第45回廊―ゲームスタート
お待たせしました2話となります。ちなみに本作品は話数では表記せず、進行中の回廊で表記されています。解り辛いと思いますがよろしくお願いいたします。
クエスト名『死せる世界の生存者』
クリア条件:喪失の回廊の脱出及びゲームからのログアウト
追加条件
1.転移アイテム又はスキルの封印
2.10回廊ごとに設置してある転送エリアはセーフティーエリアとなる
3.通過したセーフティーエリア間であれば自由に転移可能
4.アイテムの売買等の施設はセーフティーエリアのみに存在する
5.死亡時の復活ポイントは上位回廊のセーフティエリアとなる
6.死亡時のペナルティーはLv-1
詳しいも何もあったものじゃない。今手の中にある紙の内容は酷く簡潔にまとめられている。デスゲームのルール・・・たったそれだけがすべて。
一瞬でダンジョンの入り口や、タウンへ戻るためのアイテムやスキル、その他移動手段は全て利用不可。代わりに10回廊ごとにアイテムを補給する場所ができる。デスゲームとはいえこちらを本気で殺しにかかるようなことはしないらしい、あくまでゲームを貫いている。
だが問題は最後だ。死亡時のペナルティ・・・これによれば、一度でも死ねば問答無用でレベルを一つ落とされる。普通ならば発狂物のルールだ・・・えげつない。
それに復活ポイントは上位回廊のセーフティエリア・・・たぶん1から9回廊で死ぬと10回廊のセーフティエリアへ、11から19回廊で死ねば20回廊のセーフティエリアへと行った具合に追いやられる。14日間という長いようで短い時間があせりを生み、あせりがミスを生み、ミスが死亡へとつながればもう泥沼だ。ただでさえ難易度の高いこのダンジョンで1回廊も戻れずにレベルが下がれば最後には間違いなく詰む。
幸い今の俺のレベルは200、遭遇する敵の数にもよるが少なくともレベル170までならなんとかできる。何より戻れば戻るほど敵のレベルは下がるのだからあせらず着実に行けばクリアは可能なんだ。
「落ちつけ・・・そうだ。難しいことなんてない・・・落ちついて出口を目指すんだ・・・」
きちんと言葉にして自分の耳に聞かせる。そうすることで気持ちが少しずつ落ちついていくのを感じる。今やることを一つ一つ確認しよう・・・まず時間。
[8/16 21:03] 第50回廊 セーフティエリア
ゲームスタートまで後3時間を切った。50回廊のBOSSがいるマスターエリアの一つ手前に設置されたエリアで、ここまでは移動することができたが、49回廊への道は固く閉ざされていて、おそらくゲーム開始まで出ることはできないだろう。
とりあえず今は状態をしっかり確認してアイテムを補充。少し眠ってからスタートしても遅くはない。
まずは自分のステータスの確認から。そう考えてシステムメニューからステータス画面を呼び出す
『ベイル』 Lv200 スペルガンナー
最初に目に飛び込んできたのはこの一行だ。レベルはそのまんまの意味で、ベイルは俺のキャラクターネーム。そして、スペルガンナー
『LWO』ではバランス管理できてるのか怪しい位の数の職業があり、スペルガンナーはその一つだ。
現代風の武骨な銃とファンタジーな魔法の両方を使い中・遠距離を主軸に戦うスタイルの職で、攻撃力が高く回復魔法も少し使えるなど一見かなり便利な職なのだが、MPと防御力がとにかく低い。
魔法を使えばすぐにMPが枯渇するし銃は弾数設定があって使えばなくなる。考えなしに行動すれば攻撃のリソースを失い、すぐに何もできなくなってしまう癖の強い職だ。何より防御力が魔法使い系の職とほぼ同じ程度しかないので敵と真正面からぶつかればあっさりやられてしまう。
普通に考えればとてもソロなどできるような職ではないのだが、頑なにソロを続けた俺は見切りによる高い回避能力を身に付けることで足らない防御力を補った。今ならばLv150代のモンスターならば5体同時に相手してもノーダメージで倒せるほどの実力を身に付けた。
だが、そもそもソロでなくPT組めばそこまでする必要など無く・・・
「・・・これ以上考えるのはやめよう」
また鬱になる前に思考とステータス画面を閉じた。「状況は確認したから次はアイテムの補充だ!」と気持ちを入れ直してあたりを見回しそれらしい場所に歩み寄る。
通常アイテムの売買は人型のNPCを介して行うのだが、今は特徴のないただでかい箱のようなそれからアイテムを売買するようだ。
「・・・完全に自販機でジュース買ってる気分だ」
現実世界への一抹の懐かしさと、人を感じない無機質さに悲しみを覚えながら先のBOSS戦で消耗した回復アイテムを補充する。普段はドロップアイテムなどのために回復アイテムを少なめにして持ち歩くのだが、BOSS戦や今の状況では無意味なので回復アイテムを持ち切れる限界まで買いあさる。
ちなみにHPとMPの回復アイテムの比率は3:7と言ったところだ。
こうしてアイテムの補充も終えて時間を確認すると21:40・・・30分以上もかかっていたようだ。とりあえずやることはやったから、後はゲームスタートまで休めるだけ休む・・・のだが・・・
「・・・何もない・・・よな」
アイテムを補充はできたが、寝るような場所は・・・ない。つまりこの固い地べたで寝っ転がるしかないわけで・・・
「・・・まっ、いっか」
さして苦になることじゃなかった。こうして俺は生きて帰るための戦いに備えてしばしの休息を取ることにした。
[8/17 1:22]
目が覚めて最初に見たものがそれだった。眠っている間にゲームはスタートしてしまったが、まぁあせることじゃない。そもそもそのつもりで寝たようなものだし。
「時間にして・・・4時間か」
少し少ない気はするが頭はしっかりさえてるし身体も動く。万全の状態と言ってもいいだろう。改めてステータスとアイテムを確認して、扉の前に立つ。
俺の・・・俺だけのデスゲームが始まるんだ。
[8/17 2:46] 第46回廊
ここまでは順調だ。というより余裕と言った方が正しい。もともと一人でひたすらこの回廊を攻略し続けたので、1回廊あたりは流石にあいまいだがこの40から50回廊の間ならばマップ・敵の出現位置・敵の強さはすべて頭の中にある。
ここまで戦闘らしい戦闘を行わず最短ルートを一直線に駆け抜ける。流石に3回廊分を駆け抜けるのは面倒だがもともと50回廊を目指していた時も似たようなものだったし、1時間程度でここまで来れれば上出来だろう。
そもそも今抜けてきた49から46回廊にメインで出現するいる『ギガントタートル』は最深部付近にいる敵としては不自然なくらい弱い。即死級の攻撃力と鉄壁の防御力を持っていて一見勝てる見込みがないが、機動力はまさしく亀。遅すぎる上に弱点である腹の下は防御力があってないようなものなので、それさえわかっていれば極論Lv1のキャラクターでも勝つことは可能だ。
おまけに取得経験値が妙に高いため最深部のBOSSを倒す前のレベル上げに大変お世話になった敵なのだ。
「・・・っとそろそろ行かなくちゃな」
悠長に感慨に耽ってる暇は・・・まぁある位簡単なんだが・・・とにかく時間がもったいないしさっさと抜け出しちゃおう。
そして、目の前にある45回廊への階段を駆け上る。
[8/17 2:50] 第45回廊
「1時間ちょいで45回廊・・・これなら今日中に30回廊のセーフティエリアまで行けそうだな」
なんて高を括ったのが今日最初の失敗だろう。俺はこのデスゲームを心のどこかで舐めていた。だから次の回廊への最短ルートを選んだ・・・敵と遭遇するルートを・・・
[8/17 5:00] 第50回廊セーフティエリア Lv199
俺は数時間前と同じ体勢でうす暗い回廊の天井を見ていた。結論から言えば死んだ。正直何が起きたのか理解しがたかった。
45回廊から敵の種類が変わり、『クロックオーガ』という機械仕掛けの巨人が主な敵になる。結論から言えばこいつにやられた。だが、別に不意打ちを食らったわけじゃない。
クロックオーガは機械の癖に割と防御力が低く多少ゴリ押しの効く敵で、急所を的確に狙えば弾丸を11発撃ち込めば確実に倒せる。
俺は念のためにと12発クロックオーガに弾丸を叩きこんだのだが・・・奴は生きてた。予想外の出来事に動きを止めてしまったところにクロックオーガの右ストレートが飛んできた。
一発KO・・・即50回廊送りだった。
嫌な予感がよぎる・・・もう一度45回廊のクロックオーガと戦う必要がある。
[8/17 6:31] 第45回廊
先ほどと同じルートを今度はやや慎重に進みながらさっき戦った場所まで来る。クロックオーガは・・・居た。すぐに戦闘には入らずあるスキルを使う。
「『アナライズ』・・・」
敵の情報を調べるスキル。敵の名前、レベルに加え倒したことのある敵ならば詳細なステータスとドロップアイテムまで見れる便利スキル。
クロックオーガは前に一度倒したことのあるので詳細なステータスも確認できる。これであの予想外の耐久力の理由もわかるはずだ。そして現れたデータにはクロックオーガの名前とレベル――
「れっレベル155っ!?・・・ってやべ」
レベルを見て思わず叫んでしまったためクロックオーガに気付かれてしまった。慌てて銃を抜いて構える。必死に冷静を保とうとしているが内心では驚きとあせりに満ちていた。
アナライズの効果で出てきたデータは名前とレベルだけ、つまりクロックオーガを倒していないことになっている。だが、俺はこのクロックオーガをほんのひと月くらい前に倒したことがあるそれなのにシステムは俺が奴を倒したことを記録していない。
多分その理由は多分レベルにある・・・俺が前に倒したクロックオーガはレベル140だったはず、なのに前と今では15ものレベル差がある。
なぜ?なぜレベルが15も上がってる?奥の回廊にいる『ギガントトータス』はレベル150。下位回廊の敵の方が強いなんて・・・
俺が焦り当惑していても相手はそんな俺を待ってはくれない。クロックオーガは自分の手に持つ得物を振り回し、俺の命を確実に狩り取ろうと迫る。
だが、もう何十回とみて来た攻撃パターンなので見なくても避けられる・・・とまでは行かなくても回避は余裕だ。とはいえいつまでも混乱して防戦一方でいるわけにはいかない。頭を早く切り替えて倒さないことには話にならない。ここで長々と戦闘して他の敵が寄ってこないとも限らないし・・・
「畜生・・・どーなってんだよー!?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
誤字・脱字・感想・ご指摘など、何かありましたら感想フォームにてよろしくお願いします。
しかし、なんというか・・・登場人物一人だけだから9割方心理描写になって読みずらいものになってるかもしれませんが今後ともよろしくお願いします。
ちなみに戦闘描写は苦手なので可能な限り回避してます。