勇者は剣士と旅をつづけ、メイドに会う。2
そしてさらに二週間ほど旅を続け、一つの村にたどり着いた。
すでに王都をでてから一カ月が過ぎようとしている。
しかしいつまでたっても収穫が名声しかない旅に、二人はそろそろ疑問を持ち始めていた。
そんな時にたどり着いたのがこの村だ。
だが、この村は他の村とは大きく違っていた。
「廃村なのか?」
エースの疑問ももっともだ。
閑散としていたのだ。
今までの歓迎が夢だったかと思えるぐらいに人がいない。
だが、家自体は綺麗に整備されているので無人というわけではない様子だ。
「とりあえず村人を探そう」
「そうね」
二人はまず村の中心まで行くことにした。
小さい村なのだろう。中心にはすぐに着いた。
そこで一人の老婆を発見する。村の中心は広場になっており、そこに井戸が設置されている。おそらく、そこに水を汲みに来たのだろう。
だが、腰の曲がった老婆が井戸から水を組めるとは思えない。
二人は駆け寄り、手伝おうとしたが、そこで見た光景に二人は思わず足を止めた。
老婆がやすやすと井戸から水をくみ上げているのだ。それも、二人でも苦労しそうなほど大きな水桶でだ。
「なあ……どうなってるんだ、あれ?」
「私に聞かないでよ」
「とりあえず行ってみるか」
二人が近づくと、老婆も二人に気づいたのかお辞儀をする。
それに返すようにお辞儀をして、老婆の元までたどり着いた。
「おや、こんな辺境の村に冒険者さんですかな?」
老婆は穏やかにほほ笑みながら二人を迎える。
その様子から、この村には勇者の情報が来ていないのが推測できた。
「いや、俺らは魔王を倒すために旅をしているんだ」
「おやまあ、それはお疲れ様だね」
魔王と聞いて、特に驚かない老婆に逆に二人が驚かされた。
今までの村人はみな、魔王と言う言葉を聞いただけで怯える。
それは当然のことだろう。
小さな村ではちょっとした魔物が出ても対処できず、酷い被害が出るものだ。
それが魔王となれば、どれだけの被害になるか分かったものではない。
と言うより、確実に村ごと滅ぼされる。
それを知っているからこその怯えだが、老婆にはその様子は見られない。
この村にはよほど強い人が常駐でもしてるのだろうか。
シルビアはその事が気になり、少し聞いてみることにした。
「この村はとっても平和に見えますけど、魔物の被害とかは無いんですか?」
「魔物の被害なんてとんとないね。これもあの人が来てくれたおかげじゃよ」
やはり誰か強者が常駐しているようだ。
だが、なぜこの村なのだろうか。特にここにいる理由は無いと思うが……出身がここなのだろうか?
「その人が魔物の退治を?」
「うんや、あの人が来てから魔物自体がこの村を襲わんくなった。まったく何をやったか知らんが、ありがたいかぎりじゃ」
「討伐されたとかじゃないのか?」
「あの人はめったに村から出んよ。今日もそこの教会におるはずじゃ。気になるなら行ってみるとええ」
老婆がさしたのは村のはずれにある小さなフィオ教の教会だ。
そこにその人物はいるのだろう。
「あの人のおかげでこの井戸もえらく使いやすくしてもろて、ほんま感謝しとる」
「そう言えばこの井戸、やけに軽く持ち上げてましたね?」
「なんでも、魔術つこうて簡単に持ち上げられるようにしてくれたらしいて」
「そうだったんですか」
その後も老婆のあの人自慢は留まるところを知らず、あの人とやらの凄いことを語り続けてくれた。
曰く、あの人は定期的に動物を狩ってきてくれる。
曰く、魔術で火災を消してくれた。
曰く、魔術で病気を治してくれて、しかも治療費をとらない。
などなどだ。
どれも魔法使いなら簡単に出来そうなことだが、井戸の魔術が非常に長い間効いていることといい、かなりレベルの高い魔法使いなのだろうと予想がつく。
その後、やっと老婆の話から解放された二人は、老婆の言っていた教会にやってきた。
「ここにその魔術師がいるのか」
「そうみたいね。話しを聞く限りじゃかなりいい人じゃない」
「そうだな。魔王の討伐なら快く付いて来てくれるだろ。なんてったって勇者と一緒に旅ができるんだからな。それだけでかなりのステータスになるはずだ」
「どうかな、聞く限りだとあんまりそういうの興味無さそうだけど」
聞いた話は全て、無償でやっていることのようだ。その代り、村人から少しばかり食料を貰ったりするらしいが、過剰な報酬は一切受け取らないとのこと。
その感覚はシルビアの感覚とよく似ていて、今のエースとはかけ離れた思想だ。
「関係無いって。英雄の名声をそこらへんの宝と一緒するなよ」
エースは笑うが、シルビアはその言葉にどんよりする。
シルビアの注意が全く効いていない事を実感させられるからだ。
「とりあえずここにいても始まらないし、中に入ってみようぜ」
「それもそうね」
二人は教会の扉を開き、中に入った。