勇者は剣士と旅をつづけ、メイドに会う。1
勇者の旅は順調そのものだった。
東へ向かう間、いくつもの村により、そこであった人々から話を聞く。
そして魔物に苦しんでいると聞けば助け、そのお礼にと食料や武器を与えられた。
勇者はその好意を拒否すること無く受け入れた。
しかしシルビアは、勇者への崇拝にも似た期待を寄せている村人に少し戸惑いを感じていた。
そしてそれを、勇者エースがそれをどう思っているのか、今夜聞こうと思っていた。
「ねえエース」
「なんだ?」
今日は前日に村を出たばかりで、次の村までは三日ほど掛かる道沿いの原っぱで野宿だ。
今ならエースの真意を聞けると思い、シルビアは思い切ってエースに問いかけた。
「最近、村人があんたに寄せる期待が大きすぎると思うんだけど、あんたはどう感じてる?」
寄る村々で人助けしていることもあり、すでにこの辺では勇者が来ていることが明白になっている。どこかの村に立ち寄れば村総出で歓迎されるほどだ。
「別に問題無いだろ。実際俺たちはあの人たちを助けてるし、感謝されるのは当然のことじゃないのか?」
「最初は確かにそんな感じだったけど、最近はそうでも無いじゃん。村に補給に寄っただけでなんかすっごい歓迎されて、食糧とかもただで分けてもらっちゃってるし」
シルビアの懸念はそこにあった。
何かの感謝として食料などを貰う分には特に問題ないと思うのだが、最近では無償で貰ってしまっている。それでは恩を返しているとは言えない。
「考えすぎだろ。俺たちは魔王を討伐するって重大な使命を背負ってるんだ。それぐらいされても罰は当たらないよ」
「うーん、そうなのかな」
そのあたりシルビアは良く分かっていない。
孤児院で育ち、何かを貰うには常に対価が必要だった昔に比べると、今は楽すぎる。
その差が、シルビアに違和感を与えていた。
そしてこの勇者の態度にも。
「そうだって。じゃあ俺はそろそろ寝るから、交代の時間になったら起こしてくれ」
そう言ってエースは布団を頭からかぶってしまう。
今日は野営ということもあって、魔物に襲われないように交代で警備する必要があった。
「了解」
シルビアは番をしながら最近のエースの態度を考えるのだった。
その後もエースたちは魔物を討伐しながら東を目指す。
そしてエースはその力で困っている人々を助け続け、次々と魔物を退治していった。
それに比例して、エースへの歓迎の度合いも増していた。
一つ前の村にたどり着いたときなどは、もはや祭のような状態だ。
シルビアが収穫祭でもやっているのかと聞いた時に、勇者が来るかもしれないから準備していたと聞いた時は心底驚いた。
そしてエースはそれが当然とばかりにその歓迎を受け、飲み食いして村を後にした。
その時のエースの反応をシルビアは唖然として見ていた。
俺は勇者だと名乗り、村の女性を侍らせ、大いに祭を楽しんでいたのだ。
勇者と言えど、エースはまだ思春期真っ盛りの男子だ。
女性に鼻の下を伸ばすのはしょうがないと思っていたが、流石に酷過ぎる。
そう考えたシルビアは、一度エースに少しは自重するように注意をしたが、全く聞く耳を持ってくれなかった。
その事もシルビアを不安にさせた原因の一つだ。
エースは実力がありすぎる。しかし、精神はそれに対応した形では育っていない。
そして間違いを起こした時、それを止めれる人物がいない。
何とかしなければ……
コリンの姉として育ったシルビアの姉心が燃え上がっていた。