第50回廊―最後のデスゲーム
初めまして。朝霧と言います。このたび初投稿させていただきます。
基本的に思いつきで書いていますので内容、書き方もろもろ拙いものとなっていますが、一つよろしくお願いします。
――俺は大間抜けだ――
今思うことを一言で表すとこれだ。だがそれだけじゃ足りないだろう。今ならいくらでも自分を貶せる自信がある。
馬鹿で、間抜けで、ボッチで、厨二病で・・・貶すためのボキャブラリーが足りない・・・ひどすぎるな・・・
俺は今VR-MMO『Lost World Online』というゲームの中にいる。『Lost World Online』通称『LWO』は剣に魔法に銃と古今東西あらゆるファンタジーとSFチックなモノを考えもなしに詰め込んでまとめた正直混沌としたゲームだ。
それでも世界初のVR技術を使ったMMOだったため、ゲーム好きはみな飛びついた。だが、まるでVR-MMOとセットであるかのようにサービスが開始してすぐにある事件が起きた。
『ログアウト不可能のデスゲーム』
本当にテンプレートのように起きたそれに巻き込まれた約3万人のプレイヤーは怯えつつもすぐに理解した。そして現実世界へ帰るためのデスゲームが始まった。
俺もこのデスゲームをクリアする為に戦うと決めた。だけど本当のところ、この時の俺には現実世界に未練がなかった。
このまま夢のような仮想世界を現実と思いたかった・・・が、それでもやろうと考えた。俺はこのゲームをクリアし、英雄としてもてはやされたかったのだ。
そんな馬鹿馬鹿しい理由で俺は一人必死にレベルを上げ続けた。
・・・なぜ一人かって?それは・・・俺がボッチだからだよ!コミュ障だからだよ馬鹿野郎!
人と話すことが大の苦手だった俺は誰とも組むことなく一人黙々とレベルを上げ続けた。幸いゲームの死が、即現実の死ではなかったため多少無理な戦い方をしつつも、着実にレベルを上げていった。
――そんなときに出会ったのがその場所だった。
人がほとんど踏みいらぬフィールドの隅っこに見つけた一つのダンジョン
『喪失の回廊』
俺は一人そこへ入り・・・驚愕した。日々飛び交うモンスターの情報・・・そのどれにも当てはまらないそこに居た敵はどれよりも強い・・・たった一階層の雑魚敵ですら上位レベルのキャラクターがPTを組んでが挑むような敵ばかりだった。
それでも俺は頑としてソロを貫いた。見つけたこのダンジョンを誰に教えることもなく、秘匿し続けながら無謀な戦いを繰り返し少しずつ力をつけては下層へと進み続けた。
だが、この時すでに俺は最初にして最大のミスを犯していた。俺はこの場所を独占するために情報公開をせず、こそこそと一人でダンジョンに潜り続けたこと・・・そのミスが生み出した結果は、俺はひたすら強くなることだけを考えて『喪失の回廊』を奥へ奥へと進んでから一年ほど経過した日の事だ。
『喪失の回廊』第50回廊――最深部
禍々しいオーラを纏ったBOSSモンスター。俺はそいつとタイマンで向かい合って早2時間といったところか?どちらも限界ギリギリまで消耗しきっており、後一撃で勝敗が決まるところまでたどり着いた・・・そして
「おりゃぁぁぁ!」
最後の力を振り絞った渾身の一撃で俺はこの第50回廊の親玉を倒した。グラフィックが崩れて消えゆくBOSSモンスター。そして奥へ進む道のない行き止まりの大広間。俺はたった一人でこの『喪失の回廊』を踏破したのだ。
「へっ・・・へっへっ・・・げへへへへ・・・」
2時間にも及ぶ戦闘で、もう立っていられずその場に大の字で寝っ転がり気持ちの悪い笑い声が口から洩れる。顔は見えないが間違いなく緩み切った自分でも気持ち悪いと思うであろう顔をしているだろう。だが、今はそれでいいと思っている。
俺は強くなった・・・強くなりすぎたと言ってもいい。今ならどんな敵にも勝てる自信がある!どんなクエストだろうとクリアできる!そうだ・・・今から始まるんだ!俺の英雄伝説が!!
『Lost World Onlineよりお知らせがあります。日本時間八月一六日一七時四二分。『眠れる神の再誕』クエストクリアを確認。これを持ってゲームはクリアとなります』
・・・えっ?
『全プレイヤーはヒットポイント最大値で維持。順次ログアウトが行われます――』
流れてくるアナウンスの意味が呑み込めなかった。
「ゲームはクリア・・・?えっ?ちょっと待てよ・・・俺はまだ何もしてないぞ?まだこれからなんだぞ!?納得できねぇよ!!」
解らない。自体が全く飲み込めない。だが、俺の感情は全く考慮せずシステム音声は黙々ときめられた文を繰り返し読み上げ続ける。
そんな状態が10分も続けば頭も冷える。そして訪れる鬱モード。俺はなんて馬鹿なんだ・・・俺は大間抜けだ。
一人こんなダンジョンに黙々と入って何が英雄になるだよ。アホ過ぎて笑いしか取れない。笑いしかないはずなのに目からなんか溢れてくる・・・こんなとこまで忠実に創りこむなよ!よけー情けなるじゃねぇかよ!!
「くそっ!・・・ぐぞぉ゛・・・」
自分でも何が悔しいのか解らなくなり始めた。自分で勝手に始めた独りよがりの妄想。それが壊れたから泣くとか本当にダメな奴だよ俺・・・
今はただただ涙と鼻水でぐちょぐちょになりながらうす暗い回廊の天井を眺め続ける・・・そしてふとある違和感が生まれた。泣き崩れ悲壮感に満ちてからもうだいぶたつはずなのに・・・未だログアウトする気配がない。泣き始めてからは時間の感覚がはっきりしなくなってるがそれでも20分は経ったと思う。それでもログアウトの兆候がかけらもない。システムアナウンスはいつの間にか停止してあたりには静寂の支配下にあった。
「何が起きてんだ・・・?」
漏れた声は部屋中に響き渡る。この異様な静けさが不安と恐怖をじわじわと感じさせる・・・心臓の音が大きく早くなっていくのを感じていく。
自分に何が起きたんだ?ログアウトは?・・・帰れない・・・?つまり・・・
『あーあーあー。テステス。この放送が聞こえるかな?』
パニック状態に陥る寸前のところで突如声が響き渡る。先ほどのシステムアナウンスで使われていた機械音声ではなく生身の・・・人の声だ。
『まぁ、確認しようにも多分できないから勝手に始める。まずはそうだな・・・Lost World Onlineクリアおめでとうっといっておこうか。まぁこの放送を聞いている諸君はちっともめでたい気分にはなれないだろうけどね』
一方的に流れる男の声が何を言わんとしているのか解らない。解らないが・・・聞かなければならないと本能で言っている。
『現在、ほぼすべてのプレイヤーがログアウト成功となっただろう。少なくともこの放送を聞いている者以外は間違いなくログアウトしているはずだ。つまり全員ログアウトしてると私一人のドでかい独り言になるわけで・・・その時は恥ずかしいなー』
この声の主は一体誰なんだ?そしてほぼ全員がログアウト?これを聞いている人以外・・・?
『あーっとそういえばまだ名前を言っていなかったね。初めまして、私の名前は浅葉 優一。このLost World Onlineで最もスリリングなゲームを提供した主催者だ』
主催者・・・主催者!?言葉の意味通りならばこのデスゲームの犯人ってことになる。そんな奴が悠々と名前まで名乗って・・・
『ん~!わかるぞわかるぞ~今この放送を聞いている諸君!私が堂々と名前を名乗ったことに驚いているな~?残念ながら今更そんな物知っても意味はないだろう。何せ私はこの放送が流れるころには死んでいる。もこの放送はデスゲームが始まる前に録音したのだし、ってかそもそもこの録音がちゃんとできるかどうか怪しいくらいだからな』
矢継ぎ早に出てくる事態にもう頭が追いついていない。この男――浅葉はすでに死んでいてこれは録音で・・・
『さーて。少し長くなったが前置きはここまでにしようか。今この放送を聞いている諸君。諸君らは『喪失の回廊』のみに流されており、ログアウトしていないのも『喪失の回廊』にいる者のみだ』
この回廊に居る者だけ・・・それってつまり・・・俺だけ・・・?
『死にゆく私からの最後の悪あがき・・・最後のゲームをしよう。ゲームスタートはこの放送が流れた日の翌日零時ちょうどからスタートする。その後14日後の23時59分59秒までに『喪失の回廊』を抜け出しログアウトする。これがゲームの内容だ。勝てば諸君らに私からの最大限の報酬が与えられる・・・が、負け・・・つまり15日目の零時ちょうどになった時点で諸君らごとこのLost World Onlineのサーバーは消滅する。つまり最後のデスゲームというわけだ』
最後の一言は俺の心をどん底まで突き落とした。2度目にして最後のデスゲーム・・・俺はまだ死から逃れられなかった・・・。そしてもっと悪いこともある・・・
『詳しいことはこの放送の後に細かいルールの載った紙が送られるからそれをよく読んでおくように。では、回廊に残った勇者の健闘を祈る』
浅葉の声はそれで途切れてしまった。同時に俺の目の前に一枚の紙がどこからともなく落ちてきた。これがさっき言ってたルールなのだろう。そして俺の視界の隅に現れたデジタルの時間表記
[8/16 18:53]
ゲームスタートは翌日の8/17 0:00から、終わりは8/31 23:59まで・・・ほんの数時間で再び始まるデスゲーム・・・参加者はこの『喪失の回廊』のプレイヤーのみ・・・
――つまり俺はたった一人でこのデスゲームを勝ち抜かなければならない
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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