第1話 俺がバスケ部を追放された時の顛末
「お前はクビだ。……このバスケ部から追放する」
顧問の声が、体育館の静けさに響いた。
俺は一瞬、思考停止した。
「クビ? 部活で『クビ』なんて、初めて聞きましたよ」
放課後、部活動のために体育館へ入ると、いきなり顧問に呼び出されたのだ。
フロアの中央、部員たちの視線が集まる中、俺は「クビ」を宣告された。
「──意外と、冷静だな、……お前」
顧問が訝しげに目を細めた。
「冷静なわけないでしょう。正直、意味が分かりません。……『クビ』というのは、どういうことですか?」
重ねて尋ねる俺に、顧問は感情の読めない顔で言い放った。
「そのままの意味だ。お前はもう放課後、体育館に来なくていい。来られても迷惑なんだ」
「……はあ、そうですか」
教師のくせに、えげつないことを平気で言う。
ろくでもない顧問だ。
俺の内心は、怒りよりも呆れが勝っていた。
「そうだ。お前は、この部にとって邪魔なんだ。だから、このバスケ部から追放することにした。──これは部員みんなの総意であり、覆ることのない決定事項だ」
ええっ!?
顧問だけじゃない。
部員みんなも、俺を邪魔だと思っていたのか……。
彼らの無言の視線が、それを物語っているようだった。
そこまで言われたら、受け入れるしかないだろう。
「分かりました。俺はこのバスケ部を、出て行きます。──部活を追い出されることって、あるんですね……」
俺がそう呟くと、顧問は肩をすくめて「まあ、結構あるんじゃないか?」と返した。
「やる気のない奴にいつまでも居座られたら、全体の士気が下がるからな……」
俺はやる気がなかったわけじゃない。
だが、周りからはそう見られていたらしい。
時間にルーズで朝練によく遅刻したし、体力がないから試合でバテないようにペース配分をしていた。
確かに、周りからは「やる気がない」と見えていたのかもしれない。
俺をクビにする理由は分かった。
だが、バスケ部は俺を追放しても大丈夫なのだろうか?
俺のポジションはシューティングガードで、試合でのスリーポイント成功率は4割を超える。
自分で言うのもなんだが、かなり良い数字だ。
シューターとして近隣の対戦相手の間でも有名で、厳しいマークの中でも結果を出してきた。
俺がいなくなると、かなり困ると思うのだが……。
どうなのだろう――?
顧問は「部員みんなの総意」だと言っていたが――
本当なのだろうか?
俺は振り返り、周囲を見渡した。
彼らは目を合わせようとしない。
思い切って訪ねてみた。
「皆も、俺を追い出すことに賛成なのか──どうなんだ?」
すると、散々な答えが返ってきた。
それも口々に、遠慮なく。
「どうって、そりゃあ、早くいなくなってほしいって、……それだけだよ」
「だよなぁ、お前はしょっちゅう練習をサボってるし、根性がないんだよ」
「それに、シュートも結構、外すよなぁ……スリーポイントしか打たないし、それだって、二本に一本は落としてるじゃないか──」
「外しすぎなんだよ。お前が試合でシュート外すたびに、皆、『あー』ってなって、気が滅入るんだよね」
「チームプレーができてないんだよ。みんなでパスを回して繋いでいるのに、勝手にシュート打ちやがって、……それでもさ、まだ、入れば良いよ? けどさ、お前は半分は外すじゃん? 下手糞なのに、なんで打つんだよ? 訳分かんねー」
世論調査の結果は、散々だった。
チームメイトたちから、かなり辛辣な意見が寄せられる。
これだけ皆に不満が溜まっていれば、顧問が俺を追放するのも無理はない。
俺に不満をぶつけてきたのは同学年の部員たちだけだったが、一年生たちも不満げな表情を浮かべている。
中には睨みつけてくる者もいて、直接口に出して非難はしないものの、憎しみの感情を抱いているのは見て取れた。
皆が俺を目の敵にしているのは確かなようだ。
一年生と言えば、マネージャーはどう思っているだろうか?
マネージャーは試合のスコアを付けている。
選手よりも客観的にゲームの流れや戦況を見て分析しているはずだ。
この部にとって俺が不要な存在なのか、彼女なら冷静な視点で判断できるのではないか。
そう思い、俺は問いかけてみた。
「水谷は、どう思う? ──やはり俺は、必要なかったか?」
バスケ部の女子マネージャー、水谷真美は、一歩後ろに下がり、嫌悪感を露わにしながら辛辣な返答を返してきた。
「あの、話しかけないで貰えませんか……キモいです」
選手として必要かどうかを聞いたのに、返ってきたのはただの悪口だった。
批判は覚悟していたが、これはさすがに凹んだ。
心に鉛が落ちたような気分だ。
しかし、これが現実なんだ。
受け入れるしかない。
「分かりました、監督……俺は『クビ』を受け入れます」
顧問は満足げに頷いた。
「ああ、それなんだがな。……八上、お前……『クビを受け入れる』じゃなくて、自分から、『バスケ部を退部する』と言ってくれんか──? いやなに、強制的に辞めさせたとなると、後で問題になるかもしれんだろ? そうならんように、自分から、お前の意志で出て行ってほしいんだ。……分かるな?」
「……はい、俺はこのバスケ部を辞めます。──退部させてください」
「よし、それでいい……じゃあ、もう帰っていいぞ」
「──分かりました」
俺はそう言って体育館を出て、家に帰った。
引き留める者は、誰もいない……。
俺の背中には、冷たい視線だけが刺さっていた。
これが、この俺、八上義人が――
バスケ部を辞めた時の顛末だ。




