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王は勇者に託し、剣士と旅立つ

「必ずや、姫様を魔王の手から救出して見せます!」

「たのんだぞ。もはやそなただけが頼みだ」

「は!」


 エースは今、王の前にいた。

 偶然立ち寄った教会で、マリアと名乗る少女から神の啓示を受けたエースは、勇者として魔王を倒すことを決めた。

 両親を魔王によって殺されたエースは、魔王を倒すべく国王軍の入団試験に来た所で、その話を断る理由はどこにも無かったのだ。


 その後マリアとともに王城へ行き、その事を王に告げた。

 国王お抱えの星読みの魔女によってその事は預言されており、エースは何事も無く勇者として迎えられ、マリアもまた神の啓示の巫女として王城へ迎え入れられた。


 それが今から二か月前の話しだ。

 そしてエースは、一昨日まで勇者として修行に励んでいた。

 しかし、修行の祠と呼ばれる場所で修業を積んでいたエースに、驚くべき情報が王国兵からもたらされた。

 それは王女が魔王の手先によって攫われたというものだった。

 その話を聞いたエースは急遽(きゅうきょ)王都へ戻り、王と謁見した。


 そして今に至る。


「星読みの魔女によれば、エリスは魔王城に連れて行かれたそうだ。しばらくの間は、命に別状は無いそうだが、魔物のはびこる魔王城に一人でいると思うと心配でたまらん」


 エリスとは王女エリシールのことだ。

 王の顔には悲痛な面持ちが浮かんでいる。目元にはくっきりと隈が浮かび、頬も痩せて憔悴しきった様子である。いつも、王の横でやさしい頬笑みを浮かべていた妃の席は空席だ。

 妃は王女をさらわれたショックで寝込んでしまっていた。


「必ずや王女を助け出して見せます!」


 エースはもう一度、王を励ますように宣言すると、謁見の間を出た。


 謁見の間を出ると、すぐに横から声が掛けられる。


「あんな大見栄きっちゃって大丈夫なの? 私、魔王とかよく分かんないけど凄く強いんでしょ?」

「強い強くないは関係無いんだ。これは俺たちが必ずやらなきゃいけない使命なんだ」


 今エースに声を掛けてきたのは、剣士のシルビアだ。

 魔王を討伐するために旅をする勇者の、お伴として旅について行くことになっている。

 シルビアは女性剣士だが、その腕は本物で、勇者のお伴を決めるための、騎士団闘技大会で見事優勝を果たしている。それも無傷でだ。

 修行を積んだ今のエースならばそれぐらいは出来るだろうが、それは光の魔法を加えた戦いでの話で、純粋な剣技だけならシルビアが上回っているだろう。


「でもとりあえず仲間集めは必要よね。星読みの魔女様も仲間を集めろって言ってたんでしょ?」

「ああ。勇者と剣士、それに拳闘士と弓使い。そして僧侶の五人を集めろって言ってたな。今は勇者の俺と剣士のシルビアがいるから後は三人か」

「魔女様はなんて?」

「東に向かえって言われてる。そこに僧侶がいるらしい」

「僧侶って言えば、魔法使って傷の手当てとかしてくれる人だよね。やっぱ早い時期からいてくれた方がオフェンスとしては助かるしね」

「まあそういうことだから、明日の朝出発するぞ。準備しといてくれ」

「了解、了解」


 そう言うと、シルビアは廊下を歩いていった。

 それを見送ったエースは自分の支度のために王城に貸し与えられた自室に戻る。

 明日からの旅が、人生初の経験と言うわけでは無いので、旅仕度はなれたものだ。

 そもそも、自分が生まれ育った村から王都に来るまでも三カ月近い旅をしてきた。

 その間、魔物に襲われたことや、山賊に絡まれたことも何度かあったが、それも無事に凌いで今ここにいるのだ。

 旅に関して心配しているのは、シルビアのことだ。

 シルビアは王都で生まれ王都で育った、生粋の都会派少女だ。

 それが森の中の野宿や、洞窟などの探索を出来るかどうかエースは心配していた。

 一応訓練は積んでいるらしいが、訓練と実際は別物だ。

 シルビアはどうも、その事を分かってないような感じがした。

 もう一度しっかりと注意しておかないと、と思いながらエースは自分の準備をしていった。



 一方、当のシルビアは城下町に来ていた。

 明日からの旅に持っていくものをそろえるのと、ちょっとした用事のためだ。


「よう、シルビアちゃん。今日は寄ってかないのかい?」

「ごめんねー、明日から王都を離れることになっちゃって、しばらくはこれないと思うの」

「そうかい、それは残念だね。シルビアちゃんがいるだけで店が華やかになるのに」

「また上手いこと言っちゃって。また友達にこの店紹介しとくよ」

「そりゃありがたい。気をつけて行ってくるんだよ」

「任せて」


 今のは、行きつけの喫茶店のマスターだ。


「ようシルビー。良い果物が入ったんだが買ってっか?」

「ごめんね、明日から旅にでるから日持ちのするもの買うんだ」

「そりゃ残念だ。ならこれは餞別だ持ってきな!」


 そう言うと果物やの店主はリンゴを投げ渡してきた。

 礼を言ってそれを受け取り、かじりながら町を歩く。

 シルビアが街を歩くだけで、いろいろな人から声を掛けられる。

 それだけシルビアが街に浸透しているのを意味していた。

 掛けられた声に一人一人丁寧に返して行き、目的の店にたどり着いた。


「コリンいる~?」


 店に入って声を掛けるが、反応は無い。

 だが、シルビアは遠慮なく店の奥に入って行った。

 奥の部屋で寝ていることを知っているからだ。


「コリン~」


 案の定、店の奥にあるベッドに目標の人物は寝ていた。


「また店開けっぱなしで寝てる。起きて、お姉ちゃんが来たよ」


 ゆさゆさと体を揺するとコリンはゆっくりと瞼を開ける。

 そして瞼をこすりながら姉を見つけると「おはよ~」と符抜けた声で返事をした。

 それを見て「もう昼だよ」と言いながら、締められたカーテンを開けるシルビア。

 光の眩しさにコリンは目を瞬かせた。そして徐々にはっきりと意識を覚醒させてゆく。


「あ、お姉ちゃんおはよー。こんな時間にどうしたの?」


 姉が騎士団に入っていることを知っているコリンは、普段なら姉がこの時間は訓練の時間なのも知っている。そのため出てきた質問だった。


「明日から少し旅に出ることになったのよ。それで今日はその準備のためのお休み」

「そうなんだー、また魔物退治?」

「魔物って言ったら魔物なんだけど、相手は魔王よ。知らない? 王女様が魔王に誘拐されたの」

「知ってる。じゃあ噂の勇者様と一緒に行くの?」

「そうよ。選抜大会で優勝したからね」

「凄い! 流石お姉ちゃんだ!」

「んふふ。ありがと」


 腰に抱きついてきたコリンの頭をシルビアはやさしく撫でる。

 シルビアとコリンはもともと孤児院で育った。

 大きくなってきて、一人でも稼げるようになった時、二人は孤児院をでて、才能のあったシルビアは騎士団に、コリンは雑貨店を始めた。

 大きくなったと言ってもシルビアはまだ十六歳で、コリンに至ってはまだ十二歳だ。

 農家としてなら十分な働き手になることはあっても、商売をするうえではまだ幼い。

 そこでシルビアは、定期的にコリンの店を見に来ていた。


「それでね、魔王を倒す旅だから、今回の旅はかなり永くなりそうなの。下手すると一年二年帰ってこれないかもしれない。死ぬ気は無いから絶対に戻ってくるけどね」


 そこで安心させるように、コリンに小さくウインクする。


「だからその間、この店を一人で切り盛りしなきゃいけない。分かるよね?」

「うん」

「出来る?」

「大丈夫だよ。私もだてに一年もこのお店やってないもん」


 コリンは自分の胸をポンと叩く。


「よく言った。流石私の妹だ」

「えへへー」

「じゃあ、私はまだ準備があるから行くね」

「うん。お姉ちゃん気をつけてね」

「まっかせなさい。街とかに寄ったら手紙書くから」

「うん。楽しみに待ってるよ。行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 そう言ってシルビアは店を出た。

 昔は帰る場所が孤児院だったが、今はコリンの待っているこの店がある。

 必ず帰ってくると胸に誓って、シルビアは王城へ戻って行った。



 翌朝。

 王城の門の前に二人は立っていた。


「じゃあ行くか」

「おっけ」


 エースは肩に掛けるタイプの鞄と、腰に片手剣。背中に盾をしょっている。

 軽そうに持っているが、剣も盾も三キロ以上あり、一般人が持って歩けば十分とせずに疲れ果ててしまう代物だ。

 このあたり、勇者のたくましさが表れている。

 一方シルビアも同じような鞄を肩から下げていた。

 だが、腰に片手剣は無く、背中に大きな両手剣を背負っていた。

 これがシルビアの愛用の武器だ。

 少女から放たれるとは思えない重い一撃が、これまで多くの魔物や盗賊を撃退してきた。


 その二人は王都を出て、僧侶がいると言われている東へ向かって歩き出した。


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