勇者は剣士と旅をつづけ、メイドに会う。3
教会の中は、王都にあるものとさほど変わらない内装だ。
小さい分、席数は少ないが、正面に聖母ホーライトの像が飾られ、その前に聖職者が立つ台が設置されている。
横には小さなオルガンがあり、奥には扉がある。その奥がおそらく聖職者用の居住区になっているのだろう。
「誰かいるか?」
エースの声が教会に反響する。
「すみませーん」
シルビアも声を上げるが、それも反響するばかりで人が出てくる気配は無い。
「どうするかな」
「奥にいるかもしれないし、私ちょっと見てくる」
「わかった。俺はここで待ってるわ。誰か来るかもしれないし」
「了解」
シルビアは、奥にある扉の前に来た。
ノックをする。
特に反応は無い。
もう一度。
それにも反応は無い。
「しつれいしまーす」
扉も前で突っ立っていてもしょうがないので、恐る恐る扉を開いた。
中は小さな応接室になっているようだ。
真ん中に簡単なソファーとテーブルが置かれている。
さらにその奥にも扉が会った。
静かすぎる教会に少し恐怖しながらも足を進める。
そして声が聞こえた。
声は奥の扉から聞こえる。
だが、その声はしゃべり声ではない。
(ん…あっ!……ん!んん!…あっ!)
女性の声だ。そしてその息遣いは荒い。
いや、荒いと言っても疲れて乱れているわけではない。
(ん…んんん!)
シルビアはその声を聞いた瞬間、扉の奥で何が行われているのか想像してしまった。
そして顔を真っ赤にする。
そして静かにまわれ右をした。
これ以上先に進む訳にはいかない。今行けば、確実に取り返しのつかない状態になる。
そう思って、シルビアはこっそりと部屋を後にしようとした。
しかしその時、入ってきた扉から今一番来てほしくない人物が現れた。
「シルビア誰かいたムグッ!」
その顔が現れた瞬間、シルビアはすでに動いていた。
エースがしゃべりきる前に口を押さえ、全力で部屋から押し出す。
その際足音がひどく出てしまったが、気にしてる場合では無かった。
「なにすんだよ!」
外に出て、エースを開放すると、案の定文句を言ってきた。
「あの奥に人がいたのは間違いないわ」
「なら何で逃げたんだよ! さっさと行けばよかっただろ!」
「それができたら苦労しないわよ」
声を聞かなかったエースには理解できないことだろうと思いながら、シルビアは教会を見る。
もう一度行くべきか、出直すべきか……
だがその考えは杞憂に終わる。
「どうかなさいましたか?」
教会から一人の女性が出てきた。
その姿に二人は目を奪われる。
黒髪は肩甲骨辺りまでふんわりとウェーブを描きながら伸びている。瞳は赤く、その視線は真っすぐに二人を捉えていた。
そして最も特徴的なのが、教会から出てくるには異質すぎるその服装。
「メイド?」
青を基調にしたエプロンドレスは紛れも無くメイド服と呼ばれる、その業界の人物しか着ることのないだろう服装だった。
「はい、メイドのサータニアンと申します、呼びにくいですのでサーニャとお呼びください。ところであなた達は見たところこの村の人達では無いようですが?」
サータニアンは丁寧に名乗り、二人に疑問を投げる。
「俺は勇者のエースだ」
「私はシルビア。剣士をやってるわ」
「勇者様と剣士様でしたか。それでこちらにどのような用件で? この村には見た通り特に何もありませんが」
サータニアンは二人の近くまで来ると、さらに疑問を投げる。
シルビアはその表情から、自分たちが教会の中に入っていたことを知られていないと思い安堵した。
「私たちは預言者さまに言われて、旅の仲間になる僧侶を探しているの。その僧侶は、王都から真っ直ぐ東に向かうと会えるとお告げにあったのよ」
「そういうことでしたか。それならばその僧侶とは、私の主のことかもしれません」
予想外の言葉に二人が驚く。
思わぬところから僧侶の情報が入ってきた。
「サーニャさんの主が僧侶なの?」
「回復系の魔法を使え、教会の聖職者を務めておりますので、一応はそのように部類されるかと」
「なら一度会ってみたい!」
「分かりました。では中に入ってお待ちください」
サーニャは二人を教会の中に促す。
それに従って、先ほど飛び出してきたばかりの教会の中に入って行った。
応接室に通され、お茶を出してもらい、そこでしばらく待つように言われた。
なので二人は大人しく、そこで待つ。
サーニャがお茶をエースの前に置き、シルビアの前にも同じように置いた。そしてサーニャは何故かシルビアの耳もとの口を寄せてくる。明らかに内緒話の時のスタイルだ。
「どうかした?」
シルビアはそれに対応して、小声でサーニャに話しかける
「勝手に部屋に入るのはあまり感心しませんよ? 私も主も特に気にしてはいませんでしたから無視しましたが、あのまま居続けたら私も対処を考えていましたので」
その言葉を聞いたとたん、シルビアは顔からサーっと血の気が引くのが分かった。
バレている。しかも完璧に。
そしてその言葉から察するに、サーニャは別の場所からシルビアを見ていたのではなく、あのあえぎ声のする部屋にいて、自分のことに気づいてた。しかもその主もセットで……
「ご……ごごご……ごめんなさい!」
「うわ! なんだ!?」
突然大声を出したシルビアにエースは驚き、持っていたお茶を落としそうになる。
「フフ。さっき言った通り気にしていませんよ。では主を呼んでまいりますので少々お待ちください」
サーニャは二人に一礼すると、部屋を出て行った。
「何だったんだ?」
エースは出されたお茶を飲みながら、シルビアに大声のことを聞く。
「な……何でもないわ! 気にしないで!」
「明らかになんかあるだろ、それ」
「なんでもないったらなんでもないの!」
シルビアは大きく顔を振りながら、ひたすら黙秘を主張した。