勇者抜剣。相棒と開戦2
翌日、王の生誕祭は夜明けとともに始まる。
しかし、実際に王が国民の前に顔を出すのは昼からだ。その時にエースたちも一緒に顔を出すことになっている。
エースは、朝一で剣を取りに来ていた。
「おっさん! 来たぜ!」
「なんじゃ、早いな。まあ出来とるよ」
ドワーフは奥から木箱に入った一本の剣を持ってきた。
それを取り出しエースはさやから抜いた。
昨日と見た目が全然違う。
昨日まではところどころ錆びて、刃こぼれもしていたのに、今は綺麗な光沢すら放っている。
「すげぇな」
剣の放つ光沢にエースの目は奪われていた。
「当然じゃ。わしが鍛え直したんじゃからな。そいつは渾身の一振りになったよ」
「感激したぜ。こいつならどんな敵が来ても勝てそうだ」
「大きく出たの」
ドワーフは愉快そうにホッホッホと笑う。
「じゃあまた明日来るぜ!」
「そうじゃな。明日の夕方頃までにはナイフも作っておく」
「了解だ」
エースは鞘を腰に下げ、その中に剣を締まった。
「そうじゃ、その剣の名前は何と言うんじゃ?」
「剣の名前?」
「精霊石を使った剣は、精霊石の名前が剣の名前の元になるんじゃ。集中すれば教えてくれるじゃろ」
言われた通りに鞘に入ったままの剣に手を掛け集中する。
すると耳にささやくようにその名前が聞こえてきた。
「ああ、分かったぜ。クリスタルアークだ」
「ほう、良き名じゃ」
「じゃあ俺はそろそろ行くよ。じゃないと仲間に怒られそうだ」
「シルビアちゃんによろしくの」
「おう、爺さんも元気でな」
エースは新しい相棒とともに王城へ戻った。
☆
「各部隊長に伝令。王都で三度空砲が上がった時、全軍突撃を開始する」
「ハッ!」
王都にほど近い森の中で、ベルズは戦闘準備を整える。
王都に三度空砲が上がるのは、王が城からその姿を出した時だ。そう魔王から聞いている。
軍はすでに王都を包囲しており、空を飛べる魔獣達も、それぞれ森の中に隠れて人間を殺す瞬間を虎視眈々と狙っている。
一部のドジな魔物が冒険者に見つかってしまうハプニングもあったが、追撃は無く、偵察が増やされる程度だったため魔術を使い部隊から意識をそらさせて対処した。
準備は完璧だ。後は空砲を人間が勝手に打ち上げれば戦いの火蓋は切って落とされる。
ベルズは一人、これから始まる戦いに身を震わせた。
そして数分後、王都の空に空砲が鳴った。
☆
その情報は王が民の前に出てあいさつをしている時に、飛び込んできた一人の兵士によってもたらされた。
「伝令! 魔物と魔獣の軍勢が王都に進軍してきました!」
その言葉に広場にいた物たちが一斉に息を飲む。
「詳しく教えなさい!」
シルビアが伝令に詰め寄る。
「空砲が鳴ると同時に魔物と魔獣が森からあふれ出し、あっという間に門の外を制圧されました。現在は門を閉じ魔物を中に入れないよう交戦中です。また、魔物の中には空を飛ぶものも確認されており、外壁の上から弓で攻撃している状態です」
その報告で、民衆も、兵士も唖然とする。
その報告は暗に告げていた。すでに逃げ道は無く、ここで戦うしかないと。
その中でいち早く総隊長のガリオンが動いた。
「各兵士に通達。第一から第八部隊は二隊ごとにそれぞれ門の増援に回れ。残りの九から十二は民間人の避難を最優先! 避難先は王城の中庭だ!」
ガリオンはまず兵士に指示を出した。
それを聞いた総隊長の隣に控えていた兵士がすぐに王城へ掛け出す。
「民間人は兵士の指示に従って動くように! 勝手に動くと死ぬぞ! まだ魔物どもは王都の中には入ってきていない! 今のうちに素早く移動するように!」
続いてパニック寸前に民間人に指示を出す。明確な支持と現状を示されたことで集まっていた民間人はパニック状態を免れる。
そして近場にいた兵士に従うように避難を開始した。
これだけ急な状態でパニック状態にならずに済んだのは、ひとえに日頃の生活のおかげだろう。スプリジアは周りを森と草原に囲まれているため比較的に魔物が出る確率が高い。
そのため、王都に魔物が来ることが昔から時々あった。そこで民間人には定期的に避難用の経路の説明や、行動が示されていたのだ。
「王様は王城へ。時期にここも騒がしくなります。王城までは私が護衛を」
一通りの指示を終え、ガリオンは王を王城へ避難させるべく促す。
「分かった。この日に来るとは何とも嫌な気分じゃな」
「この日を狙われたんだろうな」
王の呟きに対し答えたのはキールだった。
「どう言うことじゃ?」
「生誕祭ならば、各国から使者が来ている。そして最も旅人も集まり気分が浮かれている。この時を狙えば少なからず国は混乱状態になり、兵士たちもまともに機能しなくなる。それを狙ったんだろ」
「そんな! 魔物が計画的に進軍してきたって言うの!?」
「俺はそう言った」
「理由なんて後で考えればいい。今は魔物たちを撃退することが優先だ。ガリオン総隊長、俺たちはどうするれば?」
勇者たちのパーティーは、旅をするためにどこの部隊にも配属されていない。だからガリオンからの指示はまだ出ていない状態だった。
「お前たちには自由に行動する権利が与えられている。それぞれの判断で対応してくれ」
『了解』
シルビアとエースが同時に敬礼する。
そしてエースは仲間に向き直る。
「聞いていた通りだ。俺たちは各自の判断で動くことになった」
「とりあえず私たちはバラバラに動いた方がいいわよね」
「そうですね。私たちなら個人でそれなりの応援にはなるでしょう」
「賛成です!」
シルビアにカズマもトモネも賛成した。
キールも何も言ってこないことから反対は無いと考え、シルビアは指示を出す。
「ならエースは東門に。私は西門へ行くわ。トモネとカズマで南門をお願い。キールさんとサーニャは北門を」
それぞれに配置したのにはちゃんと訳がある。
東と西は門が大きく、魔物たちの進軍が強いと考えられた。だからエースとシルビアが先頭に立って兵士たちの士気を上げる。
南門は門自体が他のより小さく防衛がしやすい。そこで後方から援護が出来るカズマと、小回りのきくトモネに任せた。
北門は南門と同じぐらいの大きさだが、北側には魔王城がある。
もし魔王軍の増援が来るとしたらここが一番の激戦地になるだろうとシルビアは踏んでいた。
「わかりました」
「私たちで南門ですね。カズマさん行きましょう!」
一つ返事でカズマ達は南門へ向かった。
「さっさと掃討してやるぜ」
エースも同じように東門へ向かう。
「キールさん、サーニャ。激戦になるかもしれませんがお願いします」
「問題ない」
「はい、キール様が行かれる時点で勝利は確定しています」
「心強いわね。じゃあ私も行くわ」
シルビアとキールたちは一言かわしてそれぞれの持場へ向かった。
☆
一番最初に目的地に到着したのはエースだった。
「だいぶ不味いな」
エースが到着したときにはすでに門には罅が入っており、壊される寸前だった。
「とにかく門の前の連中を排除しないと。
我は求む、救いの力。ライトニング・エンチャージ!」
自らに肉体強化の魔法を掛け、一息に外壁の上に飛び上がる。
上空にも五十体以上の魔獣達が飛んでいる。だがまだ守備兵でも押さえられていた。
そこで先に門の前の魔物の掃討をすることにした。
「走れ光の刃。ライトニング・アロー! サウザンドシフト!」
ゴブリン達の時に使ったのと同じライトニング・アローのバリエーションで一気になぎ払うことにした。
門の上に巨大な魔法人が生まれ、そこから次々に光の矢が魔物たちに降りかかる。
魔物たちの断末魔とともに多くの魔物が掃討された。
だが、まだ少なからず残っている。
「やっぱ威力が弱いか。ゴブリン程度なら余裕で潰せるんだけどな……」
だが、言葉とは裏腹に、その口元には笑顔が浮いていた。
「まあ、これだけ減らせば後はこいつでなんとかなるだろ」
今日腰に下げたばかりの剣を引きぬく。
刀身は鏡のように綺麗にエースの顔を写す。そしてその中央にある精霊石が輝いた。
「行くぜクリスタルアロー。ここがデビュー戦だ!」
エースは外壁から飛び降り、魔物たちがうごめく王都の外側へと出た。
☆
エースが東門に到着してからしばらくして、トモネとカズマが南門に到着した。
こちらはまだ門がしっかりと閉鎖されており、部隊も落ち着いて対処している。
「私は門の外に出て魔物を掃討しますね」
「では私は外壁の上から弓で援護します」
「わかりました。じゃあ捕まっててください!」
言うや否や、トモネはカズマを腰に抱え込み、自らの脚力だけで外壁の上まで飛び上がった。
カズマは王都に来るまでに何度かトモネの戦闘を見ていたため特に驚かなかったが、兵士たちはその光景に度肝を抜く。
「ここでいいですか?」
「はい、大丈夫です」
外壁の上でカズマを下す。そしてすぐに外へと飛び出した。
それを見送りながら弓に矢を掛け引き絞る。
「とりあえず着地点ぐらいは用意しませんとね!」
放った矢はトモネのすぐ横を通り過ぎ、一体の魔物に突き刺さる。
すると強烈な光とともに突き刺さった矢が爆発し、一帯の魔物を吹き飛ばした。
「カズマさんナイスです!」
「ちゃんと確認してから降りてくださいね!」
「ごめんなさい!」
トモネが無事に着地したところで二本目の矢を構える。狙いは門の前で怪しげな工作をしている魔物だ。
「門の前に何かやっている魔物がいます。爆破しますから、その後をお願いします!」
「わかりました!」
トモネの声と同時に矢を放つ。それはそれることなく魔物の頭に突き刺さり、爆破する。
それを見て混乱した魔物たちを、トモネが自慢の拳と足でぶち抜いて行った。
☆
トモネ達の到着とほぼ同時刻、シルビアは西門に到着した。
「これはちょっと良くないわね」
西門はすでに半分が破壊され突破されていた。
街中での戦闘も徐々に広がりつつあるようだ。事実シルビアが到着するまでに二体魔物を倒している。
「ゲリラ戦か。これは私の剣の出番かしらね!」
背中に抱えている剣を抜き放つ。
「プロメテウス、先を見据えなさい!」
シルビアが紹介した店で買ったエースのクリスタルアークが精霊石を使った剣なように、シルビアの大検もまた精霊石を使ったものだった。
今まで使う機会が無かったのは、ただエースやキールが強すぎたからである。
そして、プロメテウスの能力をもっとも発揮できる場面は、今のようなどこから魔物が出てくるか分からない戦闘中だ。
「ハッ!」
路地裏から飛び出してきた魔物を完璧なタイミングで切り払う。
空から奇襲してきた魔物を、見ることすらなく横に飛んでかわし、かわしながらなぎ払い首を飛ばす。
そして飛んだ先に飛び出してきた魔獣は、シルビアが予め置いておいた剣の位置に飛び出して自ら串刺しになった。
プロメテウスは数秒先の未来を所有者に見せる。
それは近接戦、そしてゲリラ戦に置いて最強とも呼べる能力だった。
そしてシルビアはその剣を持って、街中を疾走した。
☆
爆発、地割れ、火の海。
北門の外側は、一見地獄に見えた。
そしてその光景を作り上げた人物は外壁の上からそれを見下ろす。
「雑魚はすっ込んでろ」
「後は私が」
「そうか。任せる」
到着早々に魔物の集団を吹き飛ばし、残った物たちはメイド服を着た女性によって無抵抗に殺されていく。
その光景を見ていた兵士は、あまりの光景に呆然とする。
「俺はもう少し歯ごたえのある奴を相手にするか」
キールも壁から飛び降り魔物の中へ消えて行った。