14 船長室
敷設船マレアは、乗組員の人数に比して船が大きいので、居住スペースにかなりの余裕がある。そのため、船長室は個室になっていた。
「村田二等兵曹、入ります!」
村田が船長室に入ると、北欧系の船長が椅子に座り、その隣に敷設長が立っていた。二人とも今まで見たこともないような険しい顔をしている。
「なぜ格納庫へ入った!」
敷設長が怒鳴った。搬入ミスのことを怒られると思っていた村田は、不思議そうな顔で答える。
「たまたま今日は目視で確認してみようと思いまして……」
「たまたまだと?」
敷設長が信じられないという顔で言った。
「何となく今日は見に行ってみようかと」
「何となく……」
敷設長が頭を抱えた。
「はは、流石にこれは予測不可能だね」
船長が苦笑いすると、村田に言った。
「村田君、格納庫では何を見たのかな?」
「は、はい。本来は無人観測機二十機が搬入される予定だったのですが、三機しか入っておらず、残りは間違えて機雷を搬入してしまったようで……」
「そうか……」
船長が懐に手を入れてしばらく考え込んでいたが、やがて手を出すと、村田に話し始めた。
「本来、君には伝達できない事項なんだが仕方ない。これから話すことは他言無用だ。約束してくれるかな?」
「は、はい。約束します!」
村田は何度も頷いた。しばしの沈黙の後、船長が口を開いた。
「搬入はこれで問題ない。受領書や搬入物データは欺瞞だ」
「欺瞞⁉」
村田が驚いて思わず声を上げた。船長が説明を続ける。
「先般のミサイル攻撃事案を受けて、警備隊は、監視強化のため無人観測機を火星-地球間に配備することにした。このことは一般に公表されている。しかし、監視だけではテロ組織による攻撃を阻止することは困難だ。そこで、極秘に、火星-地球間に無人観測機と連携して攻撃が可能な自動追尾型機雷を敷設することになったんだよ」
船長がチラリと敷設長の顔を見た。
「機雷敷設については、テロ組織等への情報漏洩を防ぐため、本船では私と敷設長だけしか知らない。警備隊内でも知っているのはごく僅かだ」
「そ、そうだったのですか……」
搬入ミスではなかったことを知った村田は安堵した。
「繰り返しになるが、今の内容は極秘だ。テロ組織等への情報漏洩防止のため、今後このことは、私や敷設長も含め誰にも話してはならない。例え相手が警備隊総司令官や警備局長であってもだ」
船長が厳しい顔で静かに言った。村田は真剣な顔で答える。
「承知しました。このことは決して誰にも言いません!」
「よろしい。それでは持ち場に戻りなさい」
船長が笑顔で言った。村田はホッとした表情で船長室を後にした。
♢ ♢ ♢
「船長、ご配慮いただきありがとうございました」
村田が退出した後、敷設長が船長に頭を下げた。船長が椅子から立ち上がりながら笑った。
「ははは、ああいう風に言っておけば大丈夫だろう。無下に若者の未来を奪う必要はないさ」
船長は、懐に隠し持っていたレーザー銃を金庫に片付けた。
「常任理事国の火星侵攻に備えて、火星-地球間に機雷を敷設し、地球へ派遣したオリンポス等が火星に戻る際に性能確認を兼ねた演習を実施……いくら保秘を徹底しても、向こうが本気なら必ず情報をキャッチするさ。むしろ、情報がキャッチされて、それが侵攻の抑止になってくれればいいのだけどね。さあ、出航だ」
そう言うと、船長は敷設長を伴って船長室を後にした。




