


「だいたいは分かった。サーニャも把握してるみてぇだし問題ないだろ」

「ではこの予定で行きたいと思います。明日は明朝出発でいいでしょうか?」

「問題無い。ウジ虫にはシルビアから言っとけ。俺が言うとまたトリップしかねん」


 キールの苦渋にシルビアは苦笑した。


「分かりました。エースには私から伝えときます」

「頼んだ。俺はやることがあるから行くぞ。サーニャ準備は任せる」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 そう言ってキールは教会から出て、村の中心に向かって行ってしまった。


「キールさん用事ってなんだろう?」

「村に結界を張るんですよ」

「結界?」

「はい。現在この村は高齢者ばかりであまり若い人がいませんから、もし魔物が来た時のために魔物避けの結界を張るんです」

「でも村の人は魔物なんて全然いないって言ってたわよ?」

「それはキール様がいたからですね。悪魔と契約していたキール様がこの村におられたので、その気配に魔物達が近寄って来なかったんです」


 その説明でシルビアはようやく納得した。

 魔物は悪魔より下位の存在だ。

 悪魔がいれば、その近くに魔物が寄ってくることは無い。

 だからキールが来てから、何もしなくても魔物達はこの村を襲うことは無かった。

 だが、キールが村から出てしまえば、じきに悪魔の気配も薄くなってゆく。そうした時に魔物達が戻ってくるのは明白だ。

 キールは今それの対処法として、村に魔物避けの結界を張りに行ったのだった。


「キールさんって言葉遣いとか態度とか怖いけど、結構いい人だよね」

「私の主人ですから」


 サーニャはそう言ってほほ笑んだ。

 それにつられてシルビアも笑った。

 二人の視界の隅にある、ボロ雑巾の様になった勇者を見なかったことにして。


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