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剣士は拳闘士と共闘し、勇者は乱舞する。1

「なあ、次の村まであとどれぐらいなんだ?」

「もう少しね。今日の夕方には着くと思うわ」


 エースの問いにシルビアが答える。


「やっとか」

「これでもかなり早い方よ。私達だから大丈夫だったけど、普通の騎士とかなら、もっと時間が掛かってるわ」

「そう言えば、かなりのペースで来たのにトモネも全く遅れなかったな」

「これでも鍛えてますから」


 旅の五日で、トモネは何とかエースと会話できるまでには耐性ができてきた。

 しかし、いまだに触れられると反射的にエースをノックダウンしてしまう癖は直っていない。そのためトモネとエースの間には必ずシルビアかサーニャが入っていた。


「後はやっぱりキールさんの結界のおかげですね。あの中だと安心して眠れますから、体力の回復がしやすいです。一人旅の時は、寝ても数十分程度とか仮眠程度でしたから」


「それは私も思うわ。毎晩感謝しっぱなしよ」

「俺としては、もう少しスリルが欲しいけどな!」


 勇者のM発言を軽く流しつつ、進む。

 その間キールはサーニャと共に最後尾で黙々と歩いていた。


 さらに三十分歩いたころ、トモネが立ち止まった。

 それに気づいたシルビアが声を掛ける。


「どうしたの?」

「鳥が、やけに鳴いてますね」

「そう? いつもと変わらない気がするけど」

「獣人の方々は、動物の気持ちに敏感なんですよ」

「そうなの?」


 サーニャの答えに、シルビアが驚いてトモネを見る。


「そうですね。動物の血が多く流れてるだけに、私たちは動物と関わりを持つことも多いですから」

「へー、始めて知ったわ」

「獣人自体が、あまり人間と関わりになろうとしませんからね」


 トモネ自体も盗賊に捕まって、売られそうになっていたのだから当然と言えば当然だろう。


「なあ、鳥がやけに鳴いてるってことは、何かあるのか?」


 エースがそれた話を軌道修正した。


「そうですね。ここまで騒がしいのは、何か危険がある時だけです」

「調べた方が良いと思う?」

「私としては、先に村まで行ってしまった方が良いと思います。もしかしたら人間が狩りをしているだけかもしれませんから」

「そうですね。荷物も沢山ありますから、私も先に村に行くことには賛成です」


 トモネの意見に、サーニャも賛成する。

 五日経っているとはいえ、結構な量の荷物がまだ残っている。この状況で何かを調べようとしても、邪魔になってしまうだけだ。


「わかったわ。なら私たちはこのまま村を目指しましょ。調べるのは村に着いてからよ。

分かったわね、エース」


 今にも飛び出しそうなエースに、シルビアは釘をさす。

 苦行、難しい、厳しい、そんな言葉に敏感に反応するエースの思考を、大分分かるようになってきているシルビアであった。


 少し急ぎ足に一行は村に向かった。そのおかげで夕方より少し前、日が傾き始めるころには村の見える丘までやってくることができた。

 そこでトモネが村の異変に気づく。


「村から煙が上がってます!」


 第二中継地点として使われている村は、前の村よりか規模は小さいが、それでもそこらへんの村よりかは大きい。

 その村から大小さまざまな大きさの黒煙が立ち上っていた。


「鳥が騒いでたのは、これが理由みたいです!」

「急ぎましょ!」


 シルビアの声で、一行は丘を掛け降り村を目指した。


 村に近づくと、周りには避難した人たちが集まっていた。

 シルビアはその中の一人の声を掛ける。


「なにがあったんですか?」

「魔物に襲われたんだよ」

「魔物!?」

「ああ、ゴブリンの群れだ」


 ゴブリンは魔物の中では最も下級の存在だ。上位の存在はその自我をはっきりと持ち、考えることをするが、下位の魔物は、魔獣と同じようにほぼ本能で動く。

 ゴブリンはその下位の中でも最低とされ、本能に従って動く厄介な存在だ。

 腹が減れば人を襲うし、邪魔だと思えば何でも破壊する。

 魔獣と変わらない行動をするくせに、魔物のように強い。

 見つかれば真っ先にギルドから討伐依頼が出されてもおかしくない存在だ。

 だが、ゴブリン自体は倒せない相手ではないはずだ。特に第二とは言え、旅の中継地点だ。冒険者がいないはずが無い。


「冒険者の方たちで、討伐は出来なかったんですか?」


 シルビアは、そのことを尋ねる。


「もちろんいたさ。それも大勢ね。

 でもダメなんだ。ゴブリンの奴ら、いつもは多くても十匹単位で攻めてくるのに、今日は何百匹もいて、冒険者だけじゃ対処が間に合わなかったんだよ。

 町もあの通り燃えちまって、死者もかなり出てる……」


 男はつらそうに顔を伏せた。


「今はどうなってるんです? 逃げ遅れた人とかは?」

「まだいると思う。でもゴブリンどもが町にとどまってるせいで救助にも行けない」

「なら私たちが行きます!」

「君たち冒険者なのかい!?」


 シルビアの発言に、男が驚いて声を上げた。その声に反応するように、周辺にいた人たちもシルビア達を見る。誰もが藁にもすがる気持ちだ。


「俺は勇者のエースだ。魔王を討伐するために、仲間を集めながら各地を回ってるんだ」

「勇者ってあんたがか?」

「そうだ。俺達が救助に行く。いいよなシルビア」


 エースがシルビアに確認を取る。その目はすでに行く気満々だ。勇者としての使命と、危険が目の前にあると言う興奮から、ウズウズしているのがシルビアにはよくわかった。

 だが、助けに行くのはシルビアも同意見だ。放っておくことなど出来ない。


「もちろんよ。行くのは私とエースね。三人はここで負傷者の手当てをお願いできる?」

「いや、トモネも連れて行け」

「え、私ですか!?」


 今まで沈黙を続けていたキールが突然言った。


「どうして?」

「こいつの実力を見るのにいい機会だ。負傷者は、俺とサーニャの魔法でなんとでもなる。ゴブリンならちょうどいい腕試しになるだろ」

「分かったわ。なら二人でお願い。トモネ、エース、行くわよ!」

「おう!」

「はい!」


 邪魔な荷物を置いたエース達は、手早く戦闘の準備を整えると、燃えさかる町に向かって走って行った。

 それを見送ってキールは、周りの人間全員に聞こえるように声を張る。


「負傷者を集めろ! 今から一気に治療するぞ! 重症者は先にしろ。軽傷な奴らは唾でも付けておけ! 連れてきたら骨折って叩き返すからな!」


 決して怪我人に掛ける様な言葉ではないが、今の状態がそれを許した。

 重傷者が後回しになれば、その分死亡する可能性は上がる。

 パニック状態になっているこの場所で、キールの声は一般市民を落ち着かせるのに効果覿面だった。


「サーニャ、けが人の選定はお前に任せる。重症のやつから連れてこい」

「承知しました、キール様」


 その場に布だけ引いて、簡易的な治療施設を作ると、キールは治療を開始した。



「キールって治療魔法も使えたんだな……」


 後方にキールの声を聞いていたエースの感想だ。

 流石に戦闘の直前と言うこともあってトリップはしていない。このあたり、キールの調教の上手さが出ている。


「そうね。キールさんって僧侶だったのよね。いつも、戦闘でも最前線で戦ってたからすっかりその事忘れてたわ」

「キールさんって僧侶だったんですか!?」


 エースとシルビアの会話にトモネが驚く。

 トモネに言ってなかったことを思い出して、シルビアが説明した。


「キールさんは僧侶よ。私たちがあった時は小さな教会に住んでいたの」

「そうだったんですか。あんなに強いからてっきり王宮の魔術士か何かと思ってました」

「王宮の魔術師でもあんなに強いのは見たこと無いわね」


 騎士として王宮で訓練していたシルビアがしみじみと言葉を漏らす。

 エースもそれには納得していた。

 そうしているうちに町の前まで到着する。

 エースは剣を抜き、盾を構える。シルビアも背中の大剣を構えた。

 トモネは拳闘士のため、手袋をしてはいるが、特に装備は無い。


「じゃあ突っ込むぞ!」

「私はトモネと左に行くわ。エースは右を回ってゴブリンを掃討して。

 中央で合流しましょ」

「了解」

「分かりました」


 シルビアはトモネをサポートできるように自分と行動させる。

 エースの力なら、ゴブリン程度は百匹いようと二百匹いようと大丈夫だと分かっている。

 簡単な作戦だけ考えて、三人は町に突入した。


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