覚悟しなさい (">ω<)っ)) ③
そう、あれは小学校の卒業式の日。他府県の私立中学に進学が決まっていた私にとってはこの町ともお別れの日だった。て言っても、特別に仲のいい友達がいたわけじゃないし、町での大切な思い出の無かった私にとっては何でもない一日。その日も家に帰って日課のトレーニングに汗を流していた。そこまでだったらこの日が私の記憶に留まることはなかったと思う。
「おい、白石いたぞ」
「あんた達、人の道場に勝手に入ってきてどういうつもり?」
そこにはクラスの男子3、4人の姿があった。何かと私も含めたクラスの女子に手を出してくる、いたずら好きというかそういう類の連中だ。
「お前、中学はどっか遠いとこ行くんだろ?」
「だったら、何?」
「お前にやられっぱなしで終われるか!今日こそお前の泣き顔見せてもらうからな!」
そういう事か。私はこれまで何回もこいつらと戦ってきた。結果は私の全勝。
小学生とはいえ男子たるもの、女子にやられっぱなしではプライドが許さなかったのかもしれない。
「何回やっても一緒だと思うけど。あんた達、けんかも弱いし学習能力もないんだ。」
「うるせぇ!今日は俺たちが相手じゃない。助っ人の先生がお前の相手だ!」
こういう時の助っ人は大抵こいつらの兄ちゃんか中学の先輩ってのがセオリーなパターンだ。そんな風に考えた私は少しだけ身構えた。ま、たとえ年上相手だろうが負ける気はこれっぽっちもなかったけど。それなのに、そこに登場したのは…
「弱いものいじめをする悪の手先はどこだ!」
何…こいつ…これが助っ人!?見た感じ同い年くらいかなぁ。とにかく助っ人オーラはゼロに近い…
背だって私の方が勝ってるし。
「トウマ、こいつだよ!俺らのクラスで好き勝手してるけんか番長は!」
「誰がけんか番長だ!だいたい、先に手出してくんのはいつもそっちで」
「話は分かった。けんか番長!!これまでみんなが受けてきた痛み、今日お前に倍にして返す!」
全然分かってないし。そもそも、こいつ誰?トウマ?名前も顔も全く覚えのない相手にいきなり宣戦布告されるとは…そこまで恨みを買うような小学校生活を送った覚えはないんだけどなぁ…
「あんたさぁ、誰だか知んないけどそんなやつらの相手することないよ。別にあんたと戦うつもりもないしさ。怪我したくなかったら帰りなよ。」
「黙れ!みんなが僕を頼って来たんだ。僕はお前を倒し、みんなの笑顔を取り戻す!」
なんだこいつは。ヒーロー気取りですか?こいつもこいつだけど、こんなやつを助っ人で連れてきた連中もどうかしてる。
「あのさ、売られたけんかは買う主義だからどうしてもって言うなら相手するけど…手加減とかはできないよ?」
「手加減なんて必要ない。全力と全力でぶつかってそしてお前をねじ伏せる!」
どこまでも熱いやつだなぁ。正直、悪意があってやってる訳じゃなさそうだしそういう相手に拳を振るうのは苦手だ。けど…勝負するまで帰りそうにないか。
「わかったわかった。じゃあ相手になってやるよ。ホントに手加減しないからな。」
「くどい!それじゃこっちから行くぞ!!」
そう言うと同時に奴は私目がけて最短距離で突っ込んできた。右肩に少し溜めができる。単調な右のストレートか。右にかわして、逆にこっちの右パンチでKOだ。瞬時にそう判断し、重心を右半身に移そうとしたその時
どすっ
それは今まで私の聞いた事のない音。自分が床に倒れる時の音だった。
なんで私は床にうつ伏せになっているんだろう?その答えは頭では到底理解できない現象だった。
思考停止状態の私に唯一あった感覚は痛みだ。左の脇腹あたりが痛い。
あ、そうか。あのパンチに当たっちゃったのか。
でも、なんで?あの距離なら間違いなくかわせたはずなのに…。
「正義は必ず勝つのだ。」
首を曲げて見上げた私に、奴はそんなことを言った。
脇腹の痛みと、初めての敗北感を味わった心の傷で私は立ち上がることができなかった。