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魔王秘話。真実と現実1

 二人が会話してから三日後、王都は騒然としていた。

 王城の門は硬く閉ざされ、何人も出入りすることが許されない状態に。

 城内の廊下には兵士たちが走り回り、メイド達はすべて自室で待機の命令が出されている。

 城に来ていた大臣達も、全員が会議室に集められている。その中に勇者達もいた。


「これより会議を始める」


 大臣の一人ジョルジュが静かに告げる。しかしその声にいつもの張りは無い。


「陛下がまだ来られていないようですが?」


 空席になったままの上座を見て、一人が不満そうに声を上げる。

 その声に、他何人かの大臣も賛同した。

 だが、それ以外の大臣は一様に沈黙したまま重苦しい空気を放っている。

 その中の一人。会議の開始を告げた大臣、ジョルジュが告げる。


「陛下は来られない。今朝玉座にて崩御された」

「なんだと!」「どう言うことだ!」

「今朝、見回りの兵士が玉座で亡くなられている陛下を見つけた。首を掻き切られており、すでにこと切れていたそうだ」


 王の死にざまを説明され、さらに会議室がざわつく。


「暗殺なのか!?」「誰が!?」「どうやって!?」

「黙れ!」


 大臣が口々に騒ぎ立てるのを、ジョルジュが一括して止める。


「すでに犯人は分かっている。すべて陛下の懐に入っていた手紙に書いてあった」


 そう言いながらジョルジュが一枚の手紙を取り出す。その紙はところどころ、乾いた血で黒く変色していた。


「犯人は魔物だ。先の王都襲撃時に忍び込んだ魔物が王城内に隠れ、陛下の暗殺の機会を狙っていたのだ。そのことを陛下は知っておられた。そして我々に手紙を残していった。私はこれに従って今後を進めて行きたいと考えているが、何かあるか?」

「それが本当に陛下が書いたものだと証明できますか?」

「もしそれが偽物で、自分の利益を追求したものなら、我々は取り返しのつかないことになるぞ」

「物事はもっと慎重に進めるべきだと思うが」

「そもそも、どうして陛下は自らが狙われていることを知っていたのだ! それに王城の警備は何をしている!」


 各大臣から口々に声が上がる。


「順番に答えて行こう。まず陛下が書いたと言う証明だが、この手紙には陛下直筆のサインと王印が押されていた。王印を使えるのは陛下の血を受け継いだ者のみだ。現在は陛下とその娘であるエリーシス王女だけだ。それが証明になる。次になぜ知っていたのかと、兵士についてだが――知っていたことは私は知らない。手紙にも特に書かれていなかった。そして兵士たちに今回罪は無い。近衛兵たちはその時人払いされていたらしい。全員がそう証言しているし、手紙にも書かれていた。一人ずつ手紙を回していく。各々確認してくれ」


 そう言ってジョルジュは手紙を隣にいた大臣に渡す。


「他になにかあるか?」


 その問いには誰も声を上げなかった。


「ならばこのまま手紙通りに進めて行く。まず政治についてだが、一時的に我々が多数決で決めて進めて行けとのことだ。これはおそらくエリーシス王女が助け出された場合、王女に王権が渡るため、女王になることになるだろう。それには我々は反対は無いな?」


 聡明なことで有名だったエリーシス王女が女王になることに反対する者はいなかった。


「少しよろしいでしょうか?」


 大臣達が手紙を読んでいく中、参加していたシルビアが手を上げる。


「なんだ?」

「我々勇者パーティーはこのまま魔王討伐を続行してもよろしいのでしょうか? 王都の治安維持や、各地の混乱などの収拾などは?」

「それは国の兵士たちがやる。勇者たちはこれまで以上に急いでエリーシス王女の救出を頼む」


 王の血をひくものが王女一人になってしまった今、何としても王女を生きて救出しなければ、王政が崩壊しかねない。

 王女の救出は、現在最も早急に解決する問題になっていた。


「分かりました」


 重苦しい空気が続く中、シルビアは今後の予定を考えて行った。


   ☆


 会議の終了後、今後の予定を決めるために、シルビアたちは一室に集まっていた。


「王様が亡くなられた今、私たちは姫様を一刻も早く救出しなくちゃいけなくなったわ。これは魔王の討伐より優先されるべきだと思うのだけど」

「そうですね。王都の情勢が崩れると、魔物が来ても対処できなくなります。いつまで大臣方で抑えられるか分かりませんし」


 シルビアの考えにカズマが賛同する。

 それに他のみんなも同意した。


「なら今回は討伐用の装備じゃ無くて、救出用の装備を揃えて行くことにしましょう。救出だけなら魔王と直接戦わないでもいいから、とにかく早く姫様を助け出すの」

「そうなると、食料も多く必要ですね」


 行きは全員で六人だが、帰りは王女も合わせて七人の旅になる。食料も一人分増えるし、旅に慣れていない王女を伴った場合、その速度は格段に落ちる可能性があった。


「ええ、魔王城に行く道は森があるけど、かなり寒い地域になるから動物は少ないわ。前みたいに途中で食料を狩ることも難しくなると思う。念を入れてかなり多めに持っていくことになると思うわ」

「分かりました。ではそのように準備しておきましょう」

「出発は出来れば明日にでも行きたいんだけど――」

「お前はまだ万全じゃないだろ。せめてシルビアが完全に治るまでは待つべきだ!」


 出発を急ごうとするシルビアにエースが待ったを掛ける。

 そこにトモネも賛同した。


「魔王城なら敵の数も力量も上がっているはずです。侵入とはいえ戦闘は避けられないでしょうし、体長は万全にしておくべきです」

「でも……」


 なおも何か言おうとするシルビアを遮ってキールが言葉を発した。


「足手まといを連れては行かない。明日出発するのならお前は置いて行く」


 激戦の中では僅かな隙で命を落とす可能性が高い。

 またそれは味方の命を危険にさらすことになる。


「……わかったわ。私の体調が整い次第出発するから、みんなは準備をお願い」

「それでいい」


 キールはそう言って席を立つ。


「どこか行くのか?」

「少し野暮用だ。サーニャもついてこい」

「承知いたしました」


 キールとサーニャが部屋を出て行ったことで、自然とその場は解散となった。

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