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魔城上層。連戦と魔王5

 立っているのはシルビアだけだ。ホゾはその足元に両腕をすべてなくした状態で倒れている。

 もはや戦う力が残っているようには思えなかった。

 だがシルビアは油断しない。

 プロメテウスで確実にとどめを刺す。少しでも生き残り王都を襲われる可能性をなくすために――

 ホゾの首が飛び、地面に二つ目の血だまりができる。


「次が最後……」

「その状態で私に勝てるとでも?」


 左腕は肩と手首の骨が砕け血が溢れだしている。ホゾに持ち上げられた際に右腕も圧迫され内出血がひどい状態だ。カーキに殴られた脇腹はすでに痛いという刺激すらなくなっていた。

 口元から血を垂らしているのは口内を切ったからではなく内臓が傷ついて吐血したからだ。

魔力の暴走に巻き込まれた際に全身にやけどを負っている。立っていられるのが不思議な状態の怪我だ。

 しかしシルビアは言う。


「問題ない。確実に殺す」

「そこまでですよ、シルビアさん」

「……なんで? まだ殺してない」

「これ以上戦われては死にます。それは私の役目に反するので」

「じゃあこいつは? サーニャさんが殺さないなら私は戦うわよ」

「しょうがないですね……」


 少しあおり方を間違えたかと思いながら、サーニャはため息をつく。

 そして腕を一振りした。


「えっ?」


 声が出たのはジールだ。だがそれがジールの最後の言葉になった。

 ジールの上半身と下半身が分かれ、その場に崩れ落ちる。

 それだけで複腕持ちは死んだ。


「では治療しますので、しばらく動かないでください」


 今度はシルビアに手をかざし、詠唱を唱える。


「事象を奪い、世界を嗤え。過去の記憶パスト・リメンバランス


 詠唱の完成とともに、シルビアの傷がみるみるうちに回復していく。

 それは正確には回復ではない。

 神聖魔法の回復魔法がかけられた者の代謝を増幅させ自然治癒を早めるのだが、サーニャのかけた魔法は過去の復元だ。

 過去の姿をそのものから読み取りその姿で復元させる。

 この魔法があるからこそ魔王は簡単に死なないのだ。


「ありがとう」

「いえ、勤めですので」

「そうだったわね」


 自分の手や脇腹が完全に元通りになったのを確認しながらプロメテウスを背中に背負いなおす。


「じゃあ、上に行きましょうか」

「いえ、ここでキール様を待ちます。この上は魔王の間になっていますので」

「そう。なら少し寝るわ」


 言うや否や、シルビアは地べたに座り込みそのまま横になる。

 先ほどまでの無理な戦闘は、体以外にもシルビアを蝕んでいた。

 そして戦闘が終わり、完全に怪我がなくなったことで緊張の糸が切れ、どっとそれが表面化したのだ。


「お疲れ様でした」


 死んだように眠るシルビアを見下ろしながら、サーニャはそっとつぶやいた。


   ☆


「シルビアはどうかしたのか?」

「疲れて眠っているだけです。そろそろ起きると思いますが」

「そうか。どうだった?」


 うっすらと覚醒する意識の中会話が耳に入ってくる。

 それはサーニャと合流したキールのものだった。


「おそらく大丈夫ではないかと。途中怪しいところがありましたが許容範囲だと思われます」

「そうか。よくやってくれた」

「いえ」


 キールが合流したのだから行かねばならないとシルビアは体を起こそうとする。


「うっ……」


 起こそうとしたところで体がきしみうめき声が漏れた。

 その声を聞いたキールがシルビアの方を向く。


「目が覚めたか」

「どれぐらい寝てたの?」

「三十分ほどです」


 ほんの三十分。なのに半日以上眠った時のように体が固まっている。無理な姿勢、しかも剣を背中に背負ったまま石の上で寝ると言う暴挙に出た弊害だろうか。

 そう考えながら少しずつ自分の体をほぐしていく。


「他の皆は?」


 シルビアは外の戦闘の音が少ないのが気になった。

 エースやトモネは城から離れたところで戦っているから仕方のないことかもしれないが、カズマはすぐそばの城門で戦っているはずだ。

 それなのに音が聞こえないのは戦闘が終わっているということだ。


「カズマは死にかけていたからな。魔法かけて階段のところで休憩させている。動けるようになったらエースたちに合流するように言ってある」

「そう、なら私たちだけで魔王の間に行くのね」


 体をほぐし終わり、今度は温めるため簡単にその場で体操を始める。


「そうだ。準備ができたら行くぞ」

「わかったわ」


 プロメテウスを引き抜き、戦闘態勢で奥にあった扉から部屋を出た。

 部屋を出るとすぐ目の前が階段になっている。そこから最上階へ上がるのだろうとあたりをつける。

 シルビアが敵の気配探るが、何も感じない。

 ホゾのように魔術を使って隠れている可能性もゼロではないがサーニャやキールが何も言ってこないということはいないのだろう。

 無言で階段を上っていく。

 暗い階段は、ひんやりとしており湿気が多い。そのせいか、階段にはコケが生えすべりやすくなっていた。

 慎重に進んでいくと先ほどのドアとは比べ物にならないほど大きなドアが見えてきた。

 豪華に金で装丁された枠や、きらびやかな取っ手。ドアに書かれた美しい女性の絵。

 そのどれもが魔王城に入ってから見たものとは一線を画している。


「この先ね」

「行くぞ」


 おもむろにキールがシルビアの前に出る。

 そして片足を上げ、ドアを蹴りつけた。

 ダンッ!

 激しい音がして扉が開き、部品が飛び散った。

 蝶番が壊れたのか、扉の片方がバタンと倒れる。その先に目標の女性がいた。

 その美しさにシルビアは目を奪われる。


「ようこそいらっしゃいました、勇者パーティーそして旧魔王サタン様」


 その女性から鈴を鳴らすような澄んだ声が部屋に響いた。


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