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僧侶は盗賊に絡まれ、拳闘士は惚れる。3

 盗賊たちのアジトは、サーニャが言った通り二十分ほど森の中を歩くと見つかった。

 どうやら洞窟を根城にしているようだ。

 拷問した男の話によると、盗賊は割と食料を溜めているらしく、一行は殲滅ついでに食料も頂いて行くことにしていた。

 そしてシルビアは今、盗賊たちを皆殺しにすることにためらいが無くなっていた。

 それは男によってもたらされた情報を聞いてからだ。


 その情報は、盗賊たちが獣人族の少女を捕まえて、売りさばこうとしているというものだ。

 獣人族は人間の体に、一部が動物となっている種族だ。

 女性は耳や尻尾をはやしているその姿から、一部の貴族の男達に非常に人気が高く、違法に捕まって奴隷にされることがあると聞く。

 どうやら、商人の護衛として雇われていたのか、旅の途中で盗賊たちに襲われたのか分からないが、捕まってしまい奴隷商人に引き渡される予定だと言う。

 まだ奴隷商人には渡されてはいないが、洞窟に作られた簡易牢屋に捕まっているとのことだ。


 それを聞いた瞬間、シルビアの頭の中から躊躇が消えた。


「男の情報通り、入り口に見張りは三人。後は中にいるようですね」

「全部で何人だったっけ?」

「四十人程度です」

「なら下僕、お前が入口で騒ぎ起こせ」

「はい分かりました」


 エースの反応は、調教により刻み込まれた条件反射だった。


「その間に俺が中に入って殲滅と、ついでにその獣人を助け出す」

「私はどうする? 一緒に突入する?」

「お前がいても邪魔なだけだ。適当に下僕のサポートしてろ」

「わかったわ。サーニャも外で待ってればいいのね」

「そうだ」

「承知しました」

「よし下僕、行って来い!」

「はい!」


 エースはやはり条件反射で草むらから飛び出すと、洞窟の入口にいた見張りの一人に切りかかった。

 突然の奇襲に、一人目は対処できずに切られ絶命する。

 エースはそのまま二人目の見張りに向かう。

 そのころになってようやく我に帰り、見張りは敵襲を告げた。

 しかし、敵襲を告げた時点で、すでに二人目は絶命した。

 その確認もそこそこに、エースは最後の見張りにむかって突撃する。


 その光景を見て、シルビアは「やはり勇者なんだなー」と思い直していた。

 最近のエースは、言っては悪いが非常に見苦しいものがあった。

 調子に乗り、威張り、命令する。

 それを繰り返したのち、キールにボコボコにされ調教された。

 その後も調教の影響でMに目覚めてしまい、非常にいたたまれない状態になっていた。

 理由を知らない女性が見たら、一発で嫌われていただろう。


 だが今、盗賊相手に剣を振るエースの姿は、紛れもない強き正義の勇者だった。


 エースが三人目を切り伏せたころで、中から敵襲を聞きつけ男たちがわらわらと、手に手に武器を持って出てきた。ざっと二十人と言ったところだろう。他のメンバーは中にいるようだ。

 それを見て、シルビアが草むらの中で腰を上げる。

 飛び出せる体勢を作って二人に声を掛けた。


「じゃあ、私も行ってくるわ。大丈夫だと思うけど気をつけてね」

「シルビアも気をつけてくださいね。相手は盗賊と言っても油断はできませんから」

「もちろん」


 そう言って、エースに気をひきつけられている盗賊団の後ろから強襲した。




 盗賊団がエースとシルビアに集中するのを確認する。


「さて、俺も行くか」

「言ってらっしゃいませ、マスター」

「派手な魔法を使うかもしれん。魔力だけは高めておけ」

「承知しました」


 キールは自分に透明化の魔法を掛けて姿を消すと、洞窟の中に悠然と忍び込んで行く。

 洞窟は意外と大きく、人が横に四人並んでも余裕を持って歩けるほどの大きさだ。

 その中にどんどん進んで行くと、分かれ道を見つけた。

 片方からは声が聞こえる。

 もう片方は、声は聞こえないが明りがついているのが見えた。

 キールは躊躇わず声の聞こえる方向へ向かう。どうせ全滅させるのだ。ならば人のいる方向へ向かうのが手っ取り早いと考えた。


 声が聞こえた方向に進むと、そこには男が一人と獣人の少女が一人いた。

 男は下卑た笑い声を上げながら、牢屋に閉じ込められた少女に話しかける。


「こりゃ高く売れそうだ。残念だったな。お前は貴族様に買われて一生ペットだ。まあ運が無かったと思って諦めな」

「ううう……」


 少女はただしなだれ、嗚咽をこぼすばかりである。


「チッ、はずれか」


 キールは透明化の魔法を解き、姿を現す。

 突然現れたカソックの男に、男も少女も驚きの声を上げた。


「誰だてめぇ! 見張りはどうしやがった!」

「知るがゴミ。空気がけがれる息をするな」


 キールが手を水平に一振りすると、男が急に苦しみ出した。


「そうだ、それでいい」

「かっ、なにしや……」


 男は最後まで言うこともできず絶命した。

 そしてキールは牢屋に向かう。

 一応は助けると言ってきたのだ。そのまま放っておく訳にもいかない。

 少女は今起きている出来事に理解が追い付かず、目を白黒させていた。


「ほら、助けに来たんだから早く出ろ」


 キールは近くに掛けてあった鍵を使って牢屋の扉を開き、中にいた少女を外にだした。

 少女は最初怯えていたが、キールに悪意が無いと分かると、大人しく牢屋から出てきた。


「あの、ありがとうございます」

「いい。それより離れるな。いまからここの連中全員殺す」

「は、はい」


 来た道を戻り、今度は明りだけがついている方向へ向かう。


「この先何があるか分かるか?」


 キールは期待半分に少女に聞いた。

 捕まっていたのなら、少しは洞窟の内情をしっていてもおかしくない。

 案の定少女はその問いに答えた。


「この先は盗賊の寝室と談話室になっている、はずです」

「そうか」


 外の陽動で出てきたのが二十人程度。サーニャの言っていた人数が四十人だったから部屋の中にざっと二十人はいる計算になる。

 奥に進むとやっと人の声が聞こえてきた。

 どうやら簡単な扉が付けられており、それが閉められていたせいで声が聞こえなかったようだ。


「ここか。サーチ」


 キールは一室に向けて純粋な魔力を放つ。

 それは生き物の反応だけを探知し、キールに教えてくれる簡単な魔法だ。

 魔力量が多くなければ狭い範囲しか分からないが、悪魔と契約したキールなら、その魔力量も一般の魔法使いとはケタが違う。

 キールはサーチを使い、部屋の中にいる全員の位置を特定した。


「あの何を?」

「気にするな、見ていろ」

「あ、はい」


 少女の問いに答えず、指示だけを出す。

 そしてキールはおもむろに部屋の扉を蹴り開けた。


 バタン! と大きな音がして扉が倒れる。

 簡易的に作られた扉は、キールの蹴りの威力に堪えれず、開くこと無くそのまま倒れた。


「脆いな……まあいい注目は集めれたようだ」

「なんだてめぇ!」

「外の連中はどうした!」

「捕まえて吐かせりゃいい!」


 部屋にいた男たちが一斉に騒ぎ出す。


「おい、あの女捕まえたやつだぞ」


 一人の男が目ざとく少女に気づいた。

 その声に少女がビクッと反応する。


「てめぇ助けかなんかか」

「僧侶だ」

「バカにしてんじゃねぇぞ! この人数に勝てると思ってんのか」


 部屋の中にはほぼ全員がそろっていた。それは当然キールも知っている。


「ドブネズミどもがいくら束になっても、所詮はドブネズミだ! ドブネズミらしく泥にでもまみれてろ!

氾濫の水は世界を嗤う。激流の汚泥(スラッジ・ストリーム)


 キールが呪文を唱えた瞬間、洞窟のむき出しの土から突然水があふれ出した。

 その水は周りの土を巻き込み、泥水となって一気に盗賊たちを押し流してゆく。


「なんだこれは!」

「水だ! 外に出せ!」

「逃げろ! 溺れちまう!」


 盗賊たちは三者三様に叫びながら泥水から逃げまどう。

 それをあざ笑うかのように、キールに操られた泥水が次々と盗賊たちを飲み込んで行った。

 部屋にいた二十人あまりの盗賊は、一瞬の内に水にのまれ洞窟の内壁に叩きつけられて気絶した。

 それを見たキールは魔法を解き、水を消す。

 うめき声を出しながら盗賊たちは起き上がる様子を見せない。


「この程度か。所詮はドブネズミ、泥にまみれるのがお似合いだな」

「てめぇ」


 一番意識のはっきりしている一人が、キールをにらみつけた。

 だがキールは気にした様子も無い。


「そろそろお終いだ。死ねドブネズミども

大地を揺らし世界を嗤え。激震の一手(グラウンド・トレマー)


 大きな衝撃と共に、男達の集まっていた部屋の天井が崩落した。

 大きな土煙を上げてキールたちにも迫るが、それはキールが魔法で作った風の流れで全ていなされる。


「これでここにいた奴らは全員死んだな。他の場所にいる奴はいるか?」

「いないと思います」


 少女の目がキールを見ながらやけにきらきらしている気がしたが、キールは気にしないことにした。

 最近変な人間ばかりに会う気がするが、キールは自分を曲げようとは思わない。

 鬱陶しければ消せばいい。邪魔をするなら排除するだけだ。


「なら外にでるぞ」

「はい!」




 外ではすでにエース達が盗賊を全員切り殺した後だった。


「こいつが捕まってた獣人だ」

「大丈夫だった?」

「問題無い。こいつにも怪我はないようだ」

「よかった。この子の名前は?」

「そういやまだ聞いて無かったな」


 少女はそこで初めて自分の名前を名乗った。


「私はトモネと言います。旅をしながら拳闘士として修行をつんでいたのですが、先ほどの盗賊団に商人と移動をしている所を襲われて捕まってしまっていたんです」


 トモネは襲われた時のことを思い出して、耳としっぽをシュンとさせる。

 その仕草はどこか猫を思わせる。


「あなたは獣人よね?」

「はい。私は猫の獣人です」

「どうして獣人が旅をしながら拳闘士を? 獣人はほとんど生まれた村から出ないって聞いてたけど」

「私の村にいた僧侶様に言われたのです。拳闘士として旅をすればきっと素敵な出会いがあると」

「それで捕まってりゃ世話ねえだろ」


 キールは呆れてトモネを見る。


「でも素敵な出会いがありました! 私を一緒に連れて行ってください!」

「んあ? 何言ってんだ?」

「さっきの戦いを見てて思ったんです。私はあなたのもとで修業をしたいです!」

「俺は僧侶だ。拳闘士なんか知らん」


 キールは全力でトモネと意見を拒む。

 しかし、女性二人がトモネを援護してきた。


「まあまあ、いいじゃない。お告げ的にも拳闘士が仲間になるなら一歩前進よ?」

「ここはシルビアの意見に私も賛成です」


 シルビアに正論を言われ、サーニャにも言われると、流石のキールでもわがままは通せなくなってしまう。

 それにもともとこのパーティーはシルビアのパーティーだ。メンバーの決定権はシルビアにある。


「チッ。分かったよ。好きにしろ」

「ありがとうございます!」

「私はシルビア。剣士をやってるわよろしく」

「サータニアンと申します、サーニャとお呼びください。キール様のメイドを務めています。よろしくお願いしますね」

「キールだ」

「みなさん、よろしくお願いします!」


 新しく拳闘士がパーティーに加わった所で、今まで木陰で休んでいた勇者がやってきた。


「ハアハア。痛気持ちいい。これだから戦いは止められない!」


 体中に切り傷を付けて、興奮している。


「ヒッ! 変態!」


 ドスッ!と重い音とともに、トモネがとっさに出した拳がエースの鳩尾に入った。

 エースはそのまま地面に崩れ落ちる。


「あら、なかなか良いストレートを持っていますね」

「そうね。これならいい戦力になるんじゃないかしら」


 サーニャとシルビアがのんきにトモネの拳を評価していた。


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