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第39回廊―亡者の世界

第4話からかれこれ2週間以上も間があいてしまいましたが、ようやく第5話です。

変なところで切ったから書き辛くなってしょうがなかった・・・が、後悔しても何にもなりませんしなんとか出来上がりました。

 銃撃魔法『ストームブリンガー』をフルに使って底をついたMPを回復するために素早くアイテムを取り出す。

 ヨルムンガンドはこちらの攻撃をまともに受けたためかなりふらついて動きが緩慢になっている・・・DoTのおかげでもあるだろう。このわずかな隙に少しでも回復を図らなければならない俺は取りだしたMP回復のポーションを一気飲みする。

 こういう時感じるのがVR-MMOの不便さだ。従来のMMOならばボタンひとつですぐさま回復できるのにここではこうしてポーションを飲むという動作が必要で即回復できない、何より隙だらけだ。

 ソロじゃ普通使う暇なのないのだが、俺は無理やりブレイクポイントを作り出しながら回復を図っている。


 自身のダメージを耐えながら反撃に打って出るヨルムンガンド。その迫力たるや牙が折れた程度ではなんら衰えることは無い。いくら牙を折ったとはいえ丸飲みされればアウト、それ以前にこのまま体当たりされるだけでも致命傷になる。たとえ体当たりを避けてもそのあと尻尾で追撃されたらやはり致命傷。

 こいつとの戦闘で回避という行動はその効果を十全に発揮できない。そのためできること、やるべきことは自然と絞られる。


「『スナイプショット』・・・!」

 俺は右手の銃で狙いをしっかり定めながらスキル『スナイプショット』宣言する。これは単純に攻撃の命中率を上げるスキルなのだが、普通はハンドガンで使うようなスキルではない。どちらかと言えば命中率の低いマシンガン系の銃で攻撃する時に使うスキルだ。そこそこ命中精度の高いハンドガンでわざわざ使うものではないが、今は高い命中精度が必要なのだ。

 高レベルの『スナイプショット』によってハンドガンでありながらスナイパーライフルで狙いを定めたかのように精密な射撃でヨルムンガンドの左目を射抜く。


「GUJAAAAA」

 潰れたような悲鳴を上げながら身を捩るヨルムンガンド。二度目のチャンスが到来し、再び『ストームブリンガー』を発動させる。だが、今度はより高いダメージを叩きだす為にある一点を狙う。幸い『スナイプショット』のスキル効果は銃撃魔法にも適用され、スキル効果は未だ持続している。これを使わない手はない。


「さっさとくたばれぇぇ!」

 怒号とともに先ほど以上のピンポイントの一点集中砲火が始まる。狙った先はヨルムンガンドの口・・・そこから通して身体の内側を徹底的に攻撃する。

 痛みで悲鳴を上げているヨルムンガンドの口の中に次々と飛び込んでいく緑色の閃光。その閃光が口の中に飛び込むたびにヨルムンガンドは悲鳴を上げ更に閃光が飛び込んでゆく。身体の外側でなく内側から攻撃しズタズタに引き裂く。

 えげつないほどのこの攻撃によってヨルムンガンドは目に見えて弱ってきている。もうひと押し・・・!

 今の攻撃で倒しきれなかったものの8割近くは削った感触はあり、ヨルムンガンドはまさに満身創痍。内と外の両方を徹底的に攻撃された結果、まともに動けていない・・・とまさにこれ以上の隙はないとばかりに俺はポーションをがぶ飲みしMPを全快させ、三度銃撃魔法をヨルムンガンドに向ける。

 もう動くこともできないヨルムンガンドに牽制は必要ない・・・


「これで落ちろ!『ストームブリンガー』!」

 声高らかに勝利とスキルを宣言する。俺の感情に呼応するように展開していく20の魔法陣。そして乱れ飛ぶ緑の閃光。

 動くことのできないヨルムンガンドは直撃を受けの断末魔の叫びとともにその巨体から力が抜けていく。


 静けさと共に、後に残ったのは奴が落としたアイテムだけだった。


[8/20 13:20]


「・・・勝った・・・はぁ・・・危なかった」

 時間にして約9分。結果だけ聞けば短時間にそれも一方的な攻撃によって倒した戦闘のどこに危険があったのかと問われるだろうが、俺にとってはギリギリの綱渡りなのだ。

 俺の戦い方は極めて極端だ。一方的に勝つか・・・一方的に負けるか。防御力が致命的に低く。攻撃力がが馬鹿高い俺にとってそのどちらしかない。

 一瞬の判断ミスが生死を分かつ戦いをひたすら続ける。正直精神的負担の大きいやり方だが、孤独に闘い続ける俺にとってはこれ以外に道はない。


 だがまぁ・・・今日はもう戦う気は起きない。無事に40回廊まで来れたのだし、奥にあるセーフティーエリアで休んで30回廊を目指すのは明日にしよう。


[8/20 13:22]第40回廊 セーフティーエリア Lv228


 そういえば今の戦闘でレベルが一つ上がったようだ。いくらBOSSモンスターとはいえ・・・経験値多すぎないだろうか?


 ・・・だが、それよりも指摘したいものがある。


「・・・変化ねぇ」

 思わずこぼれた言葉がすべてを物語っている。今いるのは40回廊のセーフティーエリアなのだが・・・エリアの構造も置いてある設備もその位置も全部50回廊のセーフティーエリアと同じなのだ。

 これでは正直進んだ実感がいまいち感じられない・・・だがまぁそんなこと言ってもここが模様替えされるわけでもないので、諦めて使い倒してごっそり減ってしまった回復アイテムを補充した後適当な場所に横になる。少々早いが今から寝て目が覚めたら30回廊を目指そう。

 仮想空間の肉体に疲労がなくても精神的疲労が蓄積しているのか、昼間ながら思いのほか強い睡魔が襲いあっさりと深い眠りに就いた。




[8/21 1:48] 第39回廊


「・・・・・・なんだよこれ」

 俺はこの回廊を舐めていた。それはもう十分に解っていたはずだった・・・だが、今ある光景はそれを認識したうえで――考えを改めたうえでそれを凌駕するものだった。

 この喪失の回廊は1回廊から10回廊と41回廊から50回廊は床・壁・天井がすべて灰色の石畳でおおわれた典型的な迷宮洞窟なのだが、残りの11回廊から40回廊までは10回廊ごとにいるBOSSモンスターを象徴するようなMAPと敵が存在するのだ。

 つまり、この31回廊から39回廊は40回廊にいたヨルムンガンドを象徴したフィールド。蛇が主に出現する沼地が広がっているはずなのだが・・・


「墓地・・・だよな。どう見ても」

 眼前に広がるのは墓、墓、墓。西洋風の墓標が地平線までずらっと並んでいる光景。どう見ても俺が知っている回廊ではない。

 ここから出される答えは一つ。俺は喪失の回廊を最深部から逆戻りしているという考えが間違っていて、喪失の回廊と似ている回廊(・・・・・・)を攻略しているのでは?

 もしかしたらこの考えも違うかもしれないが、とりあえずそう考えて行動する方がいいだろう。今まで以上に慎重に確実に・・・なにより迅速に攻略するべきだろう。




[8/21 2:01]


 あまりの衝撃的なことだったため結構長い間放心状態に陥っていたが、改めて出発だ。しかし時間的に今この回廊を歩くのはあまり心臓にいいもんじゃない。午前2時・・・いわゆる丑三つ時ってやつだ。

 40回廊制覇の疲れで丸々半日寝てしまった結果だから仕方ないと言えば仕方ないが、また戻って朝まで待つのは時間の無駄だし眠くもない。それにどうせここは暗い地下の回廊なのだから昼も夜も関係ない・・・ってことはいつ来たってここは心臓に悪いか。

 なんにしても進まないことには話にならないので、薄気味悪い一面墓地の回廊をゆっくり、慎重に歩き始める。回廊の内容は激変したが、根本的なところは同じ。


 ここ31回廊から39回廊は前の回廊と違い、迷路のような構造ではなくだだっ広い空間が四方向でループするような構造になっている。つまり同じ方向にまっすぐ進むともといた場所に戻るというような構造になっている。

 回廊の出入り口は薄い光の柱のようなもので遠くからでも探せば見つかるため、次の回廊まで理論上一直線に行くことができる。ただまぁ敵が出てくるからそう簡単にはいかないのは当然で、下手すれば敵が大量出現する場所につっこむなんてこともあるし、戦闘してるせいでどっちに向かってたか解らなくなって迷わなそうで迷う・・・なんてこともあるというかあった。


 それでも今はまずどこに何があるのか知るためにかなり遠目でうっすらとではあるが次の回廊への出入り口を目指し、あえてまっすぐ最短コースを突き進む。




[8/21 2:22]


 今のところ何も出てこないな・・・なんて考えていた矢先に足元から突然手が飛び出してくる。


「ひぐっ!!?」

 ベタだが本当に心臓に悪い。変に押し殺した悲鳴を上げながら慌てて飛び退くと今さっき居た場所に出るわ出るわ・・・合計で7体のゾンビがホラー映画のテンプレのごとく現れた。素早く『アナライズ』でゾンビたちのデータを見る。

 『マスターデット』Lv162・・・詳細ステータスは当然ながら出ないが、レベルは予想していた範囲内だった。逃げるという選択肢もあるが、今は情報収集を兼ねているから倒した方が得策だろう・・・少し数多いけど・・・


 ってか、ゾンビ相手に拳銃向けてる子の絵図ら・・・どっかのホラーゲームを彷彿とさせるな・・・


 どことなく湧きあがる雑念を振り払い、ゾンビめがけて連射する。ただ撃つだけではない・・・狙いはマスターデットたちの足だ。

 ゾンビ系のモンスターは機動性が低く魔法などの遠距離攻撃はしないが、とにかくHPが半端ない。相手が鈍間だからって考えなしにその場に突っ立って攻撃してたらすぐに囲まれてそれこそホラー映画のワンシーンのようになってしまうので、それを防ぐためにまず足を狙う。

 俺がヨルムンガンドの牙を負ったり目を撃ちぬいたりなど、敵によっては特定の箇所を攻撃することで部位欠損を起こし、相手の行動を制限することができる。

 先頭をゆっくりと歩み寄ってくるマスターデットの右足に3発の弾丸を撃ち込むと足が見事に吹き飛びそのまま体勢を崩して右に倒れこむ。普通ならそれで動かなくなるのだが流石ゾンビ・・・そのままほふく前進の要領でずりずりと近づいてくる。


 なんか余計怖い。


 だが、それでも進行速度が激減するので心臓には我慢してもらい他のゾンビたちも同じように足を撃ってはいつくばらせる。そして動きが鈍くなりきったところにこれでもかというくらい弾丸を撃ち込んでいく。

 銃撃魔法を使えば手っ取り早く殲滅できるが迂闊にMPを消費したくないし、何より俺が保有する銃撃魔法の属性はゾンビやゴーストなどには相性が悪い。風はダメージが軽減されるわけではないがDoTがかからないから相対的なダメージとしてはかなり減るし、もうひとつの属性に関しては論外と言える・・・だから今はこうやって地道に通常攻撃だけでマスターデットを倒す。


 本当にどっかのホラーゲームのようだ・・・




[8/21 2:46]


「ぜぇ・・・へふぅ・・・疲れる」

 流石にかかった・・・7体居たとはいえ20分以上撃ち続けることになるとは・・・HP的にはノーダメージだが精神的に大ダメージだ。それにこれだけ長時間戦闘していたにも関わらず追加の敵が来なかったのはありがたい。これで途中で2体3体と増えていったら・・・やめようマジで心臓に悪すぎる・・・

 なんにしてもマスターデットを倒したことで詳細データもわかったし、無理に相手する敵でないこともはっきりしたので攻略はかなり楽になっただろう。


 この時の俺は舐めていた。この回廊を甘く見ちゃいけないと何度も再認識したにも関わらずわずかだが気が緩んでいた。マスターデットの強さに惑わされて、その影に潜む別の脅威に全く気付いていなかった・・・

ここまで読んでいただきありがとうございました。

誤字・脱字・感想・ご指摘など、何かありましたら感想フォームにてよろしくお願いします。


この作品もなんだかんだで5話まで来ましたが、まだ先は長いです・・・しかし!

じわじわと増えていくお気に入りの登録件数を励みにしながら、完結まで頑張ります!

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