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戦闘終了。沈黙と沈痛1

「ここは……」


 最初に感じるのは太陽の匂い。干したばかりの布団の香りだった。

 飛び込んでくる光の眩しさに、開いた眼をまた閉じる。

 そして少しずつ瞼を開き、目を慣らしていく。

 体を起こそうと力を入れる。

 その時、扉が開く音が聞こえ、誰かが部屋に入ってきた。しかしベッドの周りはカーテンに閉ざされ、その様子を見ることは出来ない。

 肩肘をついて、強引に体を起こし、音がした方向に体を向けた。

 シャーっと音がしてカーテンが開かれる。


「シルビア起きたのか!?」


 入ってきたのはエースだった。


「ええ、今起きたところよ」

「ちょっと待ってろ。すぐに医者呼んでくるから」


 エースは慌てて踵を返し、ドアも閉めずに出て行ってしまった。


「ドアぐらい閉めて行きなさいよ……」


 悪態をつくも、今のシルビアには自分でドアまでいく体力すらない。

 すると、開けたままのドアから男が入ってきた。キールだ。


「眼が覚めたようだな。調子はどうだ?」

「あんまり良くないわね。体中痛いし、ふらふらよ」

「なら寝ていろ」

「ええ、そうするわ」


 キールの指示通りに再びベットに横になる。


「あの後どうなったの? ここって王宮の医務室よね?」

「説明してやる」


 キールの説明によれば、シルビアが倒れた後すぐに兵士たちによって治療室に運ばれ一命は取り留めた。ただ、出血がひどく、回復はいつになるか分からないと言われていたそうだ。下手をすれば一生眼を覚まさない可能性もあると言われていた。

 そして、シルビアが気になっていた戦闘の方だが――


「現在は終息している。俺たちがそれぞれの部隊長クラスを倒したことで魔物の統率が乱れた。そこに城の兵士どもが来て巻き返した」

「じゃあその魔物たちは?」

「現在は王都から少し離れた場所にバラバラに隠れている。兵士どもじゃ弱過ぎて掃討することも出来ていない」

「つまり私たちがやるしかないと?」

「すでにトモネとカズマが走り回っている」

「なら私も行かないと」


 起き上がろうとするシルビアをキールが強引にベッドに押し戻した。

 その力にシルビアの体が悲鳴を上げる。


「その怪我で何をする気だ? 足を引っ張って周りごと全滅するのか?」


 キールの言葉は冷たいが、正確だ。

 シルビアは自分が焦っていたことを反省し、深呼吸する。


「ごめんなさい。少し焦ってたわ」

「自分で気づけるならそれでいい。ごみどもは気づくことすらできんからな」


 キールは最後にエースのようにと付け加える。それを聞いて、シルビアは小さく噴き出した。

 そこに噂のエースが戻ってくる。後ろにはサーニャが付いてきていた。

 サーニャの手には豪華な花束があった。


「すぐに医者が来てくれるってさ」

「おはようございます」

「おはようエース、サーニャ。二人ともごめんね、なんか心配かけたみたいで」

「全くだ。血だらけで包帯まみれのシルビアを見たときはビビったぞ」

「わき腹が大きく抉られていましたからね。普通なら死んでいました」

「客観的に感想言われるとかなり怖いわね……」


 自分のわき腹をさすりながら、怪我のひどさを今さらながらに実感する。


「キール様の治療でなければ死んでいましたよ?」

「そうだったの……キールさんありがとう」

「気にするな。今死なれては困るだけだ」


 キールは、表情一つ変えず言い切る。


「そろそろ医者が来るだろう。サーニャ行くぞ」

「はい」


 サーニャが花を花瓶から取り換えるのを見て、キールが部屋から出て行く。

 それを追ってサーニャも部屋から出て行った。


「あんな言い方無くないか? 仲間だろうに」


 エースはキールの発言に立腹していた。

 それをシルビアが止める。


「キールさんだもの。素直に慣れないだけじゃない? キールさんが心配を純粋に表に出してるのも変でしょ?」

「それもそうだけど……」


 まだ納得できないといた感じのエースだが、そこに医者が入ってきたことで会話が止まる。

 診察すると言うので、エースにはいったん部屋から出てもらい、医者に体を見てもらう。

 キールの治療のおかげで傷は完全にふさがっていた。しかし内臓へのダメージが少し残っているのと、関節が悲鳴を上げるのは止められないそうだ。

 薬で痛みを和らげることはできるようだが、その程度だ。しばらくは安静にしておかなくてはいけないだろうと言われる。


「何も出来ないのは辛いわね」


 医者の説明を受けて、シルビアはひとりごちた。


   ☆


 森の中を慎重に探索する二人。

 トモネとカズマだ。

 魔物の襲撃以降、なんだかんだでペアを組むことが多かった二人は、いつの間にかかなり息があっていた。


「そろそろでしょうか」


 トモネが鼻をスンスンさせながらカズマに聞く。

 魔物の匂いがだんだん濃くなってきていたからだ。


「そうですね。そろそろだと思います。量はかなりいそうですね」


 カズマは耳を澄ませ、聞こえてくる音から魔物の位置を特定していた。足音と声からかなりの数がいるのが分かる。

 探索において、この二人は比類無き力を発揮する。

 エルフの耳と獣人の鼻。この二つをごまかせるものはほぼいない。

 この二つの探査以上の物を使おうとしたら、それこそ僧侶が十人規模で神聖魔法の探査魔法を使う必要があるだろう。

 しばらく進むと、木々の間から先が明るくなっているのが見えた。

 木の陰からのぞくと、やはり魔物がいた。

 確認できるだけでも、魔物が十体以上に魔獣はその三倍はいそうである。


「どうしますか? 今までより数は多いみたいですが」

「そうですね。私達ではせん滅系の魔法が使えませんから……」

「え? 私使えますよ?」

「え?」


 お互いに抜けたような声を上げる。


「言ってませんでしたっけ?」

「初耳ですね」

「……」

「……」


 お互い何処となく重い沈黙が流れる。


「じゃあ、やっちゃいますね。ちょっと危ないので離れてください」

「お願いします」


 カズマが十分に離れたのを確認して、トモネは構えをとる。


「古武術技! 地脈破砕!」


 かつてゴブリン達を家ごと掃討した技が再び振るわれた。

 魔物達が溜まっていた地面が一斉に砕け、地に足をついていた魔物と魔獣が一斉に地割れに飲み込まれる。

 驚いて飛び立った魔獣達も、次々にカズマの弓によって落とされていった。


「凄いですね。後残ったのは私に任せてください」


 地割れを起こして足を取られながらも、なんとか生き延びた魔物達が何体かいる。

 カズマは足場が悪く、動けなくなった魔物達を、一体ずつ弓で仕留めて行った。


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