第27回廊―守るということ
[8/25 11:18] 第28回廊
迂闊だ・・・迂闊すぎた。自分が今一人でないことを失念していた・・・いや誰が居ようと変わらないと高を括っていたんだ。
どんな強敵が現れても、どんなに多くの敵が現れても・・・俺は倒す自信があった。それだけの力を俺はここでずっと磨き続けてたんだから・・・でも蓋を開ければこれだ。目の前の敵に気を取られて後ろから来た敵の警戒を怠った。
・・・それも違う。怠ったんじゃなく、最初からしていなかったんだ。俺にとって途中から敵の数が増えても気にせずそのまま戦い続けることができる・・・だから増援など端から眼中になかったんだ。
その結果彼女に・・・アリスに危害が及んでしまった。自分の力に慢心し、相手を省みない雑な戦い方を選んだ結果だ・・・
「『風翔の加護』!」
アリスがいるのは約50メートル先、直線距離ではあるがここまで開いてしまうとかなり問題だ。悪鬼武者に囲まれた状態では彼女に逃げる術もないし奴らの攻撃を耐える術などほとんど持ち合わせていないだろう。
仮想の世界の俺がこの50メートルを走り抜けるのに2秒と必要ない。だけどアリスには俺が助けに入るための2秒を守ることもできないだろう・・・
「・・・『ショットブースト』っ」
弾丸を地面に撃ちつけその反動で高速移動するという超非現実的なスキル『ショットブースト』によって、馬鹿みたいな速さを叩きだし50メートルという距離を限りなく0にする。
「っ!!」
どう考えても生き物が出せる速さを超えたスピードで50メートルの距離をまたぎアリスと悪鬼武者たちの間に割り込む。ここまで来ると脳で考える余裕すらなく脊髄反射だけで身体を動かしている。
アリスめがけて振り下ろされていた刀を左手の銃で無理矢理パリィ。そしてそのまま眼前の敵に右手の銃を向け・・・数十の魔法陣を展開し、そこから緑色の閃光が悪鬼武者たちめがけて放たれて行く。
至近でしかもほぼカウンターの状態で飛来する閃光を避ける術などあるはずもない・・・斬り返して反撃することも、防御することもできず周りに居た悪鬼武者も巻き込んで壁に激突する。
間髪いれずに左側に残っている敵をパリィしたその流れで左手をそちらに向け引き金を引く。再び数十の魔法陣が展開し、こんどは漆黒の閃光が刀を弾かれ体勢の崩れた悪鬼武者めがけて飛んで行く。こちらも避けることもできず数え切れないほどの閃光をその身に受け、その反動で大きく後退する。
すべての敵が3方向にバラけて未だ囲まれた状況ではあるが、ギリギリのところで助けに入ることができた。
「展開方位0,3,9・・・『ストームブリンガー』全弾一斉掃射」
力強く宣言に呼応して右と左、そして正面に三度魔法陣が展開し、眼が眩むほどの数の緑色の閃光がそれぞれの方向に居る悪鬼武者たち向けて放たれる。
緑色の閃光は悪鬼武者たちの鎧を容赦なく刻み、削り、貫く。強すぎる衝撃の所為で土煙りがもうもうと立ち込めるほどに・・・だがおそらく全員まだ生き残っている。
俺が誇るこの大火力を持ってしても属性の問題と多数同時攻撃による一体当たりのダメージ量の問題からそれは解りきってたが、流石に大ダメージを負わせた今ならば奴らもすぐには行動できない。
「こっち!走って!」
こうなってしまった以上敵との戦闘を避けることは不可能。故に選択する手段は一つ・・・敵の有無、数に関係なく最短のルートを選びそこを強引に突破・・・単純だが難しい方法。現に土煙りの中で動けなくなっていた悪鬼武者の横を抜けた先にはもう新手の敵が駈けつけて居た。
そいつらに向かって右手の銃から弾丸の代わりに魔法陣を展開し閃光を浴びせる。倒すのではなくどけるためだけに魔法陣を――『ストームブリンガー』を連発していく・・・
[8/25 11:50] 第27回廊
MP切れを起こす危険性すらも無視して強引に敵を押しのけては突き進み、なんとか27回廊までたどり着くことができた。
だけど、MP切れよりも心配するものがあった。
「・・・はっ・・・はっ・・・はぁ・・・」
後からついてきていた息も絶え絶えといった具合だった。いくらここが仮想の世界で現実よりも強靭な仮想の肉体を持って居るとはいえ、さすがに今のはかなり無理があったようだ。
「・・・ここまで来ればひとまずは安心です。少しやす──」
迂闊な事に彼女を気にかけ過ぎて警戒が僅かだが緩んでいた。その結果自分の背後から飛来する矢に対して反応が遅れてしまった。
矢が直撃する寸前で存在を感じ取り、ギリギリのところで回避出来た。擦ったせいでかなりのHPを削られたがなんとかなった。
・・・が
「・・・えっ?」
本人も何が起きたのか気付く暇もなく・・・だがすぐに自分の胸に矢が突き刺さっていることに気付くと、それを痛みとして認識する前に光を放ってその場から消失してしまった・・・。
これはプレイヤーのHPが0となり、死亡の状態となった時に起こる現象・・・意識が死の痛みを認識する前に形を消失させ、復活ポイントへと転送される現象。つまりアリスは今の一撃でHPを根こそぎ奪い取られて30回廊へと飛ばされてしまったのだ。
「あっ・・・・」
俺はただその一部始終を飛来してきた矢を避けながらただ見て居ることしかできなかった。思考がどんどんと止まっていく感覚に襲われながらも身体が反射的に矢に当たらない側の塀に移動してゆく。
結局何もできなかった・・・自分の力に慢心し、彼女の事を気にかけずレベルという与えられた力を振りかざして好き勝手に動いた結果・・・守ることもできずに彼女を死なせてしまった。
情けない・・・情けなさすぎる・・・今この世界でどんなに最強の力を誇っていても女の子一人守れないような・・・本当に情けない自分。
「・・・・・・くそぅ」
ひどく惨めな気分になる・・・今さっきまであった勢いなどかけらも湧きあがらない・・・そもそも俺の心は30回廊についた時点で限界・・・完全に折れてた。それを彼女を・・・アリスを守り、ここから脱出させるという大義名分を自分に与えることで折れた心をなんとか支えて居た。そうでもしなければ俺自身が持たないから・・・
――い・・・生き・・・きた・・・の?
・・・また『声』が聞こえる気がする・・・『声』主だった奴はもう倒したのだからこれは正真正銘の幻聴だ。そして幻聴が言いたいことは俺の真意・・・俺がどうしたいのかはよくわかってる。
だけどそれに彼女を巻き込むわけにはいかない・・・俺なりのケジメという奴だろう。
本当は今すぐにでも戻って彼女の安否を確認するべきなんだが・・・動けない。動きたく・・・ない。
「・・・少しだけ」
少しだけここで・・・
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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もろもろは言いたいことは次の話にまとめて・・・