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魔城上層。連戦と魔王4

 サーニャの言った言葉の意味が分からずシルビアは聞き返す。


「なんで私が帰ると王都が滅ぶのよ!?」

「当然です。私たちはあなたの有無にかかわらず魔王軍を壊滅させます。それは全滅させるのではなく、魔王を殺す。魔王システムを破壊することのみです。その結果どうなるかはあなたが考えてください。これ以上私が説明する気はありません」

「そんな……」


 サーニャの言った意味を考える。

 魔王を殺す。しかし魔物を全滅させる気はない。

 ならば魔王軍の縛りから解放された魔物たちはどうなるか……

 考えれば簡単に想像できることだ。魔物たちが自由に人間を襲い始める。

 王都やそれぞれの大きな町ならある程度は防げるかもしれない。なら小さな村は?

 不可能だ。守ることなどできるわけがない。少し強力な魔物が来ればすぐに全滅に追い込まれるだろう。

 王都からの救援など間に合うはずも無い。そこにはただの虐殺しか存在しない。


「ついでに加えるなら私は王都をねらうわよぉ」


 シルビアが考え込んでいるところに、ホゾが付け加えた。


「前は作戦のせいで思うように暴れられなかったしぃ、もし魔王様が死んじゃったら真っ先に王都狙うわねぇ」

「それを言うなら俺もだ! 城の警備に回されて参加できなかったからな! 殺したりない!」

「では私は毒薬でも撒いてみますかね。魔物も一発で殺せるような奴」

「私たちを殺す気!?」

「そりゃ、魔王軍がなくなれば弱肉強食ですから。狙われる前に狙いますよ?」

「あんたねぇ、それ私たちの前で言う?」

「紳士的でしょ?」


 いやらしく笑みを浮かべるジールに、ホゾがあきれ顔になる。


「そう言う訳です。ここで殺してもいいですが、それはシルビアさんの役目なので私には関係ありません」

「と、言うより私サタン様が全力で来るなら速攻で逃げるわよぉ?勝てるわけないもん」

「旧魔王はそこまで強いのですか?」

「無理無理。力無くしてないっぽいし」

「ええ、キール様のおかげで魔王の力はそのままです」

「それは三対一でもかないませんね」


 魔物たちがシルビアを置いて呑気に会話を楽しむ。その光景がシルビアには悪夢にしか見えなかった。

 勝てない相手に勝てと言われ、無理だと逃げれば大切な人が殺される。しかもこの魔物たちは今、自ら王都を狙うと宣言したのだ。それがどこまで本当かしらないが、狙われれば王都が滅ぶ可能性はある。

 王都にはコリンをはじめ、商店街の人たちや孤児院の子供たち。今まで育ててくれた大切な人たちがたくさん住んでいるのだ。


「なんなのよ……あんたたちは……」


 ふつふつと今までに感じたことのない怒りが湧いてくる。


「なんでそんなに勝手なのよ!」


 力を持ち、自我を通し、その振る舞いを誰も止めない。

 そんな強力な力を持った魔物たちに、今までに感じたことがないほど大きな怒りを感じる。

 その中には、シルビア自身の無力さへの怒りも入っていたのかもしれない。


「そりゃ、誰も私たちを止めないからですよ。止めたければご自由に。ただその時は全力で抵抗しますが」


 ジールがにやにやと笑いながらシルビアに答える。

 その発言に、感情が爆発した。


「いいわよ! 止めてやるわよ! あんたら全員ぶち殺してやる!」


 怒りで目の前が真っ赤になる。頭が真っ白になり、考えるのをやめる。

 今やるべきこと。それは目の前の存在を殺すこと。

 ただそれだけを頭に浮かべ、そばに落としていたプロメテウスを拾う。


「お、やる気になったか!」


 その姿を一番嬉しそうに見たのがカーキだ。

 サーニャに射竦められ動けなかったが、ここにきてサーニャがそれを解いたのだ。


「……まずはあんたね」


 自分のことは考えない。

 目の前の存在を斬ることだけを意識する。

 自己暗示のようにその言葉を頭の中で反復していく。


「来いや!」

「はあ!」


 まっすぐに突っ込み、プロメテウスを振り上げる。

 カーキはそれを正面から受けるようにこん棒で守りの姿勢を取った。

 そこに振り下ろされるプロメテウス。

 剣とこん棒がガキンとぶつかり合い、高い音が部屋に反響した。

 二本のこん棒で受け止められたプロメテウスがカーキにあたるはずも無く、残り二本の自由なままの腕がシルビアを狙う。

 振り上げるように向かって来るこん棒に、シルビアは避けることなく、さらに一歩踏み込む。

 思わぬ押し込みに、カーキが一歩下がりこん棒の力が分散した。

 しかしそれで威力がなくなるはずも無く、シルビアの脇腹と肩を打つ。

 ゴリッと嫌な音がして、シルビアの左肩が割れた。右脇腹の打たれた部分は肋骨が折れ、内出血が肌を黒く染めた。


「自暴自棄か!」

「死ね!」


 プロメテウスから手を離し、右手を背中に回す。そこには採取、解体用に持っているナイフがある。

 それを抜き出し、目の前にいるカーキの首に向けて突き立てた。

 グジュッとナイフが首元に突き刺さる。

 その手ごたえをしっかりと感じて、ナイフを引き抜く。

 ビュッとナイフを抜いた後から血が吹き出し、シルビアの顔を赤く染めた。


「あらら、カーキやられちゃった」

「肉を切らせて骨を断つって奴ですね。実際は骨を断たせて、命を狩るですが」


 ナイフをしまい倒れたカーキにとどめとばかりにプロメテウスを振り下ろす。

 首が飛び、僅かにあった息の根を完全に立つ。


「次はあんたよ」


 続けざまシルビアは、プロメテウスを持ちホゾに向けた。


   ☆


「ふふっ、強引にカーキを倒しちゃったわね。でもその体で大丈夫なのぉ? 私手加減ってしないわ?」

「……」

「あらら。サタン様、シルビアちゃん壊れちゃってません?」


 鋭い視線を投げるシルビアを平然と流し、ホゾはサーニャに話しかける。

 その瞬間を今のシルビアが逃すはずがない。


「はあ!」


 プロメテウスを振り下ろす。

 しかし片腕だけでは大剣であるプロメテウスを扱うには力が足りなさすぎる。

 いつもの半分の力も出ていない状態の振り下ろしなど、ホゾには止まって見えるものだ。


「そんなんじゃ私には勝てないわよぉ」


 ホゾが遊ぶようにプロメテウスを後ろに下がって避ける。

 しかし、ホゾの腕にプロメテウスが突き刺さった。


「なっ!?」


 プロメテウスはホゾの腕に突き刺さっている。

 そしてシルビアの手には握られていない。

 投げたのだ。

 カーキの時には打ち合いの最中に手を離した。そしてホゾの時はそもそも打ち合うことをしない。

 戦場で自分の武器を投げ捨てるのは自殺行為だ。その攻撃で相手にとどめをさせても、武器がなくなった時、周りの敵のいいカモになる。

 しかしそれは今の状態に当てはまらない。

 サーニャは一対一になるようにサポートすると言ったのだ。ならばそれを限界まで利用する。利用できるものは何でも利用する。

 それが壊れかけの自分の腕であっても――


「はあぁあああ!」


 体を軸にして振り子のように、力の入らない左腕を鞭のようにホゾにぶつける。

 不意を突かれたホゾは、完全に防ぐタイミングを逃し、鞭のように迫ってきた腕が顎に直撃した。

 メキッと腕の折れる音がする。しかしシルビアはそれも無視する。


「これで終わり」


 顎に入って脳震盪をおこしたホゾに、カーキと同じようにナイフを突き立てる。


「くっ……」


 しかし仮にも複腕持ち。ホゾもナイフに刺された程度では早々死ぬなどということは無い。

 シルビアの腕をつかみ、持ち上げる。

 身長差から、ホゾが腕を持ち上げるだけでシルビアの体が浮き上がる。


「よくもやってくれたわね!」

「うるさいオカマ」


 吊るされたことで自由になった足を使う。

 突き刺さったままになっているナイフに蹴りを入れ、傷口を広げつつナイフを抜く。

 血が溢れだし、ホゾが腕を離した。

 その隙をついてホゾの腕に刺さっているプロメテウスも回収する。


「これでとどめ!」


 プロメテウスを抜いた力をそのまま利用する。

 足を軸に右回転で勢いをつけ、ホゾに振り下ろす。

 遠心力の乗った斬撃が、ホゾの右腕二本を切り落とした。


「なめんじゃないわよ!」


 腕を落とされ切れたホゾが腕に魔力球を生み出す。

 だがそれこそがシルビアが狙っていたこと。

 生み出された魔力球に向かってプロメテウスを突き刺した。


「なっ!」


 純粋な魔力のみで作られた魔力球は非常に威力が高いがその分不安定だ。

 もともと魔力は何かしらの現象に変化させることで安定するものである。それをそのまま使うのは高度な魔力制御が要求される。

 ホゾは相手にぶつけるときに魔力制御を解くことで強力な技にしているのだが……


「それ魔力玉なんでしょ? ならこれで爆発するわね」


 プロメテウスに突き刺され安定を失った魔力が暴走する。

 それはシルビアとホゾを巻き込んで爆発を起こした。

 ドン!っと激しい音がして塵が舞い上がる。

 そして徐々にその塵が晴れてきた。


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