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第20回廊―仮想と現実の差

[8/25 15:27] 第20回廊 マスターエリア


 ここまでの回廊からマスターエリアに居るであろうBOSSの傾向は予想が着いた。実際、回廊を下に降りて居たころに『鬼蜘蛛』という敵と戦ったこともあった。その時も悪鬼武者が徘徊するあの回廊があった。

 だが、マスターエリアで待ちかまえて居たBOSSは俺の予想の頭一つ上を行く結果だった。


「「ぐぉぉぉ・・・」」

 目の前には軽く3メートルは超えようという巨体に黒ずんだ赤い鎧を着込んだ・・・牛の頭をした鬼と馬の頭をした鬼がそれぞれ1体ずつ。

 何かの本で読んだことがあるその風貌はスキルによって見えた名前からすぐに確信へと至った。


 牛頭鬼と馬頭鬼・・・確か地獄を仕切ってる鬼だったか・・・まぁ、ここはある意味地獄のような場所だからぴったりと言えばぴったりな奴らだな。


 内心、皮肉をこぼしながら気を張りつめ武器を構える。ちらりと後ろに居るアリスの様子を窺って見ると目の前に居る2体の鬼に気圧されたのか足が竦んでいて、とてもではないが戦える状態ではないだろう。

 だが、好都合と言えば好都合だ。今までもそうだが、マスターエリアのBOSSともなれば攻撃力だけでなく攻撃範囲も半端ない。彼女が焦って支援をしようと敵の攻撃範囲に入ってしまえば致命傷は免れないだろう。ならばいっそ彼女にはこのまま竦んでいてもらうのがベストだろう。


 そうとなれば先手必勝!奴らが先に攻撃を仕掛けてくる前に一気に駆け出す。しかし流石にマスターエリアのBOSSだ。こちらの接近に反応するように薙刀を持っていた牛頭鬼が轟音とともに横薙ぎに振りかぶる。

 その巨体から繰り出される一撃の範囲は馬鹿みたいに広く、まだ両者の間合いは10メートル近くあるというのにそのひと振りの恐怖が襲いかかる。その恐怖を必死にこらえつつ薙刀の刃を紙一重の距離ですり抜けながら二体の前に滑り込む。

 馬頭鬼も腰から身の丈と同じくらいの大太刀を抜き、大上段からこちらめがけて振り下ろしてくる。だが、この一太刀を避ける必要は・・・もうない。


「『ストームブリンガー』全弾一斉掃射!」

 力強く言い放った宣言に従い、数十の魔法陣が一気に展開し目の前に居る二体の鬼目掛けて魔法の驟雨が降り注ぐ。そのあまりの衝撃に半ば振り下ろされたはずの大太刀が腕ごと押し戻されて行く。

 1分ほどでMPが底をつき、ストームブリンガーの発動が止まった。眼前にはもうもうと土煙りが立ち込めていて何も見えなくなっていたが確かな手ごたえを感じた。念のため自分のステータスを確認する。


Lv228


 ・・・間違いなく倒した事を確信し、ほっと一息ついて・・・


 構えをとしてしまった


「ぐもぉぉぉぉ!」

 立ち込めて居た土煙りの中から薙刀とそれを振う牛頭鬼が飛び出してきた。「なぜ!?」という言葉が声にはならなくても心から洩れた・・・そのあるかないかの一瞬の戸惑いが行動を鈍らせてしまった。


「はっがぁっ!」

 迫りくる薙刀への対処が遅れてしまったために避けきることができず、薙刀を弾いて軌道を僅かにずらすことだけだった。それだけでも本来ならば被害を限りなく0にできる結果だったのだが、その巨体ごと突っ込んできていたため薙刀は回避できても牛頭鬼の巨体に撥ね飛ばされてしまう。

 そのあまりの衝撃に視界が一気にブラックアウト寸前まで追い込まれる・・・が、幸か不幸か4,5メートルほどの高さ床落ちるという二次被害のおかげで免れた。


「ベ・・・ベイ・・・っ!」

 俺を呼ぶ声が不自然な形で切れたことに違和感を覚えた俺は未だ不安定な視界で必死に声のする方を見る。


「ぁ・・・あっ!」

 状況は最悪だった・・・俺を撥ねた牛頭鬼はそのままの勢いでまっすぐアリスに向かって突進しているのだ。このまま何もしなければ間違いなくアリスはあの巨大な薙刀に真っ二つにされてしまう。もはや手段を選んでいる暇なんて・・・ない!


「『アルス・マグナ』、『風翔の加護』発動・・・『ショットブースト』っ」

 空のMPをアルス・マグナを使うことで補い、俺が持ちうる最高速度で牛頭鬼を追う。

 驚異的な速さでアリスの目の前まで来ることはできたが、薙刀の刃がもうアリスを引き裂かんとばかりの距離まで肉迫していた。それでも僅かな可能性に賭け、左手の銃を薙刀の腹の部分に狙いを絞る。


「『バーストレールトリガー』っ」

 スキル宣言とともに引き金を引くと8発の弾丸が一気に撃ち出され薙刀の腹に当たり、軌道がずれて行く・・・だが、ほんの少しだけ足りなかった。


「っ!!」

 直撃コースこそ外れたが、軌道をずらしきれなかった薙刀はアリスの左肩を10cmほどの深さからバッサリと切り裂いていった。彼女は切り裂かれた事を僅かな差で認識し、その痛みが全身に走ったかのように苦悶の表情を浮かべる。

 自分の行動の愚かさを嘆きたいが、あいにく今はヘコんでいる余裕すらない。薙刀の脅威はギリギリまで被害を押さえられたが、まだ第二波・・・牛頭鬼本体が突っ込んでくる。

 これはアリスだけでなく間に割って入った俺自身もやばい・・・逃げるという選択肢が最善なのだが、自分だけならまだしもアリスを抱えてから牛頭鬼の突進から逃げるのは不可能。

 今なすべきは牛頭鬼本体の足を止めること・・・


「・・・『ハウリングバレット』」

 瞬時にこの状況で最適のスキルを選びだし宣言する。牛頭鬼目掛けて撃ったスキルは、特殊な風属性の銃撃魔法『ハウリングバレット』。音によって生み出された衝撃波をダイレクトに撃ち出す魔法で、物理的なダメージはほぼ皆無だが相手の聴覚を狂わせ、衝撃で後ろへ吹き飛ばす効果がある。流石に牛頭鬼レベルの巨体になると吹き飛ばすことはできないが奴の足は止まった。


「間に合ったっ・・・!」

 ハウリングバレットの効果で耳をやられ、動きが鈍くなった牛頭鬼を見て素早くアリスを抱きかかえ距離を取る。本当ならばそのまま追い打ちしたいところなのだが・・・アリスの傷が深すぎる。


 肩口を大きく引き裂かれ、血がとめどなく流れている。これはぶっちゃけかなりグロい演出だが、それだけの意味は存在する・・・これはDoTなのだから。

 アリスのHPは先ほどの攻撃で致命的なダメージを負ったが、かろうじてまだ1,2割ほど残ってはいる。しかし、深い傷を負ったせいでDoTが発生しかなりのハイペースでHPが今もなお減り続けている。

 本来ならば回復専門であるアリス自身が自信を治癒すればいいだけの話なのだが、今の一撃の痛みで意識を完全に失っている。故に緊急で俺が回復を行わなければならない。


「対象固定。『リテラルライト』連続発動開始」

 回復系の魔法も使えるスペルガンナーの特権をフルに使って回復を行う。だが問題はHPの回復そのものはできるがDoTを治す為の状態回復系は使えない上に回復量は決して多くない。

 しかし、アルス・マグナの効果でスキルの冷却時間を無視した連続発動によりアリスのHPは全快まで戻ることができた。DoTの効果があるためそこからまた減り続けはするが、HPが全て削られる前に効果が切れるだろう。


 ここまででもうかなりの時間を使ってしまった。アルス・マグナの効果時間はもう毛ほどにも残っていないだろう。だが、それでもおそらく間に合うはず・・・

 そもそもなぜストームブリンガーを受けて馬頭鬼は倒せたのに牛頭鬼が残ったのか・・・答えは一つ。奴らがそれぞれ物理と魔法の耐性備えて居るからだそれもおそらく絶数耐性。

 絶数耐性を持っている敵は対象のダメージを文字通り0にしてしまう。だからおそらく魔法の絶数耐性を持っていた牛頭鬼にはストームブリンガーではダメージを全く与えられなかった。

 ただし絶数耐性はダメージの数値を0にするだけで攻撃そのものに耐えるものではないため攻撃を受ければその衝撃で僅かだが動けなくなる。おそらく奴がすぐに反撃に出てこなかったのはそれが理由だ。

 つまりもう一度銃撃魔法を使っても全くの無意味、足止め程度にしかならない。となると物理系の攻撃で攻めることになる・・・


「すぅ・・・はぁ・・・」

 覚悟を決め、右手の銃をまっすぐ牛頭鬼向けて構える。左手は銃を放し、右腕を力強く握りしめる。勝負はアルス・マグナが切れるまで・・・それまでに奴のHPを消し飛ばせるか否かにかかっている・・・


「・・・『バーストレールトリガー』」

 先ほどと同じスキルを宣言し引き金を引く。しかし、先ほどとは打って変わって、銃口からは荒れ狂ったかのように弾丸が十・・・二十・・・三十・・・まるで機関銃でも使っているかのように弾丸が際限なく飛び出す。


 この『バーストレールトリガー』というスキルは連射機能を持たない銃で連射を行うためのスキル。スキルによるダメージ補正はわずかで、連射数も持っている銃の残弾数に依存するだけのガンナー系の共通スキル。しかし、バランスブレーカーたる『[Lost No.001]アルス・マグナ』によってこのスキルは破格の質量攻撃へと変異する。


 エンチャントアビリティ『アルス・マグナ』以外にこの銃が持つ特性。一定量のMPを消費することで自動的にリロードが行われる・・・まさに錬金術そのものだ。

 この効果によってこの銃の装填数は実質無限。故に残弾数に依存するバーストレールトリガーはただの連射機能補助スキルから、超高出力の連続攻撃スキルへと変貌を遂げるのだ。


 だが、当然その代償は大きい。MP消費もさることながら、これは物理スキル・・・魔法陣から射出される銃撃魔法とは違い銃本体から直接撃ち出される。仮想現実であるこの世界では本物と同じように撃てば反動が来る。普段は強化された肉体によってほとんどぶれることはない・・・しかし、今は別だ。


 今やっているのは棒立ちのまま機関銃を片腕一本で撃つという暴挙をやってのけて居るのと同じ。いくら肉体的に強化されているとはいえ普通に考えれば抑えきれない反動を強引に抑え込んでいるのだ。

 狂気じみたやり方ではあるが、ここで反動を抑えるような撃ち方をすれば間違いなくアルス・マグナの効果時間内に奴を倒すことができず死へと繋がる。


 腕が吹き飛ぶような激痛に耐えながらひたすら反動で上がろうとする腕を抑え込みながら引き金を引き続ける。

 痛みが痛みを塗りつぶす感覚・・・飛びそうで飛ぶことのない意識。そして倒せるかという僅かに湧く不安・・・それらに全て耐えながらひたすら撃ち続ける・・・




 数えられるんじゃないかと思うほどの短い時の中で行われた戦いは驚くほど濃密な時で・・・でも終わりはあっさりと、あっけなく訪れる。


 バーストレールトリガーによる弾丸の暴風にさらされた牛頭鬼は全身を覆っていた厚い鎧ごとまさに蜂の巣のように穴だらけとなって絶命した。魂の抜けた鬼の亡骸は前のめりに倒れながら霧散していった。

 牛頭鬼の最期を見届けながら・・・されど警戒は決して緩めない。もうこれ以上同じ過ちを犯さない為に


 牛頭鬼が霧散してからおよそ一分ほど沈黙が支配する空間で警戒を続けたのち僅かにとき、アリスの容体を気にかける。

 どうやらHPは半分ほど削られたがDoTは解消されており、今は自然回復によって少しずつ回復している。ただ未だ気絶したままではあったが・・・




[8/25 15:40] 第20回廊 セーフティーエリア


「・・・っ!はぁ・・・はぁ・・・」

 やっとの思いで到達したセーフティーエリア、ここまでくれば絶対的な安全が確保される。気絶したままのアリスを近くの壁際まで運び横たわらせる。HP的にはほぼ全快しているので問題はない、しばらくすれば目を覚ますだろう。


 ・・・問題はあるとすれば自分自身だ

 できるならば今のうちに19回廊を一目見ようかと考えたが予想以上に痛みがひどく立つ気力を容赦なく奪ってゆき、数歩歩いたところで壁に背を預け力なく座り込んでしまう。

 そして痛みの根源である右腕を左手でゆっくりとさする。それだけでも激痛が走るのだが、何もしないよりは気がまぎれる。

 そもそもアリスを抱きかかえるという今以上に激痛の走ることを今さっきやったばかりだから今更である。


「ふっ!ふっ!・・・ふぅ・・・」

 気持ち痛みが引いた気がして乱れた息も整い始める。同時に余裕のできた思考回路で一つ一つ思うところの考察を始める。


 まずは回廊の攻略具合・・・こいつはそれほど悪いものではない。残り5日と少しといったところだが現在20回廊・・・十分脱出は可能な範囲だ。

 アリスと出会ったことで多少攻略方法に難が出てしまったがそれほど問題ではない、むしろ彼女がいたことで俺自身の脱出に対する気力が失われないというのが大きい。

 彼女がいなければ30回廊で間違いなく心が折れたまま31日を迎えて居ただろうから・・・


 次にアリス自身についてだが・・・まぁ俺が何か考えるようなことでもないか。今はトンデモ能力を持った俺という存在に衝撃を受けて混乱している感じが見受けられる。

 言動にまとまりを感じない・・・ただまぁなんとなくだが、割と素もまじっている気はするが、彼女自身はここを脱出したいだろう。死にたくはないだろうから


 考察というか現状確認のような事をつらつらと頭の中で並べて行く中で右腕の痛みとともにあまり考えてこなかった疑問について考え始める。


 この世界(LWO)において俺が今最も気になる事・・・この痛みだ。

 今、俺の右腕は激痛を訴えまともに動かすこともできない・・・だが、システム的に見ればどこにも異常は存在しない。

 逆にどんなに痛みがなくてもHPが尽きてしまえばゲームとしての死をカウントする・・・まるであべこべだ。


 無害な激痛と有害な無痛・・・その差が異和感としてここを仮想であることを際立たせているかのようだった。実際俺はこの差によって2年たった今でもゲームの中に居るというイメージを残し続け、決してここで生きている(・・・・・・・・)という実感がわかないのだ。


 ・・・もしかしたらそれが製作者の・・・あの主催者を名乗った男の狙いなのか?


 そんな考えても解けない問題を右腕の痛みが引くまで悶々と考え続けて居た。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

誤字・脱字・感想・ご指摘など、何かありましたら感想フォームにてよろしくお願いします。


中だるみが出てきてちょっと悩んでます・・・自分としては頑張ったけど無理が出てきてるなぁ・・・っと

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