第0回廊―終焉を見届ける瞳(戦)
[8/31 1:13] 残り21時間46分
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・っ!」
走る。走る。走る。時にジグザグに・・・時に一直線に・・・ヤツにこちらの行動を読み辛くさせながらひた走る。
なぜ、今また走っているのか?ヤツから逃げて居るのか?それは別に恐怖で逃げて回ってるわけじゃない。はっきり言ってあの場所は戦い辛いのだ。
木々に覆われ機動力をフルに生かせない。代わりに隠れて攻撃するという戦法が無いわけではないが、ヤツの力の前じゃあってないような障害物なのだ。
なによりあの森にはおそらくまだアリスもいる。下手にあのまま戦ってログアウトしていないアリスを巻き込んでしまったら元も子もない。
だから走る。逃げるためではなくおびき寄せるために・・・だけど正直きついっ・・・
「・・・くそっ!『ショットブースト』・・・『バーストレールトリガー』」
スキルで加速し、ヤツとの距離を開けつつ慣性が働いている間に攻撃スキルですかさず攻撃。だが、この攻撃によるダメージは無いに等しい・・・どちらかと言えば相手の動きを止めることに重点を置いている。そうでもしないと余裕で追いつかれる。
すでにスキルをフルに活用して叩きだせる最高速度を出しているというのにヤツは悠然と追いかけてくる。その四本の足が生み出す推進力は俺の速さを僅かだが上回っているどころか一歩進むだけで大地を抉り、消し飛ばしてゆく。
ヤツの挙動一つ一つがすでに必殺の一撃としてそこに顕在している。僅かでもスピードを緩めればヤツの突進に巻き込まれ瞬きをする暇もなくHPが消し飛ばされるだろう。
だから、移動しつつ攻撃でもして少しでも動きを止める必要が出てくる。
「・・・ついたっ!」
だけどそんな決死の追いかけっこもヤツと戦うと決めた戦場についたことで終わりを迎えた。
[8/31 1:20] アンセムカイン城城郭前
プレイヤーたちのスタート地点にしてこの世界の中心ともいえる場所。最後にここを訪れたのはもう2週間以上前かと思うとどこか懐かしさすら感じる。だけど、残念ながらそんな感傷に浸っている暇すらない。
城への門を潜るりすぐさま180度反転。ヤツの正面を向き改めて戦う意思を明確にする。
「・・・『ランパート』!」
短い宣言に呼応して魔法陣が縦横に規則正しく並んで展開する。文字通り壁のごとく展開した魔法陣から黒と緑・・・二色の閃光が正面に居るヤツ目掛けて殺到する。流石のヤツとて量にモノを言わせた魔法の前には動きを止める。最初の一撃が成功したことを確認するや否やすぐさま城下町の中へと入る。
ヤツとの戦闘において最も大事なこと・・・それは何においてもダメージ効率だ。かつて50回廊でヤツと対峙した時はレベル差にモノを言わせダメージを叩きだした。そのおかげで何もないだだっ広いだけのあの空間でもヤツを倒すことができた。
だが、今のヤツはあの時とはまるで違う・・・そもそもレベルというシステムによって決定した数値がすでに違う。
あの時のヤツはLv150で俺はLv200だった・・・が、俺はLv238でヤツはLv250・・・ヤツはレベルにおいて俺より頭一つ上となってしまった。これではあの日の様な力に任せたゴリ押しの火力戦法は使えない。
・・・となると、考える問題はどうやってダメージを出すか?その答えがこのアンセムカイン城だ。
城まで一直線に伸びる目抜き通りを城の方を目指して一直線に突き進む。ふと周囲を見回してみるが、目抜き通りに並ぶ商店・・・そして、その裏に建ち並ぶ家々・・・そのすべてから人の気配が全くしない。プレイヤーはおろかNPCすら・・・
その辺はあらかた予想はしていた。回廊のアイテム販売はファンタジーなこの世界の世界観をぶち壊すと言われてもおかしくないほど機械的なモノだった事からもあり得る話だ。
なんて事を考えていたら、後方から地響きが届く。振り返ってみると足止めの『ランパート』が切れたんだろう。再びヤツがこっちめがけて猛スピードで突っ込んでくる。流石にこのドでかい目抜き通りもヤツが立つと両サイドが一杯一杯になるほど狭い・・・が、狙い通り。これでヤツの動きはかなり制限できる。
「『ジャベリン』!」
再び短い宣言を行うと、今度は魔法陣がヤツに向かって一列に並んで展開する。二次元的に描かれた厚みがないはずの魔法陣が幾重にも重なることでまるで筒状の立体的な魔法陣を形成する。
そして、本来なら細く短く放たれる閃光がまるで一本のレーザーのようになってヤツに襲いかかる。直線的な攻撃で非常に避けやすそうだが、左右への動きは建物に阻まれてろくに動くことができない。
「逃げ道なんて与えねぇぞ?『ダウンバースト』!」
横が無理なら上・・・そう考えて飛び上がろうとする先に、魔法陣を展開し撃ち出す。上空から撃ち下す攻撃にヤツは再び地に叩きつけられ『ジャベリン』の餌食となる。
完璧だ。
まさか、ここまで見事に攻撃が通るとは思っていなかったため拍子抜けであった。だが、ここまでの攻撃は俺ができうる最高ランクの攻撃手段なのだからむしろ当たってもらわないと困るか・・・
『ランパート』、『ジャベリン』、『ダウンバースト』・・・これら全ては俺が編み出したマクロ宣言によるブリンガー系魔法運用の最終形態だ。
それら一つ一つのたった一言の宣言によって発動する攻撃は絶対的な破壊力を持っている。
ただまぁ、どれもMPが空になるまでフルオートでスキルを発動するからいちいち回復が面倒になるし、何気に回復薬がすっからかんになっちまった・・・。
この時すっかりいい気になっていた・・・この程度で倒せるはずなんて無いのは重々解っていたはずなのに、確かな手応えに満足して次の手を講じなかった。
「―――――――――――――――ッ!!!!!!」
ヤツの咆哮で自分の浅はかさを自覚する。だがすでにMPは0、回復薬も0で攻撃手段を完全に失ってしまった。だから、安易な選択をしてしまった。
「っ!!!あっ・・・『アルス・マグナ』『コードシフト』発動!火、氷、風、地、雷への属性連続変換、及び『プリズン』発動!!」
アルス・マグナの力によって無限と化したMPを使い、ヤツの周囲を魔法陣で覆い隠す。それはさながら魔法陣で形成された檻のように・・・そして、闇も含めた合計6色の黒味を帯びた閃光が全方位からヤツ目掛けて撃ち出される。
すこしの間、膨大な閃光の量でヤツが埋め尽くされるているのをただ静かに見守り、そして――
・・・自分の計算の甘さを呪った・・・足りない・・・まるで・・・
俺は呆然と・・・アルス・マグナの効果時間が切れ、何もできないままに・・・俺の攻撃を耐え抜いてしまったヤツに・・・一瞬で消し飛ばされた。
[8/31 1:41] 残り22時間18分
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