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第1回廊―喪失の目覚め

[8/30 21:13] 第4回廊

 限りなく無音の迷宮に鳴り響く二つの足音。不気味な静寂の中を唯一引き裂く音はどこか心もとなく・・・不安げなものであった。


 異常なほどに消費された時間に唖然としてしまった後、慌ててアリスを起こし急ぎ出口を目指した。

 目を覚ました彼女は状況が飲み込めず困惑していたが落ちつかせる時間の余裕・・・はあっただろうが気持ち的なものがなかった。


 60時間・・・いや48時間あればまだここまで焦る必要はなかっただろう・・・だが現実は48時間どころか30時間すら切り、26時間と少し・・・かなり危険域に近づいている。


 あのLv0(ザ・フェイカー)の力によって幻の5回廊を延々と彷徨っていた。だがそれでも17時間・・・長くても20時間程度だと思っていたらその3倍近くが奴に奪われていたことに・・・なんという失態だろうか。あれだけ時間の余裕を残しておきながらたった一体の敵によってその余裕を奪われてしまっていた。


 だが、まだ終わったわけじゃない・・・詰みではない。一重にその思いだけで二人は入り組んだ回廊を突き進む。




[8/30 23:30] 第2回廊


 無人の回廊をひた進み、ついにここまでたどり着いた。残り時間は24時間半・・・内心で安堵の息を少しだけ吐きつつ再度気を引き締める。後ろからついてきているアリスも同じように気を入れ直したようだ。


――・・・く・・・


「っ!?」

「え?」

 唐突に何か声が聞こえた気がした・・・だが、それはかつて心の内側から聞こえた声ではない・・・その証拠にアリスにも何か聞こえたようだ。

 声はこの先の回廊から聞こえてくるようだ・・・つまりそれが意味するところは――


「・・・気をつけてください」

「うん。解ってる」

 二人は各々の武器を握りしめ、ゆっくりと先を探るように進んでゆく。


――まも・・・めざ・・・獣・・・


 断片的に響く声が少しずつ、はっきりと聞こえる。断片化された内容もまた一つの文として聞こえ始める。


――まもなく。目覚める。喪失の獣。


 はっきりと聞こえた声の先に居たのは白い靄のようなものだった。白い靄は漠然とではあるが人の形をしており、ただそこに立ちつくしている。


――まもなく。目覚める。喪失の獣。


 生気を感じない靄はひたすらにそれだけをつぶやく。靄は一つだけではない、道行く先にポツンポツンと同じように漠然と人の形を取りながらその場に立ちつくしている。

 そしてそれらの全てがぼそぼそと同じ事を繰り返しつぶやく。


――まもなく。目覚める。喪失の獣。


 敵意は無いようで、ステータスを調べようとしたが情報も一切出ない。ただのオブジェクトなのかなんなのか確かめたいところではあるが迂闊に触れる気はしない。

 だからひたすら無視してそのまま突き進む・・・


「なんだろう・・・すごく気味が悪い。それに何を言ってるんだろう?」

 不安のあまりアリスが恐々と漏らす言葉に無言で返した。確かに気味が悪いが、害意が無いのならば気にしている余裕はない。一刻も早く抜けてしまうのが得策だ。


 その後も同じ靄の横を突き進みついに最後の回廊への道を見つける。あと一息・・・あと一息だ。


「・・・最後の回廊への道」

「やっと・・・っ!」

 思わず漏れた言葉とともに足早に不気味な第2回廊を出る・・・




――時は満ちた。喪失の獣は今・・・目覚める。終焉を見届けるために――




 その時聞こえたのは幻聴だろうか?だがはっきりと聞こえたものがなんなのかを理解するのはそう遠くなかった。


[8/31 0:00] 第1回廊


 ついに最後の回廊・・・ここさえ抜けてしまえば、脱出成功。無事にこのデスゲームをクリアし、現実に帰ることができる。


「さぁ行――」

「―――――――――――――――」

 「行こう」・・・そう言おうとした。最後の後押しとして僅かながらでも彼女に勇気を与えるような一言をかけようとした・・・だけどできなかった。

 言い切る前に回廊の奥底から・・・世界の深淵からあがる咆哮。それが地上向けて全速力で響きわたり、その咆哮が俺の身体を貫き・・・駆け抜けて行った。


「ひっぅ!?」

「なっ・・・なに!?今のは!?」

 アリスはその叫びに驚き身をすくませるが・・・俺はそれ以上にひどかった。一瞬で身体の芯が冷え切ってしまったかのように全身が震え、出るはずのない冷や汗すら感じる。


 今のは一体何だ?なんなんだ!?今の叫びは?

 なんだろう・・・知ってる?覚えてる?今の叫びを・・・俺は知ってる・・・?


――時は満ちた。喪失の獣は今・・・目覚める。終焉を見届けるために。


 視界がぶれる・・・視覚も思考もまるで焦点が合わないなかでさっき響いた声がなぜかクリアに聞こえてくる・・・来る・・・来るんだ・・・ヤツ(・・)が・・・!


「だっ・・・だいじょ――」

「走れ!!」

 悲鳴めいた叫びでアリスにそれだけ言うと、震える体を必死に抑え込みながら走り出す。逃げないと・・・早く逃げないと・・・ヤツ(・・)が来る前に・・・


 俺たちは走る・・・逃げるために・・・そうただ逃げるために。恐怖で逆に研ぎ澄まされた感覚が出口までの最短ルートを選び出し、そこを最速で駆けてゆく。だけど足りない・・・これでも足りない!

 回廊を駆ける間、規則正しい地響きが鳴る。そしてその地響きは数を重ねるごとに大きく・・・大きくなる。


 走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!


 その思いだけが大きくなる地響きとともに強くなる。自分の本能が全力で警鐘を鳴らす。




[8/31 0:12] 


「っ!!!」

「ひゃっ!」

 眩い光に思わず目を細め、足を止める。そしてまぶしさに目が少しずつ慣れ、目に多くの色が飛び込んでくる。茂った木々の色。ところどころ草の禿げた土の色。そして天上には黒い闇色と眩い青空とその境界をつなぐ赤い黄昏の色・・・


 どこか美しくも歪に歪んだそれらを見て思った・・・回廊を脱出したと・・・この美しく壊れ始めた世界に舞い戻ったのだと。


「・・・っ!ログアウトを!!」

「えっ?あっ!はい!!」

 慌ててアリスにログアウトを指示して自分もシステムウィンドを開きログアウトボタンを確認する。この世界に来て初めて目にしたログアウトボタン・・・それを押せば全てが終わる。

 迫りくる死を掻い潜り、現実へと帰るボタン。


「―――――――――――――――ッ!!!!!!」

 ・・・だが、それを押すことはできなかった。




『日本時間八月三一日〇時一二分。『死せる世界の生存者』クエストクリアを確認。これより最終クエスト『終焉を見届ける瞳』が開始されます』


ここまで読んでいただきありがとうございました。

誤字・脱字・感想・ご指摘など、何かありましたら感想フォームにてよろしくお願いします。


終わるはずのデスゲーム。その最後のクエストが始まる。

ついにきました物語もいよいよ(ようやく)クライマックスを迎える時が来た!

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