エピローグ―それから、これから
あの後思いのほか色々なことがあった・・・とは誇張するもののそれほど大したことでもない・・・かな?
あの日・・・クリア報酬を受け取ったその日に、個室から大部屋へと移され2年間寝た切りで衰えに衰えてしまった筋肉をつけるためのリハビリが始まった。
いくらなんでも移るの早くないか!?・・・なんて思いもしたがまぁ個室に居ても大部屋に居ても俺の行動に違いがあるわけでもないのであまり気にしなかったが。
かくして俺のつらーいつらーいリハビリの日々が始まったわけだ・・・が、実は肉体的にはそれほど辛くは無かったんだ。筋肉無いわ関節固いわと動くのが結構大変だったのは確かなんだがそれで嫌になって投げ出すことは無かったんだ。
・・・むしろ・・・そのなぁ・・・動いても動いても・・・動いても動いても・・・物足りないんだ。
医者たちは俺の体調を気にして一日にせいぜい1時間か2時間くらいしかやらせてくれないんだけど、まるで動き足りない!毎回もっとやりたいと交渉するんだけど伸ばせてせいぜい1時間程度だった。
だから、ある程度動けるようになってからはというもの。担当の先生とか看護師さんたちの目を盗んでは部屋を抜け出して散歩散歩散歩の毎日。
だが、そこは流石に向こうもプロだ。俺の勝手な行動を看過できずに毎度見つけては部屋に送り返して説教・・・このループが俺の居た大部屋の日課になっていた。幸い大部屋に居た人は俺以外年寄りな爺ちゃんばっかで割と俺を応援してくれた。
まぁ・・・流石に我慢できずに消灯後、どっかの潜入アクションゲームよろしく。巡回する看護師さんの目を盗みながら病院を脱出、外の空気を吸いながら一晩中ランニングに興じて帰ってみたら、鬼のような形相の主任看護師殿に見つかった日は・・・精神病棟のベッドにでも放り込まれたかのようにホントにベッドに括りつけられてしまった・・・さすがにやり過ぎたと思ってる。
そんな事を繰り返していたら、リハビリはびっくりするほど順調に進んで年明けの予定だった退院が年内になったのはまぁいいことだろう。
2年半ぶりの我が家はまぁ当然ながら変わり映えすることはないが・・・流石に盛大に退院祝いをされたのには面を食らった。なんていうか・・・そう極端すぎるだろうて。
さてさて、無事に退院した後に待ち受けて居たのはその年最大の問題・・・「学校どうしよう!?」って話になった。
高校2年だった俺は丸二年向こうに居て、勉強は完全に滞っている。本当ならすでに大学生になっているくらいのこのお歳でのこのこ前いた学校に戻るのは難しい。
そこで候補に上がるのが国が用意した学校施設だ。
今回の事件に巻き込まれた人間は約3万。そしてその大半が学生なわけで、当然彼らへの対応は必要となる。そこで取られた対策は、全国の数か所に俺の様なやつを受け入れる学校を作った。それならばそこに行くのが最善の手なのだが・・・問題は場所だ。
自宅がある場所は都心からちょっと離れたところにあるのだが、交通手段で困ったことはなかった・・・しかし、ここに来て初めて困ったことに学校の場所が遠い・・・びみょーに遠い!電車使って2時間ほどという行けなくもないけど・・・って距離だった。
半端に長い通学距離・・・となればベストはは学校の近くに住むことだ。俺みたいなのは当然何人もいるわけで学校に併設して寮もできるってことなのでそこに入ろうって話を持ちかけたら・・・なんとまぁ、母上殿が猛反対。
家からで無いとダメだと断固反対の姿勢を崩さなかった。まぁ丸2年もの間何時死ぬかわからんような身だったのだ。自分のいないところで何時コロッと・・・なんて想像が強くなってしまったのだろう。俺だけでなくすでに一人暮らし始めてた兄にまでそのとばっちりが飛んで帰って来いと言い始める始末だった。
結局年明けまでずっとその押し問答を繰り返していたのだが、母様が「なら、学校の近くに引っ越す」っと言い始めて流石にこれはまずいと父さんが立ちあがり、俺と兄と父さんとちゃっかり便乗した弟の4人で説得をし、なんとか俺の寮生活の許可が下りた――余談として弟が一人暮らしの確約を取っていた・・・本当にちゃっかりだ。
[4/3 14:10]
そんなこんなで今に至る。無事に入学手続きを終え、今日から新しいこの学校で2年生から勉強のやり直しである。
まぁ、俺以外の生徒も同じ境遇なんで学力的にはあんまり気にしなくてもいいかと思いながら簡単な入学式が執り行われて、各教室に移動。一通りのガイダンスを受けて早くも明日から授業開始・・・結構ハイペースな気がする。
そういえば・・・この教室に最初に入った時に耳にしたのだが、どうやらクラスメートの中に最初のデスゲームのクリア条件『眠れる神の再誕』をクリアしたメンバーが居るみたいだ。
おまけにそのメンバーのリーダーらしく、LWO内最強のプレイヤー・・・っとまぁ、びっくりな話を小耳にはさんだわけだが・・・それを聞いてちょっとだけ心が痛んだ。
ゲームをクリアしたメンバー・・・それもそのリーダーなんて・・・そいつこそ俺が受け取ってしまった『クリア報酬』を受け取るべき相手だと感じた。
聞いた話が本当ならば今すぐにでもそいつに会って話して、渡すべきだ。
だろうけど・・・
まだ俺も心の整理がついていない。こんな状況じゃまともに話すことはできない・・・ってかそもそもろくに話ができる自信がない。
あの世界で俺はなさそうで、意外と色々思うところはあった。だからと言って俺の根っこにあるものがそうそう簡単に変わるとは思えないし、思ってない。
ただ今はもう少し人と話してみようかな?っとは思ってる・・・自分の中で話割と前進した発想だと思う・・・が、明日からでいいか。
[4/3 17:04]
ホームルームはだいぶ前に終わり、クラスメートたちはさっさか帰ってしまった。
確かに今日なんて教室に居ても何があるわけでもない・・・まぁそのお陰で俺はのんびりと黄昏れているわけだが。
この学校の窓から見える景色が結構良い為、黄昏るというかノンビリ眺めるのにはうってつけだった。
もともと小高い山の上に建っており、そこ以外は景色を遮るような山も建物もないため眼下に都心の町並みが見える。もうちょっと視線を遠くにやれば海まで眺められるという・・・学校として使うより観光スポットとして使った方がいいんじゃないか?ってくらい眺めは良かった。
新品の学生服の動き辛さを感じながら窓の外の景色を眺めていると、改めて自分がこっちに・・・現実に戻ってきたのだと実感する。
あの世界で過ごした2年間・・・夢のようで、幻のようで・・・でも現実な仮想の世界で生きた日々。
今でも鮮明に・・・鮮烈に覚えて居る。
2年間ずっと走り続けて居た。銃と魔法をその手に、ひたすら闘争に明け暮れて居たあの日々・・・そして、最後の14日間・・・。
あそこには誰も知らない俺だけの物語が眠っている。
そうだ、彼女・・・いや・・・これは考えない方がいいや。もう会うことないだろうし・・・
「――――ぃ」
そもそもあの回廊に俺以外が居るってのがまずおかしい。そうだ・・・そう考えるとあれは・・・幻覚だな。あの時はもう色々限界過ぎたからおかしな幻を見てたんだ。
うん。その方がまだ納得いくな!そもそもあんな子が世の中そうそう居るわけないんだし。
「――――ぃ」
そう考えるとなんか色々すっきりと気が楽になった感じがする。そうと決まればそろそろ寮に戻るか・・・晩飯食いっぱぐれるの嫌だし。
ってか、さっきからなんか後ろの方で声がするんだけど、俺以外にまだ残ってる人・・・全くいないってことはないか。
「先輩!」
耳に聞こえてきたのは女の子の声で先輩と呼ぶ声。なんとまぁ・・・この学校で早くも先輩後輩で仲良くなってるような輩が居るのかっ!ってツッコミを入れたいところだが、よくよく考えればもともとこの学校にはLWOのプレイヤーが集められているんだ。顔見知りが先輩後輩ってのは十分あり得るか。
にしても散々呼ばれてるのに返事をしないみたいだけ――
「もぅ・・・ベイル!」
「っ!?!?」
誰が驚くなというだろうか・・・そもそも最初は聞き違いだと思った。どこか聞き覚えのある声だとは思ったが俺を先輩と呼ぶような相手に心当たりはなかった。
だが、あろうことか声の主は『ベイル』と言った。
ベイル・・・その名を知っている人間が一体何人いるか?
多すぎて解らない・・・の逆でいなさすぎて解らないが正解の俺にとってその名で呼ばれることがどれだけ予想外か。
慌てて振り返った時・・・見間違いだと思った。扉の前で両手を腰にあてながら、むくれた顔でこちらを睨みつける女の子がそこには立っていた。
俺よりも頭一つ低く、流れるような綺麗な金髪と綺麗な目鼻立ち。透き通るような碧眼はあの日まで見た彼女に瓜二つだった。
一体これはどういうことでしょうか?俺の残念な頭が生み出した幻覚・・・想像の産物のはずの彼女がなぜか目の前で真新しいこの学校の制服を着てそこに立っていた。
・・・いやちょっと待て俺。何、彼女を想像の中の産物にしちゃってるんだ!?残念(?)ながらあれは想像の産物とか幻覚とかじゃ全くなくて、現実にリアルの存在する・・・
「あっ・・・アリス・・・?」
「そうよ。というかなんだか初めて名前で呼ばれた気がする」
陸に上がった魚のように口をパクパクとさせながらようやく出てきた言葉に満足そうなアリスはゆっくりとこっちに歩み寄ってくる。
「ひさしぶりだね。元気だった?ちなみに私は見ての通りです・・・とは言うものの実はここまで結構大変だったのよ?こっちに戻ってきた後、イギリスから慌てて日本に戻ってきて知り合いに頼んでこの学校にベイルが入るってこと調べてもらって――」
何か話しだしたアリスだったが、あいにく話半分も耳に入ってはいなかった。じゃぁ代わりに何があったか?まとめると大体三つだ。
一つは会うことがないと思っていた相手に再会したことへの驚き
一つは再会したことへの喜び
そして最後に・・・
「ホームルーム終わって色々探してようやくベイル見つけ・・・て!何してるのここ2階―――――」
ここから飛び降りてでも逃げ出したいという衝動
ちなみにこいつが全体の9割を占めていた。全開の窓から勢いよく飛び出し、まだやや寒い4月の空気に触れながら僅かな解放感と共に色々考えされられることになる。
俺自身はあまり変わり映えしないけど・・・あいにく俺の周りは色々俺の意思に関係なく激変しそうだった。
まぁ、それも前向きに受け止めればいいか。
とりあえず今は・・・
・・・うまく着地できるかな?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
誤字・脱字・感想・ご指摘など、何かありましたら感想フォームにてよろしくお願いします。
ここまで読んでいただいて・・・本当にありがとうございました!
「たった一人の英雄伝説~14日間のデスゲーム~」これにて完結となります!
自分のこんな稚拙な文章を読んでいただいた皆様には感謝が絶えませんっ本当にありがとうございました!
今後のこととかは活動報告等に乗せて行きますのでそちらを参照してください。
最後にもう一度・・・ありがとうございました!!