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勇者帰国。歓迎と日常1

「全軍出撃準備整いました」

「そうか。では妾も顔を出すとしようか」

 

 魔王は王座から立ち上がり、ベランダへと出る。

 そこに広がる光景は、一面の黒。

 魔王の配下、その中でも知性を持った魔物たち五千の一堂に整列した姿は圧巻の一言に尽きる。


「皆の者!よくぞこの場に集まってくれた!これより我々は、人間の王都へ軍事侵攻を掛ける!」


 魔王の言葉に歓声が上がる。その声はウィンティア全土を揺るがさんとするほどだ。


「まずは各軍、それぞれの指揮に従って移動してもらう。このたびの侵攻はそなたたちの活躍に期待する!」


 一言だけ告げ、魔王は再び部屋の中に戻った。魔王の姿が見えなくなってもなお、魔王を呼ぶ声援が鳴りやむことは無い。

 そして魔王に変わるように、隣に立っていたベルズが前に出る。


「今回の総指揮を取るベルズだ!これより我々は王都へと侵攻を開始する、まずは王都周辺に潜伏し、魔王様の合図とともに一斉に奇襲を掛ける!これは戦争ではない!我々による人間どもへの粛清だ!」


 そう言って、ベルズが剣を抜き、高く掲げる。そして剣先を王都スプリジアのある南へと向けた。


「これより進軍を開始する。目指すは王都、スプリジア!全軍出撃!」

「「「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」


 王の誕生日一週間前、魔王軍の王都侵攻が開始した。


   ☆


「みんな見て!王都の外壁が見えてきたわ」


 その声に静かだった一堂に活気が戻る。


「やっとここまで来れたか。なんだか懐かしいな」

「なんとか間に合いましたね」

「かなり無茶な進行でしたからね。もうくたくたです」

「食糧も、もうありませんでしたからね。助かりました」

『えっ!?』


 サーニャの発言に一堂が振り返る。


「おや、気づいていませんでしたか? もう残りの食糧はほぼゼロですよ?」


 そう言いながら、サーニャは持っていた食材袋を逆さにして振るう。落ちてきたのは埃だけだった。


「ほんとに危なかったんだ……」


 その光景にシルビアは冷や汗をたらす。

 サウスティアを出てから一週間は野宿と言うには充実した食事を送ってきていた。

 初めの三日などは生鮮食品も出て、本当に野宿なのかと一堂疑うほどだった。

 だが、一週間を過ぎ買いだめした保存食がつきかけ始めてからが問題だった。

 当初の予定では、近くの森から鳥や動物を狩って食料にしようと考えていたが、想像以上に動物たちが少なかったのだ。

 実は最近になって、商業道路の整備と安全のための魔物および害獣の一斉駆除が行われたのだが、そのことを知らなかった一同は食糧危機に直面した。

 トモネと敏感な鼻や、森の民であるエルフのカズマのおかげで食べれる果物やキノコを探し、なんとか食い繋いできたが、王都に近づくにつれ森は無くなり草原になったため、限界だったのだ。


「まあ、間に合ったんだから良しとしましょう。とりあえず入ったら食堂行きましょ、食堂」

「俺も賛成だ。王都なら美味い店知ってるぜ」

「どうせいつもの場所でしょ?」

「ばれたか」

「私、王都って初めてです」

「私もですね。なるべく町には近づかないように旅をしてましたから」

「なら私たちが案内してあげるわよ。王様の誕生日まであと二日あるし、あいさつに行っても余裕はあるわ」

「そうだな。良いとこいっぱい見せてやるよ」

『おねがいします』

「サーニャさんたちはどうするの?」


 シルビアが最後尾を歩くサーニャとキールに話を振った。


「私はキール様に着いて行くだけですよ」

「王へのあいさつだけはする。後は教会に顔出して部屋に戻るだけだ」

「相変わらず引きこもってるわね」


 サウスティアでもそうだが、キールはずっと借りた宿の部屋に引きこもって本を呼んでいた。シルビアの知る限りでは外に出た記憶が無い。


「必要なものはサーニャに頼む」

「私はキール様の従者ですから」

「従者持ちってそんなものなのかしら?」


 シルビアは疑問に思いながら、目の前に迫る王都の城壁を見上げた。


   ☆


「なあ、俺達って顔パスとか出来ないのか?」

「無理に決まってんでしょ。私たちだけなら良いかもしれないけど、キールさんやサーニャ、トモネやカズマさんは門番の人も知らないんだから」


 一行は城壁の中へ入る入国審査の列に並んでいた。

 時期的に王の誕生日が近く、いつもより警備が厳重になっているため、入国審査に時間がかかっているのだ。


「次の人前へどうぞ!」

「さあ呼ばれたわよ」

「やっとか」


 ガヤガヤと言いながら手荷物検査の場所まで進む。

 偶然にも、手荷物検査をしていたのは知り合いの王国騎士団の騎士だった。


「あら、リュークじゃない」

「シルビアさん!? それに勇者様!?」

「おう久しぶりだな」

「なに? またじゃんけんで負けたの?」


 シルビアが笑いながら騎士の肩に手を置く。

 すると、溜息をつきながら騎士リュークは答える。


「そうなんですよ。これで二週間連続ですよ。生誕祭で人も増えるし警備は厳しくしなきゃいけないしで大変で……」


 門の警備は王国騎士団の管轄だ。だが、仕事が入ってくる人物の手荷物検査と言うことで誰もやりたがらない。そこで 仕方なく週明けにその週の当番を決めているのだが、リュークはめっぽうじゃんけんに弱く、ほとんどの週で手荷物検査係をやらされている。

 シルビアたちが王都を出た日も、リュークが手荷物検査をしていたぐらいだ。


「ははは、相変わらずね。まあそれは置いといて私たちの検査お願いね。知り合いだからってサボっちゃだめよ?」

「あたりまえですよ。そんなことしたら先輩にしごかれます」

「よく分かってるじゃないか、リューク」


 するとリュークの後ろから声がした。

 

「げっ!? ガリオン総隊長」

「なにが、げっ!? なんだ?」

「なんでもありません!」

「ならとっとと仕事に戻れ」

「ハッ! と言う訳で中見せてね」

「とらないでよ?」

「当然だよ!」


 リュークが全員分の手荷物を検査しているうちに、シルビアとエースはガリオンの元へ来た。


「久しぶりね、ガリオン総隊長」

「なんか生き生きしているな」

「当然だ。この町が活気づくのはそのまま俺の力になるからな!」

「相変わらずの国好きだな」


 ガリオンは大の王都好きである。この風景を守るために騎士団に入ったと言っても過言ではない。むしろ自分からそう言いふらしているぐらいだ。

 そして、その実力もかなりのもので、シルビアの次に強い人物でもある。勇者の共を決める決闘大会でも、最後はシルビアとガリオンの一騎打ちになった。王都から出るつもりが無かったガリオンは、その時あっけなく負けを認めた。だが、本気でやり合えばかなりの激闘になるのは目に見えている。それほどの実力者だ。騎士団長の座はだてじゃない。


「お前たちが戻ってきたということは、仲間が集まったのか?」

「ええ、預言者様に言われた仲間は全員集まったわ。だからちょうど王様の誕生日もあることだし、報告に戻ってきたの。魔王城へ行くにも王都は途中だったしね」

「そう言うことだ」

「それは良い報告を聞いた。早速、王に報告しなくては」

「私たちもごはん食べたら王城へ行くわ。先に行って知らせておいて貰っても良いかしら?」

「任せておけ」

「ありがとうございます」

「他の仲間の紹介は王城で聞けば良いだろうな。俺も同席することになるだろうし」

「ええ、その時に」


 そう言って、ガリオンは町の中へと消えていった。それを見送っていまだ荷物のかくにんをするリュークに声を掛ける。


「リュークまだ?」

「無茶言うな。六人分なんて結構多いんだぞ」

「でも中身はほとんどないはずでしょ?」

「隠しポケットとか厳しいんだよ。マニュアルがあってさ」

「面倒ね」

「とりあえずそっちに調べ終わったのがあるからそれは持ってって貰って良いぞ」


 みれば三人分の鞄が置かれている机があった。


「そんなこと言われても今からみんなでご飯食べに行くんだから」

「そうだぜ。バラバラになったら行動しにくいだろ」


 シルビアとエース以外は王都の立地に詳しくない。どこどこの店に集合と言われても困るだけだろう。


「と言う訳で、じゃあリュークはもっと頑張ってね」

「畜生、シルビアも騎士団員なんだから手伝ってくれれば良いのに……」

「あら、その手があったわ……」

「忘れてたのか……」


 自分が手荷物検査を出来る資格を持っていることをすっかり忘れていたシルビアに、リュークがジトっと睨む。


「そんな顔しないでよ。私たちの分は手伝うから」

「他の分も手伝ってくれよ」

「それは無理ね」

「ちきしょう」


 シルビアと協力して行った手荷物検査は、先ほどの三倍の速度で終了した。




 一行はシルビアお勧めの食堂で昼食を取ると、約束通り王城へ向かった。


「トモネさんは王都が初めてと言っていましたね」

「はい! そうなんです。だから楽しみで」

「そうですね。明後日には生誕祭もありますから、色々な露店が出ていると思いますよ。後で散策してみるのも良いかもしれませんね」

「だが、まずは王へのあいさつが先だぞ」

「もちろんです、キール様」

「はい……」


 キールにくぎを刺され、露店に目移りしていたトモネはしょぼんと耳と尻尾をたらす。

 そのしぐさに、通行人が反応した。


(なあ、あの子って獣人かな?)

(すっごく可愛いわね。あの耳としっぽ触ってみたいわ)

(あの子可愛いな。リアル猫耳少女とか俺特)

(ハァハァ……)

(隣のメイドも綺麗だよな)

(あんなメイドさんに奉仕されたいよな)

(お前は夜の奉仕だろ?)

(バカ! 全部だよ)

(黒髪クールメイドとか俺特)

(ハァハァ……)


「あの……何だか注目されてませんか?」

 

 大衆の視線にトモネが機敏に反応する。


「それはトモネさんが獣人だからでしょう。王都でも獣人は珍しいですから」

「でも視線はサーニャさんに向いているような?」

「気のせいでしょ?」

「そうでしょうか?」


 殺気以外の視線に慣れていない二人だった。

 シルビアは二人とも天然なんだなぁと若干あきれながら二人の会話を聞いていた。


   ☆


 一行は王城の前に来た。トモネは口を大きく開けてポカンとしている。王城のあまりの大きさに驚いているのだ。 


「王城ってこんなに大きかったんですね……」

「そりゃ国の中心だからな。大きくて頑丈じゃなきゃいけないだろ」

「それに他の国からも使者が来たりするし、威厳を見せつけるためにも必要なのよ」

「そうだったんですか」

「それにここの中に騎士の宿舎とかも混じってるからその分大きく感じるのよね」

「そんなことより中入ろうぜ。王様待たせるわけにはいかないだろ」

「そうねそうしましょっか」


 シルビアを先頭に一行は門の中へ入って行く。

 予めガリオンに聞いていたこともあって、すんなり王城に入れた。

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