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魔城都市。侵入と探索2

 ウィンティアへの侵入は夜決行される。当然だ。真っ昼間から外壁をよじ登る一団がいればどんな動物でも警戒する。


「じゃあ行くわよ。まず私とトモネで入って周りを確かめるから」

「では行ってきます」


 まずは身軽な二人が外壁に足を掛け昇っていく。その間、残りのメンバーは周囲の警戒をする。

 見張りはすでにカズマの弓で射られ、声も上げられず死んでいる。

 一番身軽なトモネが最初に頂上にたどり着き、シルビアを引き上げた。


「ありがと」

「いえ。それより周りの敵は」

「いないみたいね」


 シルビアが当初予定していたより警戒が薄い。当初の予定では、外壁の上にも何人かいて、それをシルビアたちが暗殺していく予定だったのだが――


「いないなら好都合よ。みんなに上ってきてもらいましょ」


 外壁の上から下に残っているメンバーに合図を送る。

 それを見たカズマとエースが昇り、最後にキールとサーニャは一番最後に上ることになっていた。

 カズマとエースが昇り切ったところで、キールとサーニャが外壁から距離を取る。

 その行動の理由がわからず、シルビアが二人をじっと見ていると、当の二人が外壁に向かって走りだした。

 その行動にまさか!と思い、とっさに二人の上がってくる場所を確保する。

 

「待たせた」

「お待たせしました」


 キールたちは案の定、手を使ってよじ登るなどせず、一気に脚力だけで駆け上がってきた。


「びっくりさせ――」

「潜入中だ。静かにしろ」

「うっ……」


 思わずいつもの調子で声を上げそうになり、とっさに口をふさいだ。

 深呼吸して、落ち着きを取戻し、小さい声で再び抗議の声を上げる。


「もう、びっくりしたじゃない」

「俺たちがお前らのように上るとでも思ってたのか?」

「いや、確かにそうだけど……」


 シルビアとしても、それはあまり考えられなかったのだが、実際やられると結構驚く。

 外壁はボロボロとはいえ、対魔物用の八メートルはある石壁なのだ。それを駆け上がるなど、常識を逸脱している。


「まあ、いいわ。じゃあ行きましょうか」

「おむぐ……」

「だから大きい声出すなって言ってるでしょ」


 シルビアがとっさにエースの口を押えた。


「わりぃ……」

「シルビアさん、巡回している魔獣が近づいています」

「わかったわ。予定通り移動しましょ。場所は分かってるわね?」

「俺が外壁付近で搖動だな」

「私がそのサポートです」


 エースは今回の作戦では魔獣と魔物の搖動をしてもらう。エースの魔力は勇者として加護を受けた時点で膨大な魔力を持っている。しかしそれは魔獣・魔物にしてみればそこに勇者がいることの証明になるのである。

 戦闘が回避できないと予想されている今回の侵入だと、それはデメリットでしかない。

 だから勇者には搖動を頼んだ。ただ、一人でウィンティア中の魔獣・魔物を相手にするのはさすがに厳しいということでトモネをつけている。

 実際に魔王城まで侵入するのは残った四人だ。

 カズマは城門での搖動に。

 シルビアはとらわれているだろう王女エリーシスの救出。

 キールとサーニャには魔王がどこにいるのかとその偵察が今回の役目になっている。


「じゃあお願いね」


 シルビアが先頭になり、外壁から中へ侵入する。

 魔獣たちに気付かれないようなるべく裏路地と屋根を使いながら、ウィンティア中心にある魔王城を目指して進んでいく。

 その途中、外壁近くで大きな爆発音がした。

 

   ☆


「じゃあ暴れますか!」

「そうですね! 精一杯ひきつけましょう!」


 エースとトモネも外壁から飛び降りると、わざと魔獣に見つかるように大きな声を出しながら宣戦布告をする。

 もちろんその合図は大魔法だ。


「これ久しぶりに使うな――あの時はキールに邪魔されたが、今日はあいつがいない! つまり俺が最強ってことだ! 祖は偉大なる世界の母。全てに光を与える大いなる存在。その光を持って闇を払え! ライトニング・エクスプロード!」


 キールと初めて戦った時に使った、エースの持つ最大威力の技だ。

 右手に輝かしい光球を生み出し、その場で爆発させる。

 勇者が敵と認識したもの以外は傷つけないが、それ以外のものをことごとく焼き払う燃焼系の広範囲魔法だ。

 ドーン!と巨大な音を出しながら、眩い光が当たりを包み込む。

 今回勇者が傷つけないものとして指定したのは、ウィンティアの外壁と地面、そしてトモネだけである。

 つまりウィンティアが人間の都市であったことの名残である民家も商店もすべてこの魔法で吹き飛んだ。

 強烈な風と共に、エースを中心とした半径五百メートルが焼野原となる。

 そこにはエースとトモネ以外に立っているものはいない。

 吹き飛ばされた民家をねぐらにしていた魔獣はすべて消滅させらていた。


「こんなもんでどうよ」

「上出来だと思いますよ! ほらあっちから大群が」


 トモネの指指した先には、空を埋め尽くさんとするばかりの魔獣と魔物の群れ。

 先ほどの強烈な光で勇者の襲撃と判明した途端、魔王城からおびただしい量の魔物が現れ、ウィンティアにいる魔獣を使役しながら集まってきたのだ。


「蛾は光に集まるってか」

「まさしくそんな感じですね。ちょっとキモいです……」

「じゃあ減らしてみるか。走れ光の刃、ライトニング・アロー! サウザンドシフト!」


 数千に及ぶ光の矢が、飛んでくる魔物と魔獣を次々と射殺していく。王都襲撃の時より生き残る数も多いが、それでもパッと見で判別できるほど量は減った。


「そんなに飛ばして大丈夫ですか?ここから持久戦ですよ?」

「もともと魔法はそんな得意じゃないからな。威力があっても乱戦中に使うことあんま無いんだよ。今のうちに使えるだけ使ってあとは相棒と一緒に突き進むだけだ」


 言いながらエースはクリスタルアークを鞘から抜く。刀身が月の明かりにきらりと光った。


「こいつもやる気満々みたいだ」

「なら心配ないみたいですね。地面は壊さない方がいいですかね?」


 トモネの地脈破砕は、一度使えば地面に大量の地割れが起こる。普通の戦士タイプとしては地割れの多い地面は避けたいところだが……


「囲まれたら使っちゃって構わない。その方が魔獣もこっちに来るスピードが落ちるだろうしな」

「わかりました。じゃあまだ使わないで起きますね。先に飛べる敵から狙っていきましょうか」

「だな。走れ光の刃ライトニング・アロー! バランスシフト!」


 勇者の魔法が、先ほど撃ち漏らした魔獣たちを射殺していく。


「えい!」


 エースの横でトモネが袋から石を取り出し魔獣に投げつける。

 一体に命中すると、後ろにいた数体の魔獣を巻き込んで地面に落ちた。


「やっぱその投擲スゲーな」

「だてに拳闘士は名乗ってませんよ!」


 拳闘士関係ないという突っ込みをぐっとこらえ、エースは魔獣に集中する。

 魔獣たちが近づいてくる限界まで遠距離攻撃を続けた二人は、魔獣たちがエースが吹き飛ばし何もなくなった地面まで来たところで攻撃をやめ、二人は剣と拳を構えた。

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