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魔城都市。侵入と探索3

「行ったみたいね」


 窓からそっと顔をだし、魔獣がいないことを確認する。

 民家の中に隠れて魔獣の集団をやり過ごした四人は、順調に魔王城のすぐそばまで近づいていた。


「さて、ここからが難しくなるわね」

「そうですね。今までは全部エースさんたちがひきつけてくれましたが、これからは専門の警備隊もいるでしょうし」

「シルビア、気配は消せるか?」


 いつも通りの落ち着いた口調でキールが尋ねる。


「一応訓練はしてるわ。あんまり実践で使ったことが無いからどれぐらいまで気づかれないかは正確には分からないわね。正直いきなり本番は避けたいわ」

「ならここら辺で練習しておくのもいいだろ」

「そうね。なら今からは地面を進む?」

「そうですね。そうしましょうか。どっちにしろ魔王城の城壁は外壁のようにはいきませんから」


 魔王城の外壁は、ウィンティアの外壁とは違い定期的に整備されているのか、割れ目や凹凸が少ない。この状態ではよじ登るのは不可能だし、可能だとしても警備兵に気付かれる。

 入る方法は、城門の突破ぐらいしかないのが現状だ。


「じゃあ行きましょうか。ここからはだれか私以外で先頭に行ってもらえるかしら? 気配を隠すことに集中したいんだけど」

「なら俺が行こう」

「キールさんが?」

「ウィンティアは何度か来たことがあったからな。道は分かっている」

「それは心強いですね」


 キールを先頭にサーニャ、シルビアが続き、最後をカズマが進む。

 ほとんどの魔獣はエースたちのところにおびき寄せられたのか、街中にはいない。

 しかし徐々に近くなる城門とともに、再び魔獣の姿が増えてきた。

 おびき寄せられなかったということは、どこかに統率している魔物がいるということだ。


「そろそろ城門に着くぞ」

「作戦では僕が搖動ですね」

「ええ、適当に城門の敵を引き付けてほしいの。できれば壁の上にいる奴らを倒しておいてくれると助かるわ」

「なら先に上の魔獣と魔物を倒してしまいましょうか」


 カズマが弓を構え、城壁の上に狙いを定める。

 今のところ見えている敵は魔獣だけ。魔物の姿は見当たらない。

 その間にキールたちは少し離れた場所へ移動する。敵の目をカズマに集中させ、その間に気配を消して城門から侵入を試みる。


「射ると敵が動き出しますから気を付けてくださいね」


 呟いて矢を放つ。

 ヒュッと風を切る音とともに、城壁の上にいた魔獣の首に突き刺さった。

 ドサッと魔獣が倒れ、それに反応してほかの魔獣が城壁の上から飛び降りてくる。

 あふれるように現れる魔獣をカズマは城門から離れるように移動しながら射殺していった。


   ☆


「行くぞ」


 キールの合図で三人が進む。カズマがうまく門から魔獣たちを引き離してくれたおかげで思いのほかすんなりと城内へ侵入することができた。


「キールさん、エリーシス様がいるとしたらどこかわかりますか?」

「……」

「キールさん?」


 いつもなら即答するであろうキールが、何も返してこないのことにシルビアは首をかしげた。


「シルビア」

「はい」

「エリーシスはおそらく魔王の部屋にいる」

「魔王の部屋?」

「魔王専用の寝室みたいなものだ。魔王城ももとは人間の城だからな、おそらく最上階になるはずだ」

「ならとにかく上ね。それに魔王の部屋ってことは必然的にキールさんと一緒に行くことになるのかしら?」

「そうだ」

「ならスムーズに進みそうね」

「油断はするなよ。こんなにすんなり入れるのは怪しい。もしかしたら誘いこまれている可能性もある」


 キールの言葉に、シルビアはハッと息をのむ。

 確かに、軍隊を設立し計画的に王都を攻めてきた魔王にしては容易に城への侵入を許している。仲間のおかげもあるのだろうが、シルビアはキールの言葉を聞いて、それだけでは思えなくなってしまった。


「キール様」


 シルビアが自分の思考に溺れていると、サーニャがキールに声をかけた。


「シルビア様には話しておくべきかと。いざという時に動きが止まりかねません」

「……そうだな」


 キールがそういって足を止めた。そこはちょうど上に上がる階段のある廊下だった。

 今キールたちがいるのが三階。魔王の部屋は最上階の五階にあり、そこへ上がるにはこの先にある階段を登らなければならない。


「キールさんどうしたの?」

「シルビアに話しておくべきことがある」


 振り返ったキールはシルビアに現魔王エリーシスについてその口を開いた。


   ☆


「トモネ! 雑魚の相手は任せる!」


 エースが突然そう言ってトモネの背中から離れた。


「え!? どういうことですか!?」

「大物が来る!」


 目線だけで空の上を示す。そこには先ほどまで大量にいた飛行型の魔獣がいなくなり、一体だけ人型の魔物がいた。

 遠目に見ても、その魔物がほかのものと比べ物にならないのがわかる。

 まとっている気配が全く違うのだ。


「王都の時にはいなかったやつか?」


 それぞれの情報交換をしたときに、空にいる魔物でこれほどの濃密な気配を持った奴はいなかった。

 ならば王都の襲撃には参加せず、城の守りについていた部隊の魔物だと考えるのが妥当だ。

 エースが駆け出しながら、魔物に向かってスラッシュを放つ。

 魔物はそれを手を挙げただけで防いだ。濃密な魔力でスラッシュの威力を打ち消したのだ。いくら距離があるとはいえ、それができるのは、王都の時でも部隊長クラスだけだ。ならばそれと同等か、もしくはそれ以上。


「降りて来い!」


 言いながらスラッシュを続けざまに放つ。魔法を使いたいが、最初の一撃で半分以上の魔力を消費しているため、浪費は避けたいところだった。

 魔物はエースの声に答えたように下に降りてくる。そしてそっと地面に降り立った。

 だが何も言葉を発しない。

 しゃべれないのかともエースは疑うが、魔物でしゃべれないものはほとんどいない。力を持っているならなおさらだ。

 悠然と立つその魔物に剣を向ける。


「何者だ!」

「……」


 魔物は答えず、ただ腕をエースに向かってあげた。

 そこに魔力が集中するのがわかると、エースはすぐにスラッシュを飛ばし、その魔力に充てる。

 魔力は何か起こる前にスラッシュの衝撃で爆ぜて霧散した。


「やっぱ効かないか……」


 スラッシュが霧散した時点で魔物に向かって駆け出していたエースは、そのまま直接切りかかる。

 魔物はそれを左腕で直接受け止めた。

 腕に刃が食い込み、半分まで切断する。しかしその腕から力が抜けることは無い。

 そしてその切り口からあふれ出るはずの血が、一滴もあふれださなかった。

 魔物にしても異常な硬さ、そして力の抜けることのない腕。さらに一滴も血を流さないとなればそれが可能なものをエースは一つしか知らない。


「無機物型!」


 リズによって開発された無機物型の魔獣。それなら痛みは無く筋肉もない。しかし人型になれるのか? そんな疑問がエースの中を駆け巡る。


「……そうだ」


 魔物が口を開いた。その言葉はエースの疑問を吹き飛ばす。


「魔物にもなれるのか」

「……人形ならば可能」


 魔物はそうつぶやき無造作に剣の刺さった腕を振り払う。その力にエースは剣ごと振り払われる。

 剣を腕から抜き、着地した時には目の前に魔物の姿があった。


「しまっ!」


 振り下ろされる右腕。とっさに転がりその腕を躱すが、地面を叩いた衝撃で舗装された道の石が砕かれ飛んでくる。

 

「くそっ!」


 石を剣ではじきながら、魔物と距離を取る。


「無意……」


 魔物が距離を縮めるため地面を蹴る。その際の衝撃で再び地面が抉れた。

 そんな力で地面を蹴れば、普通足の骨が折れる。しかし人形には骨が無い。ゆえに人間の常識を超えた力で迫ってくる。

 再び振り下ろされる右腕。それは先ほどの衝撃で半ばから砕け、棘のように先がとがっていた。


「ライトニング・アロー! ワンショットシフト!」


 至近距離から、威力を高めたアローを放つ。人形の顔が半分抉られ、中身の空洞が見える。しかし魔物はそれを気にすることなく腕を振り下ろしてきた。


「地脈破砕!!」


 凶器となった腕がエースにあたる直前、地面が割れた。


「エースさん! 大丈夫ですか!?」

「すまない助かった!」

「いえ、私も手伝えればいいんですけど」


 トモネはそう言いながら近づいてきた魔獣を周りを巻き込んで蹴り飛ばす。


「このように手が離せませんので」


 トモネは周り一帯を魔獣に囲まれながらも、持ち前の俊敏性と筋力だけでこらえていた。

 しかしそれも時間の問題だ。エースと違い範囲攻撃が一度しか使えないトモネは時間とともにじり貧になってしまう。

 逆にエースが範囲攻撃の回数が多い分、一撃の強さに限界がある。

 クリスタルアークの能力で補っているとはいえ、それを専門にした敵と出くわすとどうしても分が悪い。


「くそっ! どうすりゃいいんだ……」

「せめて私に範囲攻撃があれば……」

「俺ももう少し威力のある攻撃ができれば……」

『……』

「敵……交換するか」

「……そうですね。飛んでいないのなら私の方がいいかもしれません」

「3!」

「2!」

「1!」

『チェンジ!』


 トモネが人形に殴り掛かり、その背後に迫ってきた魔獣をエースがスラッシュで薙ぎ払う。

 トモネの拳を受けた人形が衝撃で二三歩さがったところにさらに蹴りをお見舞いする。

 クリーンヒットした蹴りが半分に抉れた顔を完全に吹き飛ばす。


「やっぱり一対一の方が戦いやすいです!」


 スラッシュが前面の敵を吹き飛ばし、アローのバランスシフトが後方の敵の足を止める。

 反転し今度は足止めされた魔獣に対し、再びスラッシュを放つ。

 トモネの撃退数をそれだけで超え、さらに魔獣の死体を量産してく。


「やっぱ無双は気持ちいいな!」


 エースも先ほどと比べ物にならないほど動きがよくなり、瞬く間に溜まっていた魔獣を掃討していく。


『交換して正解だわ(ですね)』


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