第37回廊―痛みと生きる理由
遅くなりました第6話になります。
執筆スピードが気分と調子によってまちまちで安定感がない・・・もっとガンガンかける書き進めるようになりたい。
[8/22 7:21] 第40回廊 セーフティーエリア Lv228
今俺は40回廊のセーフティーエリアのド真ん中で仰向けになりうす暗い天井をただ呆然と見上げている。視界の端に見える時間をみるともうかれこれ丸一日こうしている。
デスゲーム終了の8月31日まで後9日しかない。一刻も早く脱出するべきなのだが・・・身体が動かない。
別に身体のどこかに異常があるわけじゃない・・・ステータス的に言えば万全の状態だ。だけど動けない・・・心が動くことをやめているのだから。
「迂闊だった」としか言いようがなかった。もっときちんと警戒すればこんなことにはならなかっただろう。今苦しむことはなかった・・・
[8/21 8:41] 第37回廊 Lv229
ここまで驚くほど順調に突き進めている。迷路のようになっているわけじゃないからまっすぐに次の回廊を目指せるし、途中で敵に出くわしても出てくるのはマスターデットばかりでほとんど恐れることもなかった。
まぁ、流石に20体近くが一気に出てきた時にはやばかったけど心臓の悪さ的な意味で・・・それでも気付けばレベルも一つ上がったので少し気分を良くし、意気揚々と30回廊のマスターエリアを目指した。
「んーっと次の回廊への出入り口は・・・あったあったあっちか。この調子でさっさと上ま゛っ!?」
36回廊へと通じる光の柱を見つけさっそく歩み出そうとしたその時、自分の背後から青白い何かが自分をすり抜けていった。
青白い何かが身体を通過した瞬間壮絶な寒気が襲い思わず膝をついてしまう。身体がわずかだが震え、心臓のものすごい速さで鼓動し視界が揺らぐ。自分に何が起きたのか思考が追いつかないが、今まで身体に覚えこませた条件反射で素早く自分を通過した青白い何かに『アナライズ』をかける。
『ザ・ペイン』Lv0
それが俺の身体を通った敵だ・・・だがLv0?
表示されている情報がバグを起こしているのかと思ったがそんな様子も見られない。つまりこのザ・ペインは正真正銘Lv0のモンスターだということだ。そんな奴が今俺に何をしたっていうんだ?身体の中に残る寒気と不快感の正体がわからない。
なんにしても自分にどんな異変が起きたか自分でもわからない今、このザ・ペインをこのまま放っておくのは危険すぎる。
青白い塊に素早く銃を向け引き金を引く。だが、震える手で撃ちだされた弾丸は狙いがわずかにずれてザ・ペインを掠る様に通り抜けてしまう。しかしたったそれだけ・・・わずかに掠っただけで青白い塊ははじけて霧散する。どうやらLv0なだけあってLv229の俺との圧倒的な能力差であの程度の攻撃でも即死だったのだろう。
しかし今のは本当に何だったのか?自分のステータス画面を開いてみたが、HPもMPもその他ステータスには何の変化も見られない。いうなれば健康状態そのもののはずなのに・・・身体の震えがまるで止まらない。それでもここで立ち止まっているわけにも行かないため、震える体を無理やり起き上がらせおぼつかない足取りで一歩、また一歩と重々しい足取りで先に進む。
なんにしても今の状態は非常に危険だ。こんな状態では30回廊までたどり着くことはむずかしいだろう。だが、ここを脱出するためには情報が必要しそのためにも行けるところまで進むべき・・・
――――・・・って・・・・のに?
「・・・?」
唐突に頭の隅に何かがよぎった。だけどそれが何なのかは解らない。だから今のは早々に無視して奥へ奥へと歩き続ける
[8/21 8:59]
どんどん足取りは重くなっていく。息も苦しくなり視界は揺らぎぼやけてくる。そして何より『声』が頭の中に響いてくる。
――・ん・・・・必・・・の?
頭の中に響く『声』は途切れ途切れで何を言っているのか全く読み取れないが、その『声』が聴こえるたびにどんどん苦しくなっていく。それでも前へ前と何かに取りつかれるように黙々と歩く。
そこへ敵が現れたのは俺にとって救いなのか止めの追い打ちなのかは解らない・・・
唐突にひときわ大きい墓標の陰から鎧を着込んだ骸骨が現れる。名前は『クルセイドホロウ』。Lv163とマスターデットとの差は僅かだが明らかにやつより強い敵だ。
マスターデットとは違い1体しかいないし、周りに他の敵がいるような感じではない。しかし黒ずんだ剣と盾を持ったクルセイドホロウから感じられる危うさ。間違いなくこの40から30回廊の間で最も強い敵だと思う。
意識を無理やり叩き起こし先手必勝として素早く銃を構え引き金を引く・・・が、放たれた弾丸は全く明後日の方向へと飛んで言った。
「あっ・・・くっ!」
焦りが余計に視界をゆがませる。まともな思考もできず、ただただ両手の銃を乱射する。当然すぐに弾切れを起こしリロードが必要なのだがそれすらもままならない。
「このままじゃやばい!早くなんとかしないと!!」・・・思考がその一点に集中し焦りが余計に自分を追いやる。もうなりふり構っている余裕などなく、使用を控えていた銃撃魔法を使うことにする。アレならばたとえ狙いが定まらない今でも圧倒的な質量で押し切ることができる。
「『ストームブリン――」
――帰ったって意味ないのになんでもがく必要あるの?
俺はストームブリンガーを使うことを中断した。今まで途切れ途切れで響いていた『声』がはっきりと聴こえ・・・理解してしまった。
『声』は俺の頭の中を蹂躙するように何度も・・・何度も響き続ける。それが終わりを告げたのはクルセイドホロウの剣によって俺が真っ二つに切られた時だった・・・。
[8/22 7:30] 第40回廊 セーフティーエリア
もう頭の中であの『声』は聴こえない・・・いや、もう『声』が聴こえる意味はないだろう。俺はその『声』をよく理解してしまっているんだから・・・。
「俺は・・・死にたくない。でも・・・帰る理由・・・」
あの『声』は自分自身・・・俺が目をそらし続けていた一番後ろ暗い感情。絶望と怠惰を背負った痛みそのものだ。
あのLv0はたぶん能力ダウン系のスキルに特化した敵なんだ。特化しすぎて・・・生身の精神にもダイレクトで攻撃ができるレベルの・・・俺はそれをもろに受けて今一番考えちゃいけないことを考えてしまっているんだ。
――もがく必要あるの?
それは死にたくないからだ。誰だって死にたくないんだ。それは間違いない・・・でも
――帰ったって意味なんかないのに
その一言がずっと頭の中で響いてなくならない・・・重く深く根強く残り続ける。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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