第5話 夏の海辺で、人妻を寝取る。
俺の名前は八上義人──
バスケ部をクビになり、『えぬ・てぃー・あーる』という能力を与えられた男だ。
季節は夏、7月中旬。
待ち望んだ長期休暇に入ったが、いざ休みが始まってみると──
部活を追放された俺には、やることが無かった。
去年の予定でびっしりだったスケジュールが、今年は穴だらけだ。
──やることがない。
かといって俺は、宿題を早めに終わらせるタイプでもないので、そっちはまったくの手付かずだった。
夏休みに入り、一週間、そんな日々を過ごす俺は、あることを思いつく。
──宿題を全部終わらせてから、『えぬ・てぃー・あーる』を使おう。
俺はそう決めて、宿題に取り掛かった。
実はまだ俺は、自分に備わった特殊能力『えぬ・てぃー・あーる』を、一度しか使っていない。
能力を使用したのは、試しに使った最初の一回きりで、それ以降は使用することはなかった。
これまでに、使おうかと思ったことは何度かあるが、その度に、なんとなく思い止まっていた。
この『えぬ・てぃー・あーる』という能力は、強力過ぎるのだ。
瞬間移動は言うに及ばず、人の認識も書き換えてしまう。
さらには、周囲の状況まで、目的を果たすために整えてくれる。
各方面に影響を及ぼすこんな力を、ほいほいと、無制限に使う気にはなれなかった。
能力を使うためのエネルギーは、生物の生命力だ。
俺の場合だと、数日あれば、力を使うためのエネルギーは自然に溜まるようだ。
そして、俺は最初に試しで使って以来、能力を使用することは無かった。
能力の発動に必要な分のエネルギーは、すでに溜まっている。
その上で、さらに力を蓄え続けていた。
力が有り余っている。
そのため、能力を自分の好みにカスタマイズして使用できるみたいだ。
能力を使おうと決めてから、俺はあるプランを思いつく。
季節は夏だ。
そこで、俺は閃いた。
そうだ、海に行こう……と。
夏の海辺で、水着の圭子さんとデートする。
今回の『えぬ・てぃー・あーる』は、そこからスタートだ。
その後は、流れで──
場合によっては、もっと、二人の仲を深めてもいい。
──よし、これで行こう!!
そうと決まれば、宿題だ。
これをすべて終わらせてから、俺は『えぬ・てぃー・あーる』を使うと決めた。
苦労して宿題を終わらせれば、躊躇わずに能力を使えるだろう。
その日から俺は、積極的に宿題に取り組んだ。
そして、一週間で、夏休みの宿題をやり切った。
やり終えたのは夜だったので、翌日に能力を使うことにした。
そして、翌日──。
うだるような暑さが続き、夏バテ気味の日々を過ごしていた俺だが、今日は気力に溢れていた。
海に行って、海水浴デートを楽しむ予定があるからだ。
俺は能力『えぬ・てぃー・あーる』を使った。
能力の使用に、躊躇いはなかった。
苦労して宿題を終わらせたのだ。
──ここで、日和るわけにはいかない。
気付くと、俺はビーチに立っていた。
潮の香りが鼻をくすぐり、遠くで波の音が聞こえる。
俺の隣には、圭子さんがいる。
圭子さんは黒のビキニに、腰に半透明で短めのパレオを巻いていた。
彼女には、なるべくエッチな格好をしてほしい──
そんな俺の願望を、能力がくみ取ってくれたようだ。
砂浜に立つ圭子さんは、少し恥ずかしそうに、自分の格好を気にしていた。
「もう少し、大人しめの水着にするんだったわ」
と言って、後悔している。
「圭子さん、少し海に入りませんか──?」
俺は圭子さんの手を取って、波打ち際に連れて行った。
「もうっ! ノリ君ったら……」
圭子さんはそう言いながら、俺と一緒に海に入った。
波が足元をくすぐる。
俺の能力『えぬ・てぃー・あーる』は、今回も圭子さんの認識を弄っている。
彼女は俺の事を、自分の再婚相手の義理の息子『ノリ君』だと思い込んでいた。
能力が切れるまで、圭子さんは俺の事を『ノリ君』だと誤認し続けることになる。
能力の効果が継続する時間は、3時間──
最初に使った時よりエネルギーが溜まっていたので、有効時間も長くなった。
制限時間以内に、俺は『えぬ・てぃー・あーる』を行わなければならない。
──だがまあ、焦ることは無い。
時間はまだまだあるのだし、がっつくことは無いだろう。
足首の辺りを、波が行き来して気持ち良い……
夏の暑い日差しの中で、海水の冷たさを楽しんだ後、俺は圭子さんと砂浜を散策した。
圭子さんの一家は、今日、家族で海に来るはずだった。
けれど、圭子さんの旦那は、急な出張で来れなくなり、大学生の長女も、急にバイトが入ってしまった。
──『ノリ君』と二女は、バスケ部の練習試合だ。
二人はそのことを「うっかり」忘れていた。
圭子さんは一人で海に来て、そこに俺が現れて、「ノリ君と二人で海に来た」という認識に書き換えられている。
『えぬ・てぃー・あーる』という能力が、関係者の認識やスケジュールを調整して、俺と圭子さんが海で二人きりになるように調整してくれた。
圭子さんは、スタイルも良いし胸もデカい。
砂浜を歩いていると、それだけで、男たちの熱い視線を集めていた。
彼女もそれを気にしているのか、恥ずかしがりながら、少し、居心地悪そうにしている。
男達の中でも、特に問題なのが──
「圭子さん、あの人──さっきから俺たちを、付けて来てませんか?」
俺の視線の先には、明らかに怪しい男がいた。
彼女の尻を凝視しながら、男が一人、後を付けて来ていた。




