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勇者進行。魔獣と食糧2

 翌朝、日が昇ると同時にシルビアにたたき起こされた一行は、昨日大量に魔獣を殺した森の中に戻ってきていた。


「さて、じゃ食糧を回収するわよ! 各自袋は持ったわね?」


 それぞれの手に持っている袋は、森に入るときにシルビアから渡されたものだ。一人旅用に使うような大きさの麻袋である。


「こんなもんどうするんだよ」

「決まってるでしょ。この中に魔獣の肉を入れるのよ! 袋いっぱいになるまでね」

「昨日倒した分じゃ内臓含めてもそんなにならんわ!」

「やあねぇ冗談よ。まあ、肉はとにかく入れるとしても、ほかにも食べれそうなきのことか果物とかあったらとっておきたいじゃない。だから大き目の袋をもらったのよ」

「そういうことかよ」

「じゃみんな頑張りましょう!」

『おー』


 声を出したのは、トモネとカズマだけである。


「なによ、みんな元気ないわね」

「お前が元気ありすぎるんだよ……俺は昨日の討伐で体中が痛いんだ」

「そんなの自業自得でしょ。無理した罰よ。しっかり苦しみなさい」

「ちくしょう!」


 適当に話しながら森の中を進む。そして昨日倒した魔獣から肉を剥いでいく。だいぶ北上したため一日外にある程度では腐らず、まだ新鮮なままだった。


「なあ、」

「ん?何?」


 ナイフを血で真っ赤に染めながら嬉しそうに肉を剥ぐシルビアに恐る恐るエースは声をかけた。


「昨日は悪かった……」

「あら、珍しい」

「俺だって昨日の俺が普通じゃなかったことぐらい自覚してる……でもどうしても許せなかったんだ」

「自分が? 魔獣が?」

「たぶん両方」

「そう」

「でさ、昨日キールにいろいろ言われて罵倒されてやっと気づけた。俺一人で戦ってるわけじゃないんだよな……」

「何よ、本当に今更ね。まあ魔王城につく前に分かってくれたんならいいわ」

「サンキュー」

「どういたしまして。で、そっち剥ぎ終わった?」


 エースが真剣に謝っている最中もシルビアは剥ぐのをやめていなかった。

 シルビアが剥いでいた魔獣には、もう内臓と骨しか残っていない。


「もう少し。ここで最後だ。……おし終了」

「じゃあ次行きましょ。まだまだ死骸はたくさんあるわよ!」

「元気いいな……」


 シルビアを先頭に、さらに森の中を進んでいく。

 そこでトモネが何かおかしいことに気付いた。


「ちょっと待ってください」

「どうしたの?」


 シルビアが聞くが、トモネは耳を澄ませて黙ったままだ。

 その様子を一行は観察する。

 トモネの耳がぴくぴくと動き、懸命に音を拾おうとした。だが、


「音が聞こえません」

「何の?」

「動物の音です。確かに昨日ここら辺の魔獣は掃討しましたが、普通の動物の音まで聞こえないのはさすがにおかしいです」


 そこでシルビアがトモネのまねをして耳を澄ます。

 確かに鳥の鳴き声などは全く聞こえない。獣の耳を持っているトモネはシルビア以上に遠くの音も聞こえているだろうから、動物の音がしないのは確かに異常だった。


「どういうこと?」

「なにか動物が逃げ出す原因が近くにあるのでしょうか?」

「昨日の戦闘とかは?」


 昨日の戦闘では、エースが相当暴れまわっていた。魔法こそ使わなかったが、その闘気で動物なら逃げ出すだろう。


「もう昨日のことですから、全く戻ってきてないのは異常です。まだ逃げ出す要因があるはずです」

「強力な魔獣か?」


 魔物ならば、魔獣を集めて群れを作るはずだ。それがない以上、魔物なみに強力な魔獣だということになる。


「かもしれません。注意しましょう」


 先ほどより注意を警戒しながら、森の中を進んでいく。

 やはり見つかるのは、エースが狩った魔獣ばかりで、動物は見つからない。

 たまにシルビアがトモネに確認を頼むが、それも結果は変わらなかった。


「だいぶ奥まで来ましたわね」

「ああ。ここより先は俺も進んでいない。話の強力な魔獣がいるとしたらこの先いなるだろうな」

「どうしますか? 先を確認してみますか?」


 カズマの問いにシルビアはしばし考えた後、先に行くことを決めた。


「もし強力な魔獣がいるのだとしたら放っておくと後で大変なことになるわ。ここで狩れるなら狩ってしまいましょ」

「そうだな。トモネは気配とかわかるか?」

「すみませんが、わかりません。少しでも動けば音が聞こえるように聞き耳は立てているんですが……」

「まったく動いてないか……」

「ただ今は少し休憩よ。ここまでノンストップできてるし、一回休んでおいた方がいいわ」

「……そうだな」


 エースは近くにあった岩に座る。シルビアやトモネたちもそれぞれ近くの木にもたれ掛ったり、倒れてる木を椅子代わりにして座る。


「みなさんお茶です」


 そこに、いつの間に用意したのか、サーニャがお茶を出してきた。

 いつも気づかないうちにお茶を準備しているサーニャには、すでに誰も突っ込むことを放棄していた。


「ありがとうサーニャ」

「ありがとうございます」

「サンキューな」

「いつも助かります」


 順番に渡していき、最後にキールのもとへ来た。


「どうぞ」

「ああ」


 キールがお茶を受け取ったところで、突然地面が揺れた。


「なんだ!?」


 エースが立ち上がり周りを見回す。しかし特におかしい場所はない。

 シルビア、カズマ、トモネもそろって立ち上がり警戒する。


「地震?」

「それにしては突発的ですね」

「地震ってそういうものじゃないの?」

「いえ、地震はまず小さい揺れが来て、そのあと大きな揺れが来るんです。どんなに小さい揺れが来ても来た時点で私が気づけるので、今のは地震じゃないと思います」

「て、ことは何よ?」

「この状況で考えられるのは一つだろ」


 キールは、木に座ったまま落ち着いてお茶を飲み言う。


「この周辺に魔物がいない原因だ」

「強力な魔獣か!」


 エースが叫んだと同時に、エースが今まで座っていた岩が突如飛び出した。


「なんだ!?」


 飛び出した岩は、そのまま地面に落下する。その衝撃で周りの土が飛び、シルビアたちに襲いかかった。

 それを手で防ぎ、岩の落ちた場所を見る。

 そこにはよくわからない物がいた。

 本体は岩の形そのままで、その下に、象亀のように短い足が生えている。


「こいつが魔獣?」


 エースはクリスタルアークを構え、その物体に近づく。


「エース、注意しなさい。どんな攻撃が来るかわからないわ」


 今まで誰も見たことのない形の魔獣に、どのような対処をすればいいのかわからない状態だ。それはキールも同じようで、座ったままだが少し驚いた表情をしてその物体を観察している。


「表面は石か? 下から出ている足のようなものは、石ほどではないが固そうだ」

「そうですね。特に魔獣や魔物が持つ魔力は感じませんが……」


 カズマが魔獣に意識を集中させるが、魔獣や魔物から発せられるはずの魔力の気配を感じ取ることはできない。しかし、別のものを見つけてしまった。


「エースさん上です! 上に魔物がいます!」

「なに!?」


 エースはかけられた声に反応して、一足飛びにシルビアたちの場所まで下がる。

 そこで指摘されていた上を見上げた。

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