勇者進行。魔獣と食糧4
警戒のため、プロメテウスの効果を発動させていたのが功を奏した。
放たれる数秒前にその光景を見たシルビアが、とっさにエースに回避を命じたのだ。
それを聞いたエースが、魔獣を見て異変に気付く。そして間一髪のところで回避に成功した。
「やばかった! あいつあんなこともできるのか!?」
「上に前後左右。全面対処可能ってことでしょうね。反則的な強さじゃない」
岩の固さと、強力な砲撃。それを360度すべて攻撃可能となれば、この魔獣一体でも城攻めすら可能にしかねない。
「厄介なもの作ってくれたわ、ほんと」
「でも前に回らなくても済んだと思えば少しは楽になるんじゃないか?」
「あんたポジティブね……」
「そうじゃなきゃキールの調教は耐えれないぞ?」
「ああ……」
戦闘中に嫌なこと思い出したと、シルビアはげっそりする。しかし魔獣から目を離すことはしない。
「シルビアさん! どうするんですか!?」
魔獣の反対側にいるトモネが声を上げる。
「このままいくわ! どっちにしろやることは変わらないし!」
「わかりました!」
トモネが動き出したところで再び戦闘が開始された。
☆
縦横無尽に衝撃波を打ち出す魔獣に三人が取り付けない光景を、キールとサーニャは少し離れた位置から見ていた。
「なぜ加勢されないのですか? あまり時間は無いようですが」
「今俺が加勢すれば、ここはすぐに終わるだろうがな。だが今後がさらに時間がかかる。この後はおそらくあれと同じような強さの魔獣がごろごろしているはずだ。それも魔物によって統率のとれた部隊がな。それを相手にしなければならない以上、今のあいつらでは全員足手まといだ。これぐらい俺がいなくても倒してもらわなければ困る」
「そういうことでしたか」
リズがこの人工魔獣を完成させたと言った以上、量産の目途も立っているのだろうと、キールは踏んでいる。ゆえに、今後の魔獣の強さはこれまでとは比べ物にならないほど、シルビアたちにとっては辛いものになるだろうことも予想できた。
「あいつらには魔王を殺してからの役目がある。今死なれるわけにはいかん」
魔王を殺せばすべてが解決するわけではないのだ。魔王がいるときに生み出された人工魔獣や普通の魔獣はそのすべてが統率を失い野に放たれる。
さらに魔物たちがそれを使役して、はるか昔の大争乱の時代に逆戻りしてしまうこともキールは考えていた。その時に自分ひとりでは止めきれない。
だからこそ勇者パーティーにここまで辛抱強くついて行き、守ってきたのだ。
☆
「近づけない……」
「厳しいな。こっちの体力が先になくなっちまうぞ」
「わかってるわよ……でも解決策が」
どこからでも自分たちを確実に狙ってくる衝撃波に、シルビアたちは大苦戦していた。
近づこうとすれば衝撃波が飛んでくるし、相手の死角に入るということがそもそもできない。
「そうよ、あいつどうやって私たちのこと見つけてるの?」
「目でもついてるんじゃないのか? それかセンサー?」
「あいつの攻撃って私たちに完璧なまでにぴったり来るわよね?」
「ああ、そうだな。そのおかげで何とか躱せてる。先読みなんかされたら一発でアウトだった」
魔獣の衝撃波は、確実に三人がいる場所に放たれるのだ。それには人間や天然の魔獣魔物がやる先読みが含まれていない。つまりあいつには知能がない。
「そうよ。あいつには知能が無いじゃない!」
「岩なんだから当然だろ」
「そういうことじゃない! つまりあいつが攻撃してくるのは、何かセンサー的なもので近づいてきたものだけ。しかもスラッシュみたいな飛び武器には攻撃が反応しなかったってことは、人間の何かを判別してるってこと!」
「だからなんだってんだよ?」
「飛び武器で倒せばいいのよ! 長距離から一撃で!」
「そんなの誰が……」
そう言いかけたところで今戦闘に加わっていない一人の弓使いを思い出した。
「カズマか!」
「そう言うこと。起こしてきて!」
「わかった」
「トモネ! もう少し耐えるわよ!」
「わかりました!」
エースが戦線を離れたことで、砲撃の集中具合は増した。しかし、それでもプロメテウスの先読みで、二人は何とか躱しながらカズマの攻撃が来るのを待つのだった。
☆
「カズマ! 起きろ!」
エースが気絶しているカズマの頬を叩く。
しかしなかなか起きない。
「どうすりゃいいんだ……」
「こちらをお使いください」
そこにサーニャがやってくる。サーニャはポケットからガラス瓶を取り出してエースには渡した。
「これは?」
「かなり苦味の強い果実を粉末にしたものです。気付けにはちょうどいいと思います」
「サンキュー。起きやがれカズマ!」
サーニャから受け取った小瓶のふたを開け、中の粉末をそのまま全部カズマの口に流し込んだ。
その効果は絶大だった。
粉末が流し込まれたとたん、カズマは激しくむせ返り、飛び上がるように起き上がった。
「な! 何事ですか!?」
「おお。すごい効き目だ」
「普通は水で溶かして飲むものなんですが……」
「マジ?」
「マジです」
「エースさん……」
カズマが静かに怒りを浮かべている。
そこにキールがやってきた。
「愚図、いい加減起きたか」
「私は気絶していたんですか?」
「攻撃をくらってな。起こされた以上は自分の役目を果たせ愚図」
「……わかりました。エースさん私は何をすれば?」
「離れた距離から、一撃で魔獣のコアを破壊してくれ。あいつは近づく人間に反応して攻撃してくる。長距離からの一撃なら反応されないはずだ」
「わかりました。久しぶりに私の出番と言うわけですね!」
カズマが意気込みながら木の上に上がり、弓を構える。
「そんなに遠くからで大丈夫なのか!?」
カズマを衝撃波の来ない安全な場所まで退避させていたため、今魔獣との距離はかなりある。
戦っているシルビアとトモネがかなり小さく見えるほどだ。
「問題ありません。シルビアさんたちに退避するように言ってください。かなりの威力がありますから巻き込みかねません」
「わかった。退避したらすぐに攻撃してくれてかまわないから」
「わかりました」
カズマは、そういって静かに弓を引き、魔力を高めた。
☆
「シルビア、待たせた」
「どうだった? 大丈夫そう?」
「行けるって。かなり威力があるから退避してほしいってさ」
「わかったわ。トモネ、私の合図で一気にキールさんのところにまで戻るわよ!」
「あ、はい! わかりました」
拳を魔獣に打ち付けていたトモネがそういってバックステップで距離を取る。
「今!」
それを見て、シルビアは合図を出した。
三人が一斉に走り出し、森の中を駆け抜ける。
そして三人の横を何かが通り過ぎるのを感じた。
しかし振り返っている余裕は無い。
後ろでめきめきと何かが割れる音がして、三人の背中に衝撃波が襲いかかる。
――ドーーーン!!!!!
強烈な爆発音とともに、一体が土煙に包まれた。
☆
「みんな無事?」
「俺は無事だ。なんともない」
「私も大丈夫です」
二人のはっきりとした声に安どするシルビア。
先ほどの衝撃は、一瞬三人の意識を刈り取るほどのものだった。
振り返ってみれば
「何よこれ……」
魔獣がいた地点に大穴が穿たれ、周りの木々がその穴を中心として外側に倒れこんでいる。先ほどの爆発の威力はそれほどのものだった。
「もしかしなくても今のがカズマさんの技ですよね」
「結構危険な技持ってたんだな。普通の弓使いとばかり思ってたわ」
「そうね。こんど教えてもらいましょ」
三人は、とぼとぼと歩きながら、キールたちがいる場所に合流する。
「生きていたか」
「当然よ! ちょっと意識刈り取られたけどね」
「あの威力なんですか!? カズマさんの技なんですか!?」
「あれはエルフの弓技ですよ。魔力を込めてあたった場所に強烈な爆発を起こす技です。使いどころが難しすぎますがね。集団戦では味方ごと吹き飛ばしてしまいますから」
「そうね……」
いつも通りの穏やかな顔で言うカズマに、エルフの実力を再認識させられる三人だった。




